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【35】謎の集会とおみくじと

 開いた薄暗い部屋の中に招き入れられる。

 そこには熱気。

 てっきりクロエしかいないものだと思っていたから驚く。

 目を凝らせば、隣の二組とうちのクラスの男子が何人か集まっていた。


「なんだ、今野いまのもきたのか?」

 同じクラスの子が私の姿を見つけて、かなり驚いた顔をする。

「ねぇ一体ここで何が始まるの?」

 宗介の望むことがわかると言われてきたのに、なんでクラスの男子たちがいるのか。しかも何だろうこの密やかな雰囲気。

 変な胸騒ぎがしてその子に尋ねれば、うわぁと口に出して顔をしかめた。


「まさかお前、何も知らずに来たのか……悪いことは言わないから、帰った方がいいんじゃないか?」

 クラスメイトは少し気まずそうな、それでいて心配そうな顔でそんなことを聞いてくる。


「大丈夫っすよ、問題ないっす!」

 他の人と話していたクロエが、私の背後に座ってそう請け負った。

「あんた確か二組のヤツだよな。なんでここにいるんだ?」

「おれがいるのが不思議っすか?」

「モテるヤツなら見る必要もないんじゃないかなって思っただけ」

「まぁ見るより実際にやったほうが遥かにいいっすからね。でもまぁ、それはそれというか。無修正のレアものって聞いて気になってきたっす」

 クロエとクラスメイトの会話は、いまいちよくわからなかった。


 皆テレビの前に座って、少し興奮したようすで……これから何があるのかちょっと怖くなる。

「クロエ、隣にこればいいのに」

「アユムはこういうの初めてっすから、緊張もしてるみたいだし、説明が必要っしょ? こっちの方がやりやすいっす」

 不安でそう言えば、クロエが私を股の間に座らせるように密着してくる。

 確かにこの状況では、妙にクロエが頼もしく思えた。


「ねぇ、本当にここで宗介が私に望むものがわかるの?」

「もちろんっすよ……ほらはじまるっす」

 振り返って尋ねた私の顔を掴んで、クロエが前を向かせたあたりで。

 誰かが部屋に入ってきたらしく、もめている雰囲気が伝わってきた。


「アユム!」

「げっ、宗介。それにマシ……白雪さんまで!?」

 乱入してきたのは、宗介とマシロだった。

 驚いて声を漏らす私の横で、クラスメイトたちがざわついている。

 どうやらマシロが来たことに戸惑っているようすだった。


「行くよアユム」

「……う、うん」

 宗介に手を引かれ立ち上がる。


「クロエ。お前も来るんだ」

「痛い、痛いっすよ!」

 その後ろからやってきたマシロがクロエの首根っこを捕まえた。


 場の空気が張り詰めていて私達に……というか、主にマシロの方に注目が集まっていた。

「不潔ね」

 集まる男子達を見渡してマシロがぽつりと、女っぽい声を作って口にする。


 その言葉に空気が固まって、男子達が情けない顔になった。

 さっきまでの熱気が嘘のように沈み込んで、いっきにお通夜のような雰囲気になる。

 もう全てが終わったと悟ったような顔をする男子達に見送られながら。

 私は二人に連れられて、902号室を後にした。

 


●●●●●●●●●●●


 マシロと宗介によって部屋に連れ戻され。

 クロエと一緒に床に正座させられた。

「まずはアユム。なんでクロエと一緒にエロビデオの鑑賞会に参加してたのかな?」

「えっ!? あれエロビデオの鑑賞会だったの!?」

 宗介の言葉に思わず大きな声が出る。

 夜中だから静かにとたしなめられてしまった。


「やっぱり知らないまま参加させられてたか。それでクロエ、何でアユムをそんなところへ連れて行った」

「いやぁ、アユムを連れて行ったら面白そうだなって思って……ちょっとした出来心だったっす」

 マシロに睨まれて、クロエが白状する。


 どうやら私はクロエにからかわれてしまったらしい。

 危うくとんでもないものを見せられるところだったようだ。

 男子達ばかりが妙に興奮した様子で集まっていたのは、そういうことだったのかと今更状況を理解する。


 いやというか、わざわざ修学旅行に来て何をしてるんだ男共は!

 品行方正な子が多い学園の男子も、こういう事には興味深々のようだ。

 親が厳しいからこういう時にしか見れないのかもしれないが、そういう問題じゃない。


「それでアユムはどうしてクロエの誘いに乗って、出かけていったのかな? しかも俺たちに内緒で。怪しい奴に着いて行ったら駄目だってこと、子供でも知ってるよ?」

「こればっかりは宗介の言う通りだな」

 冷ややかな声でいう宗介の顔には表情がない。

 相当なお怒りモードで、マシロの声も険しかった。


 私がいなくなっていることに気付き、二人はすぐにクロエが原因じゃないかと思い当たって部屋をあたっていたらしい。

 どれだけクロエに信用がないかという事だろう。


「アユムは無防備すぎる。クロエと関わるとロクなことがないから、話なんて聞かなくていいよ。近づいてきたら走って逃げるくらいの気持ちでいなきゃ」

「おれはゴキブリか何かっすか? マシロ、宗介が虐めるッス」

 真剣な顔で言い放った宗介に、わざとらしくクロエが傷ついたというジェスチャーをする。

「大体似たようなものだろう。スリッパで叩いても死なない分、クロエの方が性質が悪い」

 しかしふられたマシロにも、ばっさりとクロエは切り捨てられた。

 二人とも本人を目の前に本当に容赦がない。


「間に合ったからいいけど。ああいうの、アユムに見せたくなかったから耳に届かないようにしてたのに。どうしてわざわざ自分から行くようなマネするかな」

「ごめんなさい」

 宗介の言葉に、謝るしかできなくて俯く。

 どうやら私の知らない場所で、宗介は気を配ってくれていたらしい。


 正座する私の前に宗介がかがむ。

 視線を固定するように両手で頬を挟みこまれた。

「これに懲りたら、クロエを警戒すること。あとこの歳の男子なんて頭の中はそういう事ばっかりだから、他の男子たちとも適切な距離を取るようにしなきゃ駄目だよ?」

「わかった」

 釘を刺すように言われ素直に頷く。


「俺以外の奴に誘われて、二人っきりになるのも駄目。今日のクロエみたいに、アユムに危害を加えようとする奴もいるかもしれないからね。男なんて皆狼だよ? 誘われたらまず俺に相談すること。いいね?」

 そんなことを言われても、私は一応男ということになってるし……過剰に心配しすぎだとおもう。

 それはまた別の問題じゃないかなと思ったけれど。

「返事は?」

「……はい」

 確認してくる宗介の有無を言わさない迫力に押されて、頷く。


「まるで自分はその範囲外のように言うっすね、宗介は」

「本当にな。一番の狼はお前だろう」

 面白そうに言うクロエに、呆れたようにマシロが同意したのが聞こえた。



●●●●●●●●●●●


 修学旅行三日目は京都で、神社を巡った。

 これからも宗介と一緒にいられますようにと願って、手を合わせる。

「アユムは何をお願いしてたの? 長かったけど」

 願い終えて隣を見れば、宗介がそんなことを聞いてくる。


「宗介とずっと一緒にいられますようにって願ったよ」

「そうか、嬉しい」

 私の言葉に、宗介が顔を綻ばせる。


「宗介は何をお願いしたの?」

「何も。ずっとアユムがお願いごとしてるのを見てたよ」

「折角神社来たのに……あぁ、そう言えば宗介の家って別の宗教だっけ」

 最初で出会った時、宗介は教会の外でお祈りをしていた。

 思い出してそう言えば、違うよと首を振る。


「神様に祈ったところで、俺の願いを叶えてはくれない」

 それは決まっていることだというように、宗介は口にする。

「宗介、アユム! オミクジ引こうっす!」

 どういう意味なのかと聞く前に、背中からクロエにアタックされて。

 ぐいぐいとオミクジの箱の方へ押された。


「昨日は悪いことをしたっすからね。オミクジ代奢るっすよ。さぁ、引いてみるッス」

 にこにことクロエが二百円を投入して、私達にオミクジを勧めてくる。

 クロエが勧めるというだけで何か罠があるような気がしてくるから不思議だ。

 けれど、オミクジは引こうと思っていたので私も宗介もそれぞれ一枚手に取る。


 開いてみれば――凶だった。

 去年も凶だったから今年こそはと思っていただけに、地味に落ち込む。


「ははっ、宗介もアユムもおれとおそろいっすね!」

 その結果を見て、クロエが笑う。


 ――最初から私たちが凶を引くとわかっていたんじゃないか。

 そう思わせるような、いい笑顔だった。



■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□

★高等部2年 秋


●原作ギャルゲーとの違い

1)特になし


●ルートA(マシロ編)との違い(85、86話相当)

1)902号室のエロビデオ視聴会が未遂に終わっている。

2)アユムを助けにくるのが、宗介だけでなくマシロも一緒になっている。

3)前回の修学旅行と変わらず、宗介もアユムもクロエもオミクジは凶である。


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ショタコン末期悪役令嬢に転生して苦労する話。
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