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【32】密会

 白雪マユキは、高等部一年からの外部生。

 真っ白な髪に赤い瞳と目立つのに、今まで私が気付かなかったことが驚きだ。

 理留りるの家で一緒にアップルパイを食べながらお喋りをしたのだけれど。


 まるで前々からの知り合いであるかのように、彼女とは落ち着いて話すことができた。

 なんというか、白雪といるとマシロといるみたいな間隔になる。

 こっちを見てくる目が優しくて、その眼差しがマシロと重なる。

 初対面の人間に向けるような目じゃなくて、懐かしむような気安さを感じさせる視線なのだ。


 白雪とマシロは同一人物なんじゃないか。

 そんなことを思ってしまう。

 性別も年齢も、全く違うのに。

 

 マシロは今二十一歳で、きっとあのときよりも男らしく成長しているだろう。

 電話の声は変わりなかったけれど、おそらく背も伸びているはずだ。

 白雪は私が知っている頃のマシロにうり二つだから、つい重ねてしまうだけなんだと思う。


 頭ではそう思うのに、感覚的な部分が納得してくれない。

 変わった喋り方をする子だなと思っていたけれど、普段の喋りを隠すような不自然さが白雪にはある。

 高い声で丁寧に喋ろうとして失敗している雰囲気があって。

 時々素に戻ったように低くなっては、マシロと似た喋り方になる。


「ねぇ白雪さん、携帯のアドレス交換しない?」

「えっ、いやそれは……」

 話が盛り上がって、このタイミングだと思いながら提案すれば、白雪がうろたえだす。

 初対面の女子にそんなことを言うなんて、軽い男だなと思われてしまったんだろうか。


「やり方が、よくわからなくて……だな。後日でいいか?」

 別にアドレスを交換したくないわけではなかったらしく、おずおずと白雪はそんな事を言う。


「オッケー。そうだ、マシロに直接送ってもらうことにするよ」

 その場で携帯電話を操作して、妹である白雪のアドレスを送って欲しい旨を書いてマシロに送る。


 タララタッタッタターと、私とマシロが大好きなRPGゲームドラリアクエストの、レベルアップ音がその場に流れた。


「もしかして今の白雪さんの着信音? マシロと同じなんだ?」

「えっ、あぁ……兄と同じで私も好きなんだ」

 言えば慌てた様子で、白雪が鞄からスマホを取り出す。

 イヤホンジャックのアクセサリーが、ドラリアクエストに出てくるモンスターのキャラだった。

 それは、マシロと同じもので。

 私がお店で見つけて、プレゼントしたやつだった。


「それも、マシロと同じやつだね」

「わ、私もこのキャラが好きなんだ!」

 イヤホンジャックを指差せば、明らかに狼狽した様子で白雪は声を上げる。


「……」

 なんとなくマシロに電話をかけてみれば、マナーモードに設定したらしい白雪のスマホがぶるぶると震えだす。

「でないの?」

「いや、今は……お茶会の途中だし」

 私の問いかけに、白雪が目線を逸らす。


「気にせず出てもいいですわよ」

「いやそういうわけにも……いかないからな」

 理留の言葉に困ったような顔をして、白雪は操作ボタンを押す。

 私の携帯電話の画面に、相手先から電話を切られたという表示がのった。


 間違いない、あれはマシロのスマホだ。

 どうして妹の白雪がそれを持っているのかと思いながら、理留の前でその事を問いただすわけにもいかず。

 その日のお茶会は終わった。



●●●●●●●●●●●


 家に帰って、もう一度マシロに電話をしたけれど取らない。

 なので、メールを打つ。

 文面はたった一言。


 ――白雪さんが、マシロなの?

 それだけ入れて、送信ボタンを押したところで、宗介がソファーに座る私の横に腰を下ろした。


「ねぇアユム、今日はどうして白雪さんと一緒にいたの?」

 尋ねられてその経緯を話せば、宗介はふーんと相槌を打った。

「ただプリントをまとめる手伝いをしてただけ、なんだね?」

「もしかしてだけど、宗介は白雪さんがマシロかもしれないって思ってたりする?」

 強調するように尋ねてくる宗介に問いかければ、図星のようだ。

 少し眉間にシワを寄せた。


「だってそっくりすぎるし、何より……あの態度があいつにそっくりだ」

「あの態度って?」

「アユムの一番の理解者は自分だと思ってる顔。気に入らない」

 聞き返せば、少しむっとしたように宗介はそんな事を言う。


「けど、白雪さんはマシロとは歳も性別も違うんだよ。何故かマシロのスマホは持ってたみたいだけど」

「そんなの関係ないよ。いや……でも……」

 自分自身の問いを宗介に言えば、宗介はちょっと考え込むような顔になった。

 その時私の携帯電話から音楽がなって、マシロからメールが届く。


 そこには今日本に帰ってきていて、今日は妹の白雪の電話が壊れて貸していたんだという旨が書かれていた。

「なるほどね。あれはやっぱり白雪さんで、マシロさんとは別人だよ」

 少し言い訳っぽいようなと思っていたら、やけにきっぱりと宗介はそんな事を口にした。


 宗介の顔には爽やかな笑み。

 この顔は私や誰かを丸め込もうとするときに宗介が使う、必殺のスマイルにも似ていたけれど、どこかすっきりしたような雰囲気もある。

 今の一瞬の間に、宗介の中で何か結論が出たようだ。


「ねぇアユム。白雪さんは女の子なんだから、マシロさんのように接しては駄目だよ? 適切な距離を保たなきゃ。女の子はデリケートだからね、お兄さんに似てるなんて言われたらいい気持ちがしないはずだよ?」

 言い聞かせるような言葉に、確かにその通りかもと思う。

 私にも前世の兄がいたけれど、似てるといわれたら……悪いけれどへこむ。


「確かにそうかも。ありがとう宗介。言ってくれなきゃ、マシロと同じように接して引かれちゃってたかも」

「……どういたしまして」

 そう言った私に、宗介がくすっと笑う。

 企みが上手く言ったかのような、少し黒い笑み。

 少しそれが色っぽく見えて、どきりとしてしまった。



●●●●●●●●●●●


 修学旅行二週間前。

 最近宗介は、私を待たずにいつも先に帰ってしまう。

 授業のベルが鳴ると、すぐに席を立って走って行ってしまうのだけれど。

 一体何をしているのかなと思っていたら、理留からメールが着た。


 どうやら宗介は、最近白雪と一緒に下校していて、毎日のように喫茶店へ行っているらしい。

 宗介が一方的に白雪に構っている、とのことだった。


『仁科くんが白雪さんを気に入ったのはわかりましたけれど、白雪さんが困っているように見えるのです。こういうことは本人達の問題ということはわかっているのですが、白雪さんはこういうことがあまり言えるのようには見えません』

 理留からのメールは、お節介だとは思うけれど、私からやんわりと宗介に加減を覚えるように伝えてほしいという内容だった。


 宗介が、白雪を気に入っている?

 毎日一緒に下校しているというところに、腹の奥底から何か嫌な気持ちが湧き上がってくる。

 前にもこういう気持ちは経験があった。

 以前宗介が女の子に対して優しい笑みを向けているときに、感じた――嫉妬というやつだ。


 何はともあれ事実を確かめようと、理留が教えてくれた喫茶店に行けば。

 宗介と白雪はすぐに見つかった。

 近くの席で息を潜めて、二人の会話に耳を傾ける。


「はぁ……わかった、お前もしつこいな」

「そう言ってくれると思ってたよ」

 白雪が溜息を吐き、にっこりと宗介が微笑むような声が耳に入る。


「じゃあ修学旅行の日は、打ち合わせどおりに。こっそり待ち合わせをするのは――時間帯から言うと、深夜一時前後がいいかもね。くれぐれもアユムには見つからないようにね」

「……お前に言われなくてもそうする」

 どこか企むように楽しそうな宗介に対して、白雪は不機嫌に答える。

 しかたなくと言った様子だった。


 二人はその後連絡先を交換して、去って行く。

 今の会話はどういうことだろうと、頭の中がぐるぐるとした。

 二人の間にあった密やかな雰囲気に。

 見てはいけないものを見てしまったような……そんな気分になった。



■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□

★高等部2年 秋


●原作ギャルゲーとの違い

1)白雪と宗介の接点は、原作ではほとんどない。


●ルートA(マシロ編)との違い(83話相当)

1)マシロ編では、マシロが宗介と喫茶店で会話をしたりしていない。

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「本編前に殺されている乙女ゲームの悪役に転生しました」
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