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【12】ダンスとパーティの終わり

 嵐のような留花奈るかなが去って、理留りると二人パーティ会場に取り残される。

 何だか微妙な空気だった。


「何で今日は妹の格好してるの?」

「それは、留花奈があなたと話してみたいっていうからしかたなく。あの子変なこと言ってませんでした?」

 ずっと気になってたことを尋ねると、理留は不安そうな顔をしていた。

「迫られはしたかな」

「なっ、ワタクシの格好で何というはしたないことを!」

 理留の顔が怒りと恥ずかしさから、真っ赤に染まる。


 本当にからかうと面白いなぁ。

 妹の方は腹黒い感じだけど、この素直さが理留のいいところだと思う。


「それでどうして、留花奈からのダンスの誘いを断ったんですの?」

「いや、別に妹の方とは親しくないし断った」

「あなた、本当にワタクシと留花奈を見分けたんですの?」

 この後に及んでも、理留はそれが信じられないみたいだった。

「二人とも似てるけど、すぐにわかるよ。理留の方とは結構一緒にいるし、それに」

「それに、なんですの」

 何かを期待するような目を、理留が向けてくる。

「理留の方がお菓子ばかり食べてるせいか、ふっくらしてる」

「っ!! なんですのそれっ!」

 ぽかぽかと理留に叩かれた。


「冗談だって。でもアレが妹だってわかったのは本当だから。それで、どうする?」

「どうするって、何の話ですの?」

「さっきから質問ばっかりだよね。踊るかって聞いてるんだけど」

 あんなに練習したのだ。

 留花奈に言われた通りにするわけじゃないけど、もう一回くらいは踊ってもいいかもしれない。


 理留は目を大きく開けて呆けていたのだけど、咳払いして手を差し出してきた。

「今日は特別に、エスコートさせてあげますわ」

「よろこんで、お姫様」

 気取った理留の動作にあわせて、その手をとる。

 理留はまた真っ赤になっていた。



 理留と踊って後、二人で用意されているデザートを摘む。

 前世の体と違い、甘いものを食べても私は太ることがなかった。

 子供だから新陳代謝がいいのだろうか。

 よくわからないけれど、そのせいでつい食べ過ぎてしまう。


「誘いを断ってよかったんですの? あなたと踊りたそうにしてましたわよ」

 理留と踊った後、女の子からダンスに誘われたのだけど、私は断っていた。

「んーもう疲れたからいいかな。十分特訓の元はとった気がするし。それにこうしてる方が性にあってる」


 華やかなダンスなんて本来私には似合わないのだ。

 こうして、壁際で華やかな人たちを遠くから見てる方が気楽でいい。

 宗介は断りきれないのか、まだ女の子たちと踊っていた。

 今踊っているのは同じクラスの子で、その姿は絵になっている。


 横を見れば、理留は可愛らしい器に入ったプリンを手にしていた。

「そのプリンいいな。どこにあったの?」

「あちらの方にあったのですけど、これが最後の一個ですわ」

 ビュッフェ形式の食事は、色んなものがあったけれど、品物が変わるのが早かった。

 すでに種類の違うデザートが用意されている。


「よかったらこれあげますわよ?」

「いいよ、一口だけちょうだい」

 そう言って、理留のスプーンを借りて一口食べる。

「うん、美味しい。ありがと」

 カリカリに焼かれたカラメルソースと、卵の風味が生きた味がたまらなく美味だった。


「食べないの?」

 何故か理留は固まっていた。

「えっ、ええ。もちろん食べますわよ」

 理留はしばらくスプーンとプリンを交互に見ていたけれど、覚悟を決めたような顔でプリンにスプーンを突き刺そうとした。

 何をそんなに力んでいたのか、スプーンはプリンを飛び越えて床に着地する。


「あぁ、なんてこと」

 理留がこの世の終わりみたいな顔をしたので、私は落ちたスプーンを近くにいたスタッフに渡し、新しいスプーンと交換してもらった。

 これでプリンが食べられるのに、なぜか理留のテンションはさっきよりも下がっていた。


 スタッフが過ぎ去ったほうを、名残惜しそうに見ている。

 別にプリンが落ちたわけでもないのに、どうしてそんなに残念そうな顔をしてるんだろう。

 その理由が、私にはさっぱりわからなかった。


 

 理留とお菓子トークで盛り上がっていたら、ようやく抜け出せたらしい宗介がやってきた。

「お疲れ様。ジュース飲む?」

「うん、ありがと」

 ジュースを差し出すと喉が渇いていたのか、宗介はすぐに飲み干してしまう。

「妹さんの方がアユムと一緒なんて珍しいね。さっきは一緒に踊ってたみたいだし、いつの間に仲良くなったの?」

 私と一緒にいる理留を見て、宗介は不思議そうに尋ねてきた。


 宗介には、理留が留花奈に見えるらしい。

 というか、皆この二人を髪型だけで区別してるんじゃないだろうか。いつもと逆の髪型をしてるなんて思いつきもしないみたいだった。

 理留といつも一緒にいる取り巻きの子ですら、理留を留花奈と間違えていた。


「違うよ宗介、こっちは妹じゃなくて姉の方」

「そうなの? ごめんいつもと髪型が違うから気づかなかった」

「気になさらないで。留花奈の髪型をしていれば、当然のことですもの」

 謝る宗介に、理留はそう言って笑う。

 慣れているといった感じだった。

「それじゃあ、ワタクシ行きますわね」

 理留が席を外す。


「アユム、あれ黄戸さんに渡したの?」

「そうだ忘れてた。理留、ちょっと待って!」

 宗介に言われて、理留のところへと走る。

 振り返った理留の胸に、プレゼントを押し付けた。

「はいこれ。クリスマスプレゼント」

「えっ、ワタクシに?」

「うん開けてみて。街で見つけて、つい買っちゃったんだ」

 理留はプレゼントのリボンを解いた。

 中のものをみて、嬉しそうな顔になる。


「これって、サンタの靴ですの? 駄菓子がたくさんつまってますわ!」

「店で見つけてさ。中に駄菓子がいっぱい入ってるんだ。庶民の間ではクリスマスの定番なんだよ」

 お菓子の入ったサンタの靴。

 これを見てなんとなく理留の顔が浮かんで、つい買っていた。


「で、でも。ワタクシプレゼント用意してなくて」

「別にいいよ。ボクがあげたいなって思っただけだし」

「そんなわけにはいきませんわ。そのうちこの素敵なプレゼントのお返しは、きっちりさせていただきます」

 理留はそこだけは譲らないというように言い張る。


「わかった。じゃあ、楽しみにしてる」

「期待しててくださいな」

「・・・・・・なんか、いい雰囲気だね」

 二人で話していると、いつの間にそこにいたのか、いたたまれないように宗介がそんなことを言った。

山吹やまぶきくん! いつからそこに?」

「アユムがプレゼント渡すときからいたよ」

 宗介は気づかなかったという様子の理留に答えて、私の方を見た。


「黄戸さんのこと、いつから名前で呼ぶようになったの?」

「さっき妹の方もいて、どっちも黄戸さんでややこしかったからつい」

 なんだか黄戸さんよりも呼びやすくて、つい呼び捨てていた。


「ごめん、馴れ馴れしかった?」

「別に構いません。苗字だと妹がいる時に呼びにくいでしょうし、そのままで結構ですわ」

「ありがと、理留」

「それでは失礼しますわね」

 改めて呼ぶと、理留は明らかに照れた。

 それを隠すように、ふいっとそっぽを向いて行ってしまう。


「面白いよね、理留って」

「アユムって実は結構、天然でたらしだよね」

 呆れたような顔で宗介が呟く。

「なんだよいきなり」

「都さんにだって、プレゼント交換前にペンダントつけてあげてたでしょ」

「見てたんだ。だって都さん首に何もつけてなかったからさぁ。どうせ踊るなら綺麗なほうがいいじゃん」

「そう思っても、普通あそこであんな風にできないよ。少なくとも、俺なら恥ずかしくてできない」

「そうかなぁ?」

 たとえ式典の最中だろうと、宗介は私の制服の襟が曲がっていたら、直したりする。それと同じ感じでさらりとやってのけそうなイメージなんだけど。


「それをいうなら、宗介だってずいぶんモテモテだったよね。女の子からダンス誘われまくってたし」

「女の子から誘われたら、断り辛いだろ」

「結構押しに弱いよね、宗介って」

「女の子に優しいって言ってほしいな」


 そんな会話をしながら、のんびりしているうちにパーティは終わりを告げたのだった。

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