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【23】幼馴染とお付き合いすることになりました

「アユム、大好きだ」

 宗介に化けたクロエに煽られて、宗介が好きだと宣言したけれど。

 いつの間にか本物の宗介に入れ替わっていたらしい。

 抱きしめられて、好きを返されて。

 わけがわからなくて混乱する。


「えっあっ、えっと……その?」

 顔に熱が集まるのがわかる。

 さっき宗介への気持ちを自覚したばかりなのに、本人にうっかり言ってしまって。

 しかもそうやって嬉しそうにされるなんて、思ってもみなかった。


「ここじゃ話もし辛いし、注目も浴びちゃってるから……家に帰ろう?」

 混乱する手を優しく握られて、甘い声で宗介にそんな事を言われて。

 小さくうんと頷くことしかできなかった。



●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●


「どうしてクロエがいつの間にか宗介になってたの?」

「ごめんね、心配で後をつけてたんだ。クロエはそれに気付いてたみたいで……でも、まさかアユムに変身するところまで見せるとは思わなかった」

 家に帰って尋ねれば、宗介は私に謝ってきた。

 けれどあまり悪いと思っている感じでもなく、その顔は緩んでいて幸せそうな目で私を見つめている。


「俺とクロエは、中等部に上がって特殊な力を手に入れたみたいなんだ。クロエは変身能力で、俺の能力は使ったことがないからわからない。でも力を手に入れたって事だけははっきりわかった」

 その時から宗介の目には、私が女の子のように映るようになったらしい。


 小さい頃は、宗介と一緒に風呂に入ることもあった。

 あのとき私に働いている『周りに男と認識させる力』は確かに宗介にも働いていたため、宗介は私が男だと信じて疑っていなかったらしい。

 だから、いきなり私が女の子に見えて混乱した。

 それで宗介は、中等部の初めの頃私を遠ざけていたらしい。


「色々悩んだんだ。俺はアユムが好きだよ。この世界の誰よりも大切だ。でもこの気持ちは、友情や家族愛みたいなものだって思ってたんだ。なのにアユムが女の子に見えるようになって。心のどこかでアユムが女だったらなって思ってたからなのかなって混乱した」

 自分の気持ちがよくわからなくなったんだと、宗介は口にした。

 気のせいだと思おうとしたけれど、無理で。

 どうしても意識してしまって、避けるしかなかったんだと宗介は呟く。


「自分のアユムに対する感情が、行き過ぎてることくらい自覚してたんだ。だからそんな風にアユムを見てしまう自分が嫌で、アユムから距離を取った。離れればどうにか落ち着くと思ったんだ」

 けどそれは逆効果だったと、宗介は言葉を続けた。


「俺が側にいなくなって、アユムに近づく奴が増えて。そこは俺の場所なのにってイライラした。アユムへの感情は落ち着くどころかどんどん際限がなくなってくみたいで、離れて余計に酷くなったんだ」


 マシロに対しても嫉妬してたんだと宗介は言う。

 水泳の時間に、私の変わりにマシロが泳いでいるのを見て。

 そこでようやく宗介は、自分の目がおかしいわけじゃなくて、本当に私が女なんじゃないかという可能性に気付き始めたらしい。


 私にマシロが協力している。

 本当は女だという事情を、マシロは知っている。


 ――なんで、俺には言わないのにマシロ先輩を頼るのかな。

 宗介はそこに苛立ってしかたなかったのだという。

 一番近くにいる自分に言ってくれないことが悲しくて、悔しくて。

 それで私が自分から言ってくれるまで、知らないふりを決め込もうと思ったようだった。


「アユムの事情は、クロエと話してるのを聞いたからわかったよ。この世界がゲームに似てるってことも、その中で俺がサポートキャラだったってことも。前世があったから、時々どこかに帰りたがってたってこともわかった」

 目の前のソファーに座っていた宗介が、移動して私の隣に座る。


「ねぇ、どうして俺に相談してくれなかったの。マシロ先輩は頼るのに、そんなに俺は信用ない? アユムの力に誰よりもなりたいのに」

 苦しそうな瞳で、宗介は私に問いかけてくる。

 仲がいいと思っていた相手に、ずっと隠し事をされていた。

 その事が宗介を傷つけてしまっているようだった。


「マシロは偶然ボクの力を知ったから協力してもらっただけだよ。宗介に信用がないわけじゃなくて、昔の宗介はボクの力がちゃんと効いてたみたいだったし、混乱させるだけかなと思って」

 そんな事を口にしたけれど。

 宗介に事情を話すという選択肢は、最初から頭の中に存在していなかった。


 なんでだろう?

 考えて、その理由に気付く。

 ――いつかは『扉』を開けて元の世界に戻る。

 事情を話せば、その事を宗介に言わなくちゃいけない。

 私に執着していた宗介に、その事を言うには勇気が入った。


「確かに混乱はしたかもしれないけど。アユムが言うなら信じたよ」

 真っ直ぐな目で、宗介が見つめてくる。

 宗介が体を寄せてくる。

 思わず横に寄れば、さらに宗介は寄ってきた。


「なんで逃げるの?」

 くすっと宗介が笑う。

 理由がわかっているくせにちょっと意地悪だ。

 そんなの恥ずかしいからに決まってるのに。


「アユムが女の子でよかった。男を好きになったのかって、悩んだから。でもたぶん、アユムなら何でもよかったんだと思うけど」

 慈しむようにそっと宗介が手に指を絡ませてくる。

 耳元に心臓があるかのように、トクトクと鼓動が高鳴ってうるさい。


「ねぇアユム。好きって、もう一度聞かせて? あんな形じゃなくて、ちゃんと聞きたいんだ」

 宗介がお願いというように、見つめてくる。

 そうやって微笑まれると、断れないというのをわかっているかのように。

「……っ」

 そんなの恥ずかしくて唇を引き結べば、困り顔をしてるだろう私に、宗介が顔を近づけてくる。


「好きだよ、アユム。ずっとずっと好きだった。俺に教会の外で手を差し伸べてくれたあの日から、アユムが望んでくれるなら生きようって思ったんだ」

 頬に手を添えられて、額をくっつけられる。

「ねぇ、アユム。俺をもっと望んで? アユムに求められたいんだ」

 懇願してくる瞳は熱を伝えてきて。

 いつも冷静で落ち着いている宗介とはちょっと違う顔をしていた。


「好き……だよ」

 聞こえるか聞こえないかの小さな声。

 けど宗介にはちゃんと届いたようで。

 嬉しそうに笑って、宗介の唇が私の唇に触れてくる。


 軽く柔らかな感触。

 思いっきりあわあわしてしまう私を見て、宗介はふっと笑った。


「ありがとうアユム。俺も大好きだよ」

 ぎゅっと宗介に抱きしめられる。


「ごめんね……もう離してあげられない」

 耳元で宗介が呟いた言葉は、懺悔みたいで。

 少し泣きそうな声が、耳に残る。


「どうして謝るの?」

「俺が好きになったことで、アユムが苦しむことになるから」

 尋ねれば、宗介はそんな事を言う。


「それを言うなら逆だと思うけど。本当の性別は女なのに、ボクは周りに男としか認識されないんだよ? 宗介が……嫌な目にあうと思う」

 実際は異性だけれど、周りからみれば同性にしか見えない。

 宗介との関係は、前途多難だとしか思えなかった。


「大丈夫だよ。アユムが側にいることを許してくれるなら、それで満足だから。アユムがちゃんと俺を見てくれてるのに、それ以上は望まない」

 これ以上は身に余る贅沢だというように、宗介は呟く。

 幸せだというように顔を綻ばせているけれど、宗介の幸せのレベルは低すぎじゃないだろうか。


「アユム、好きだよ」

「……それはさっきも聞いた」

 ふいうちで言葉にされて、思わず赤くなる。


「何度でも言いたいんだ。今まで我慢してきた分。いいよね?」

 許しを願うような言葉だけれど、私の答えなんて聞くつもりはないようで。

 留花奈とやりあうときのような、意地悪さが宗介にはあった。

 笑顔の中に、相手を押し負かすような何かがあって。

 まるで獰猛な獣が、お預けを喰らっている雰囲気でちょっぴり怖い。


「そ、宗介! そういえば誕生日プレゼント買ったんだ。少し早いけど!」

 誤魔化すように宗介の腕の中から逃げ出す。

 そして、ラッピングした袋を胸に押し付けた。


「……時計?」

 クロエとの後をつけていた宗介だけれど、何を買ったかまでは知らなかったらしい。

 手元の時計の秒針を見つめる宗介に、私の分の時計を見せる。


「お揃いにしてみた。細身だしシンプルで少し女性向けっぽいけど、宗介に何あげていいかわからなくて。ボクが気に入ったものにしてみたんだ」

 少し照れながらそう言えば、宗介は腕時計を装着して、それをまじまじと眺めた。

 それからそれを見て、ふわりと微笑む。

 気に入ってくれたみたいだ。


「お揃いの指輪みたいだ」

「……え」

 ぽつりと宗介が呟いて、ソファーから立ち上がる。

 まだ腕につけてない私の紺色の腕時計を取って、腕につけてくれた。


「大切にする。ありがとう」

 そう言って、キザな動作で宗介は私から貰った腕時計にキスを落とす。

 それがとても様になっていて、どこか色っぽくて。

 思わずドキドキしてしまった私を見て、宗介は満足そうに微笑んだ。



■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□

★中等部2年 夏


●原作ギャルゲーとの違い

1)サポートキャラである宗介の恋愛ルートは存在しない。


●ルートA(マシロ編)との違い(52話)

1)宗介への誕生日プレゼントがスニーカーから、腕時計になっている。

2)宗介がアユムと恋愛関係になっている。

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