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【20】幼馴染の誕生日プレゼントを選ぶことにしました

 中学二年生になり、もうそろそろ八月も終わりだ。

 私には大きな悩み事が一つあった。


 もうすぐ宗介が今野いまの家にきて、二度目の誕生日。

 何をプレゼントしようか、物凄く悩んでいた。


 誕生日といえばお祝い事。

 けれど宗介にとって、誕生日はトラウマデーでしかない。

 宗介の母親がなくなった命日であり、宗介の父親が事故でなくなった日であり、私こと『今野いまのアユム』がかつて大きな事故にあった日だったりするのだ。


 宗介の母親は、元々体が弱い人だった。

 それでも宗介を生んで、力尽きて亡くなってしまった。


 宗介の父親は、誕生日に宗介を寝かしつけて後、コンビニに買い物へ行って。

 その帰り道に事故に会った。

 袋の中には、母親が好きだったお菓子が入っていたと聞いている。

 たぶん、命日だから供えてあげたかったんだろう。


 そして私――七歳の今野アユムは、この日事故にあった。

 宗介の育ての親である山吹やまぶきのおじさんたちに急な仕事が入って、宗介はこの日うちに預けられていた。

 きっとおじさんたちは、誕生日であるこの日に、一人で不安にさせてはいけないと思ったのだろう。

 この日、夜にはおじさんたちも帰ってきて、皆で宗介の誕生日パーティを開くことになっていたらしい。


 なのに、宗介は熱を出して寝込んでしまった。

 熱のせいで意識が朦朧もうろうとしていた宗介は、目が覚めて父親がいないことに混乱し、家を飛び出したのだという。

 それを『アユム』は追いかけていき、宗介を庇う形で事故にあった。

 この事故について、私には記憶がないのだけれど、聞いた限りではそんな感じだ。


 この日が近づくたび、宗介は暗くなる。

 そりゃあ、これだけあれば、誕生日が嫌いになるよと思う。


 本当は思い出させないように誕生日なんてしない方がいいんじゃないかな?

 そう思わなくもないんだけど、私はやっぱり宗介が生まれた日を祝いたかった。

 自分が生まれてこなければよかったのにと、どこか宗介は思っているふしがあって。

 私はそれが嫌だった。


 きっと山吹のおじさんたちも、同じ気持ちだったんだろうと思う。

 だから、毎回宗介の誕生日は、ケーキで一緒にお祝いをしていた。

 放っておくと、宗介は自分から誕生日なんてしない。


 去年は山吹のおじさんたちの一年忌で色々と忙しかったし、今年こそはと私は使命感に燃えていた。

 社交的になったとはいえ、宗介はあまり騒がしいのを好まない。

 友達を呼んで派手にパーティをするのではなく、私だけが祝う形にしようと決める。


 問題はプレゼントだ。

 今まで宗介への誕生日プレゼントは、無難な実用品ばかりだった。

 宗介は趣味がないというか、あまり欲がないので何をあげていいのかわからない。


 私が悩んでるのが顔に出ているのか、宗介は誕生日が近くなるとヒントをさりげなく落としてくれてるふしがあるのだけれど。

 それは大抵必要な生活品というか、あっても困らないようなマフラーとか、鞄とかであって、宗介が本当に欲しいわけじゃないと思う。


 困ったなぁ。

 誕生日明日なんだけど。

 迷いすぎてまだ決まっていない。

 街に出てうろつけば、何かいいものがあるかもしれない。

 そう思って美空坂ショッピングモールに足を運んでみることにする。


「アユム、どこかにお出かけ?」

「うん美空坂ショッピングモールまで行ってくるよ。お昼はいらないから」

 そっと家を出ようとしたのに、玄関先で宗介に見つかってしまう。


「あそこに行くってとこは、何か買い物? 俺も着いて行っていい?」

 今日は休日。

 それでいて、昨日宗介が遊びに行こうとしきりに私を誘ってきていた。

 考えておくよと適当にかわしておいたのだけれど。

 宗介は不満だという顔をしていたので、見つかったらこうなることは予想できていた。


 中等部の初めあたりは、私との距離を置いていた宗介。

 けれど、最近では初等部の頃のように私にべったりだ。

 周りとのコミュニケーションをとるようになった分マシ、そう思いはするのだけど。

 昔よりも私の扱いを覚えて、頭を使うようになったというか……ちょっと手ごわい。


「ごめん、友達と約束してるんだ」

「……昨日はそんな事言ってなかったのに。俺の方が先に誘ったんじゃないの?」

 宗介のプレゼントを買うのに、本人が付いてきてしまっては意味がない。

 そう思って断れば、しゅんとした顔になった。その顔に私が弱いことを宗介はちゃんとわかっている。


「連絡待ちだったんだよ。それで今日の朝、行けるよってことになって。同じクラスの当間くんって言うんだけど、彼女さんにプレゼント買いたいから一緒に選んで欲しいって言われたんだ!」

 絶対に誰と遊びに行くのか、その理由とかを聞かれるとわかっていたので、怪しまれないように先に自分で言ってしまう。

 質問されてから答えると、どうにも一瞬間が空いてしまうので、ばれてしまう恐れがあった。


「へぇ……あの当間くんが、アユムにプレゼントを買う相談なんてするんだ?」

「宗介、当間くんと知り合いなの?」

 呟いた宗介にしまったと思う。

 知り合いの名前を出すと、本人にさりげなく宗介は裏をとって確認してしまいそうだったから、接点のなさそうな当間くんを選んだつもりだったのだ。

 

「知り合いってほどじゃないよ。中等部のはじめに、交友を広げようと思って色んな人と話すようにしてたんだ。彼は企画やサプライズを自分で練るのが好きなタイプだよね。女の子にももてるし、そんな彼が女心のわかってないアユムに相談するとは思えないんだけど」

 さらさらと宗介は口にする。


 当間くんは行動力があって、常に皆の中心にいる俺についてこいタイプの子で、最近仲がよかった。

 宗介の分析は、結構的をついていると思う。

 それでいて、私に女心がわかっていないなんて、ちょっと酷い言い草だ。

 前世からこっちは女の子なのだ。

 女の子の気持ちはよくわかっている……と思う。


「わー! もう待ち合わせの時間だ! いってきます!」

 ここは無理やり話を切って、逃げるに限る。

 ドアをバタンと閉めて、外へと飛び出した。



●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●


 ショッピングモールをあてもなくぶらぶらしていたら、クロエに出会った。

「あれ、アユムじゃないすか。こんなところで会うなんて奇遇っすね?」

 宗介の戸籍上の兄である仁科家のクロエは、モデルが着てそうな服をばっちりと着こなしていた。

 大人びていて、同じ歳なのに高校生くらいに見える。

 浅黒い肌にウエーブがかった髪が、少しミステリアスで危うい雰囲気を出していた。いかにも女の人にもてそうだ。


「もうすぐ宗介の誕生日だから、プレゼント買いにきたんだ。クロエさんはナンパ?」

「アユム、おれがいつもナンパしてる軽い男だと勘違いしてないっすか? 今日はアユムと同じで可愛い義弟そうすけのために、プレゼントを買いにきたっすよ。目的が同じなら一緒に周るっす!」

 尋ねればクロエはそんな事を言って、私の肩を組んでくる。


 ――本当に宗介の誕生日プレゼントを買いにくるつもりだったのかな。

 さっきのクロエは、暇つぶしを見つけたって顔をしていた。

 怪しいなとは思ったけれど、一人で考え込んでも案が出なくて困っていた。

 ちょうどよかったと一緒にまわることにする。

 

「アユムは宗介に何を買うつもりっすか?」

「まだ決めてないんだ。宗介って欲がないから、何あげていいかわからないんだよね」

 うーんと唸りながら答えれば、くすっと横を歩くクロエが笑う。


「あいつに欲がない? 面白い事を言うっすね。おれから見たら宗介は欲の塊っすよ?」

「そうなの?」

 私に見えてなくて、兄弟であるクロエには見えている点があるのかと驚く。


「アユムはあいつの好きなものわからないんすか? あんなにわかりやすいのに」

「何、教えて? できればそれをプレゼントして驚かせたい」

 お願いだというようにそういえば、クロエは目を丸くして。

 なぜか、お腹を抱えて笑い出した。


「なんで笑うの」

「いや、アユムがボクがプレゼントだよって、リボン巻きで宗介の前に進み出るところを想像してしまったっす」

 ひぃひぃ言いながら、クロエはバンバンと私の背を叩いてきた。


「なんだよその想像。ボクは宗介の好きなものって聞いたのに」

「あいつが好きなのってアユム以外ないっしょ? アユム以外全てがどうでもいいって思ってるっすから」

 むっとすれば、馬鹿にしたわけじゃないんだというようにクロエは笑いかけてくる。


「アユムの話するときだけ、生き生きしてるっす。今年の夏休み、おばあちゃんの家に行ったっすよね。あいつ、その時のこと幸せそうに語ってたっすよ。アユムの浴衣が可愛かったとか本当は女物着せかったとか。従兄妹のシズルちゃんがいなければ、ずっと二人っきりで過ごせたのにとかそんな内容ばっかりだったっす」

 ちょっと呆れたような顔をして、クロエは口にする。


「なんだよそれ。宗介って一体ボクのこと、どんな風に話してるの」

「聞きたいっすか?」

 何だか恥ずかしくなってそう口にすれば、クロエが悪戯っぽく笑いかけてきた。


「アユムの事あいつがどう話してたか、気になるっすよね?」

「……気になる、かも」

 頷けばそうこなくっちゃと、クロエは色々話してくれた。


 両親を失って。

 一人だと思っていた自分に、私が手を差し伸べてくれたこと。

 自分のせいで酷い目にあって記憶喪失になったのに、許してくれたこと。

 不安になった時に、何も言わず側にいてくれたこと。

 それをいつも感謝していると、宗介は言っていたらしい。


「何の価値もない自分をアユムだけは必要としてくれて、頼ってくれる。それだけでここにいていいと思えるんだって、宗介は言ってたっす」

「そんな事まで……」

 人からこうやって聞くのは、妙に恥ずかしかった。

 そんな風に人に話していたのかと、顔から火が出そうになる。


「そんなアユムを自分が守ってあげたいんだって、いつも仮面みたいな笑顔はりつけてるくせにすごーく甘い顔して言うんすよ。おれもお近づきになりたいっすって言ったら、アユムが悪い影響を受けたらどうする! なんて言うし。酷くないっすか?」

 宗介のまねを交えつつ、けらけらとクロエは笑う。


 宗介がどんな風に私を思っていたのか知って、ちょっと……いやかなり嬉しいと思う自分がいて。

 からかわれているとわかっているのに、頬が緩むのを抑えられなかった。


「もういいよ。十分聞いた。それより、プレゼント選ぼう?」

「照れてるっすね? まぁこれだけ愛されてると、恥ずかしいっすよねー」

 ふいっと顔を背けてそういえば、からかわれてしまう。

 分かってるならそうやって指摘しないでほしい。

 クロエは、人が嫌がったり困ったりしているところを見るのが好きなようだった。




■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□

★中等部2年 夏


●原作ギャルゲーとの違い

1)特になし


●ルートA(マシロ編)との違い(49話あたり)

1)マシロにアユムが宗介のプレゼント相談をしていない。

2)宗介と一緒にショッピングモールを訪れて、クロ子に会うイベントが起こらず、代わりにアユムが一人で買い物に行き、クロエに出くわしてしまっている。

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