【11】クリスマスパーティ
クリスマス前っていうのは、いつだって街が騒がしくて私は好きだ。
キラキラした電飾を見るだけで楽しいし、ウキウキする。
私と宗介は親についてきてもらって、買い物をしていた。
「やっぱり、貰って困らないのはお菓子だと思うんだよね」
「それってアユムが食べたいだけでしょ。都さん細いし、お菓子食べるイメージはあまりないよ」
「たしかに」
「アクセサリーとかどうかな。あの子普段何も付けてないから、あまり持ってないと思う。結構色々あるよ」
二人して選んでるのは、学園のクリスマスパーティで交換する景品だ。
値段は三千円までと決められている。
小学生のクリスマスパーティで三千円って高い気がするんだけど、かなり低めに設定しているらしい。
以前は値段の上限を設定してなかったのだけど、宝石とかとんでもない品が出てくるためこの値段になったとか。
こういう話を聞くと、この学園半端ないなぁと思う。
星鳴学園はクリスマスパーティ自体が、授業の一つとして組み込まれている。
しかもこのパーティ、小学生なのにドレスコードがある上、ダンスまでするのだ。
事前にクジを引いて決まったペアとダンスを踊って、その後にプレゼント交換まですることになっている。
私の相手は同じクラスの都さん。
悩みに悩んで、小さなピンクの石と星の飾りがついたネックレスにした。
ドレスが薄いピンクの可愛い系だと言っていたから、合わせてみたんだけどどうだろう。
色白だし似合うと思うんだけど。
宗介は、ブリザードフラワーが入った透明なオルゴールにしたようだった。
これは女の子が好きそうだ。
こっちにすればよかったなと言ったら、最後の一品だったんだと宗介は笑った。
たぶん最初から目をつけていたんだろう。
どうりで選ぶ態度に余裕があると思ったんだよね。
プレゼント選びが終わって家に帰ると、宗介によるダンスの特訓が始まる。
「また間違った。音楽をよく聴いて。リードするのはアユムなんだから」
結構宗介はスパルタだ。
宗介は二回目だから余裕があるけど、私にはない。
学園に言わせれば、ダンスは紳士淑女のたしなみらしく、必須とのことだった。
弱音を吐きたいけど、パートナーに恥をかかせるわけにもいかないので、私は必死にマスターした。
そして当日。
会場に入った私は、感嘆の溜息をついた。
着飾った女の子たちは、目にも鮮やかで可愛らしい。
色とりどりにデコレーションされたケーキたちのように魅力的だ。
男の子たちもびしっと決まっていてカッコイイ。
「ダンスはばっちりできそう?」
尋ねてくる宗介の服装は、灰色のシャツに黒いベスト。
キリリとしてよく似合っていた。いつもより爽やか成分が増した気がする。
「散々練習したからばっちり」
「それならよかった。足をいっぱい踏まれたかいがあるってものだね」
二人して笑いあっていると、曲が始まる合図があったので位置につく。
「よろしくね都さん」
「は、はいっ!」
都さんはがちがちに緊張しているようだった。
手を取るだけでいっぱいいっぱいという様子で微笑ましくなる。
小さい頃、男の子と手とか繋ぐの恥ずかしかったなぁ。
きっと都さんもそんな感じなんだよね。
残念ながら、そんな甘酸っぱい感情は私にはない。
だって心的には女同士だしね。
せめて緊張を和らげてあげようと、優しく笑いかける。
「今日のドレスよく似合ってるよ。色白だから、そういう薄いピンクが似合うよね」
都さんは宗介のいうとおり、あまりアクセサリーをつけてなかった。
頭の上に花の飾りがあるくらいだ。首元には何もなく、ちょっと寂しい。
「そうだ、ちょっと待ってて」
私はポケットに入れていたプレゼントを取り出した。
「本当はプレゼント交換の時に渡した方がいいんだけど、折角踊るならこれ付けたほうが可愛いと思うから」
「えっ?」
「じっとしてて」
私は都さんの首に、ネックレスをつけてあげた。
思っていたとおり、バランスがよくなる。
「うん、可愛い」
「これをあたしに?」
「アクセサリーがいいんじゃないかって言ったのは宗介なんだけど、選んだのはボクなんだ。ドレスに合わせて選んでみたんだけど、気にいらなかった?」
ぷるぷると勢いよく都さんは首を振った。
「とっても嬉しい!」
「よかった」
一瞬間があったから、余計なことをしてしまったかと思った。
でもそんな心配はいらなかったようだ。
都さんは大切そうに、ネックレスの石を指先でなでていた。
音楽が始まり、都さんの手をとって踊る。
都さんもダンスは苦手とのことで、踊っている間はがちがちに緊張していたのだけど、踊り終わった後には笑顔を見せてくれた。
ちらりと宗介の方をみると、目があったのでぐっと親指を立てる。
宗介はちょっと苦笑いしながら、同じサインを返してくれた。
ちなみに都さんからのプレゼントは、強力目覚まし時計だった。
前に私が目覚まし時計で起きられずに、宗介が起こしにくるのが日課になってるというのを聞いていたらしい。
ためしに鳴らしたところ、みんながこっちを振り返ってちょっと焦った。
これなら起きれるかもしれないなんて思う。
各自のプレゼントタイムが終わったら、自由にダンスする時間だ。
ダンスは一回で十分だったので、私は壁の花になることにした。
美味しい食事をつまみながら、踊っている子たちを見る。
宗介はモテモテで、色んな子からダンスを申し込まれていた。
「さすが宗介だなぁ」
他人事のように思っていると、後ろから肩を叩かれた。
そこに立っていたのは、ドリルの妹の留花奈だった。
いつものツインテールじゃなくて、姉と同じドリルヘアーだ。
「今野くんは踊りませんの?」
口調がドリルと一緒だ。
どうやら姉の真似をしているらしい。
声も髪型も一緒だと、髪色くらいしか見分けるポイントがない。
「ボクはいいよ。それよりも食べてるほうがたのしいし。黄戸さんこそ、踊らないの?」
「ワタクシの踊りたい殿方は、一人だけですから」
そう言って、上目遣いに見つめられる。
姉の真似をして、一体何のつもりなんだろうか。
よくわからないけれど、ドリルと違って留花奈は妙な色気があった。
こんな顔されたら、男は勘違いしてしまうだろう。
小二からこれって、将来魔性の女になる素質は十分だった。
「なら誘ってきたらいいよ。クリスマスだから、いいよって言ってくれるかもよ」
「女の方から誘わせるつもりなのですか」
「そんなこと言われてもなぁ。じゃあ、そいつに誘ってもらえるように遠まわしに言ってみたら?」
留花奈はむっとした顔をしたが、すぐに切り替えて腕に擦りついてきた。
「どうして気づきませんの。ワタクシ、あなたと踊りたいといっているのですよ?」
「えっ、なんで? 姉の方ならともかく、妹の君とはほとんど喋ったこともなかったと思うんだけど」
私の言葉に、留花奈は一瞬固まった。
「何を言ってるんですの。ワタクシは妹の留花奈ではなく、姉の理留ですわ」
「そういわれても全然違うし」
主に髪の色。雰囲気はよく似せてるけど、姉の方にそんな色気はない。
「今日はなんで黄戸さんの方がその格好してるの? いやどっちも黄戸さんなんだけど。ややこしいなぁ」
「・・・・・・何で留花奈だってわかったの。親でも見抜けないのに」
観念したのか留花奈はお嬢様言葉をやめて、ぎっと睨みつけてきた。
さっきと態度が変わりすぎだ。
「よく似てたけど、お姉さんの方はそんな積極的なことできるタイプじゃない」
秋にサロンに招待されてから、私は何度かドリルとお茶会をしていた。
だからそれくらいはちゃんとわかっている。
面白くないという顔を、留花奈はしていた。
悪意みたいなものさえ感じる。
「最近姉様はあんたのことばっかり。姉様の一番は留花奈なのに」
ぐっと胸倉をつかまれた。
もしかして、姉のドリルに化けて、何か仕掛けてこようとしてたのだろうか。
実は危ないところだったのかもしれない。
前世の兄が言ってた『シスコン』は間違いなく、留花奈の事のようだった。
「本当は、姉様と留花奈を見抜けないような馬鹿に、酷い目にあって貰おうと思ってたんだけど」
そこで言葉を切って、留花奈が私の後ろ側に目をやった。
「ちょっと何してるんですか!」
パタパタとドレスの裾をあげて走ってきたのは、ドリルヘアじゃないドリル、黄戸姉妹の姉・理留だった。
姉の理留が黄と黒のシックなドレス。
妹の留花奈が、緑色と黒の色違いのドレスを着ていた。
二人揃うと、それだけで華やかだ。
「姉様、どうして庶民とお話しているんですか!」
今日は完璧に立場を交換しているらしく、理留は留花奈のマネをしてわめいた。
こっちも再現度は高い。
きっと昔から入れ替わったりしていたんだろう。
じっと理留を見つめる。
「な、なによ。じろじろ見ないでほしいんだけど」
「いや、そっちの髪型も悪くないけど、やっぱりいつものドリルの方が、黄戸さんって感じがするなぁと思って」
理留が固まった。
そのあたり、留花奈と全く同じ反応で、双子だなぁと思った。
「何を言ってるの。留花奈はいつもこの髪型よ!」
「妹の方はね。でも黄戸さん・・・・・・理留は違うでしょ」
「!?」
ビックリした様子で、理留が留花奈と私を交互に見る。
「こいつ、騙されなかったのよ。最初から留花奈が姉様じゃないって、わかってたみたい」
面白くなさそうに留花奈は呟いた。
「えっ、でもそんなはずは。今まで誰にも見抜かれたことはないんですのよ?」
理留は信じられないという様子で、オロオロしていた。
「知らないわよ。あーあ、なんかつまんない。留花奈、先帰る」
そう言って、留花奈は理留の背を、私に向けて押す。
「ちょっと何するんですの、留花奈!」
「あんたってムカつくけど、留花奈と姉様を見分けたご褒美に、姉様と踊る権利をあげるわ。光栄に思うことね」
偉そうに言い放つと、留花奈は去っていった。




