【15】幼馴染と女装デートすることになりました
学園前は知り合いに会ってしまうかもということで、宗介と移動する。
庶民向けの店が多い、天枷通りだ。
ここなら学園の生徒はこないし、遊ぶところは多い。
「それでアユムは、俺と何して遊びたい?」
「えっとね……」
宗介に尋ねられて考え込む。
宗介と久々に遊べる。
そう思うと嬉しくて、何して遊ぼうかなと考える。
二人してキャッチボールしてみたり、借りてきたビデオを見たり。部屋で何をするでもなくのんびり過ごしたり。
一緒に料理をしてみたりするのが定番だったけれど。
でも、宗介が何でもいいよと言ってくれるなら、今までしてこなかった事がいい。
とりあえず喫茶店に行って甘味を一緒に食べるっていうのは、決定で。
でもその前にどこかで遊びたいなと思って、私が向かったのは色んなスポーツが楽しめる巨大娯楽施設だ。
ゲームセンターもあり、卓球にビリヤード、サッカーなどいろんな遊びが楽しめる。
「へぇ、こんなところがあるんだ」
「宗介は来たことないんだ? 最近オープンしたんだよ。手軽な値段で結構遊べるから、よく良太と一緒に来てたんだ」
驚いた様子の宗介の手を引いて、建物の中に入る。
ちなみに手は公園にいる時からずっと恋人つなぎだ。
恥ずかしいけど、宗介が離してくれないからしかたない。
なんて言い訳をしながら、実はそんなに悪い気はしなかったりする。
久々に宗介に甘えられているような、そんな気がして嬉しい。
……口には出さないけど。
時間制なのでとりあえず二時間コースにして、あとは好きなもので遊ぶ。
何にしようかなと悩んで、最初にエアホッケーのゲームをすることにした。
ちょっと体を動かしたい気分だったのだ。
空気の力でうかぶ丸い円盤を手に持った器具で打ち返し、相手の所にあるゴールへ入れれば勝ち。単純だけどこれが結構燃える。
「いくよ、宗介!」
えいっと円盤を打てば、宗介がそれを弾き返してくる。
宗介は初めてにしては手堅い。自分の所にあるゴールに入れられてしまえば、相手に点数が取られてしまう。
基本的にゴールあたりを守りながら、確実に行けるところだけ狙ってきていた。
「また俺の得点だね」
私の方がこのゲームに慣れているはずなのに、宗介の方が点数を取ってしまっていた。
なかなか入らなくて焦れる。
攻撃は最大の防御というか、私はどちらかというと攻めていくタイプだ。駆け引きにはあまり向いてない。
おとりのような弱いショットにチャンスだと食いついて、前に出て。
それを思い切り打ち返してる間に、ゴールを狙われてしまう。
「まだまだ! 行けっ!」
そうやって打ち返して行って。
ついムキになってボードの上に身を乗り出す。
「……ちょっとストップ、アユム!」
「ん? どうかした宗介?」
急に宗介が眉を寄せて怖い顔でこちらにやってきた。
台から下りろというように、体を引かれる。
「あーごめん熱くなりすぎた。台に乗るのは反則だよね」
「そこじゃない。今スカートなんだから、そんな体勢したら……中が見える」
謝った私に、宗介が目線を逸らして少し赤くなりながら呟く。
「あっ、そうだった」
ついうっかり女装しているということを忘れていた。
膝丈のスカートであんなことをすれば、きっと見えてしまっていただろう。
でもまぁ見えたところでトランクスだし、いいかと思う。
「気をつけるから、続きしよ!」
「アユム、全く反省してないよね。恥じらいとかないの?」
今度こそ宗介から点数を取ってやると意気込めば、宗介の目が細まる。
生じた冷たい空気で、宗介が怒っているとわかる。
「いや、女装だし恥ずかしいとは思うけど気にしてたら楽しめないし」
「そこじゃなくて! 女の子なんだからちゃんと……」
私の言葉に叫ぶように宗介が口にして、途中ではっとした顔になる。
「……男だから見られていいって思ってるかもしれないけど、今は女の子の格好してるんだから、それっぽくしなくちゃ駄目だろ」
「はぁい」
言われてそれもそうかと思う。
確かに女の子としてははしたない行動だった。
元の世界では十八年ちかく女の子をやっていたわけだけれど、元々がさつということもあって、私は男の生活に馴染みすぎていた。
そもそも前の私もスカートなんて、制服くらいしか着なかったんだよね。
「そろそろ他のスポーツでも遊んでみよう。サッカー……は駄目だな。蹴り上げたら見えそうだし。バトミントンは混んでたし、他に何がある?」
「じゃあビリヤードは? この前クロエさんに教えてもらったんだけど、あれなら二人でも楽しめ」
悩み始めた宗介に提案したら、また冷ややかな視線をむけられた。
「……アユムは、クロエとここで遊んだことがあるの? もしかしてあのナンパの後も会ってたんだ?」
「会ってない! 前にお姉さんナンパしたときに、皆でビリヤードに行ったんだ。それだと教えながら密着できて、新密度が上がるからって!」
宗介の声が低くなったので、とっさに受け答えすれば、何故か余計に宗介は不機嫌になった。
ホッケー台を背にする私に、宗介が距離を詰めてくる。
「へぇ? じゃあクロエとこんな風に密着して色々教わったんだ?」
宗介の顔が近くて、まるで問い詰めるかのような視線が私に向けられていた。
「いやそうじゃなくて! 密着したのはお姉さんたちとだから!」
「……そっか。お姉さんたちとも密着して、クロエとも密着したんだね?」
慌てて否定したのに、まるで罪状が増えたねというように、宗介は淡々と告げる。
「いやそんなことしてないよ」
「本当に? クロエが後ろに立って、やり方を教えたでしょ?」
「いや確かにそうだけどさ」
言われて思い出す。確かにキューと呼ばれる棒の握りかただとか、お姉さんたちへの指導という名の密着方法とかを実地で習っていた。
「ほらやっぱり。アユムは無防備すぎる」
呆れたように宗介は溜息を吐く。
「別にいいだろ、クロエさんに習うくらい。ナンパのやり方を教えてもらったのは確かにアレかもしれないけど、ビリヤード自体は普通のゲームなんだし」
宗介は神経質になりすぎだ。
どれだけクロエを警戒しているんだろう。
「じゃあビリヤードはやめて他のやつにしよう。ローラースケートとかいいんじゃないかな。対決ってわけじゃなくて、一緒に滑れるし」
そうしようと決めて、ぐいぐい宗介を強引に引っ張る。
靴を借りて滑る場所まで行けば、宗介はやったことがないのかへっぴり腰だった。
「ちょ、ちょっと待って。これどうやって歩くの?」
宗介が戸惑っている。
かなり貴重だ。ちょっと面白くなりながら、その手を引いて後ろ向きに滑る。
「ローラーを滑らせて、行きたい方向にハの字を描くように足を持っていけばいいよ。手本見せてあげようか?」
「いや、いいから。手を離さないで」
首を傾げて尋ねれば、お願いだからというように宗介がそんな事を言ってくる。
ちょっと怖がってるようだった。
何だかちょっと可愛い。
こんな風な宗介を見るのは、初めてかも知れないと思う。
宗介は基本何でもできるのだけど、新しい遊びを自分からするタイプじゃない。
ローラースケートを、初等部の頃にやろうと誘っていたら。
「アユムだけで楽しんできて。俺はここで見てるから」
なんて、言ったんじゃないかと簡単に想像できた。
「大丈夫だよ。ボクがちゃんと掴んでるから」
宗介がこんな風に、何かに挑戦するようになったのはいいことだ。
昔よりもいい方向へ変わっていると思うと嬉しい。
つきっきりで教えているうちに、宗介は大分コツを掴んできた。
「そろそろ手を離しても大丈夫じゃないかな?」
「う、うん」
私の言葉に、覚悟を決めたように宗介は頷き、手でバランスを取りながら滑り出す。
でもちょっと勢い余ったのか、前のめりになって私にぶつかってきた。
「わわっ!」
宗介に押されるようにして、二人で転ぶ。
「大丈夫? 宗介……」
そう声をかけようとして固まる。
どうやったらそうなったのか、宗介の顔が私の股の間にうずまっていた。
「ッ!?」
反射的にばっと宗介の顔を両手で押さえてしまう。
それから我に返って、そうじゃないだろと慌てて宗介から離れ、立ち上がる。
「だっ、大丈夫だった?」
私には『周りに男として認識される』呪いのような力が働いている。
だからたとえ股間にアレが付いてないと宗介が気付いたとしても、数秒後には宗介の頭からその事は消え去る。
わかってはいるのだけれど、バクバクと心臓が音を立てていた。
手を差し伸べたのに、宗介は呆然としたまま動かない。
頭は打ってないはずなのに、その場に座り込み目を見開いて放心している。
「ほら、行こう宗介!」
「……」
無理やり立たせたけれど、宗介は無言で何か考え込んでいるようで。
まさかとは思うけど、女だってばれたんじゃないかと心配になってくる。
ばれるわけはないはずだ。
マシロは言っていた。
私の『周りに男として認識される』力は強力で、見抜けるのは同類であるマシロくらい
だと。
幼い頃から私の裸を見ても、全く女だと気づかなかった宗介だ。
気付くはずはない。ないのだけれど……不安になる。
「そろそろお腹空いたから、喫茶店に行こうよ!」
「……そうだね。そうしようか」
誤魔化すように笑いかければ、宗介はそれに応じてくれた。
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★中等部1年 秋
●原作ギャルゲーとの違い
1)特になし
●ルートA(マシロ編)との違い(46話あたり)
1)留花奈とモデルをやるイベントが発生せず、宗介との遊ぶイベントになっている。
2)宗介がアユムを避けるのをやめるのが早い。




