【8】攻略対象との出会いと、不幸の連鎖(★)
結局私と宗介は部活に入らないことにした。
しかし、何故か「私と宗介と勝負をして勝てたら、部活に入ってくれるらしい」という噂が広まっていて、しばらくは挑戦してくる人たちがいて大変だった。
特に勧誘が熱心だったのは初等部の運動部。
人数が少なく、私と宗介は運動神経がいいため狙われてしまっていた。
なんやかんやで逃げ回ったり、二人で相手をして勝って。
そうしているうちに、季節は冬になった。
「クリスマスに劇をやるので、見にきてほしいです!」
可愛い従兄妹のシズルちゃんにそう言われて、私は美空坂女学院に来ていた。
紺の膝丈まであるセーラー服に、独特の雰囲気。
カトリック系の女子高なんて初めてで、妙に緊張する。
シズルちゃんというのは、『今野アユム』の一つ年下の従兄妹だ。
小動物を思わせるくりくりとした瞳に、年齢にしては幼い顔立ち。
純和風の顔立ちに、さらさらのおかっぱ頭。
私が病院に入院している時に、アユムとは初対面だったのだけれど。
妙に懐いてくれていて、私のことをお兄ちゃんと呼んで慕ってくれている。
事故にあってしばらく学校に通ってなかった私は、その時によく家に預けられたシズルちゃんと遊んでいた。
前世では兄と二人兄弟だった私は、妹という存在に憧れていたので、シズルちゃんの事が可愛くて可愛くてしかたない。
小さい頃のシズルちゃんは、私の絵を描いてはプレゼントしてくれたり、「シズル、大きくなったらお兄ちゃんと結婚します!」なんて事を言ってきたりして。
何この天使! とか思いながら、猫可愛がりしていた。
母さんと一緒に会場に入り、パンフレットを貰う。
演目は白雪姫と七人の小人らしい。
シズルちゃんどこかなと名前を探して。
そこで主役『桜庭ヒナタ』という文字を見つけてしまった。
このゲームのヤンデレメインヒロイン、桜庭ヒナタはどうやらシズルちゃんと同じ学校だったようだ。
「シズルちゃん、小人の役みたいね」
驚きを隠せない私の横から、母さんがパンフレットを覗き込んできて指を指す。
「母さん、シズルちゃんの名前ないよ?」
「ほらここにあるじゃないの」
指し示された場所には、『今野青風』という名前。
私はシズルちゃんのことを、カタカナでシズルだと思い込んでいたけれど。
実際には『青風』と書いて『シズル』と読む、キラキラネームというやつだったらしい。
読めないよコレ!
そう愕然とすると同時に、私はようやくそこで確信した。
――シズルちゃんがこのギャルゲーの攻略キャラの一人なんだという事を。
私は兄のゲームを横で見ていただけなので、ヒロイン全員を覚えているわけじゃない。
どうやってヒロインかどうかを判別するかと言えば、その髪と目の色だ。
主人公である私の目には、攻略対象キャラなど、ゲームに関わる人物の髪や目の色が特殊な色に映る。
加えてヒロインの名前には、必ず色が含まれているという共通点があったのだ。
ヒロインの中に『妹』キャラがいるのは知っていた。
でも、私はシズルちゃんではないと思っていたのだ。
シズルちゃんの名前には青が入ってなかったし、主人公である私に髪色は似ていた。
私の両親も青い髪に見えていた。
それと同じ理屈で、シズルちゃんは私の従兄妹だから、髪色が青なんだと思い込んでいたのだ。
戸惑っていたら、幕が開いて劇が始まった。
出てきたのは桃色の髪に、をした女の子。
このゲームのヤンデレメインヒロイン、『桜庭ヒナタ』だった。
――ヒナタって、シズルちゃんと同じ学校だったの!?
驚く私の前で劇は始まって。
さらに私を驚かせたのは、王子役の子だった。
真っ赤な髪を、ポニーテールにした美少年。
けど、ここは女学院だから女の子なんだろう。
名前を確認すれば『星野紅緒』とあって、どうやら女の子のようだった。
彼女も名前に『紅』という色が入っていることから、このギャルゲーの攻略対象だと確信する。
こんなところに攻略対象が3人もいるなんてと、そんな事を思う。
ヒナタも紅緒も、物凄く演技が上手くて。
引き込まれるようだった。
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五年生になって、仲のいい理留の双子の妹で、私を敵視している留花奈と同じクラスになってしまった。
宗介ともクラスが離れて、少し滅入ったりしたけれど。
どうにかこうにか乗り越えて、留花奈を適当にいなせるようになった。
「何か変だよね。やっぱ正月に凶を引いたからかな」
六年生を迎えた新学期。
朝、早々に靴紐が切れた。
正月に凶を引いてから、恐ろしいほどに災難続きで。
何か呪われているんじゃないかと思うほどだ。
それに、誰かの視線を感じる気がするというか、妙な気配を感じていた。
そして私に降りかかる災難に、一番敏感なのが宗介だ。
横にはりつくように、べったりと歩いている。
「歩きづらいんだけど」
「でも、何かあったら大変だから」
絶対この距離は譲れないというように宗介は言って、手を繋いでくる。
いくら仲がいいと言っても、六年の男同士で手を繋ぐのはどうかなと思う。
「平気だって。ちょっと運の悪いことが続いてるだけだよ!」
そう言って走った私の上に、影が落ちた。
「危ないっ!」
宗介の声がして、上を見上げると、鉄骨がこっちに向かって降ってきていた。
突然の事で反応もできなかった。
誰かに体を引かれ、後ろへと倒れこむ。
目の前で鉄骨が地面に叩きつけられて、アスファルトを砕いて跳ねた。
遅れて私は状況を理解する。
もう少しで、私は死ぬところだった。
ドクドクと耳元で心臓がなっているかのように、血が体中を巡っていた。
「大丈夫かい?」
助けてくれた作業員のお兄さんの声で、周りの音が戻ってきた。
ざわざわと人が集まり始めて、宗介が涙目で私の元にかけつけてくる。
「アユム、アユムっ!」
「大丈夫だから」
怯えるように私の名前を呼ぶ宗介を安心させるように、笑ってみせる。
でも自分でも顔が引きつっているのがわかった。
宗介は私の無事を確認すると、工事現場の上の方をきっと睨んだ。
「宗介?」
呼んだ声は届いていないみたいで、宗介は走っていってしまった。
あの後は警察も来て、結構大変だった。
幸い、私も含め誰も怪我はなかったのだけど、事故の原因はよくわからないとのことだった。
鉄骨はきちんと固定されており、結んでいたロープがまるで刃物で切られたように切断されていたのだ。
助けてくれた人にお礼を言って、工事現場の人たちから謝られながら、迎えにきてくれた両親と共に家に帰ってきた。
宗介はというと、走ってどこかに行って後、すぐに帰ってきた。
鉄骨が落ちてくる瞬間に、鉄骨の上に人影のようなものを見たので、追いかけて行ったらしい。
でもあんなところに人がいるなんて、考えにくかった。
落ちてきた鉄骨は、クレーンから吊り下げられていた。
建築中の建物から、少し離れた空中にあったのだ。
「見間違いなんじゃない?」
私の言葉に、そうすけは静かに首を横に振る。
「俺、前にも何度かあの子を見たことがあるんだ。最初に見たのはお父さんの葬式の時で、次はアユムが事故に会ったとき」
思わず背筋がぞくりとした。
「もしかしたら、呪われてるのはアユムじゃなくて俺なのかも」
「そんなわけないよ。宗介考えすぎ。気のせいだよ。だってあんな場所に人がいるわけないじゃん」
「そっか、そうだよね」
力なく宗介は笑ったけれど、なんだか不安のようなものを私も感じていた。
「宗介、一緒に帰ろう」
「ごめん、今日は用事あるから」
あの一件以来、宗介にあからさまに避けられるようになった。
しかもそれをきっかけにしたかのように、変な出来事も起こらなくなっていた。
これはどういうことなんだろうと、もやもやする。
今まで宗介と一緒にいて、不幸な出来事なんてなかったのに、突然こんな風になるなんておかしい。
偶然、もしくは別の原因があるはずだと、私は思った。
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この後、私は誘拐事件に巻き込まれたりして、色々あって。
でも、しばらくすると不幸の連鎖は嘘のようにピタリと止んだ。
一体なんだったんだと思いながらマシロの部屋で過ごしていたら、突然マシロが来年度から留学すると言い出した。
「ぼくがいなくても、隠し通路は自由に使っていい。女の身だと色々大変だろうからな」
さらりとマシロはそんな事を言ってくれて。
私は大いに驚いた。
本来の私の性別が女であることに、どうやらマシロは気づいていたらしい。
六年の夏休みに一度マシロの部屋にお泊りしたことがあった。
このギャルゲーの世界をクリアするために、マシロにお願いしてギャルゲーをプレイさせてもらったのだ。
マシロ自体はギャルゲーを持っていなかったのだけれど、友人が持っていたらしくそれを借りて二人で徹夜でゲームした。
どうやらその時、私は無防備に寝ていたらしく。
それでマシロは私の性別に気づいたみたいだった。
私にマシロの暗示が効かないように、私に働いている『周りに男と認識させる』呪いのような力も、マシロには効かないらしい。
ならなぜ今まで気づかなかったのかというと、それはただ単に私が男っぽかったからの一言に尽きる。
そこまでばれてしまったなら、マシロに私の前世を全部話して、相談に乗ってもらうこともできるんじゃないか。
一瞬そう思ったけれど、やめた。
マシロ自身は善人だと思うし、仲もいい。
けれど私の味方になってくれるとは限らない。
あらゆる人に見えている白の髪に、赤い瞳。
学園の地下に住んでいて、学園に住むお化けの『ウサギ』。
確実に、マシロは『その扉の向こう側』というこのギャルゲーの重要キャラクターだ。
――結局、私は事情を話すのを止めた。
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★初等部4年冬―初等部6年
●原作ギャルゲーとの違い
1)星野紅緒の事を高等部入学前に見かけている。
●ルートA(マシロ編)との違い(24話―36話)
1)マシロのネット友達・緋世渡とアユムは出会っていない。
2)シズルちゃんが攻略対象の一人だと気づくのが早い。
3)紅緒が学園に入学する前に、一度見かけている。
4)アユムが前世の事情をマシロに話さない。




