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妹の私がギャルゲーの主人公(男)になりました  作者: 空乃智春
宗介ルート:共通部分(★部分は大きい違いがあります)
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【4】学園のおばけとプールでの出会い(★)

 四年生の一学期最後の日。

 私は夕暮れ時の学校を訪れていた。

 うっかり忘れ物をしてしまったのだ。


 忘れ物というのは、水着。

 今日の放課後、私は一人で水泳の補習を受けていた。

 周りからは何故か男に思われている私だけれど、実際の性別は女。

 何故か裸を見ても誰も気づかないんだけど、だからと言って男として上半身裸で水泳なんて嫌だ。


 そのため私は、一人だけ別で補習を組んでもらう形で水泳の授業を受けていた。

 もちろん上までしっかりある、競泳用の水着でだ。

 普通ならそんな特例認められないだろうけれど、私の背中には事故のせいで大きな傷跡があって、それを見られたくないと言えば先生たちも理解してくれた。


 ちなみに普段の体育の授業は普通に男子に混じって着替えをして、受けている。

 小学生男子にタンクトップにトランクス姿を見られようと、なんともないし。


 それはさておき、私としたことが更衣室に水着の入ったバックを丸々忘れてきてしまったのだ。

 持って帰ったつもりだったんだけど、水泳が終わったという解放感から油断していたのかもしれない。


 さすがに夏休み開けに、カビだらけの水着とご対面は避けたい。

 誰のですかなんて先生に言われたりして、恥ずかしい思いはしたくないので取りにきたのだ。

 しかし夜の学校は暗い……頭の中に過ぎるのは、二年生の時からのクラスメイトである吉岡くんが語ってくれた怪談話。


 どこの学校にもあるように、この学園にも七不思議があるようだった。

 怖いけど、気になる。

 好奇心に負けた私は、七不思議を聞いてしまっていた。

 

 あんなの子供騙しだ。

 本気で信じてるわけじゃない。

 本日吉岡くんが主催する肝試しの参加は断ったけど、別にそれはビビったとかそういうわけじゃ、決してなかった。決して。


 七不思議なんて、どこの学校でもそう変わりない。

 誰もいないはずの音楽室でピアノの音が聞こえるとか、夜に大鏡を見ると奥に閉じ込められた人が見えるとか、大体はそんな感じだ。


 ただこの学園には、特有の話があった。

 白い髪に赤い目の少年、ウサギの話。

 星降祭ほしふりまつりの劇に出てきた『ツキ』と一緒に扉の向こうからやってきたウサギは、『ツキ』が扉を閉ざしたせいで戻れなくなってしまい、こちらの世界をずっと彷徨っているのだとか。


 ウサギは寂しがりやで、今でも夕暮れ時になると扉のあるこの学園を徘徊しているらしい。

 気に入られると扉の向こうへ連れていかれて、二度と帰れなくなってしまうという。


 扉の向こうに戻れなくなったから彷徨っているのに、捕まると扉の向こうに連れていかれるとか、そもそも二度と帰れないなら誰がこの話を流したのかとか。

 矛盾するところはたくさんある。

 けど、ただの噂話にしては、目撃談がかなりあるのが嫌なところだった。


 去年から時々ウサギの噂は耳にしていたのだけど、今年の夏は目撃談が多い。

 すでにクラスでも十人に三人くらいはその存在を目撃しているらしい。

 ウサギの噂は昔からのものらしく、学園の卒業生である学年担任の先生や、うちの両親もその存在を知っていた。


 駄目だ。思い出したら負けだ!

 勝負事ではないけど、こういうのは一度考えるとずっと考えてしまう。

 職員室で鍵を貰って更衣室に入り、さっと水着を回収して出ようとした。


「ん?」

 ドアが開かない。

 さっきまで普通に開いてたのに……壊れたのかな。

 焦ったけれど、それならプール側の扉から出てフェンスを乗り越えていけばいい。


 そこまで考えて、ふいに頭に浮かんだのは。

 プールに女の幽霊が出るという怪談話。


 ……別に幽霊なんて怖くない。そんなものいるわけないし。子供騙しだ。

 けど、もし本当にいてプールの中に引きずりこまれたら?

 誰もいない静けさと、学校というシチュエーションのせいで、余計な事をつい考えてしまう。


 考え込んでいたところでしかたない。

 このロッカーばかりある更衣室だって、十分に怖い。

 何かが隠れてて、飛び出してきてもおかしくない気がしてくる。


 一つ息をついて、気合を入れプールへ出る。

 そこには、誰かが泳いでいた。


 泳いでいる人影は、髪が真っ白で。

 学園に出没するという『ウサギ』の話を思い出して、その場で凍りつく。


「っはぁ!」

 目の前の人物が、私の前で顔を上げて水を弾いた。

 顔にかかった前髪を上げれば、真っ赤な瞳と端正な顔立ちが見える。

 高校生くらいの少年。

 銀色の髪は夕焼け色に染まって。

 儚げな容貌と相まって、幻想的だった。


 ――綺麗。

 赤い瞳と目が合う。

 その瞬間、電流が走ったようなそんな感覚に囚われた。

 共通するのもなんて一見してないように見えるのに、自分とこの子は同じ匂いがすると、わけもなく思ってしまう。


「なんだ、人がいたのか」

 しっかりとしたその声に我に返る。

 どうやら彼は幽霊ではないらしく、プールサイドから上がってきた。


「っ!?」

 なんと、彼は全裸だった。

 つい驚いて凝視すれば、視線に気づいて「あぁ悪いな」とあまり悪いと思ってない口調で、彼はそう口にしてくる。

 たぶん私が男の子だと思っているから、気にしてないのだろう。


「そこにあるタオルとってくれるか」

 線が細いように見えて、それなりに筋肉がついている白い体から目を逸らし。

 言われるままにタオルを手渡せば、お礼を言われた。


「こんな時間に人がくるとは思わなかった」

 気だるげに言って、彼が目の前までやってくる。

 目線を合わせるようにかがんだ彼の瞳の色を見て、綺麗だと改めて思った。

 ――まるで宝石みたい。

 そんな事を考えていると、ふっと彼は笑う。


「怖がらないんだな。この赤い瞳のことを綺麗という奴は珍しい」

 ――もしかして、無意識のうちに口に出した!?

 慌てて口を押さえたら、笑われた。


「ははっ、そんな事しても意味ないよ」

 じっと目を見つめられる。

 ほのかに光を帯びているような気がするくらいに、色鮮やかな瞳だった。

 まるで、こちらの心の中まで見透かされてるような気がする。

 そんな視線なのに、嫌な気はしない。


 ふいに、私の携帯電話がなった。

 でるといいと彼に促されたので、電話を取れば宗介だった。


 私の家に行ったけれど、いないので心配になったらしい。

 水着を忘れたから取りに行って、今から戻るところだと伝えれば、じゃあ今から迎えにいくねと言って電話を切った。

 ……本当に宗介は過保護だ。

 


「なんだ、水着を忘れて取りにきたのか」

「はいそうなんです。でも、更衣室側の出口が閉められちゃってて」

 電話の内容で、事情を知ったらしい彼が話しかけてきたので、答える。


「? 入るのはともかく、中からなら鍵が開けられるはずだろう?」

「いやでも、開かなかったですよ?」

 何度かためして駄目だったことを伝えれば、彼が開けると言い出した。

 けれどドアは壊れてしまっているのか、全く開かない。


「でも大丈夫ですよ。幼馴染がこっちに向かってるんで、開けてもらえると思います」

「……ここの鍵はそもそも閉まっていたはずだ。職員室から鍵を貰って中に入ったんじゃないのか?」

 

 彼の言う通り、私のポケットの中にはここの鍵が入っていた。

 つまり宗介が来てくれても鍵がないから外から開けられない。


「でも、女子更衣室から入れば大丈夫ですよ!」

「それならむしろ、そこから出ればいいんじゃないか?」 

 言われてはっとする。

 けどプールから女子更衣室へ繋がるドアの鍵が、そもそも閉まっていた。


「大丈夫だ。万能なカードキーを持ってる」

 彼がカードの読み取り部分に鍵を翳したけれど、エラー音がなった。

「……変だな。そんなはずはないのに」

 何度やっても駄目で、はぁと彼は溜息を付いた。


「フェンスを越えるにも裸だしな。しかたない、ついてこい」

 彼は溜息を付いて、男子更衣室のロッカーの一つを開けた。

 それから底の方にある差込口に、カードを挿入する。


 すると、更衣室の下の床が動いて階段がぽっかり姿を現した。

「何これ、凄い!」

 思わずテンションが上がった私に、そうだろうそうだろうと言うように彼が頷く。


 隠れ家、秘密基地。隠しダンジョン。

 そういうのって憧れるというか、RPGゲーム好きの血が騒ぐ。


「隠しダンジョン風だ。さっきの着信音、ドラリアクエストだったな。もしかして好きなのか?」

「ドラリアクエスト知ってるんですか!?」

 学園内で趣味のゲームの話ができる人は初めてだ。

 そもそもゲームをしている子が少ないし、同じ歳の子たちにはこのストーリーを理解するには早すぎるらしく、同士もいない。


 ドラリアクエストとは、前世で私が大好きだったRPGゲームだ。

 このギャルゲーの世界にも、ドラリアクエストがあると知ったとき、大いに喜んだ。

 前世にあってこっちにないものも結構多い。

 このギャルゲーを作った会社とドラリアを作ったゲーム会社は同じとか、そういう理由があるのかもしれない。


 語れる仲間を見つけて、思わず目を輝かせる。

 どのシリーズが好きか、ヒロインは誰派かなんて話しながら、わくわくする気持ちで通路を歩く。

 学園の隠し通路を歩いているというロマンと、久々のオタクトークに興奮が止まらなかった。


「……このまま帰すのも少し惜しいな。ぼくの部屋に寄っていくか?」

「いいんですか?」

 つい立ち止まって会話をしていたら、彼がそんな事を言い出す。


「かまわない。今ぼくのことを忘れられてしまうのは、少し寂しい気がするんだ」

「そんなすぐに人のことを忘れたりしないですよ。先輩見た目のインパクト強いですし」

 彼がちょっと悲しそうな顔でそんなことを言ったので、笑い飛ばす。


「……まぁ、とりあえずこっちにぼくの部屋がある。くるといい」

 そう言って連れて行かれた先は、広さは教室の半分ほどだけど、住むには十分なスペース。


 部屋の中は快適な室温に保たれていて、ベッドにソファー、テレビがある。

 しかもテレビの横にはゲーム器があって、マンガも大量にあった。

 インターネットができそうなパソコンに、ストックされたお菓子たち。


 引きこもるにはまさに最適な環境。

 まるで前世の兄の部屋のようだと思った。


 学園の秘密の地下通路。

 そこでたどり着いた部屋。

 

 ――こんな特殊な場所にいるってことは、マシロはこのギャルゲー『その扉ドアの向こう側』の重要な登場人物なんじゃないか。

 そんな事を思う。

 我に返って、関わってよかったのかと不安になったけれど。


「見ろ、昨日発売した最新作のドラリアクエスト8だ!」

「本当ですか! これ物凄くやりたかったんです!」

 前世から大好きだったゲームの続編を、目の前でチラつかされ、頭から不安は抜け落ちた。



■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□

★初等部4年夏


●原作ギャルゲーとの違い

1)マシロとは本来高等部で、女装した姿と出会う。

2)ゲームクリア2週目以降でないと、学園の裏通路は明かされない。


●ルートA(マシロ編)との違い(19話―21話)

1)マシロとの出会いが音楽室ではなく、プールになっている。

2)声楽部の先生にアユムが出会っていない。

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