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妹の私がギャルゲーの主人公(男)になりました  作者: 空乃智春
宗介ルート:共通部分(★部分は大きい違いがあります)
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【3】星降祭と遊園地

マシロ編と変わりないので、飛ばして問題ありません。

 学園では三年に一度、星降祭ほしふりまつりというイベントがある。

 学園が会場になったお祭りで、地域の人たちも参加する大きな祭だ。


 この祭はどうやら、『そのドアの向こう側』というこの世界の、鍵になるイベントのようだった。

 学園内には普段は入れない場所に、大きな『扉』がある。

 高等部になると、この扉を題材にした劇を演じる。

 その主役になった者だけが、星降の夜に『扉』を開く権利を得るのだと知った。


 ――絶対劇の主役にならなきゃ。

 そう私は心に誓った。


 扉は星降祭の日だけ一般公開されていて。

 一緒に来ていた両親と別れ、私は扉へと向かった。

 

 普段はフェンスに囲まれていて、立ち入れない場所。

 なだらかな丘の中心にあったのは、まぎれもなく兄がやっていたギャルゲーにでてきた『扉』だった。


 二階建ての家くらいの高さはある大きな扉。

 アンティークのような細かい模様が彫られた扉の向こう側には何もなく、固く閉ざされている。

 前世の兄の部屋で見た『その扉ドアの向こう側』のパッケージに描いてあった、あの『扉』で間違いなかった。


 ただの『扉』ではなく、力を感じる。

 ひきつけられる。

 見ているだけで、心がざわついた。


「アユムも見にきてたんだ」

 声をかけられて我に返る。

 宗介が側まできていた。

「凄い扉だよね。言い伝えでは、ツキが元いた世界に繋がってるってことになってるけど、誰が一体何のためにつくったんだろうね」

 宗介は扉の言い伝えを信じてはいないようだった。

 扉を見上げて、そんな事を呟く。


 ツキとは、劇に出てくる登場人物の事だ。

 違う世界からやってきて、この世界の青年と友情を築く。

 けどすれ違いから喧嘩してしまって、ツキは扉を閉ざして元の世界へ帰ってしまうのだ。


「扉だから、きっとどこかに行くため……じゃないかな」

 扉の先が、どこかに繋がっているのなら。

 それが元いた世界であって欲しいと、心の底から私は思った。


 ――この向こうは、私がいた世界と同じなんだろうか。

 お兄ちゃんや家族が。友達が普通に生活してるのかな。

 乃絵のえちゃんと学校帰りにお店によってお喋りして

 家に帰ってお兄ちゃんがゲームをしてる側で、マンガを読んで。

 母さんに夕飯ができたよって呼ばれて、居間に行けば父さんがすでにビールを飲んでて。

 そんな日常が、この向こうにあるのかな。


 気がつけば、そんな事を考えていて。

 私は扉へと引き寄せられるように手が伸びていた。

 けれど、扉に触れる寸前で、その手首をぎゅっとつかまれる。


「っ!」

 痛いくらいの強い力に、顔をしかめる。

 横を見れば、宗介が私の手首を握り締めていた。

 その顔は必死で、まるで置いていかれるのを恐れる幼い子供のようだった。

 意識がはっきりと覚醒して、まるで夢から覚めたような心地になる。


 元の世界に帰りたい。

 それはこの世界がギャルゲーの世界だと知ってから、ずっと私の目的だ。

 元の場所に帰るだけ。ここは私のいた世界じゃない。

 当たり前のことのはずだ。

 なのに、私は罪悪感を覚えてしまっていた。


「どうしたの、宗介。ちょっと扉が開くか試してみようと思っただけなのに」

 茶化すように笑ったけど、宗介は思いつめたような顔をしたままだった。

「なんで試す必要があるの?」

「だって、ほら。他の人たちだって試してるし」


 扉に触れること自体、おかしなことではないはずだった。

 好奇心旺盛な今までのアユムなら、扉を開けようとするはずだ。

 この場合、止める宗介の行動の方が不自然だった。

 本人もそれに気づいたのか、バツが悪そうな顔になる。

 でも、手を離してはくれなかった。


「アユムは、時々昔の俺みたいな顔をするから不安になるんだ」

「昔の宗介みたいな顔って、どんな顔なの。変な宗介」

「変なのはアユムだよ。さっきのアユムは……本当の両親に会いたくて、ここに居場所がないって思い込んでたときの俺みたいだった」

 核心を付かれて、ひんやりとしたような気分になる。

 宗介は私が帰りたいと思っていることどころか、前世の事だって知らないはずだった。


「アユムは全部持ってるよ。俺と違って、何も欠けてない。記憶がないから不安になるかもしれないけど、捜す必要なんてないんだ」

 大切なものは皆ここにあるんだと、私の居場所はここなんだというように、宗介が訴えてくる。


 無意識に宗介は、私がどこかに帰りたがっていると、気づいているのかもしれない。

 こうやって引き止めてくれようとしてることが嬉しくて、心苦しいと思った。

 扉へと伸ばしかけていた手を宗介の手に重ねると、微かな震えが伝わってくる。

 その手を優しく振り払うと、辛気臭い顔をしている宗介の頬をつねった。


「あぅむ?」

「宗介って、結構ボクのこと好きだよね」

 呆れたような口調で言うと、驚いたように宗介が飛びのく。

「い、いきなり何言い出すの」

「だって、今のはつまりボクと離れたくないってことでしょ? 開きもしない扉にびびっちゃうくらいにさ」


 肩をすくめて、やれやれとポーズをとって。私は扉に近づいた。

 体重をかけるようにして扉を押したけれど、ビクともしない。


 ――きっと、そうだろうなとは思っていた。

 わかっていたのにがっかりしてしまった気持ちを隠して、宗介の方を振り返る。


「ほら、どこにも行けないでしょ? 宗介は心配しすぎなの」

「……そうかもね」

 笑った私に、宗介は笑い返してはくれなかった。



●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●


 春休み。私は宗介の家族と、遊園地に行く事になった。

 前に理留の誕生日パーティでゲットした、遊園地のチケットがあったからだ。

 アユムの両親と、宗介の育ての親である山吹夫妻は親友同士で、とても仲がよかった。


 宗介とベッドに横になりながら、明日行く予定の遊園地での計画を練る。

 山吹のおじさんたちが、明日朝から連れて行ってくれることになっていた。

 パンフレットを見ながら、こうやって話しあうだけでわくわくしてくる。


「ジェットコースターが気になるのはわかるけど、乗って後でアユムが泣いちゃわないか、俺心配だよ」

 絶叫マシーンばかりを選ぶ私に、宗介は困り顔だった。

 ちょっぴり強がりな口調から、本心は少しビビッているのが分かる。

 宗介は初めての遊園地だった。


「泣くわけないじゃん。私昔からジェットコースタとか大好きだし。足が固定されてない奴とか、背中から落ちるやつとか、楽しくて何回も乗ったよ。宗介はまだ乗ったことないから、ジェットコースターの楽しさを知らないだけだって」

 ジェットコースターのなんたるかを語ろうとしたら、宗介が首をひねる。


「アユムも遊園地行くの初めてでしょ? いつ乗ったのさ」

「えっ? やだなぁ、もちろん夢の中での話だよ」

 ――危ない。浮かれすぎて、つい前世の事を話してしまっていた。

 宗介はアユムってばどれだけ楽しみにしてるのと呆れ顔で、変だとは思っていないみたいなのでほっとする。


「あっ、ここ見てよ。アユムが乗りたがってるジェットコースター、130センチないと無理みたい」

「……まじで?」

 宗介の指摘に、私は泣きそうになった。

 私の身長は124センチでそれには6センチも足りなかった。


「で、でも120センチあれば乗れるやつもあるから。このスプラッシュシャワーコースターとか、水しぶきがあって楽しそうだよ?」

 見るからに落ち込んだ私を見て、わざとらしいくらいに宗介が明るい声を出して気を引こうとする。

 しかし、楽しみすぎて乗りたいジェットコースターを前々からチェックしていた私は、ショックからすぐには立ち直れなかった。


 せめて二・三センチだったら厚底の靴で誤魔化せたのに。

 そう考えて、私はいい事を思いついた。

 家に帰ってその準備を整えれば、ご機嫌になった私に宗介が不信そうな目を向けていた。



●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●


 私と宗介は互いの家を行き来してるし、泊まりもこれが初めてじゃない。

 間取りも覚えているほどに、私は山吹家に慣れ親しんでいた。


「そうそう、二人にプレゼントがあるのよ。忘れないうちに渡しておくわね!」

 そう言っておばさんがくれたのは、茶碗とお箸のセットだった。

「じゃボクがこっちで、宗介はこれでいいよね」

 迷い無く黄色のトラの方を選んで、青色のクマの柄を宗介に手渡した。

 宗介にどっちがいいと聞いたところで、アユムが選んでいいよと言うのはわかっていたのだ。


「うん、ありがと」

 私の判断はたぶん間違ってない。

 宗介は派手なものよりも、シンプルで落ち着いた色が好きなのだ。


 そして、意外なことに、宗介はクマのキャラクターが好き。

 以前私が夏祭りの射的でゲットしたクマのキャラの文房具を、宗介は未だに使ってくれていた。

 しかも学校でなくしたら嫌だからと、家で大切に使ってくれている。

 だから、この前の誕生日にはそのクマのタオルをプレゼントした。


 けど一度も使ってくれないから、理由を尋ねたら、もったいなくて使えないらしい。

 それほどまでにこのクマが好きなんだろう。


「アユム、口にご飯粒ついてるよ」

 そんな事を考えながらご飯を食べていたら、頬に付いたご飯粒を宗介が取ってくれた。

 私が礼を言ったところで、おじさんがぷっと吹き出した。


「どうしたのお父さん?」

「いや、本当に宗介はアユムくんといると、子供らしくなるなぁ」

 不思議そうな宗介に、おじさんはそんなことを言った。


 おじさんの言葉に、私と宗介は顔を見合わせて首を傾げる。

 今はむしろ私の方が世話を焼かれていて、宗介に子供っぽい要素はなかったように思えたのだけど。


「子供らしいって、宗介いつもと変わらないですよ?」

「アユムくんにとってはそれが普通だから、気づいてないだけよ」

 私だけでなく、宗介も同じ意見のようだった。

 おばさんとおじさんは、二人だけで秘密を共有するように顔を見合わせて微笑んでいた。



●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●


「早く、宗介! 皆が並ぶ前に並ばなきゃ!」

「待ってよアユム!」


 次の日。

 開園と同時に入って、ダッシュする私と離れないように宗介が追いかけてくる。

 私は最初に園内で一番怖いというジェットコースターに直行した。


 入り口の方で身長を測っているお姉さんがいる。

 私はこの時のために、わざわざ家に帰って用意した秘密兵器を着装した。

 高めのブーツと、詰め物をした帽子一式。これで六センチのカバーが完璧だ。


「帽子はとってもらえますか?」

 案の定、そんなことを言われた。

 しかし、私はそこまで予想済みだった。


 帽子は最初からフェイク。

 私は帽子の下に、カツラを被っていたのだ。

 詰め物はカツラの下にあるから、まず見えることはない。

 父さんが結婚式の余興でつかったカツラなので、女の子のように髪は長いが、問題はないはずだ。


「あ」

 しかし、帽子だけをうまく脱ごうとして、カツラまで落ちてしまった。

「……また次の機会に遊びにきてくださいね」

 優しいお姉さんは、しゃがむとカツラを拾って手渡してくれた。

「ふっ、あはは! アユム、カツラって!」

 我慢できなかったのか、隣に立っていた宗介が爆笑していた。



●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●


 身長制限のあるジェットコースターに乗れなかったのは悔しかったけれど、私は遊園地をめいいっぱい楽しんだ。

 結局遊園地にいる間中、精神年齢的には上の私の方が、宗介よりもはしゃいでいた。

 連れまわしてしまったなぁと思う。

 これじゃあ、どっちが年上かわからない。


「宗介はどれが一番楽しかった?」

「一番最初のジェットコースタに乗ろうとした時の、アユムのカツラかな」

 帰りの電車でそう尋ねれば、宗介がそんな事を言う。


「なんでそこなんだよ!」

「だってあれは衝撃的だったんだもの。昨日から自信満々だったから嫌な予感はしてたんだけど、あれはないよ」

 宗介はカツラがツボに入ったようで、たびたび思い出しては笑っていた。

 あんなに爆笑する宗介を見たのは初めてだった。

 後からジェットコースターのところにやってきた山吹夫妻が、腹を抱えて地面にうずくまる宗介を見て、何事だと戸惑ったくらいだ。


「あれは帽子だけがちゃんと取れる予定だったの。カツラの髪が帽子に引っかからなければ今頃はいけてたのに」

「いや、そう思ってるのはたぶんアユムだけだよ。頭の部分不自然に浮いてたし。どうみたって無理があるのに、どうだって顔で帽子とるときのアユムの顔がもう面白くて、俺我慢できなかったもの」

「そんなに笑わなくてもいいじゃん! いけると思ったんだもの! じゃなくてどのアトラクションが楽しかったんだってボクは聞いてるの!」

 言われると恥ずかしくなってくるので、話題を無理やりに変える。


「俺は観覧車かな」

 宗介は少し落ち着いてから、目じりの涙を拭って答えた。

「観覧車?」

「空に近い感じがするから」


 空というのは、宗介にとって、本当の両親がいるところなのかもしれない。

 そんな事を思う。

 宗介は、大人びていて、どこか達観した表情をしていた。

 ふいに、宗介はこういう顔をするときがある。

 そこには哀しみとかはなくて、カラッとしている。


 だからこそ、私は不安になる。

 宗介が目を離した瞬間にいなくなってしまうんじゃないか。

 そう思ってしまう時があった。


 気がつくと私の肩にもたれて宗介が寝ていた。

 私も宗介も疲れていつの間にか寝ていたらしい。

 まだ電車は家の近くの駅までついてないようだった。


「今日はありがとうね」

「それはボクの方です。つれてきてくれてありがとうございました」

 おばさんがお礼を言ってきたので、私は首を横に振る。

 二人は私たちの付き添いでついてきてくれていた。


「いや、お礼を言うのは私達だ。宗介があんなにはしゃいでるのは初めてみた」

 おじさんが改めてありがとうと礼を言ってくる横で、おばさんが宗介の髪を撫でた。

 その顔はお母さんの顔で、その様子を眺めるおじさんの目つきは、お父さんのものだ。


「宗介は、本当のおじさんたちの子供じゃないんだ。おじさんのお兄さんの子供なんだよ。この子もそれを知っていて、賢い子だから手が掛からないように、いつも遠慮ばかりしていたんだ。こんな風に隙を見せてくれるようになったのは、アユムくんが来てからなんだよ」


 宗介が二人の本当の子供じゃないことは、以前に本人から聞いていたので驚きはしなかった。

 山吹のおばさんもおじさんも、ちゃんと宗介のことを思ってくれていることを、私は知っていた。


「今回のことも、アユムくんのお父さんから話がくるまえに、宗介が提案してきたのよ。アユムくんの両親が出かけてる間、泊めていいかってね。しかも遊園地に連れて行ってほしいなんて、自分がしたいことを言ってきたのは初めてだったんじゃないかしら」

 おじさんの言葉を、おばさんが引き継ぐようにして口にする。

 まるで二人は、宗介にもっとわがままを言ってもらいたいというかのようだった。


 確かに、宗介はあまり自分の意見を言わないところがある。

 けど最近では側にいるうちに、言わなくてもなんとなく宗介がどう思っているのかわかるようになっていた。

 私が聡くなったというより、おじさんの言葉を借りるなら宗介が隙を見せてくれているんだと思う。


「宗介は、アユムくんには甘えられるみたいだね」

「いつも甘えてるのはボクのほうですよ」

 今回だって私が引っ張りまわしていたし、いつも世話を焼かれているのも私だ。

 しかし、おじさんは首を横に振った。


「この子は普段こんな風に、私たちの前で寝てはくれないんだ。私の兄……宗介のお父さんはね、幼い宗介を寝かしつけて、外へ出かけたところで事故にあってしまったんだ。その事もあって、宗介は目を覚ますと側にいた人がいないというのが怖いらしくてね。人が側にいると寝ようとしないんだ」

「そうなんですか?」

 それは初耳だった。

 けれど思い返せば、そういう節はあったかもしれない。


 夏休みに宗介と私のおばあちゃんの家に泊まった時。

 寝起きの悪い私を宗介が起こすというのが毎日のパターンだったのだけど、一度だけ私が先に起きたことがあった。

 朝起きて、部屋に私がいないと知った宗介は家中を走り回って、私の姿を見つけた瞬間に気が抜けたかのように座り込んだのだ。

 寝ぼけてたんだなぁと済ませた私だったけど、あの時の取り乱しっぷりは異常だった。


「アユムくんは、起きても側にいてくれるとわかってるんだな」

 その対象が自分じゃないことが、少し寂しいというようにおじさんは言う。

 私は胸が少し痛かった。


「アユムくんが世話を焼かせてくれて、頼ってくれるから、この子は今落ち着いている。だからこれからも仲良くしてやってほしい」

 私はもちろん、はいと答えた。

 


■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□

★初等部3年

●原作ギャルゲーとの違い

 特になし


●ルートA(マシロ編)との違い(16話―18話)

 特になし

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