【2】私とドリルのお嬢様
マシロ編と変わりないので、飛ばしても大丈夫です。
ダイジェスト的なのが続きますが、変わってくる場面がくるまでは、その分更新を早めたいと思います。
夏祭りの一件以来、宗介は少し変わった。
大人っぽいところとか、落ち着いたところは変わりないけれど、憑き物が落ちたようにすっきりとした顔になった。
最近は主張もするし、私に対する遠慮もなくなってきたように思う。
ほんの些細な変化。
宗介の父方の弟夫婦である山吹夫妻はちゃんと気づいてるみたいで、それを快く思っているみたいだった。
攻略対象である黄戸姉妹と交流さえしなければ、学園生活は安泰だ。
そう思っていた私だけれど、うっかり姉の方である理留と仲良くなってしまった。
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私はゲーム内に出てくる『扉』を学園内で探すのが日課になっていて、この日は宗介が一緒じゃなかったから、普段行けないところまで足を伸ばした。
宗介は過保護で、あまりにも遠くへ行こうとすると止めてくる。
そして私は学園内で迷子になった。
「今日のワタクシ絶好調、向かうところ敵はなし♪ 占いだって一位だよ、おやつだってアップルパイ♪ 大好物だよやったったー」
そんな中、謎の歌を歌う理留が取り巻きを付けずに歩いてきたのだ。
理留の後についていけば、初等部の校舎に戻れるんじゃないか。
そう思った私は、理留の後をつけていった。
「留花奈も今日はお稽古で、みんなも巻いたし大丈夫♪ 自由にどこでもいけるから、どこまでも冒険だ♪」
理留の歌が取り巻きや妹を少し窮屈に感じてる事を意外に思いながら、私はそのまま理留の後を追いかけた。
その後も続いた歌の内容からすると、高等部近くにある売店に向かっているようだ。
道もよくわからないし、歌を聞いているうちに売店も気になってきた。
どうやら理留は夏休みにハワイへ行ったみたいだった。
海は綺麗で好きなんだけど泳げないので、本人的にはフランスが良かったらしい。
妹の手前泳げないなんて格好悪いので、腹痛のふりをしてやりすごしたら、楽しみにしていた食事が全部粥になったのだと嘆いていた。
高飛車でとっつきにくそうというイメージが、この歌のおかげで崩れていく。
――なんていうか、結構抜けてる?
そんな印象を持った。
一向に売店につく気配がなく、だんだんと理留の歌に陰りが出始め。
「ぐすっ、お家帰りたい……」
やっぱりドリルも迷子かよ!
呟いたドリルの言葉に、私は心の中で突っ込んでしまった。
思っていた以上に、理留は残念な子だった。
「学園内って広くて、迷っちゃうよね。一人だと不安だったからよかった!」
さすがに放っておけなくて、偶然を装って私は理留の前に姿を現した。
二人で学園内を歩いて、理留のお腹が鳴ったから、持っていた駄菓子を分けてあげた。
「この何を食べてるのかわからないサクサク感。舌に残る濃い味付け。甘くもすっぱくもなく、体に悪そうなのに、また食べたくなるから不思議ですわ」
理留はお嬢様なのに、駄菓子がいたくお気に召したようだった。
それがきっかけで私は、理留と打ち解けた。
後日理留がお礼にとお茶会に誘ってきて。
なんでアユムが黄戸さんと? と、宗介が疑いの目線を向けてきた。
私は焦った。何故なら、あの日の事を宗介に言ってなかったからだ。
一人で歩き回って、道に迷ったなんて言ったら怒られるのは確実。
宗介は自分がいないところで、私が無茶をするのを一番嫌うと、夏祭りの一件で学習済みだった。
幸い理留は、迷子になっていたことを知られたくないようで、その辺りを上手く誤魔化してくれた。
学園の女王的存在である理留を警戒している宗介も一緒に、三人でお茶会をすることになった。
「大好物なのに、ボクに分けてくれてよかったの?」
この学園には、サロンという広場があり、そこではお茶なんかも楽しめる。
どんな金持ち学校だと思いながら、私は理留のご馳走になった。
「だからこそ、食べてもらいたかったのです。あの時の駄菓子は、ワタクシにとってこれくらいの価値があったのですから」
そこまで口にして、理留は変な顔になった。
「ワタクシ、あなたにアップルパイが大好物だといいましたっけ?」
そこで私は自分の失言に気づいた。
理留の歌でアップルパイが好きなのを知ったのだけど、本人から直接きいたわけではなかった事をすっかり忘れていた。
「黄戸さんがアップルパイ好きだって、誰かから聞いたの?」
「ワタクシ、甘いものなら何でも食べるので、アップルパイが一番好きだと知っているのは家族くらいなのですけど」
宗介と理留が怪訝な顔で私を見ていた。
「あなたまさか……あれを聞いていたのですか?」
「あれって何のこと?」
思い当たったらしい理留に、あからさまに目をそらせば、椅子から立ち上がって詰め寄られた。
「あれっていったらあれです。しらばっくれても無駄です! あんなに前からいたなら、どうしてもっと早く声をかけてくれなかったのですか!」
「何の事だかわからない♪」
「わかってるじゃありませんかっ!」
つい理留が歌っていた音程が、口から出ていた。
理留は知ってみれば、からかいたくなる雰囲気があるというか、結構いじられキャラだった。
「えっと、何があったの二人とも。俺ついていけてないんだけど」
尋ねてきた宗介に、理留が説明してしまって。
「アユムまた迷子になったんだね? あんなに俺がいないときは一人で歩き回らないでってお願いしたのに」
うっすら笑いながら口にした、宗介の目は全く笑ってなかった。
「たしかに今野くんは迷子になってましたけど、山吹くん過保護じゃありませんこと? 学園にきてからもう半年も経つのですよ?」
理留は、アユムが宗介を庇って事故にあって、一度記憶喪失になった経緯知らない。
だから、宗介の過保護っぷりが不思議に見えるようだった。
「アユムは目を離すと何をするかわからないんです」
きっぱりと宗介は言い放った。
この状態はあまりよくない傾向かもしれない。
――宗介は、私以外にまだ壁を作ってる気がするんだよね。
宗介に構われるのは嫌いじゃないんだけどなぁ。
そんなことを考えていると、理留が妙な目で私を見ていた。
仲間を見つけて、わかるよその気持ちといいたげな顔だ。
どうやら、私と宗介の関係を、自分と妹の関係に重ねてるようだった。
理留の妹である留花奈もまた、とんでもないシスコンで、理留はちょっと苦労していたのだ。
「金曜なら、留花奈もいないですし、時折来ても構いませんわよ。一人だとお菓子が余ってしかたないですし、あなた以外は通さないようにしておきます。色々大変だと思いますけど、お互い頑張りましょう」
帰るとき宗介に聞こえない声でそう言って、理留がポンと肩を叩いてきた。
理留は私を完全に同士認定していた。
案外いい奴なのだが、少し勘違いが暴走するタイプっぽい。
そんなこんなで、私は攻略対象の一人である理留と茶のみ友達になった。
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この学園にはクリスマスパーティと呼ばれるイベントがある。
そこで私は理留のふりをした、双子の妹の留花奈に絡まれた。
誰も見抜けないと思っているようだったけど、私にはまるわかりだった。
何故なら私には、攻略対象たちの髪色が前世でやっていたゲームと同じような色で見える。
理留は黄色の髪で、双子の妹である留花奈は黄緑色だった。
見抜かれた留花奈は、悔しそうに去って行って、私は理留とダンスを踊った。
スーパーで見つけたサンタブーツをプレゼントすれば、理留が目を輝かせる。
いつの間にかそこにいた宗介が声をかけてきた。
「アユムって実は結構、天然でたらしだよね」
なんて、そんな事を言われた。
三年生に進級して、私は理留と同じクラスになった。
しかし担任が最悪で、特に理留を目の敵にしていた。
彼は元々庶民の出で、苦労して有名な大学に入って、教師になったらしい。
そのせいか、苦労を知らないような金持ちの子供に対して並々ならない屈折した感情を持っているようだった。
「お前達には根性が足りない。親にばっかり甘えて、金にものを言わせているからそうなるんだ」
そんなことを言って、理不尽にみんなに当たる彼を私は許せなかった。
歯向かったりしながらも、理留は気丈に耐えていて。
あの黄戸家なんだから、権力を使ったらいいのにと言えば。
「見くびらないでくださいまし。ワタクシ、自分可愛さに権力を翳したりしませんわ」
理留はそんな事を言って。
格好いいなと思ってしまった。
結局はシスコンである留花奈が、担任のしている事を知って。
裏からさくっと始末してしまった。
彼は経歴詐称をしてたらしく、それを留花奈に掴まれてしまったのだ。
「姉様に酷いことをしたんだもの。本当は家の力をフルにつかって、社会的に二度と立ち直れないようにしてあげたわ」
いい笑顔でいう留花奈は、理留と違って家の力を使うことに全く躊躇ないようだった。
「ちなみに……もしも弱みが見つからなかったら、どうするつもりだったの?」
「何を言ってるの? 弱みがなければ作ればいいじゃない」
当たり前のことを聞いてどうするの?というような、迷いのない顔で留花奈は言う。
パンが無ければお菓子を食べればいいじゃないというようなノリの留花奈が、心底恐ろしかった。
その後理留の誕生パーティに呼ばれたりした。
大勢の前で理留と留花奈を見分けるゲームをして、最終まで勝ち残り、商品をゲットして。
何故か理留か留花奈のどちらかを嫁になんて話が出て動揺しながらも、そんな風に私は着実に理留と仲良くなって行った。
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★初等部2年-3年
●原作ギャルゲーとの違い
特になし
●ルートA(マシロ編)との違い(9話―15話)
特になし




