フラッシュ!
1
本当にそれは一瞬だった。サクラと重なった右手から、俺達の周り一面を包む程の強烈な光が炸裂した。
モモコは驚いて後方に飛び退き、サクラは重なった右手を咄嗟に離して両腕で自分の顔を覆った。
俺は……自分が術者だからだろうか、驚きはしたが眩しいとは感じなかった。
「すご……マジで封魔だよ、しかも“放出系”じゃんか」
モモコはただでさえ大きい目を更に大きくして驚いている。
サクラは顔を覆った体勢のまま動かない。
「お……おいサクラ……サクラ! おい、大丈夫か!」
一番近くで得体のしれないものの直撃を受けたのだ。もしかしたら無事ではないのかもしれない。
俺は慌ててサクラの肩を掴んで揺さぶる。
「いやー……まだ目がチカチカしてやがる」
腕を解いたサクラは、まるで寝起きのように目を細めてぼやいた。俺の顔を見ているのだろうが焦点が合っていない。さっきの光のせいでまともに目が見えないらしい。
「あー……お、見えてきた。しかしモモコ、これで疑いようが無いな」
眉間に思いっきり皺が寄った顔でモモコに振り向く。モモコはそれを笑顔で受け、大きく3回頷いた。
「面白い、本当に面白いよ二人共」
そう言ってモモコはニコニコと笑いながら背中に背負った小さなリュック(と言っても簡素な物だが)を地面に降ろし、中をゴソゴソと漁り始めた。しばらくそうした後、「あった!」と言いながら何かを取り出す。
それは3枚の……葉っぱ?
「これは封葉っていってね、属性を教えてくれるものなんだ」
ふうは? ぞくせい? なんだそりゃ、また知らない言葉が増えた。
「封魔には7つの属性がある。「火」「水」「風」「土」「光」「闇」「聖」の7つだ」
はぁ。
「見せたほうが早いな。おいモモコ、一枚くれ」
「あいよー」
モモコから封葉とやらを受け取ったサクラは、それを掌の上に乗せた。
「よく見てろよ」
よし、よく見よう。俺はぐぐっとサクラの手に顔を近付ける。
サクラの手に乗った封葉は、ピシ、と小さな音を立てて真ん中から真っ二つに避けた。
「え、な……なんで!? これも封魔か!?」
サクラは切れた葉をそれぞれ両手に持ち、「そうだ」と言って俺にそれを寄越した。
まじまじと切れた葉を見てみるが、明らかに手で千切ったような切れ方ではない。ナイフみたいな鋭利な刃物で切り裂かれたように、断面にはささくれ一つ立っていないのが判った。
「これは封魔というか魔力に反応する葉でな、人は必ず1つさっき言った属性を持っている。それが何か調べる物だ。私の属性は風。だから風の力で葉が切れた。ちなみに――」
そう言ってモモコに向けて親指を立てる。モモコは葉っぱを摘んで俺の目の前にかざした。
ボッ、と音を立てて葉っぱは一瞬で燃え尽きる。俺は驚いて思わず仰け反った。
「あはははは! ビビリすぎ!」
モモコに指を指されて笑われた。コイツに笑われると、なんだかすごく悔しい。
「あたしの特性は「火」なんだ。火の特性を持ってる人が封葉に魔力を流すと燃え尽きるんだよ。という訳でハルくん、はいどうぞ」
封葉を受け取ってしまった。俺にも今みたいなことができるのだろうか。
ともかくサクラと同じように右の掌にそれを乗せ、さっきと同じように魔力の流れをイメージする。
するとどうだろう、みるみるうちに封葉は俺の魔力に反応してその姿を変えてくれたではないか。
「やっぱりな」
「うおおおおお! あたし初めて見たよ!」
モモコとサクラがまた同時に喋る。
俺の掌の封葉は青々しい緑から、美しい白へと色を変えていた。
「こ……これは? 俺の属性は何なんだ?」
「凄い! 凄いよハルくん! “白夜の封魔師”だ!」
モモコは何をそんなに興奮しているのか、俺の掌から変色した封葉をぶん取り、天に掲げながらぴょんぴょん跳ねまわっている。白夜の封魔師ってなんだ。
あれ、そういえば封魔師ってさっきも話の中に出てきたな。
「なぁサクラよ」
「ああ、お前の属性は「光」だ。かなり珍しい属性だな」
光。すげぇ勇者っぽい。かっこいい。
「封魔師ってのは何なんだ?」
「あぁ、封魔師か。封魔師ってのは“放出”が使える人間の事だ」
「えーっと……放出ってのは……」
「あたしが説明する!」
飛び跳ねていたモモコはいつの間にか俺の真横にいた。というかめっちゃ近い。背が低いのとこういう小動物のような行動が相まって、凄く抱きしめたい。
「封魔には大きく分けて3つのタイプがあって――自分に封魔の力を使う“強化”。人に自分の封魔で強化を施す“付与”。人間を含む自分以外の者に影響を与える“放出”があるんだ」
強化、付与、放出。
「そのうち“放出”が使える人のことを“封魔師”って呼ぶんだよ。鋼新兵になるには筆記試験とか実技試験とかあるんだけど、封魔師なら封魔師である証明の“放出”を見せれば一発で合格できるんだ。それほど珍しくて有力な封魔の使い手なのさ! 分かったかな?」
こういう分かり易い説明をスラスラしてくれるあたり、モモコはあまり賢そうな見た目ではないが、決して馬鹿ではない。人は見た目によらないのだ。
「……馬鹿にしたでしょ」
「してない、断じて」
「どーせ馬鹿ですよ」
ぷくっと頬を膨らませてそっぽを向いてしまった。本当に可愛い奴だ。
「ちなみに、今俺が使ったのは光の封魔なんだよな?」
「うん、そうだと思うよ。ねえサクラちゃん?」
「だろうな」
「じゃあ今の光の名前は何て言うんだ?」
「……名前? 封魔に名前なんかねーぞ」
ありゃ? 「ライト」とか「ライトニング」とかカッコイイ名前が付いてるんじゃないの?
「さっきも言ったが、封魔はイメージだ。100人いりゃ100個の封魔がある。中には自分の使う封魔に名前をつけてる奴もいるがな」
「なるほど……」
しかし「光の封魔師」というカッコイイ役職を手に入れたんだ。その使い手の封魔に名前が付いていないんじゃもったいない
「じゃあさっきの光の封魔の名前を「フラッシュ」とする!」
「おお! 意味は分からないけどカッコイイ!」
あれ、フラッシュの意味は通じないのか。でもモモコが気に入ってくれたんだからいいや。
俺とモモコは両手でハイタッチをし、キャッキャとじゃれあった。
ふと振り返るとサクラは100mほど先を歩いていた。待って、ごめんなさい。