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封魔烈火  作者: 藤宮ハルカ
第一章
7/29

封魔


 えーっと、ちょっと意味が分からない。

 「何か持っていく?」

 「いや、たいした物なんか家にも無ぇ。このまま行こう」

 「はいさー」

 キミ達さっきまで殺し合いしてたよね? なんで普通に会話してるの?

 「おいサクラよ」

 俺に背を向けてモモコと会話しているサクラが振り向いた。

 「やっと起きたか。お前、よく寝るな」

 よく寝る? 本当だ、俺倒れてる。じゃなくて。

 「お前、無事なのか?」

 「おかげ様でなー」

 くるりとまたモモコに向き直り、ひらひらとやる気無く手を振られた。

 ガタリとモモコが座っていた椅子から立ち上がり、俺の方に歩いてくる。

 俺は思わず身を強張らせ、背筋に冷たい汗が伝った。

 「そんなにビクビクしなくても平気だってば、何にもしないから! それより体調はどう? どっか痛くない?」

 しゃがみ込んで俺の顔を心配そうに覗き込んでくる。気を使ってくれているのだろうか。

 「えっと……はい、大丈夫……です」

 「なんで敬語なのさ。普通でいいってば」

 心配そうな顔から一気に不機嫌な顔になった。本当に表情がコロコロ変わる。

 「それじゃあさっさと起きろよ。人んちでいつまでも寝てんな」

 ああそうだ、俺は何故か床に転がってるんだった。よっこらせと言いながら立ち上がる。 

 んー……自分の体をざっと見たり触ったりしてみたが、別段どこも斬られて無いし打撲も無い。特に気分が悪いという訳でもない。そこそこ健康だ。

 「本当にどこも痛くない? 平気?」

 モモコはぺたぺたと俺の体を触って確かめる。ちょっとくすぐったくいけど何だか良い気分だ。しかし俺も健康優良男児。これ以上は色々とまずいのでモモコに離れてもらうよう頼んだ。

 「サクラちゃん、本当に怪我は無いみたい。すぐ行けるよ」

 いつの間にか窓際で外を眺めていたサクラは、やはりこちらを見ずに「ああ」とだけ答えた。

 つーか「サクラちゃん」て。

 「色々聞きたこともあるだろ。一先ずはトナカって村まで行く。行きながら話そう」

 サクラはそう言いながら窓から離れ、俺の横を通って扉から出て行った。

 すれ違いざま、サクラの顔に笑顔が見えた気がした。



 真ん中の先頭にサクラ、ちょっと後ろに下がって俺とモモコという布陣で村を歩いている。

 村の噴水広場を中心に見て、最北端が先ほどのサキの砦で、今俺たちが向かってるのはその真逆の最南端にある馬小屋だ。まあ最北端から最南端と言ってもこの村だ。距離は大したことは無い。ともかく、そこから出ている馬車に乗ってトナカの町に行くらしい。

 「まずね、改めて自己紹介! 氷室モモコだよ! 年齢はこの間19歳になった、好きな食べ物はハンバーグで、得意なのは剣術でしょ、流派は白峰流しらみねりゅうと自己流だね、適正封魔は“火”だけど強化しか出来ない、今は鋼新王国の将軍やってます! よろしくお願いします!」

 片手を高々と天に挙げ、声高らかに自己紹介してくれた。村の人が周りに居なくて良かった、本当に。

 19歳になったと言う事は俺の一つ上ということになる。マジかよ。

 剣術が得意なのも、先程のサクラとの衝突で俺も良く分かってる。流派は知らんが白峰流というのがあるんだろう。

 気になるのは――

 「封魔」

 口を開いたのはサクラだった。前を向いて歩き続けているのでサクラの表情は見えない。

 「説明してなかった、というか、説明する暇がなかった、というか……ともかく私のミスだ」

 そう言ってサクラは肩をすくめ、少し歩くペースを落として俺とモモコの間に入った、3人で歩調を合わせて歩く。

 「お前に初めて会ってから、お前からはずっと封魔を感じられなかった。お前は多分、異世界から来たんだろう。だから、もしかしたら封魔が無い世界から来たのかも、と思ったんだ」

 うん、俺の世界には封魔なんて無いし、今初めて聞いた。

 しかし話をしてくれるのはありがたいが――

 「そもそも封魔ってなんだ?」

 しまった、という感じでサクラは顔をしかめる。

 「やっぱり封魔の事は知らないか。そうだ、そこから話さなきゃいけないんだな。うーん……そもそも封魔とは、“超自然の力を行使する”力だ」

 「あ、ちょっと何言ってるか分かんないです」

 「だろうな。人には――いや、生けとし生けるもの全てには魔力がある。その魔力の量は人によってまちまちだが、その魔力を使って封魔を行使する。その封魔は様々な現象を引き起こす」

 ふむ、車でいうと……魔力というガソリンを使い、封魔というエンジンを動かす。結果、車体と言う名の封魔が動く、と……そんな所か。というかまんま魔法じゃないか。

 「何か質問はあるか?」

 「結局、俺にその魔力はあるのか?」

 それを聞くとモモコとサクラは同時に唸った。なんでこいつらこんなに仲良くなってんの?

 「サクラちゃんも言ってたけど、ハルくんには封魔が――というか魔力そのものが無かったはずなんだよ。それはあたしも初めてハルくんを見た時に感じたから間違いないと思う」

 は……ハルくん……

 「なんでそれが判ったの?」

 「あたし達――封魔が使える人の事だね、つまりこの世界のぜーんぶの人たちの事。は、人の封魔を感じる事が出来るんだ。と言ってもはっきり判るわけじゃないんだけどね。隠れてても「あ、あの辺に隠れてるな」って判るくらい」

 いやそれって結構凄くね?

 「まあ例外もあるんだけどね。人によっては修行で他人に全然自分の存在を悟られないように出来る人もいるらしいし。でも――」

 そこまで言ってモモコは言い淀んだ。空を見ながら「あー」とか「うーん」とか言ってる。

 「お前は強者の気配もしなかったから、そんな芸当出来るわけないって思ったんだろう」

 「え? いや、まあ、うん、あはははは」

 ひどい。確かに俺は凡人そのものだけども。

 「ともかくね、あたしも沢山の封魔師を見てきたけど、自分の魔力を完璧に隠しきれる人なんか会ったこと無いのさ。あの“白蛇”らしき女に一切魔力を感じさせない男の二人組……もうワクワクしちゃってさ、思わず声掛けちゃった」

 てへっと舌を出して笑うモモコに、世の女子たちは「あざとい」と笑うだろうか。俺は言わない。だってめっちゃ可愛いし。

 「それでさっきの閃光が起こった。そしてお前に今は魔力が流れている。訳の分からん事だらけだ」

 そう言ってサクラはため息を吐き、モモコが「まぁまぁ」とサクラの肩を叩いて、サクラはそれを鬱陶しそうに振り払った。

 「まて、さっきの閃光って何だ?」

 「……」

 「……」

 「……あれ?」

 何かまずい事でも言っただろうか。モモコとサクラは目を丸くして俺を見ている。

 「お前……まさか覚えてないのか?」

 「嘘でしょ? あれハルくんがやったんだよね?」

 うお、同時に喋りやがった。

 「つーかあの後どうなったのかも分からない。サクラが思い切り斬られそうになって、俺が駆けつけようとして……気付いたら床で寝かされてた」

 それを聞くと、サクラとモモコは顔を見合わせてコソコソ話し始めた。なんだろう、凄く居心地が悪い。

 そして二人は互いに遠慮せず、思い思いにその時起きた出来事を話してくれた。おかげで何を言っているのかさっぱり理解できず、全て把握できるのに時間が掛かったので俺がまとめる事にする。



 ①俺がサクラに駆けつける

 ②モモコはそれに気付いていたが、構わず振り下ろした

 ③急に目が眩むほどの強烈な光が発生した

 ④サクラは俺に背を向けた形だったから目はくらまなかったがモモコは驚き、体がひるんで止まってしまった

 ⑤実は反撃体制に入っていたサクラはモモコが止まってしまったので攻撃できなかった

 ⑥二人は硬直してお見合いの形になり、俺が倒れたので何事かと二人で俺に駆け寄った

 ⑦なんか興醒めしたので闘いは止めた


 自分で分かり易いように纏めておいてこんな事言うのもアレだが、なんだこれ。

 もういっそ⑤とか⑦とかは無視しよう。いくら突っ込んでもきりがない。

 「倒れたお前に駆け寄った時、それまで感じなかった魔力をお前から感じた」

 「えーっと、つまり?」

 「あの強烈な光……きっとハルくん、封魔を使ったんだと思う」

 「俺が? どうやって?」

 もちろん俺は前の世界ではそんな事出来なかったし、今だって全く出来る気はしない。といかその光だって俺が出したっていう保証はない。

 サクラが立ち止まって俺に向き合う。そして自分の右腕で俺の右腕を取って上げた。片腕が真正面に伸ばされている形だ。そして俺の掌とサクラの掌が重なる。

 「な……なん」

 「黙ってろ」

 サクラの手は驚くほど柔らかく、ほんのりと温かい。

 心臓の鼓動が早くなる。やばい、この鼓動が掌越しにサクラに伝わってしまわないだろうか。

 「感じるか」

 「な……なにが」

 何がだよ、と言いかけた時だった。サクラの温かい掌が更に温かくなる。いや、それどころかどんどん温度が上がっていって……?

 「今、私の体に魔力を巡らせている」

 「これが魔力……」

 熱い。日に灼けた砂浜の様な熱さだ。俺の手もどんどん熱くなる。サクラのと手を重ねているからではない。俺の体の芯から、掌に向かって何か熱いものが流れていくのが判る。

 「私もお前の魔力を感じる。いいぞ、その熱いものをもっと掌に集めるイメージをしろ。封魔は“想像”だ」

 封魔は想像……

 俺は自然と目を瞑った。

 「今、お前の掌には魔力が貯まってる。後はそれを封魔に昇華するだけだ。イメージしろ。一点に貯まった魔力、それを放出するイメージを」

 俺が強烈な閃光を放った。もしそれが俺のやったことならば、きっともう一度同じことが出来るはずだ。

 想像するのはホース。ただ水を出すんじゃない。口をぎゅっとつぶして、広範囲に強く水を飛ばすホースだ。

 「強く、強くイメージしろ」

 出来ている。

 「いいな」

 大丈夫。

 「放て!」

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