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封魔烈火  作者: 藤宮ハルカ
第2章
25/29

エル・ルルゥ

村長すき

 1


 空気を内包した薪が爆ぜる。細かい火花がまるで空中に吸い込まれる様に、生まれては消えていく。

 「テントの中で焚火なんて新鮮だな」

 俺は大人しく踊る火を眺めながら言った。

 「村長の魔力が込められた風の魔石です。風の魔力で空気を循環させ、村長の聖の魔力で浄化してくれます」

 聖の魔力……七つある属性の内のひとつか。

 最初にそれを知っていたら「なんでこんな奴が聖なんだ」と思ったが、今なら納得だ。

 人格成形に魔力が関係してるかどうかなんて知らんがね。

 時刻は22時を回っている。エルフは基本的に一人一つのテントを持ち、そこで自分の生活をするらしい。

 今俺はエルのテントにお邪魔している。

 「ごめんな、泊めてもらう事になっちゃって」

 それを聞いてエルは慌ててぶんぶん首を横に振った。

 「そ……そんな! むしろ村を出て行こうとした所を私が無理矢理止めてしまって……ごめんなさい」

 そう、村長のテントを出て俺は直ぐに村を出ようとした。村長にエルのテントの場所を聞き、一言挨拶をして去ろうと思ったのだが……今夜だけは泊まっていってほしい、と懇願されてしまった。断る事が出来ず、こうやってお世話になっている次第である。

 「いいよ、ちょっと疲れてたし。ありがとう」

 「はい! ゆっくり休んでくださいね!」

 揺れる炎の光の中に、炎に負けなくらい明るいエルの笑顔が浮かんだ。

 「でも、何もおもてなし出来なくて……せめてお食事だけでもと思ったのに」

 その笑顔はすぐに引っこみ、代わりに現れたのは深い悲しみの顔だ。

 「いいよ、しょうがないだろ。閉鎖的な人達みたいだし……干し肉あったし」

 「本当に頭の固い人達で……ごめんなさい」

 ぺこりと頭を垂れるエル。

 エルフの集落はここだけでなく、森に点々と存在しているらしい。数はまちまちで、多い所だと200人くらいが集団生活をしているとか。それぞれが自分達のテリトリーを持ち、のんびり暮らしているという。

 他部族を嫌っているのは村長だけではなく、そもそもエルフ自体が排他的思考を基本に持っている。しかし「森の外で生きてみたい」やら「他の種族に興味がある」といった一部例外なエルフもしばしば出てきて、そんな人達はふらりと村を出て、森を出て、帰ってきたり帰ってこなかったり……まぁ、自由な種族らしい。

 「この村の人達は特に部外者に厳しいんです。他種族どころか、他の村のエルフも毛嫌いするほどで」

 筋金入りの鎖国思考みたいだ。

 「まぁこうして泊めてもらってるし、村長も良い人だし、他の人達に攻撃とかされないしな。十分だよ、本当に」

 「そう言って貰えると助かります。本当にごめんなさい」

 エルは可愛くて、礼儀正しくて、腰が低くて、可愛くて、文句の付け様が無い。ちょっとペコペコ謝りすぎな気もするが、そこも日本人の俺と似ているようで親近感が湧く。

 「いいってば」

 俺はそう言って両腕を天に伸ばし、大きく欠伸をする。

 「眠いですか?」

 「うん、ちょっと」

 「ゆっくり寝てください。明日、早いんですよね?」

 「そうだね、6時には出て行こうかと思うよ」

 事情を聞かなかった村長に、俺は最寄りの街を聞いた。

 村長曰く、森を抜けて道なりに真っ直ぐ進むと小さい街に出るらしい。

 ただし、ここからそこへ行くとなると10時間は歩き続けなければいけない、との事。

 遠いがずっと此処にいるわけにはいかない。早く、アイツらに会いたい。

 「分かりました。私は少し外に出てきますので、お気にせず寝ていてください」 

 寝る、とは言ってないんだけどな……と思ったが、今日も今日とて激動の一日だった。疲れているし眠いのは事実なので、明日に備えて早めの就寝をする事にした。

 ベッドはおろか、枕や布団の類は一切無い。村長のテントにも寝具の類は見えなかったので、エルフはそのままテントに横になって寝るのだろう。

 それに倣って俺もテントに横になり、目を閉じた。

 聞こえるのは焚火の炎が爆ぜる音、ゆっくりとテントを出て行くエルの足音だけだ。

 俺の体は、俺が思っている以上に疲れていたらしい。すぐに眠気が俺の意識を持って何処かへ行った。


 2


 「村長、エルです。お話があります」

 「……入れ」

 「失礼します」


 「今日はご苦労だったな。しかしこんな時間に何用だ」

 「お話をしたくて参りました。大切なお話です」

 「そうか、話してみろ」

 「……」

 「…………」

 「………………」

 「出て行くのか」

 「えっ!?」

 「アイツに着いて行くのだろう?」

 「……」

 「違うのか?」

 「いえ……そう、考えて……います」

 「そうか。分かった」

 「え、あの……よろしいのですか」

 「何がだ。お前の人生、お前の好きにすればよい」

 「そう……ですか」

 「……」

 「……」

 「来い、エル」

 「……?」

 「早う。ほれ」

 「膝に、ですか?」

 「そうだ。ついこの間まで此処にいつも座っていただろう」

 「そんな事は!」

 「あるだろう?」

 「……はい」

 「そうだろう。ならばほれ、早う」

 「……」

 「うむ――おぉ、いつの間にか大きくなったな。髪もサラサラ、肌もハリがある。胸は無いが……若いとは良い事よ」

 「胸は……これから大きくなります」

 「ほうか、期待しておこう。しかし――」

 「?」

 「しかし、大きくなった。ついこの間までキュムに石を投げて遊んでいたと思ったのに」

 「それは昔の話です。私ももう大人です」

 「貧相な体をしておるくせに言いおる」

 「か……体は関係ないです!」

 「くっくっく……いつかこんな日がくると思っていた。お前は昔から好奇心の塊だった」

 「……」

 「私を置いて出て行くのか」

 「……村長、私は――」

 「エル」

 「……? はい」

 「村長じゃない」

 「……」

 「エル、頑張ってきなさい。あの人と一緒に、世界を見てきなさい」

 「……」

 「そして必ず帰ってきなさい。100年でも、200年でも……待ってあげるから」

 「……お母さん」

 「私の可愛いエル。心も体も、本当に大きくなって。大好きよ、エル」

 「ありがとう、お母さん……」

 「あの人との孫を見せに来てね」

 「お母さん!?」

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