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封魔烈火  作者: 藤宮ハルカ
第一章
19/29

王城潜入大作戦

ズレてたらごめん。

 1


 汽車に揺られること12時間。最初こそ初めて乗る汽車の珍しさに興奮していたが、窓の外は真っ暗闇だし周りの客はほとんどいない。モモコは泥酔して爆睡しているし、サクラは「明日は大仕事だから寝とけ」と言ってさっさと寝てしまった。

 汽車は4人掛けのボックス席で、俺の知っている電車とほとんど変わらなかった。この汽車は国営で、炎の魔石で動いているらしいが、詳しい仕組みはよく知らない、というのはサクラの談だ。まぁ原理もきっと俺の世界の汽車と同じだろう。乗り心地は悪くない。ただスピードは電車のそれには全く及ばず、せいぜい人間が走るくらいのスピードしか出ない。しかも汽車の点検作業とかなんとかで2時間おきで20分くらい止まる。12時間も乗り続けるってどんだけ遠いんだと思ったが、実はそこまで距離はないのかもしれないな。

 ともかく明日が大仕事な事には変わりないので、俺もさっさと寝ることにしたのである。目が覚めれば王都だ。


 「レンガ造りか、洒落てるな」

 王都の駅に降り立った俺の素直な感想だ。

 赤いレンガで作られたプラットホームには数本の真っ黒な汽車が収められ、人の往来はトナカの街の駅より何十倍も多い。あの街の駅は青空で石造の簡素な物だったしな。

 「ここが王都だよ! この大陸で一番大きい街だね。何でも揃うからお買い物するならこの王都で。でも今日はちょっとその時間は無いかも」

 泥酔していたモモコは寝る前に万能薬を飲んだおかげで元気一杯である。

 「で、サクラちゃん。どこに行くの?」

 「宿を取る。一応私はお尋ね者だからな、あまり出歩きたくない」

 「了解。宿なら「東南2番地区」にある「王楼(おうろう)」って所で取って。今夜……時間はちょっと分からないけど、どうにか抜け出して会いに行くよ」

 え? え? モモコとは別行動なのか?

 俺が不安そうな顔をしているのが分かったのだろう、モモコは俺の右手を両手で強く握り、ニッコリと笑った。

 「大丈夫、きっと上手くいくよ。また今夜、会おうね」


 その瞬間、ドクンと大きく心臓が鳴る。

 それはモモコの笑顔にときめいたからではない。

 何か――

 何か、嫌な感じがする。


 「それじゃあね! 二人とも!」

 こちらに向かって手を振りながら雑踏の中に走って行く。

 俺はその姿を見続けた。モモコはすぐに見えなくなってしまった。

 「何だ、寂しいのか?」

 サクラが茶化した様に笑って肩を組んでくるが、俺の顔を見てその笑顔を消す。

 代わりに真一文字に強く口を結び、組んでいた肩を解いて俺の正面にしっかり向き直った。

 「……どうした。何があった」

 俺はどんな顔をしていたんだろう。

 曖昧に首を横に振って、宿に行こうとサクラに言う。サクラは何も言わず、何も聞かずに頷いて俺を先導してくれた。


 モモコに指定された「王楼」という宿はトナカで泊まった宿より大きかった。5階建てで、俺とサクラが取ったのは最上階の5階、3人部屋だ。夜にここで落ち合うので、今回は3人部屋で何も問題は無い。

 俺とサクラは部屋の丸テーブルを挟んで椅子に座っている。

 「先ず王城はデケぇ、とんでもなくデケぇ。ただそれだけデケぇから勝手口みたいな物も数がある」

 王都の街並みは、正直よく分からなかった。景色を見ている余裕がなかったのだ。

 さっきから感じる胸の騒めき――まるでそれは水中に入った時の水ように体中にぴったりとくっついて離れない。

 何なんだ……俺は何でこんなに怯えている……?

 「聞いてるか?」

 「あ……ああ、大丈夫だ」

 「そうか、なら説明を続けるぞ」

 ふっと小さく笑って煙草に火を点けるサクラ。

 初日もこんな感じだったな。異世界に飛ばされて絶望している俺を、コイツは絶対に叱ったりバカにしたりはしなかった。

 こんな時、サクラの優しさを痛いほど感じる。そしてそれがありがたい。それだけで俺の不安は少しだけ和らいだ気がした。

 「図書室があるのは3階の一番西だ。最短の道程で行きたいから、西端にある勝手口から入る」

 「サクラ、なんでそんなに王城に詳しいんだ?」

 「お前が寝てる間にモモコから聞いたよ。アイツだってあれでも鋼新兵の将軍だからな」

 くっくと笑うサクラ。

 モモコも鋼新兵全員と一緒に並ぶんだろう。その姿、ちょっと見てみたかったな。いや、用事を早く済ませれば見れるか。

 「そうえば、何でモモコはこんな中途半端な時期に王都へ?」

 「本当は初日から行かなきゃいけなかったらしいんだがな、忘れてたんだと。最悪でも今日の行事には出なきゃ始末書が50倍くらいになるから、まぁ来たからには行事に出なきゃヤバいって言ってたぞ。モモコは鋼新兵の中じゃよく知られてるだろうから、王都をふらふらする訳にゃいかねーんだろ。捕まって行事に強制参加だ」

 「なるほどね……らしいというか何というか……ん? そういえば、そもそも俺達がモモコを訪ねた理由って……王都の図書館を使わせてもらえるように計らってもらう事じゃなかったか?」

 「あー……説明すんの忘れてたな、すまん。無理なんだそうだ」

 「無理ぃ? 何でさ」

 「それはモモコでも分からないらしい。とにかく一般の人間にゃ絶対に利用はできない。それどころか鋼新兵すらそこの立ち入りは禁止されてるって話だ」

 「不気味だな。何か隠してあるのかな」

 「分からん。分からんが――用心に越したこたぁないだろう。お前もしっかり準備しておけ」

 そう言ってサクラは自分のリュックから次々と道具を取り出す。自分のリュックに入れておけ、と言われて渡されたのは……青と赤の小瓶が10個と干し肉5個、それに万能薬だ。それらを言われた通りにリュックに詰め込む。

 「赤い薬は傷薬、怪我した部分にぶっかけろ。簡単な傷ならすぐ治る。青い小瓶は魔力の回復薬

。これは飲んで使え」

 これらも魔道具なのだろうか。万が一に備え、ありがたく頂くことにする。

 「よし……とにかくお前は私の後に付いてくりゃいい。余計な事は考えんなよ」

 そう言ってサクラは立ち上がる。

 時刻は12時55分だった。


 2


 管楽器らしきファンファーレが遠くで聞こえる。王様含むや使用人を含む、大きな行事が始まるのだろう。

 俺とサクラは王城の西部にある勝手口に来ていた。勝手口と言っても、普通に宿の大きさ位のドアだ。

 「鍵がかかってる。どうするんだ?」

 「心配すんなよ」

 サクラはポケットから針金を出し、鍵穴に差し込んでものの数秒で扉を開いた。ピッキングなんかできるのか。

 「行くぜ」

 俺達は素早く城の中に入り、ドアを施錠した。サムターン錠のような形をしているが造りは甘い。

 王城内は不気味な程に静まり返っていた。

 王城は真ん中に本丸があり、東と西に離れのような砦がある造りだ。しかし今俺達がいるこの西の離れも外観では高校ぐらいの大きさがあり、王城の大きさを窺わせる。

 ふかふかの赤いカーペットが敷かれ、点々と彫刻やら絵画やらが飾られている。正面には金色の手すりを携えた階段が見えた。他の部屋に用は無い。俺達は用心の為に足音を立てない様ゆっくりと、しかし素早くそれを上る。2階をスルーし、そのまま3階へと急いだ。

 階段を上りきって、正面に見える部屋。それが図書館だとサクラは言っていた。

 ……あれだな。

「順調じゃねーか」

 サクラの口調は軽いが、表情と雰囲気はまるで真逆である。自分の索敵できる範囲を、全神経を集中して探ってくれている。


 ――早く。


 「!?」

 俺の足は無意識に止まった。

 「おい、どうした」

 サクラも立ち止まって俺を振り返る。

 「今……何か聞こえなかったか?」 

 僅かに眉間に皺を寄せるサクラ。

 「いや、聞こえなかった」

 「そう……か。ならいいんだ、行こう。もうすぐそこだ」

 「……あぁ」

 努めて明るく振る舞った。


 ――早く。


 気のせいじゃない。誰かが話し掛けてきている。

 誰だ。誰だ。誰だ!?

 少し先を歩くサクラにそれを悟られないよう、歩みを止めずに辺りを見渡す。

 誰もいない。

 当然だ、俺が気付いてサクラが気付かない筈がないじゃないか。

 「ここも鍵だな……ちょっと待ってろ」

 いつの間にか図書室らしきドアの前に来ていた。特別な扉には見えない。ただの簡素な木製の扉だ。


 早く――


 「よし……入るぞ」

 サクラに続いて俺も入る。

 中は少し広い、俺のよく知っている図書館のような


 こっち――


 「ッ!?」

 その声が聞こえた途端、急に胸が苦しくなって思考は遮られた。

 たまらず俺はその場で膝を着く。

 「こんなに本が並んでるとは……壮観だよな、ハルカ……ハルカ!?」

 胸を押さえ、地面に片膝を着いてへばっている俺にサクラが駆け寄ってくる。

 「おい、どうした、おい! 胸か!?」


 こっちに来て――


 「だ……大丈夫、大丈夫だ……早く……探そう……」

 俺はよろよろと頼りなく立ち上がる。

 サクラの不安そうな顔が視界の端にちらりと映った。


 ――もっと、こっち


 俺は奥に進む。


 ――そう、もっと


 奥に進む


 ――もうちょっと


 「おい、お前……変だぞ。どうした……おい!」


 ――ここ。ここだよ


 俺の身長より少し高いくらいの本棚。その中のにある、真ん中の白い本。

 ここなんだな。


 ――早く

                             開けちゃダメだ。

  ――待ってたんだ。

                          腕がその本に伸びる。

   ――もう少しだよ。

                         白い本……手に取る。

    ――早く、早く開けて。

                        胸が苦しい息が……。

     ――さぁ、もうすぐそこだ

                   なんで。俺の指は本を、開く。

      ――それを、口に出して読んで

                  これ、なんで、日本語で……





































               「絶望しないで」






















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