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封魔烈火  作者: 藤宮ハルカ
第一章
18/29

王都へ

前回を詰め込んだせいで短くなった。

THE・無計画

 1


 「別世界、異世界……そんなものが本当に……うーん……」

 「信じられませんよね、こんな話」

 眉間に深く皺を刻み、難しい顔で唸る葉月さん。

 無理もない。俺だって自分がおかしくなったんじゃないかと思いたくなる。

 「信じるか信じないかは関係ないさ。ともかく私達はそのまま、何も嘘を付かずに答えた。それだけの事実がありゃ十分なんだよ」

 葉月さんはそれを聞いていないのか、下を向いてずっと唸っている。

 「……おい、葉月」

 「あ、これは失礼しました。それではお答えしましょう」

 「え?」

 「え?」

 「ZZZ……」

 俺とサクラは同時に素っ頓狂な声を上げ、それを聞いた葉月さんはさも不思議そうな顔で首を傾げる。

 「ですから、図書館の警備状況ですよね? お教えしますよ」

 「ちょ……いいんですか? 俺が異世界から来た、なんて話を信じて」

 「その情報、もう握ってんのか」

 「……私は仕事柄聞き取れますがね、同時に喋らない方がよろしいですよ」

 俺はサクラに頭をはたかれた。なぜ。

 葉月さんは俺の顔をキッと見据える。

 「まずはハルカさん、貴方達は嘘をついていません。信じ難い話である事は間違いありませんが、ボクは信じます」

 そして今度はサクラを見据える。

 「そしてサクラさん。丁度良い、と言いますか……最近、王城と王城周辺の鋼新兵の配置表を入手しました。今は建国際の最中ですから、普段とは違う人員配置を取っています」

 「詳しく教えてくれ」

 サクラは4本目の煙草に火を点けながら言った。表情は険しい。

 「建国際は昨日から始まっていて、1週間行われます。その間は近隣、遠方の砦から位の高い物たちが招集され、祭りの間は常に王城かその周辺に配置されます」

 それはつまり、普段の王城より警備が厳重という事なのでは……

 「しかし穴があります。それは3日目のお昼……12時から13時の間に行われる行事です。この時間、国王を含めて全ての上位鋼新兵、使用人が皆の前に姿を現します。もちろん、そこでいびきを掻いているモモコさんも含めて……ね」

 「その時間の王城にいる人間は?」

 たまらず俺は口を挟んだ。

 不謹慎かもしれないが、自分がスパイ映画の主人公になった気がしてちょっとワクワクしている。

 サクラに睨まれた。ごめんなさい。

 「王城を警備しているのは上位鋼新兵ばかりです。つまり……12時から13時の間、王城にいる人間は誰もいません。“1時間だけ、完全に無人になる”のです」

 1時間だけ……その1時間の間に勝負を決めろ、という事か。


 しばらく全員は無言だった。あ、モモコだけはいびき掻いてたわ。

 サクラは人差し指でテーブルをコツコツコツ、と一定のリズムで叩きながら矢継ぎ早に煙草を咥えては灰にしてを繰り返している。

 葉月さんは「どう?」と聞こえてそうな程の満足げな表情を浮かべ、両腕で頬杖を付きながらサクラをニヤニヤ眺めている。

 俺はその空気に耐え切れず、二人が視界に入らないように下を向いていた。

 モモコは省略。


 「いくらだ」

 最初に口を開いたのをサクラだった。もちろんお寿司を見つけたわけじゃなく、葉月さんに情報料を聞いたのだ。

 「いらないですよ。その代わり今後もご贔屓に。そして出来れば、図書館で手に入れた情報を売ってくださいな」

 ニヤっと笑う葉月さんを見て、「誰かに似ている」と思った。しかしそれはすぐに解決する。

 ああ……サクラだ。何か含んでいるような、もっと別の事を見ているような、そんな曲がった笑い方がそっくりだ。

 「行くぞ、まだ汽車はある」

 「は!?」

 「オラァ起きろチビ助ェ!!」

 「はい! おはようございます!」

 「おい葉月! ここの会計貸しとけ!」

 「初めから私のご馳走だったので、それには及びませんよ」

 俺とモモコはサクラに首根っこを引っ張られ、まるで引き摺られる様に出口に向かう。

 俺だっていつまでも動揺しっぱなしじゃない。このサクラの口振り、焦りからして……今から王都に汽車に乗って向かおうって事だ!

 ……誰でも分かるか。

 「あ、サクラさん」

 店を出ようとしたその時、葉月さんから呼び止められた。3人は同時に振り返る。

 彼女はゆったりと椅子に座ったままで、琥珀色の酒の入ったグラスを掲げてて言う。

 「こちらでも調べてみます。そして満月が見たければ何時でもどうぞ。あなた達とは、昔からの友人の様な気がしますからね」

 きっと「昔からの友人の様」ってのは彼女の決め台詞なんだろう。会った時にもそんな事を言っていた気がする。

 「そして……」

 ちょっともじもじしながら葉月さんは恥ずかしそうに顔を伏せる。

 サクラはその続きを促すようにトントンと足で床を叩いた。

 「ハルカさん……ま、また会いましょうね」

 そう言いながら顔を上げた彼女の顔は真っ赤に染まっていた。

 立ちながら眠りかけていたモモコは驚いて目を見開き、サクラは「そんな事かよ」と吐き捨ててさっさと店の外に出る。

 俺は何と言えばいいのか分からず、彼女に向かってお得意の高速お辞儀を披露した。

 そして案山子になっているモモコの手を引いて逃げるようにサクラの後を追う。

 視界の端に鬼の様な形相をしたミカさんが見えた。


 「待って、サクラ待てって!」

 「急げよ、確かあと10分で汽車が出る」

 「吐きそう……」

 俺とモモコは何とかサクラに追いつき、横に並ぶことに成功した。

 「今から王都に向かうんだな?」

 「ああ、乗れれば12時間後には王都入りだ」

 「吐いていいですか……?」

 時刻は……19時50分だ。確か明日の12時から13時の間が最も王城の警備が薄くなる時間……間に合う!

 サクラの早歩きに黙々と並んで歩いた。駅は5分も歩けば着くらしい。実は汽車というものは乗った事がないので、ちょっと楽しみである。

 「そういえばサクラ」

 「なんだ」

 「葉月さん、なんで途中から自分の事をボクって呼んでたんだ?」

 「アイツはいつも自分の事はボクって呼ぶぞ」

 「……なんで?」

 「……」

 「……」

 「あぁなんだ、そう言う事だったのか」

 「何が」

 「アイツは“葉月リュウゾウ”。男だぜ」


















 うわあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!!!

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