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封魔烈火  作者: 藤宮ハルカ
第一章
13/29

武器屋は男のロマン

 1


 俺は今、猛烈に感動している。この先に俺の人生が何年あるかは知らないが、本物をこの目で見る事は無いだろうと思っていた場所だ。そう、此処は武器屋、男のロマンが詰まった場所。

 「おお……おおおお……本物だ……」

 壁に無造作に立てかけられた一本の剣を手に取ってみる。

 両手にずっしりと感じる重さ、洗練された刃、ぎらりと輝く刀身……本物の剣だ。

 「武器屋なんて初めて来たよ」

 「そっちの世界に武器屋は無いの?」

 サクラはいつも通り退屈そうな顔で店内をフラフラしていて、モモコは俺の後ろを着いて来てくれている。

 「あるにはあるんだろうけど……少なくともこんな本格的な武器屋は俺の国には無いかな」

 「へー、それは不便だねぇ」

 今まで武器を持っていなかったことに不自由した事は無いが、こちらの世界ではそうでもないらしい。あんなデカい蛇が出るんだから当然か。

 「武器を持つのに免許とかはいらないのか?」

 「免許? そんなのいらないよ。武器を買うお金があれば誰でも持てるよ。あ、でも人とか勝手に殺しちゃ駄目だからね?」

 いや、うん、それは分かってるよ。

 「その剣、気に入ったの?」

 俺の持っている剣は――騎士剣というのか? 両手剣というのか? クレイモアといっただろうか? とにかく片手では到底持てないような大剣だ。大きさは150cmはあるだろうか、モモコと同じくらいの大きさである。

 「いや、何となく手にとってみただけだよ。本物なんて初めて見たからさ」

 「それなら良かった。その剣はちょっとアレだから別のにした方が良いかな」

 モモコは剣の良し悪しが分かるのだろうか。あれだけの剣の使い手なのだから、剣についても詳しいのかもしれない。

 「じゃあさ、モモコが良さそうなの選んでくれよ。俺は武器に関しては素人だから」

 それを聞いて――いや、その言葉を待っていたのだろう。満面の笑みでモモコは俺の手を引いて店の中を闊歩し始めた。

 「それじゃお客様、お好みの武器はありますか?」

 「好みの武器、か」

 店内をぐるりと見回してみる。中々に広い店内に、所狭しと武器が並んでいる。壮観だ。

 まず一番種類が多いのは西洋の剣――大きく重そうな剣、俺でもギリギリ片手で持てそうな剣。

 次いで槍だろうか。鎌の様な形をした刃を付けた物や、十字の刃を付けた物など、形がバラエティに富んでいる。こっちはサクラの領分かな。

 店の武器の半分はこの剣か槍だ。あとは――

 俺は店の一角、小ぢんまりと纏められたコーナーに、まるで呼ばれるかの様に歩を進めた。

 「……ハル君?」

 モモコの声は、俺には聞こえてなかった。


 俺は異世界に飛ばされたはずなんだ。なのに何で“コレ”がある?

 思えばもっと早くから気が付くべきだった。だってモモコもコレを振っていたではないか。

 西洋の剣と比べると、あまりにも細く、頼りない刃。しかしこの刃の切れ味は、どんな武器の切れ味より勝ると俺は“知って”いる。

 真っ直ぐ、天を貫くように直線に伸びた他の剣たち。しかしコレはまるで月の様に不自然に曲がった刀身。しかしこの刀身は相手の攻撃を流す為のものだと俺は“知って”いる。

 これを見て、これを持とうとしない日本男児はいない。これは――

 「刀……日本刀じゃないか……」


 「ニホントウ……? そんな名前の刀がこの中にあるのか? ぶっちゃけどれも粗悪品だと思うが」

 乱雑に木箱の中に放り込まれている刀達をガチャガチャ音を立てながら漁るサクラ。いつの間に傍に来たんだ。

 「あぁ……いや、刀の事を日本刀って言うんだ」

 「なんだ、お前の世界ではそう呼ぶのか。良い物でもあるのかと思って漁っちまったぜ」

 忌々しそうな顔で木箱を蹴っ飛ばすサクラ。入り口付近にいる筋骨隆々な店主がジロリとこちらを睨んできたので、俺は慌てて目を逸らした。


 リンクしている――

 俺がいた世界とこの世界は、全く別の世界という訳では無いのではないか。

 どこかが違って、どこかが同じ。何かが、きっとまだまだ何かが繋がっている。

 その繋がりこそ、俺が元の世界に帰れる鍵――

 根拠は無いが、そう思った。


 「刀が気に入ったのかな!? だったらハル君は良いセンスしてるよ、うん!」

 「何言ってんだ、コイツは武器も持ったこと無い素人なんだぞ。いきなりこんな物を扱えるかよ」

 「そりゃ刀は扱いは難しいけどさ、訓練次第でいくらでも」

 「駄目だ。最初は素人でもそれなりに扱える武器……槍なんてどう」

 「あーズルい! 上手いこと言って槍使いにする気だ!」

 「あ……いや、そんな事ないぞ! お前だってコイツに刀持たそうとしただろ! コイツが槍を選んだら刀勧める気だったろ!」

 「え!? いや……そん……ソンナコトナイデスヨ!」

 「声が上擦ってんだよ! ともかく槍だ、それ以外は認めん!」

 「だーめだって! ハル君、刀だよ刀! 時代は刀!」

 「ハルカ! 今も昔も最強は槍だ! 私が手取り足取り教えてやる!」

 こんな大声を出して必死なサクラは初めて見た。不覚にも可愛いと思ってしまったではないか。

 しかし……武器か。

 「二人とも冷静になってくれよ。モモコ……はともかく、らしくないぞサクラ」

 モモコとサクラは顔を見合わせ、サクラは顔を赤らめてコホンと一回、わざとらしく咳払いをした。意外な所でサクラの可愛さポイント(俺計算)が急上昇だ。

 「あー……失礼した、ちょっと冷静じゃなかった。真面目に話をしよう。いいな、モモコ」

 「刀!」

 「もう一回蹴られたいらしいな」

 「真面目に話をしましょう!」

 「良い子だ」

 モモコの扱いはサクラの方が上手いな。

 「先ず――槍の方が扱いやすいのは事実だぜ。槍は単純に攻撃範囲が広いからな。それだけで自分が怪我を負う確立が減る。つまり生き残り易くなる」

 戦いの場に置いてリーチの広さは圧倒的なアドバンテージになる。どんな達人であろうと、リーチを伸ばす事なんて出来ないのだから。

 「その代わり小回りは利かなくなるね。懐に入られたら、よっぽどの達人じゃない限りはお手上げ。でも「懐に入る」こと自体が難しい事だから、やっぱり槍が強力なのには変わりないかな」

 ふむ、槍にデメリットはあまり無いように思える。

 「刀は……正直、扱いは難しいよ。そりゃ切れ味は抜群だけど、素人が使うとポッキリ折れちゃう事なんてザラだし、ただ「斬る」にしても、普通の武器よりコツがいるからね」

 「でも、カッコいい……」

 「だよね!」

 「カッコ良さなんかで選んでたら後悔するぞ……」

 ジトっとした目で呆れたようにため息を吐き、ポリポリと頭を掻くサクラ。

 でもそれも最もだ。実用性を一番に考えなければ。

 しかし……話を聞く限りは槍の一択に思える。

 

 しばらく俯いてどうするべきか考えていると、ふいに肩を叩かれた。何かとそちらに顔を向けてみると――

 「ほれ」


 00:50

 サクラの右手の拳が飛んでくる


 「――ッ!」

 ゆっくりとサクラの右手がフック気味に伸びてくる。狙いは俺の顔面か? あまりにいきなりの事だったので、俺は咄嗟に顔を逸らしてそれを躱す。

 急に飛んできた拳に何事かとサクラを睨むと、当の本人はケラケラと笑っていた。モモコはポカンと口を開けているだけだ。

 「やっぱりな。話に聞いた通りだったぜ」


 2


 「昔、聞いたことがある。光の封魔を持つ物は、まるで時間の流れが遅くなったかのように物を見ることが出来るってな」

 覚えがあった。サクラとモモコが対峙し、武器を交わしたあの時、二人の動きがゆっくりと見えた。さっきのはあの時の感覚と同じだ。

 最も、後半は二人の動きはほとんど見えなかったんだけど。

 「だからいきなり殴りかかってきたのか」

 「そうだ。実際、そこそこの速さで殴ったにも関わらず、しっかりと避けたじゃねぇか」

 「……もし動きがゆっくりに見えなかったら?」

 「そこで、お前に勧めたい武器がある」

 無視しやがった!

 「おい店主! 小さい刀は無ぇか!」

 「あぁ? 小さい刀だァ?」

 ゴツい店主がのっしのっしとこちらに歩んでくる。すごい威圧感で逃げ出したい。

 「この変になんかそれらしいのが……おぉ、あった」

 差し出されたのは両手に持てるほどの蓋のされた木箱だった。サクラはそれを受け取って床に置き、蓋を外す。

 中に入っているのは鞘に収められた小さな刀……いや、これは「脇差」ではないか?

 「うん、良い感じだ。モモコ、この中から良さそうなモン一、二振り選んでくれ」

 「あーなるほど! 任せて!」

 なにが「なるほど」なのか分からないが、モモコは十数本の脇差が入った小箱を楽しそうにガチャガチャやり始めた。

 鞘から抜いて刃を確かめ、時折その脇差を一度振り、首を横に振って木箱に放り投げる。

 それを何度か繰り返していき、モモコの手元には1本の獲物が握られた。

 「うーん、これ以外はどれも同じだね。無理に2本買うより、これ1本だけ持っていったほうが良いよ」

 「そうか」

 モモコから手渡された脇差を受け取り、鞘から抜いて刃に顔を近づけるサクラ。その顔は真剣そのものである。

 木目の無骨な鞘だ。鍔が無い所を見ると、やはり小刀というよりは脇差、あるいは「ドス」とでもいうだろうか。

 刃渡りが30cm以上、60cm未満は脇差って呼ばれるんだっけ? ぎらりと鈍く光る刀身は30cmほどだろうか。荒々しい波のような刃紋が俺の心を奮わせる。

 サクラは左手に持ったそれを右肩に担ぎ、逆袈裟に一度振り付けた。風を切る高い音が店内に響き、満足げに一度頷くとそれを鞘に戻す。チン、と小気味の良い音が鳴った。

 「悪くはなさそうだ。コイツにしておけ」

 「何で脇差なんだ?」

 「ワキザシ……?」

 モモコが難しそうな顔で首を傾げる。

 「コイツの世界ではそう呼ぶんだろう。私たちは全部「刀」って呼んでるがな」

 合点がいったらしく、ポンと手を打ってうんうん笑顔で頷くモモコ。

 「お前は目が良い。なら相手の動きを読みきって、素早く行動に映せる短い武器が向いてるだろうと思ってな。本当は両刃の物の方が良かったんだが……お前はどうも刀にご執心らしい。だからこっちだ」

 「うん、ハル君がそんな力を持ってるならこれで間違いないよ! 刀だし! 刀だし!」

 なんで二回言ったんだろう。

 「持ってみろ」

 サクラから手渡されたそれは、見た目に反してずっしりと重かった。しかし片手で振れない重さでもない。

 これが俺の武器――脇差はサブウェポンだが、俺にとっては、俺に向いた最高の武器だ。


 脇差は店主が俺の腰にしっかりと巻きつけてくれ、笑顔で「良い旅を」と言ってくれた。見た目に反して凄く良い人だった……機会があったらまた来よう。そう思いながら、3人で店を後にしたのだった。


 ちなみに代金はサクラが出してくれた。モモコはやっぱり蹴られた。

ハルカ(サクラだけど)が買った脇差……7万円

銘「威草(いぐさ)


ついでに

サクラの槍、銘「落雷(らくらい)

モモコの刀、銘「紅一寸(くれないのいっすん)


※特に物語の本編とは関係ありません。

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