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封魔烈火  作者: 藤宮ハルカ
第一章
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幕開け

 この世界は、いつから始まったと言い表すのが正しいのだろう。大陸の歴史が始まったとされる200年前からだろうか? それとも封魔烈火の起こった400年前から?

 両方とも違う。“さっき始まった”のだ。

 この世界には“封魔ふうま”というものがある。僕達で言う所の魔法という事で相違無いだろう。体を流れる“魔力”を行使し、その魔力をイメージで形にして“封魔”と成す。言葉で言うは易いが、実際は難儀なものだ。かく言う僕も、これの習得には少し手間取った。博士の計らいでかなり優遇されている僕でもこれなのだから、この世界に住む人々は更に難儀している事だろう。果たして彼はどうなのだろうか……それはこれからを見守るしかない、か。

 しかし、この世界は広い。いくら僕といえどワープして移動できるわけではないから、まだほんの少ししか見て周れていない。

 しかし彼女達二人が近くにいるのは分かった。ひとまずはそれで安心していいだろう。

 これから僕はどう立ち回ればいい? 彼に真実を僕の口から伝えるのは博士に禁止されている。なるべく遠回しにサポートしろとのお達しだが……本当にこんな事で彼が救えるのだろうか。

 ――やめよう。そんな事を考えたって仕方ない。今の所はこれしか手段が無いのだ。僕は僕の出来ることを出来る限りやるだけだ。


 某日 某時刻 サキの村


 彼女にとって決して今日は特別な日ではなかった。いつも通りの一日が終わり、夜を迎え、夕食をとり、そしてこれからベッドに入って眠る。そんな日常なはずだった。

 今こうして彼女が自宅の屋根の上にのぼって煙草を吸っているのも、特別な意味など有りはしない。

 ゆっくりと夜空に向かって消えていく紫煙を、彼女は静かに見送っている。その表情からは何を考えているのかは窺い知れない。何も考えていないのかもしれない。

 ふと彼女は百メートルほど先、村の噴水広場に目を落とした。意味など無い。ただなんとなく、そこが気になっただけだ。

 数秒、彼女はそこを見つめた。この村の外灯など数が知れている。見つめる先の広場に明かりなどは無いに等しい。

 ……

 …………

 時間にしたら十数秒。何もないか、と目線を外そうとした瞬間だった。

 光――たった一瞬、光が瞬いたのだ。それは本当に小さな光だった。線香花火が落ちる寸前に見せる一番大きくて小さな煌き……そんな光だった。

 彼女は首を傾げる。なぜあんな所で光が? 人の気配があった訳では無い。月明かりに何かが反射したか? いや、ならばずっと光っているべきだろう。

 しばらく首を傾げた後、根元まで灰になっていた煙草を地面(屋根だが)に擦り付け、立ち上がって屋根から飛び降りた。そして新たな煙草に火を点け、雲に隠れて姿が見えなくなった月に向かって煙を吐き、緩慢な動きで光の煌めいた広場へと歩いていく。

 そして「そうえば明日は建国記念日だったな」と、どうでもいい事を思い出すのだった。


 同日 同時刻 コウザの砦


 彼女は興奮していた。時刻は深夜、見回りの兵士以外は寝静まり、周りは静寂に包まれている。自分の座っている椅子の軋みすらうるさく感じた。

 そんな時間に自分はまだ起きている。その事実に彼女は興奮していたのだ。彼女の夜は短い。日付が変わる前に寝てしまうのが普通だからだ。別に誰かに強制されて寝るわけではない。ただ眠いから寝る。起きるときは起きたい時間に起きる。だから彼女が起きるのは昼過ぎ、などという事もざらだった。

 せっかくだから何かをしなければ。そう思ったが吉日、彼女は自室を飛び出して砦の屋上へ走って向かう。途中で見回りの兵士が怪訝な顔で彼女を見ていたが、当の彼女はそんなことを気にしない。

 勢いよく屋上の扉を開いた彼女はそのままの勢いで走り続け、落下防止用の策を飛び越えた。落ちるギリギリの位置に着地し、足を投げ出してそこへ腰掛ける。

 この砦の屋上からは村が一望できる。彼女はこの場所が好きだった。

 しかし村は寝静まり、物音などは一切聞こえない。風が吹く音だけが存在する唯一の音だ。彼女は普段自分が見られない、感じられない夜中の世界というものに大いに満足していた。 

 キョロキョロと周りを見渡していた彼女は、ふと村の中心――噴水広場に光が一瞬だけ瞬いたのを見逃さなかった。

 こんな時間になんだろう、花火でもしてる人がいるのか。いや、だったら一回だけ光るのはおかしい。

 しばらく彼女は腕を組んでああでもない、こうでもないと理由を考えた。しかし「考えたって分からない」と答えを出すと、またキョロキョロと村を見渡し始めた。興味を無くしたのだ。

 一時間ほどそうしていただろうか。先ほどすれ違った兵士が彼女の元に現れ、部屋に戻るように促した。彼女はしぶしぶとその兵士に連れられて自室に戻る。「あの光は明日にでも調べればいいや」とベッドに身を潜らせる。

 そういえば明日は何か用事があった気がする。何だっただろう。けど忘れるくらいだから大した用事じゃないか。そんなことより明日は良い事がありそう――根拠無くそう思った。

 そんな予感に顔をにやつかせ、すぐに彼女は深い眠りへと落ちて行く。

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