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ん、プロローグ

初めての小説投稿は緊張しますね。

 森の中を一人の少女が歩いていた。

 165cmほどの身長に肩まである艶やかな黒髪をポニーテールに結わえた少女は黙々と歩いていた。

 眠たげに半ば閉じられた目をのぞけば、非常に整った容姿を持つ少女は息を弾ませることもなくただ歩いていた。

 身に付けた稽古着の左腰の帯に一振りの刀を差し、運動靴を履いた少女はひたすら歩いていた。

 そして、しばらく歩き続けた少女はふと足を止める。


 ぐぅ~


 木々の合間から見える中天に差し掛かった太陽を振り仰いだ少女は空腹を告げるお腹をさすり、形のいい口から涼やかに言葉を紡ぐ。


 「おなかすいた・・・」


 少女の名は宮坂伊織。17歳の現役女子高生である彼女は絶賛迷子である。

 

 ●


 話は少し遡る。

 夏休みに入り、暑さも一入となった七月某日の早朝、伊織は普段と変わらずとある古流剣術の道場で彼女の父と立会い稽古をしていた。稽古といっても木刀や竹刀を用いず、真剣を用いた一つ間違えれば死ぬ可能性のものである。

 そんな稽古を現役の女子高生である伊織に課す父親の精神性がどうかという問題はあるが、それは隅に置いておく。

 危険極まりない稽古を今日も無事に終えた伊織に突然父親が蔵の掃除をしろと告げる。

 その声に抗いがたい物を感じた伊織は服が汚れることもあって、とりあえず汗を拭い掃除用具を持つと稽古着のまま母屋から少し離れた蔵へ向かう。


 頑丈な造りの蔵に伊織が入るのはその時が初めてだった。

 というのも小さい頃、探検心を出した伊織が蔵に入ろうとしたところを父に見つかったことがあったのだが、そのときの父親の剣幕は彼女に多大な恐怖を与えた。

 まだ小学生にもならない実の娘に半ば本気の殺気をぶつける父親がどこにいるのだろう。そのとき、伊織は恐怖のあまり少しだけ漏らした。


 そんな伊織にとって忌まわしい過去がある蔵だが、彼女は少し埃っぽくもひんやりとした蔵の中の空気にほっと一息つく。

 これなら案外苦労せず掃除を終えることができる。そう少し安心した伊織はさっそく掃除に取り掛かる。

 先に蔵に収められた物を全て外に出してしまおうと何が入っているのかやけに重い箱や掛け軸を抱えるとあらかじめ外に用意しておいた茣蓙に置いていく。

 そして、あらかた外に運び終えた伊織の目に蔵の片隅に無造作に放置された一振りの刀が留まる。

 伊織は普段刀の手入れを欠かさない父がなぜこんな所に刀を放置するのかと不審に思い、刀を手に取る。


 不思議なことにほとんど埃を被っていない刀の拵えは質実剛健なもので黒一色の鞘の小尻は金具で補強され、鍔は装飾のまったく施されていない丸鍔に、柄には鮫皮の上から黒の柄糸が巻かれ、目釘もまったく緩んでいなかった。

 刀身はどうなっているかも気になった伊織は蔵の床に正座すると刀を太ももに置き、作法通り、鯉口を切ってから真っ直ぐに刀を抜くと、手入れしていないにも関わらず刀身に錆がなかったのかあっさりと抜けてしまう。

 そして、そのまま目の前に捧げ持った刀身をつぶさに観察する。

 奇妙なことにその刀身の輝きは鍛えた玉鋼の物とは違い、鮮やかな青みを帯びた物だった。

 それでもその輝きは美しく、鎬造りの二尺四寸に刀身は先反り、重ね厚く、身幅広く、鍛え肌は板目に杢交じり、刃文はのたれ、帽子は焼き詰めの大切っ先、いずれ名のある刀鍛治の作であることは確かだった。

 伊織はそのあまりの美しさに魅入られているうちに突然訪れた眠りに抗えず、そのまま意識を失ってしまう。


 そして、気が付けば伊織はただ一人森の中にいた。

 彼女の格好は蔵にいたときと同じ稽古着に運動靴というちぐはずな物で右手には青き輝きを放つ刀が握られ、左手には黒い鞘が握られていた。

 ひとまず伊織は抜き身の刀を鞘に収めると、左腰帯に落とし差しにならないようにしっかりと刀を差す。

 次に近くにあった手ごろな枝をを手に取ると垂直に立てる。

 地面の傾斜のなさから平地にある森と判断し、枝の倒れた方向にとりあえず進もうと伊織は考えたのだ。

 そっと伊織が手を離すと枝がある方向を示す。どうやら太陽の位置から見て東のようだ。

 伊織は小さく頷くと、森の中を歩き始める。

 妙に軽い体に違和感を感じながらも、伊織はひたすら東に歩みを進める。

 そして、2時間ほど歩き続け場面は冒頭へと戻る。


 ●


 「おなかすいた・・・」


 鍛えられた腹筋で引き締まってはいても女性らしい弾力を保つ腹部をさすりながら、伊織が呟く。

 二時間ぶっ通しで歩いてもまったく疲れを感じない体を不審に思いながらも喜んでいた伊織だったが、さすがに空腹はどうしようもなかった。

 周りの草花は植生が違うのか、毎年夏休みに父親と行う山篭りのときに目にした食べられる野草の類は一切ない。

 かといって獣の類を取ろうにも運悪く獣の気配に行き会うこともなく、鳥の鳴き声すら聞こえてこない。


 「・・・!」


 いよいよもってまずいかもしれないと少し焦りを感じる伊織の耳が微かな人の声を捉える。

 

 「・・・で・・・な・・・近くに・・・が・・・よっ!」


 声のした方に歩いていくと微かに響く人の声と慌しくうごめく気配に伊織は空腹も忘れて走り出す。


 「きゃぁっ!」


 そして、伊織が森の中の少し開けた下草の生い茂った広場のような場所に出るとそこには粗末な槍や剣に短剣、棍棒などを持った緑の150cmほどの身長の小人たち五人と小人たちに襲われ、持っていた剣を跳ね飛ばされて尻餅をつく金髪の女性の姿があった。

 とっさに伊織は今にも女性を殴りかかろうとする棍棒を持った小人に駆け寄りざま、鮮やかな抜き打ちの一刀で首を跳ね飛ばしていた。


 「えっ・・・」


 突然起こった事態に小人の首から噴き上がる血を浴びているのも忘れ、呆然とした声を上げる女性。

 しかし、伊織の動きはそれで止まらなかった。

 突然現れた闖入者に仲間の首を斬り飛ばされ、同じく呆気に取られる槍を持った小人へと素早く間合いを詰めていく。

 呆気に取られたのも束の間、小人は思いも寄らぬ素早さで近づく伊織に焦り、不用意な槍の一突きを放つ。

 それを軽く半歩横に体を開くことでかわしながら、伊織はさらに間合いを詰め、すれ違いざまの小人の脇腹を胴に振った刀で深々と切り裂く。


 「すごい・・・」 


 脇腹から零れ落ちた腸を押さえながら倒れ伏す小人と伊織の一瞬の早業に女性は落ちた剣を拾って加勢することも忘れ、感嘆の声を上げる。

 ここに来て一気に仲間二人を失った三人の小人は激昂し、伊織へと猛然と襲い掛かる。

 しかし、伊織はそれをただ待ち受けることはしなかった。

 女性を庇う位置に立っていたのも束の間、向かってくる小人たちへと逆に飛び込んでいく。

 飛び込みざま伊織は先頭にいた短剣を持った小人の胸を狙う突きを身を低くしてかわし、伸び上がりながらの脇構えで以って、小人の左脇腹から右胸にかけて斬り抜ける。

 そのまま動きを止めることなく、その斜め後ろにいた剣を持った小人の振り下ろしを半歩下がっての寸の見切りでかわすと、返す刀で袈裟懸けにする。

 

 「危ないっ!」


 唐突に女性の叫び声が上がる。

 最後に残った剣を持った小人がいつのまにか伊織の背後に回っていたのだ。

 だが、女性が叫びを上げるまでもなく伊織もそれを気配で悟っていた。

 背後から振り下ろされる剣を横に一足飛びにかわし、振り向くと同時に開いた間合いを一息に詰め、上段に振りかぶった刀で伊織の方に向き直ったばかりの小人を真っ向に腹まで斬り下ろす。

 断面から血を撒き散らす小人から剣を引き抜くと、伊織はしばし周囲に気配を配りながら残心を取る。

 そうして周囲の小人が全て息絶え、女性の気配だけがするのを確認すると伊織は血振りをくれて手に持つ刀を見入る。

 予想通りと言うべきか、驚くべきというか、五人の肉どころか骨すら斬ったにもかかわらず、つぶさに刀身を見ても刃こぼれはまったくなかった(といっても伊織が見せた業ならば他の刀でもないだろうが)。

 それどころか青みがかった輝きを放つ刀身に血糊や脂すらまったく付いていないことに伊織が表情には出さず人知れず驚いていると恐る恐るといった様子の女性の声がかかる。


 「あ、あの・・・」


 そちらに目を向けると、そこには頭から小人の血を被って美しい金髪を朱に染めた女性が立ち上がり、あれだけの斬り合いをしても表情をまったく動かさない伊織に少し怯えの入り混じった目を向けていた。

 じっと刀を見ていたのが怯えの原因かもしれないと少し見当違いの予想をし、ゆっくりと伊織は刀を鞘に収める。


 「危ない所を助けてくれてありがと・・・、あなたのおかげで命拾いしたわ」

 「ん」


 いまだに緊張しているのか、少し強張った笑みを浮かべて礼を告げる女性に伊織は微かに頷くと、落ちていた女性の剣を拾い上げ手渡す。

 それをおそるおそる受け取って腰の鞘に剣を収めると女性が名乗りと共に右手を差し出す。


 「私の名前はアリサ、Fランクの冒険者よ」

 「ん、伊織」


 冒険者という聞き慣れない単語に首を傾げながらも、差し出された手を握り返し、伊織も名乗り返す。


 ぐぅ~


 しばし握手をしたまま探るような目つきのアリサと無表情の伊織が見詰め合っているとタイミング悪く伊織のお腹の虫が鳴く。

 

 「むぅ・・・」


 無表情なままほんの少しだけ顔を赤らめてお腹を左手でさする伊織を見て、緊張していた表情をしばしきょとんとしたものに変えたアリサがこらえきれないと言った様子で笑い出す。


 「っぷ、くく、あははははっ!ひぃひぃ・・・あははははははっ!」

 

火が点いたようになぜか爆笑する女性を尻目に伊織は緑の肌をした小人とはいえ人を斬ってしまったのにたいして心に変化はないのだなとぼんやりと思うのであった。

   

 

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