ゴールド・メダリストの底力
男はここ高級中華料理店『金勲章』でありとあらゆる高級中華料理を次から次にむさぼり喰いまくっていた
山ほどのご馳走を一気に喰い上げると男は来ている背広を冷静に気品に満ちた身のこなしで次々と脱ぎ始めた
男はランニングシャツとランニングパンツ、背中と腹側には『腹八分』とかかれたゼッケン、そして裸足といういでたちに早変わりした
そのたたずまいはまさに一流アスリートそのものだった
まだ、店内の客達、店員達は誰一人として彼の行動に気づいてはいなかった
男はゆっくりクラウチングスタイルに身構えると、前の客が店から出ようとする時の自動ドアが開くタイミングをじっと見計らっていた
客が勘定を済ませ店から外に出ようとし自動ドアが開いた瞬間、一気に男は自動ドアめがけてロケットスタートをきった
男はスプリンターだった
一時はオリンピック100メートル日本代表候補にまであがった人間だったのだ
男は稲妻の如くチャイナタウンを劈いた
男には男の頑なな信念、哲学、美学があった
『日本列島縦断愛と感動の喰い逃げ全国制覇』という壮大なるスケールの野望と荘厳なる大志が・・
男は半笑いでこう思った「今日も楽勝だ・・」
と思った瞬間、ゴッキィィイーーンッ!!と鈍い金属音が唸った。誰かが男の後頭部を何か金属製の物で力一杯ぶん殴ったのだ
「何ぃ!・・・痛ってぇぇぇええええっっ!!!」
男は背中に稲妻のような戦慄が走り、いままで感じたこの無いような驚愕のど真ん中で恐る恐る後ろを振り向いた
「!!ぇぇぇぇええええええっっっっ!!」
そのあまりにもの衝撃に男は思わず先ほど山ほど喰いまくったまだ幾分も消化してなかろう高級中華料理を走りながら一気にさもゴジラの火炎放射の如く吐き出してしまった
それはその男の後頭部を中華鍋で力一杯ぶん殴った人間が先ほどの高級中華料理店『金勲章』の入って通路左側に飾ってあった額縁の中で誇らしげに半笑いの腕組みポーズで写っていた【ヤン総料理長】その人に他ならなかったからである
「クイニゲ、タメタメ!アナタ、アマイヨ!ワラシ、ゼンカイノ、オリピックデ、キンメタルアルヨ!アナタ、ワラシ、ナメタライケナイアルヨ!オマワリサンイクヨ!オマワリサンイクアルヨ!」
男の旅は今、終わった
夢敗れこの長崎という土地で志し半ば無念にも散ってしまった
警察署で取り調べを受けながら男は担当刑事にこう呟いたと言う
「さすがゴールド・メダリスト・・俺とはモノが違う・・」 と・・
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