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GIOGAME  作者: Anacletus
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第五十二話 Fの憂鬱

バトルに突入しませんでしたm(__)m 後二話程バトル前のお膳立てに使う事になるかもしれません。今回は事件を追う主人公達と囚人な風御君の回想となります。これからの展開としては少しずつ過去と現在が繋がってゆくかと思われます。では、第五十二話Fの憂鬱を投稿します。

第五十二話 Fの憂鬱


枯れた樹を撫でる手があった。


枯れ枝のような手が幾度も慈しむ。


陽気も届かぬ木陰の中で。


誰かが言った。


思い一つで何が取り戻せますか。


ようやく得た安らぎに微笑みながら少女は笑った。


何度でも思う事の何が悪いのかと。


命生まれた日に根を張り、命終わる時に切り落とされる。


それでも手に抱く幸せは変わらないだろうと。


足掻いているだけに過ぎないと知りながら、それでも伝わると信じた者の笑みで。


少女は年月を費やした。


枯れ枝に新芽が芽吹いたのは少女がいなくなった後。


少女はついに花を咲かせた樹を見る事は無かった。


そんな夢を見た。



「ひさしげ?」


「うお!?」


近頃疲れ気味な外字久重が一瞬の睡魔から開放されたのは内海沿いにある工業地帯の一角だった。


世界が終焉するとされた日にも休まず動き続けていたという逸話を誇る日本の製造業。


それを如実に現す大小の工場群は旧区画の整理と新区画の整備に追われている。


最新の工業製品を生み出す会社がある一方、昔ながらの技術によって最新技術を下支えする旧い会社もあり、如何に技術が進んだとて最後は人の手と言われるような分野が今も存在している。


ただ、新興国との価格競争に負けた者がいるのも事実であり、廃墟と化した場所が散在している事も実際の所ではあった。


工場が騒音と煙を吐き出していたのは過去の話。


外部不経済こうがいの消えた世界は澄んでいる。


そろそろ夕闇に沈む一帯には暗いというよりは蒼い夜が訪れつつあった。


「大丈夫? 疲れてない?」


「あ、ああ・・・いや、色々と今日は在り過ぎたからか・・・ちょっと静かになって気が抜けてたな」


静寂に響く罰の悪そうな声にソラ・スクリプトゥーラはマジマジと青年を見つめる。


「・・・体は疲れてないみたいだけど、精神的に参ってるみたい・・・少し休んでた方がいいわ」


「何でもお見通しだな・・・」


参ったと言わんばかりに苦笑した久重が己をどこまで見透かされているのだろうと笑った。


「だって、ひさしげの健康管理は私の仕事だから」


「はい?」


思わぬ言葉に聞き返した青年に少女はにこやかに告げる。


「アズがせっかく高性能のNDがあるんだから、あの人生的不摂生が上手い馬鹿をよろしくって」


「(・・・アズさん。一体何をあんたは教えてやがるんですか。ええ、つーか人生的不摂生って・・・)」


内心愚痴ったものの、少女が自分の事を常に気に掛けてくれているという事実を嬉しく感じた久重はポンポンとソラの頭を撫でた。


「ありがとな」


「あ、え、う・・・うん・・・」


褒められるとは思っていなかったソラが頬を染めるが暗い事が幸いして悟られる事は無かった。


「それでボーっとしてて悪いとは思うんだが、何かそういう気配はありそうか?」


「まだない・・・でも・・・」


「でも?」


「何か不気味な感じがする・・・」


「不気味な感じ?」


「うん。上手く言えないけど、こんなに工場があるのに凄く静かな感じがして・・・」


「そうか・・・」


青年が廃工場の敷地に佇みながら辺りを見回した。


そもそもどうして二人が工業地帯にいるのか。


それは三時間程前に遡る。


【EDGE事件】の捜査を始めた虎を含めた三人がまず進めたのは捜査資料の洗い直しだった。


ソラが資料を整理し、被害者の共通項を見つける。


そして、その共通項に沿って捜査を始める事になったのだ。


そこで三人は最初から色々と躓いた。


警察が大方調べ上げた被害者の情報はほぼ完全なものだ。


共通項があればとっくの昔に捜査は進展していなければおかしいわけだから、再び見直したからと言って重要な手掛かりが簡単に見付かるはずもない。


殺された被害者は五人。


身体の一部を切り落とされた被害者は百数十人。


誰も彼も比較的若い層が狙われたという以外はほぼ一つしか共通項がない。


それは襲われた殆どの者が不良もしくはそれに殉じるような素行の悪い者ばかりという事だ。


これらの犯行から警察ではEDGEを不良に恨みを持った者の線から追っている。


だが、不自然な点が幾つかある。


まず、殺された被害者の年齢が若い層から逸脱している事。


五人が五人とも世代的にはバラバラで五十代や六十代の者も含まれている。


更に不可解なのは殺された五人の素行は悪くないという事。


個人個人で色々と離婚だの退職だの大病だの経済的困窮と大変な面はあるものの一様に悪さをするような人格ではなかった。


比較的貧しい生活を送っている大人なんてカテゴリの人間は世の中に五万といる。


それを思えば正に殺された被害者達の繋がりは薄く共通項は少ない。


警察は不良への復讐的な犯行がエスカレートした結果だと見ていたが、それも当っているか怪しい。


早々に考え込んだ三人だったが、それを打破したのは以外にも虎だった。


『殺して歩いてる・・・力持った方じゃない・・・』


久重とソラが何の事かと聞けば、虎は己の考えを虚空に浮かび上がった資料を分けながら語った。


曰く資料を見て気付いた事が三つ。


ウィルス感染によって肉体強化を引き起こしたEDGEの行動パターンの規則性。


それとはそぐわない殺され方。


殺し方の急激な変化。


『力持った方・・・使い方上手い。殺した方、雑』


『雑?』


その久重の言葉に虎は幾つかの資料を別けて提示した。


『被害者順。チョウショ・・・犯行良くなってる。無駄ない』


『ああ、そう言えばそうだな。犯行時間も短くなってるし、くっ付く確率が高くなってるのか・・・』


虎の言いたい事が二人にはすぐ理解できた。


最初の頃は切り落とし方が雑だったらしく体の一部を切り落とされた被害者達は再生医療を受ける事が多かったのだが、その率は後半に襲われた者程低くなっていく。


更には再生させるまでもなく残った一部を縫合したという者も多くなる。


『これ、バンでも同じ。力持つ。上手くなる。上手くしたくなる』


『真理だな・・・確かに人間わざわざ下手な仕事にしたがったりしない』


『殺した方。雑、雑、雑、全部殺し方違っても雑。上手くなってないおかしい』


『殺し方が全部別々だから上手くならないわけじゃないって事?』


ソラの最もな疑問にコックリと虎は頷いた。


『殺し方、雑でも慣れれば、時間短くなる。同じ場所くび狙うなら凶器違っても慣れる。でも、コレ』


最後に虚空で別けられた資料が二人の前に浮かぶ。


『目撃者いる事件以外時間掛かってる』


『・・・確かに犯行時間が一瞬なのは目撃者がいるのだけだな・・・他は人気の無い場所で犯行時間が妙に長い』


『こっちとこっち違う』


犯人が二人。


そう結論した虎に二人は関心してしまった。


無論、その推理が正しいかどうかは確かめようが無かったものの、一理有ると感じた二人はその推測を下に再び資料を整理した。


殺された方には首を切られてころされる以外の共通項がない。


つまり、別人が同じような方法で別々の犯行を犯している。


模倣犯の可能性を否定できない。


そう考えれば事件はより明確な形で単純化する事が出来た。


『ひさしげ。とりあえず殺された方の共通点が分かったかも・・・』


最初に気付いたのはソラだった。


『ほら、五人全員が殺される二、三ヶ月前にハローワークに通ってる』


『さすがにそれだけで共通点になるかは疑問だな。このご時世ハロワ通いは成人の義務みたいなもんだ』


『違うの。今、ハローワーク周辺のジオプロフィットのログを洗ってみたんだけど、コレ』


ソラがテーブルの上にある端末に指を向けると新しいホログラフが浮かび上がる。


『こいつは・・・自殺予防チャンネルの番号か?』


『そう。自殺率が高いからって職難の人の相談を受け付けてる所の・・・定期的にジオプロフィット上に番号が上がってるんだけど、死んだ人がハローワークに行った時間帯には必ずコレがあったみたい。それでちょっとそこのデータベースを探してみたら』


更に新しい資料が提示される。


【相談案件××月分】


会話ログという形で残っているらしい情報が一列に並ぶ。


『調書に乗ってる被害者の詳しい生活状況と酷似した案件が五件。それと凄く不自然な所があって』


『不自然?』


『うん。ログの最後に変な痕跡があるの』


二人が資料の最後に不可思議な分を見つける。


『文字化けしてるな・・・どういう事だ?』


『あんまり詳しくないんだけど、音声から文字でログを残すタイプのプログラムって変換できなかった音声を変に認識する事があるって聞いた事ない?』


『変換できない音声・・・怪しいな。この文字化け直せるか?』


フルフルとソラは首を横に振った。


『元の音声データと稼働中のプログラムが無いと・・・でも、音声の出所なら・・・』


ソラが言うなり、幾つかの資料を脇に退けて新しいウィンドウを開く。


『音声の出所? その相談所じゃないのか?』


『・・・今調べてる最中だけど複数の相談所の通信記録を洗ったら五件の相談が行われた直後に変なノイズみたいなのが混じってて・・・これって不正な処理でアクセスがあったんじゃないかなって』


久重が考え込む。


(この五件を見る限り、相談が全て終わった後に文字化けが出てる・・・つまり、相談後に不正な操作で音声が挿入されて、正規のプログラムじゃ文字に変換できなかった・・・って事か?)


『通信大手のサーバーだから少し待ってて』


『ああ・・・・・・?』


久重が気付く。


(今サラッと流したが通信大手のサーバーに侵入って普通無理だよな?)


アズなどはまるで己の庭のように通信を取り仕切る大手のサーバーから情報を引っこ抜いては仕事に活用していたが、同じような事が出来るという時点でソラの能力の高さが知れた。


(まぁ、アズは掴まるような事は無かったが・・・って・・・ハッ?! 何考えてんだオレ!? さすがに背に腹は変えられないが一応犯罪だろ!? アズに毒され過ぎてるな近頃・・・)


完全犯罪が普通なアズに引きずられている事を自覚して、二人にあまりそういう事に手を出さないよう今度説いておくべきだろうかと悩み始めた久重の前へソラが新しい情報を表示した。


『出た。通信記録を見る限り・・・これって此処ら辺からのものみたい』


表示された地図は日本の代表的な工業地帯だった。


『工場が多い場所から不正アクセスか。その主が此処にいるか。あるいは通信の経由地点なのか。どちらにしろ一回行ってみるべきか』


『近くで傍受して同じような反応があったら場所の特定は出来ると思う』


『決まりだな』


そうして三人は頷き合い工業地帯へと向う事となった。



(考えてもみれば分かる事だよな。不良を叩いて回ってるって事は復讐の可能性が高い。虐げる側に回ったからって無差別に人を殺す程の度胸があれば、初っ端から不良が軽くダース単位で半死半生になってたっていい。なのに最初からの犯行を重ねてる【EDGE】はあくまで肉体の一部を切り落とす警告で済ませてる)


そう・・・復讐にしてもかなり大人しい。


力を得て復讐に走るならもっと己の手でボコボコにしたいと望むものだろう普通。


通り魔が卑劣だとは言うものの、それでも不良が誰かを被害者にする瞬間を狙い済まして犯行に及ぶ事からネットでは死人が出るまではEDGEを英雄として見る向きもあった。


(この世相ならもっと子供が荒れて事件を起こしてても不思議じゃない。それが不良オンリーの通り魔が出て逆に青少年の補導や犯行が減ってるってんだから・・・皮肉過ぎる・・・)


久重が溜息を吐こうとした時だった。


「ビンゴ!! ひさしげ!!」


「反応が出たのか!?」


「うん。今、逆探知・・・え・・・これって・・・」


ソラが固まった。


「何か問題か?」


「この反応・・・全国の相談所に複数アクセスしてるみたい」


「此処ら一帯から同じようなアクセスが全国にって事か?」


「うん。今、解読するからちょっと待ってて・・・・・・え・・・ふ・・・え・・ふ・・・を・・・し・・・って・・・い・・・る・・・か?」


「えふえふ? この場合はFFって事でいいのか?」


「う、うん。完全に市販の音声ソフトみたい・・・あ」


「今度はどうした?」


「今、アクセスしてる場所は特定したんだけど、同じ場所から変な通信が一瞬・・・」


「とにかくまずは特定した場所に急行だな。行くぞ」


「うん」


二人が急いでその場を離れて走り出す。


事件は早めに解決できるのではないかと久重には思えていた。


その時はまだ。



永橋風御が知る限り、彼にとって最も最初の記憶は暗闇だ。


窓も明かりもない部屋の冷たいスベスベした床に座っていた事以外はただ黒い世界だけを覚えている。


日に三度部屋の中に押し込まれるトレイに乗った食事を食べて生きていたが、それ以外に何かをしていた記憶は無い。


部屋の隅に置かれた便器の使い方だけは覚えてはいたのだが、どうやって覚えたのか自体覚えていない。


只管にぼんやりとして食べて出して眠る。


そんな日々だった。


変わらない日常が全て同一だったからか。


その頃は一日というサイクルを理解していなかった。


故に幼い頃、風御は時間という概念を完全には把握せずに過ごしていた。


明日と今日に違いがあるわけではない。


昨日と今日に違いがあるわけでもない。


だから、永遠の一日しか記憶には存在しない。


それが変わったのは急激だった事を今も風御は鮮烈に覚えている。


部屋という世界が壊されたのだ。


切り取られた四角い白。


人というか己以外に動くものを知らない風御に手が差し伸べられた。


いや、差し伸べられたのではなく試されていたのかもしれない。


何故なら、その手を差し伸べた存在が以後風御の人生を決めたのだから。


外に出された幼い彼にとって世界は眩し過ぎた。


光を加減するマスクを付けられ、病院という所に置かれてから一年はそのままだった。


その後・・・街という場所に移されたのが九歳の頃。


見るもの見るもの全てが驚きに満ちていた。


そうして山間の小さな街で一軒屋に連れて来られた後、風御は訓練をさせられるようになった。


生物に刃を通す訓練と物を見る訓練。


体を動かす訓練と考える訓練。


それは医者並に人体構造を把握させ、的確に相手を解体する為の下地作りだった。


それは視覚による危機回避能力を養うものであり、瞬時に物事を正しく判断する為の訓練だった。


食事を与えられ、訓練をして、眠る。


その繰り返しに新たな項目が加えられたのは風御がそのサイクルに慣れた頃の事。


学校に行く、が入った。


そこで初めて風御は・・・己の名前を知った。


ピカピカのランドセルを背負って事前に言われたままの行動を取っていたのだが、教室に己と同年代の子供達が入ってきてお喋りを始めたり、大人が入ってきて名前を呼び始めた辺りから、色々と彼は注目された。


永橋風御君。


先生と言うらしい大人にそう呼ばれて誰も返事をしなかった。


それで妙に思ったのか。


その先生は名簿の顔を見て風御を教室の端に見つけ微笑んだ。


緊張しちゃったのかしら、風御君。


最初、呼ばれているのだと気付かなかった風御だったが、周囲の視線から初めて、その名が己を呼ぶ為のものなのだと知った。


周囲に合わせる事を言い含められていた為、無難に「はい」と答えた風御はその後も淡々と子供達の中に紛れる事を実行した。


いつもと同じように言われた通りのままを実行し続けた。


その放課後。


風御は人生で初めて友達というものを得る事になった。


帰り際。


校庭脇に埋められていたタイヤの上に座っていた同年代の男の子と擦れ違った時だ。


【目、悪いのか?】


自分と同年代。


どうしてそんな事が分かるのかと風御は不思議に思った。


確かに光を長年見てこなかった風御の目は極端に光の変化に弱く最新の技術で造られた自動で光を調節するコンタクトを入れていた。


【・・・・・・・・】


とりあえず素通りした風御だったが次に背中から掛かった言葉には振り向かざるを得なかった。


【友達いないのか?】


どうして振り向かざるを得なかったのか。


学校に行く際に言われていたからだ。


友達を作れと。


【・・・いるように見える?】


質問で返すと男の子は首を横に振った。


【友達なんか欲しくない。そんな顔してるな】


そう言われてもその頃の風御は自分の顔や感情なんてものを知るような生き物ではなかったので「そうなのか」と納得する以外無かった。


【あ、そう】


だから、素気なくこう言ったのだ。


しかし、それが不味かったのか。


【・・・オレなら友達になってもいい】


不意にそう言われた。


【どうして?】


【明日、友達になったからだ】


風御は上手く理解が出来なかった。


明日とはどういう意味なのか。


明日友達になろうと言っているのか。


それとも明日には友達になれているはずだとの希望的観測なのか。


どちらにしても友達は必要だったから、風御はその言葉に反論しなかった。


【じゃあ、また明日】


それが人生を振り返ってみても笑ってしまうくらいバカバカしい最初で最後の親友外字久重との長い付き合いの始まりだった。


(まったく・・・親友(笑)とあれからどれだけやんちゃしてきたっけ・・・はは・・・数えるのも馬鹿らしいか・・・)



「【ADET】・・・あちらの【半分】やこちらの【半分】も正体を把握していない日本発の国際犯罪シンジケート。現在世界の93カ国で展開し、その公式人員推定250人、その人員の下に非公式人員を五十数万人。主な資金源は後進国から先進国への人身売買と高級娼婦による売春及び麻薬の製造売買。


世界各国の財界・政界の要人を女で篭絡する事二十数万人以上。新型麻薬の製造及び普及を進める為、全世界規模で既存の麻薬密輸ルートを約三年半で壊滅。従来の麻薬への抵抗を付ける薬と依存度が極度に低い薬を廉価で公的に薬が認められている国々に販売し莫大な利益を上げる。


その利益の全てはダミー会社を経由して租税回避地タックスヘイブンを通しロンダリング。国家が崩壊し荒廃する第三世界やテロの温床となっている欧州で慈善事業に投資し、組織下の人材確保と育成に当てている。所謂【和僑】とは違い幹部には外国人が多数関わっていると言われているが、実際定かでは無い。


三十数年前の【小さく静かな戦争】の後に組織された事から、組織の頂点である【BOSS】と呼ばれる存在は日本を公的に負われた外国人とも日本のナショナリズムが生み出した愛国者パトリオットだとも囁かれている。


組織は幾つかの部署に分かれていて、自前の実働部隊を持ち、その力は一国の師団を上回る規模で存在しているとされる。その実働部隊の中でも暗殺部隊はグリーンベレー並みの練度を誇り、様々な国の麻薬王、独裁者、官僚、企業家が標的となって実際に殺された。


数年前より暗殺部隊のトップに立ったのは十代の日本人で幹部の称号として【Jack】を受けた。その仕業と思われる暗殺事件は露見しているだけで189件。実際には殺された人物の護衛者や周りの目撃者も被害者に含まれる為、事件件数の倍以上は殺しているものと思われる。その手並みの速さと量の多さから裏社会でジャック・ザ・リッパーの綽名を受けるも公式記録では女子供を殺した事が無い」


「・・・・・・・・・・・・・・」


「口元の拘束帯を」


全裸にされた挙句、全身を拘束され、排泄の為だけで尻付近だけが開いているという非人道的極まる恰好で風御はようやく息苦しさから開放された。


「で、今日は何を聞きたいのかな。ソラ・フィーデちゃん?」


「どうやら今日も満足に答える気はないようですね。長橋風御さん」


「待遇が悪いと口が重くなる性質なんだ」


「喋らないのは組織への忠誠心か。それとも何も知らないからか。どちらでしょうか?」


「忠誠心なんてこれっぽっちも無いね。何も知らないのかって言われたら、その通りだとしか答えようが無い。ADETは基本的に知らない事は知らなくてもいい組織だ。BOSS以外だとFADOくらいかな。全体像を知ってるのは」


「私が知りたいのは貴方がいつ誰を殺したのか、どんな装備でどんな協力者と、そんな情報ではありません」


「・・・・・・」


「幹部の事も結構。そういうのが喉から手が出る程に欲しいのはCIAや情報機関の連中だけでしょう」


「・・・・・・」


「我々が知りたいのはたった一つの情報です」


「我々・・・ね・・・」


「先日から申し上げている通り【LEGIONレギオン】が貴方の事を他の情報機関から匿っているのはその情報を貴方が握っているからに他なりません」


「他のとこに移されたらどうなるのかな?」


「色々と搾られ廃人にされた後、肉体を標本にされるだけです」


「随分と楽しそうな未来で困る・・・」


「ですから、我々が欲する情報を教えて頂けるなら、引渡しの期限一杯までは此処で普通の捕虜待遇を約束しても構いません」


「その期限が今日だったりして?」


思わずソラ・フィーデが顔を顰めた。


「いつでも我々は貴方を彼らに預ける事が出来る。その事は忘れない方がいい」


正にその通りである事を悟られぬよう声の調子だけは変えずに答えが返った。


再び拘束帯で口元を覆われた風御がモゴモゴと何か言ったものの、付いていた部屋の明かりは消され、扉が閉まる。


隣の部屋に入ったソラ・フィーデが溜息を吐きつつ暗闇で過ごす風御を見る。


幾層にも加工が施された側面の壁は一面がマジックミラーの機能を有し、同時にディスプレイでもある。


あらゆる生態活動を監視しているのは常時二人。


壁には脳波から呼吸の回数、心拍数、体温、香り、内臓の状態、肉体の水分量、その他多くの情報が所狭しと並んでいる。


ある意味VIP待遇で風御は尋問されていた。


「どうですか? 単語に対する反応は?」


監視の一人がソラ・フィーデに顔を横に振る。


「彼は非常に動揺が少ない。一単語一単語に対して殆ど変わりがありません。ここまで脳波も他の生態活動も常人に比べて極めて反応が薄いのは一種の特異体質でしょう。先日から肉体的な追い込みを掛けて反応を引き出しているにも関わらずコレです。臨床心理学の学者としての意見を言わせて頂けるなら、何を聞いても無駄です。恐ろしく彼は肉体の制御と思考を停止するのが上手い」


「・・・やはり従来の拷問で情報を引き出してみては? 薬に耐性がある以上、それが最善かと」


もう一人の監視に言われてソラ・フィーデが首を横に振った。


「それが出来れば事は簡単でした。ですが、そう出来ないからこんな方法を取っています」


苦々しい顔で置いてあったコーラのボトルを呷った唇が歪む。


「永橋風御は肉体的には一部を除いてほぼ常人と変わらない。肉体の耐久力が低いというよりは・・・こういう時の為に耐久力自体を下げていたと考えるべきなのかもしれません」


「どういう事でしょうか?」


男の一人が首を傾げる。


「肉体の耐久力が高ければ我々には拷問という手段がありました。ですが、実際にはそんな事をすれば死んでしまう。あの男は己が捕まった時どういう立場に置かれるのか事前に理解し、それを込みで生活を送っていたのではないかという事です」


「そんな、まさか・・・」


「彼の体の情報を専門家に見せましたがほぼ九割は常人としか診断しませんでした。ですが、一部の者は興味をそそられたようで一部レポートが出されています。その内容に寄れば・・・【肉体の基礎的な部分は柔軟で尚且つ面白い程に頑強だが、それ以外の部分があまりにも堕落している】との事です」


「・・・門外漢なのでよく分かりませんが、それはつまり・・・アスリートが肥満になったようなものでしょうか?」


「上手い喩えですね」


「恐れ入ります」


「・・・結局、あの男が本当に特別なのは肉体ではないという事です」


「確かに・・・」


「マインドセットと肉体に染み付いた反射や特異な装備。たぶん、そういった複雑な要素ピースをパズルのように組み合わせて威力を発揮するタイプ・・・随分と我々に似通っている」


瞳が細められた。


「ただ精神的な耐久値は段違い。常人なら耐えられない扱いを受けて平然と話しているのですから、拷問したところで口が割れないのは確定しているようなものです」


二人の監視は風御に為された幾つかの措置を思い出す。


水分の制限。


食料は栄養注射。


湿度03%以下の室内。


排泄は全て終わった後に掃除され、拘束によって血栓が出来ないよう複数の薬品を投与される。


そんな過酷な環境で一日に尋問が十五回。


朝も昼も夜もなく不規則に行われ、寝ていれば起こされる。


それが拘束してから一日も休まず続けられている。


緩慢な飢餓と生活とも言えない【保存方法】は人の精神を磨耗させて余りある。


常人なら一週間もせずに発狂するか口を割る。


鍛えられていても二週間が限度だろう。


だが、しかし、永橋風御はかれこれそんな状態で一ヶ月以上を平然と過ごしている。


口を開けば軽口を叩き、食事や水が欲しいなんて一言も口にした事がない。


現状を改善したいという意思などまったく感じられない。


明らかに異常だ。


「引渡し期限は本日の2100時ですが、ハワイ沖の空母に引き上げるよう通達がありました。現時点を持ってこの部屋は破棄。囚人E‐33は尋問中に死亡。死体はDARPAの研究素材として我が部隊が特例的に沖縄米軍から徴発する事とします。ただちに麻酔を掛け【梱包】の用意を」


「「はっ!!!」」


二人の監視がすぐさまに頭を下げて部屋から出て行く。


監視部屋に一人になったソラ・フィーデが暗闇の中に浮かび上がる風御を睨んだ。


CIAあちらは【五人目】の手掛かりをもう得ている。こちらもうかうかしていられませんか・・・)


注視される中、顔面を覆う拘束帯が動いたような気がして、少女は無力なはずの男の事が少しだけ怖くなった。


「私なら耐えられて二週間・・・その心の強さだけは評価して差し上げます」


皮肉げな嗤い声が室内に響いた。


風御がギガフロートから運び出されたのはそれから十五分後。


貨物扱いになった棺桶を載せた輸送ヘリが日本領空内で消えたのはそれから二時間後。


金色の髪の少女が部隊の人間すら畏れる程にF言葉を連発するのはそれから二時間三十五分後の事だった。

霧に沈んでいく。

言葉も遺せぬままに。

善意を説く悪辣。

悪意の説く理想。

第五十三話「鉄が硝子に変わる時」

しかして、その差は遠く。

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