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GIOGAME  作者: Anacletus
36/61

第三十六話 機動する世界

近頃、執筆活動が遅れている事をお詫びします。長編の執筆に時間を取られているからなのですが、これからも出来る限り早く執筆できるよう努力していきますので今後もよろしくお願いします。今回は風御君と主人公達が戦場に付くまでの話になります。次回は完全にGIOと空、二つの場所で戦いが始まります。では、第三十六話 機動する世界を投稿します。

第三十六話 機動する世界


永橋風御は今日も今日とて常の如く大金持ちだった。


GIO日本支社。


最上階展望フロアー。


日本において最も高いビル。


その厨房。


邪魔この上ない小さなテーブルが一つ置かれていた。


シェフズテーブル。


忙しい厨房の中を取り仕切る料理長が食事を取る場。


普通のVIPが賭けに夢中となっている間にも風御はお供のセキと共に黙々と運ばれてくる料理を平らげていた。


「かなり、腕上がったんじゃないですか?」


風御がそう傍らで中華鍋を振っている男に話しかける。


「そうか? 自分ではそんな風に感じた事はないが」


三十代の無精髭を生やした男だった。


右往左往している調理師達を尻目に気負った様子もなくコースメニューを淡々と作ってはすぐ横のテーブルに置いている姿は堂に入っている。


「料理長になって何年でしたっけ?」


「かれこれ四年くらいになるか」


「ああ、もうそんなになるのか」


「ああ、もうそんなだよ」


その胸には料理長とバッチが付いていた。


「どうしたの? セキちゃん」


男と会話しつつ、シャンパンを喉に流し込んだ風御は厨房の喧騒をBGMにして落ち着かない様子の少女に首を傾げた。


「う・・・ど、どうして厨房なんですか?」


「え? 料理熱々の内に食べられるのって嬉しくない?」


「う、嬉しいですけど!! そういう事じゃなくて!? どうして風御さんは普通っていうのと縁遠いのかって話です!!」


「普通?」


首を捻って分からないという顔をする風御の顔が憎らしくなって、セキは横においてあるオレンジジュースを一気に飲み干し、捲くし立て始める。


「だ・か・ら!!! GIOにVIPで通されるくらい風御さんが超金持ちなのは分かりました!! でも、金持ちらしくするのかと思えば、いつの間にか厨房に平然とした顔で入っていって、しかもテーブルまで用意させるとか何様なのかと言ってるんです!!」


「超絶VIPの金持ちで料理長の知り合い。ですよね?」


「ん? まぁ・・・知り合いというか恩人というか・・・そんな感じだな」


「そ、そんな感じって・・・」


思わず脱力してしまいそうになったセキは風御と料理長を交互に見つめる。


「料理長さんはその・・・風御さんと長いお付き合いなんですか?」


「ふむ。かれこれ七年ぐらいか?」


「それくらいですかね」


二人が飄々と応えながら、料理を作り、食べる。


「その・・・聞いていいのか迷ったんですけど、風御さんとはどういう類の?」


料理長が微妙に困った顔となった。


「どういう類・・・言わばアレだな」


「アレ?」


「実は俺は地下料理会に雇われていた闇のシェフで風御はその料理を気に入った裏のエージェント。そして、二人の間にはいつの間にか硬い友情が!」


「・・・・・・」


セキが今まで大人に向けていた視線を百八十度変えて白い目で料理長を見た。


「はは、そんなんだったら、どれだけ面白かったか」


風御がゲラゲラと笑いながら、目の前に出されたメインデッシュを頬張り始める。


真面目に答える気の無い大人達にむすっとしたセキだったが、目の前に置かれた如何にも香ばしい香りのする皿の上の芸術に目を奪われ、食事に戻る事とした。


「それで、今回はどれだけ儲ける気だ?」


「ええ、というかもう儲けましたよ。」


「お前には賭博師の錯誤もありゃしないか?」


「勝てる幻想は運の話。負ける現実は確率の話。錯誤に陥るようじゃ賭けなんてしませんよ」


呆れた様子でデザートに取り掛かった料理長に風御が淡々と答える。


「で、今回はどんだけ勝った?」


「単品買いで持ってきたのを全額。それと僕の資産から少し出して、ざっと・・・十一桁くらい?」


思わず口の中の料理を噴出しそうになったセキがグッと我慢して料理を喉の奥に消した。


「―――こほこほ!?」


「そんな勢いで食べなくても。そんなに美味しかった?」


「いや、違ッ!? い、今なんて言いました!? じゅ、十一桁とか言いませんでした!!?」


「言ったけど?」


「い、今まで全然気にしてませんでしたけど・・・風御さんは何の賭けに参加してるんですか!?」


料理長が呆れた様子で振り返った。


「教えても無いのに連れてきたのか?」


「VIPの催しとしか言ってませんでしたから・・・」


「答えてください!!!」


セキにも解っていた。


風御の言う金額は普通の賭け事で出るような金額ではない。


「・・・今日此処に連れてきたのは僕の家じゃ少しセキュリティー不足だからって言ってたっけ?」


「はぁ!?」


「ま、VIPも楽じゃないって事だよ。参加自体は強制だから少し安全な場所で賭け事をしようかって話。巻き込んだ以上は安全くらい確保できるところが良かったから出向いて来たんだけど・・・って聞いてるセキちゃん?」


「つ、つまり・・・公には出来ない類の賭けですか?」


「一応、ね。断るわけにもいかないし、自分だけなら家でやってても良かったんだけどさ」


「今の言い方だと賭けに参加してるだけで命が掛かってるように聞こえます」


「そう聞こえなかった?」


「聞いた方が馬鹿でした・・・ええ、風御さんはいっつもそうですよね!! ええ、そういう人です!!」


「そんな怒らなくても」


困ったように笑う風御にセキはこの人に法律なんてものは何の意味もないのではないかと思った。


「詳しい事は聞きません。だって、聞いても答えてくれないですから」


「分かってきたじゃない。セキちゃん」


「何で嬉しそうなんですか!? もう少し反省してください!!」


「僕が今までの人生で反省したのは一度だけだよ」


「・・・ちなみに何を反省したんですか?」


「友達の選び方」


「もういいです!!」


プリプリと怒りに任せてフォークを魚介類に突き立てていくセキの表情を風御は面白そうに眺めた。


「随分と変わったな。お前」


料理長が風御の表情に少しだけ目を見張り、微笑む。


「そうですか?」


「ああ、出会った頃と比べたらな」


「人間が大きくなったのかもしれませんよ?」


冗談交じりの声に料理長は何も言わなかった。


再び食事へと没頭していく風御とセキを見つめながら、とっておきのワインでも出してこようかと料理長がワインセラーへ向おうとした瞬間、バツンと厨房の電源が落ちた。


「どうした?!」


料理長の声に今まで忙しく動き回っていた調理師達の一人が状況を報告する。


「どうやら主電源が落ちたようです。こちらのブレーカーは落ちてません」


「非常用に切り替えは?」


「・・・十秒で切り替わるはずですが・・・どうやら、こちらも作動してないみたいです」


料理長が調理場の隅に行ってゴソゴソと何かを探し当てるとテーブルの上にゴツンと乗せた。


ボッとガスバーナーの火が点火される。


テーブルの上に大きな蝋燭の姿がゆらりと滲み出した。


蝋燭に火を付けながらテキパキと部下に指示を出していく料理長が風御を真面目な顔で見つめる。


「心当たりは?」


「無いです」


簡潔な答えに料理長が頭を掻く。


「さすがにGIO日本に喧嘩を売る馬鹿は―――」


言い掛けた途端、ビルを振動が襲った。


「地震か!?」


思わずセキを料理長が床に伏せさせた。


そんな状況にも関わらず風御はメインデッシュの最後の一欠片を平らげて立ち上がる。


「此処の耐震性能は震度8クラスの地震でも持ち堪える仕様だったはずですよ」


「―――どこの馬鹿だ!? GIOに喧嘩売って生き延びられると思ってるのは!?」


事態を察した料理長が語気も荒く立ち上がる。


「このビルにこれだけの衝撃を与える時点で相手は軍隊規模。更に言えば、GAME中の襲撃・・・かなりのやり手ですね。ちょっと見てきますから、セキちゃん頼んでもいいですか?」


床に伏せていたセキが慌てて立ち上がった。


「か、風御さん!? 何する気なんですか!?」


「いや、少し様子を見てくるだけ。セキちゃんはまぁ・・・その髭面が似合うダンディーにデザートでも食べさせてもらってて」


「危ない事しないでください!!」


「危ないかどうかはまだ分からないけど?」


「嘘です!! だって、今自分で言ったじゃないですか!?」


「僕はこれでも裏社会の人間だよ? もう分かってると思うけど、かなり危ない組織の人とお付き合いのある身だ」


「で、でも、もう抜けたんですよね!?」


「色々と柵が嫌になってね」


「なら、別に何もしなくていいじゃないですか!?」


「そうもいかないでしょ。此処を襲撃してる相手によっては逃げるルートとか確保しないと巻き込まれかねないし、状況が分からないと身動きが取れない」


セキが真っ直ぐに風御を見上げる。


「風御さんは・・・戦う人なんですか?」


その質問に風御が頬を掻く。


セキの瞳は真っ直ぐで、何処から見ても真剣で、嘘で受け流すには真摯過ぎた。


それでも風御は言う。


「昔は戦う人だった。今は・・・ただのスーパーニート♪」


「何ですかソレ・・・」


この後に及んでもまだ誤魔化されたように感じたセキが涙目で俯く。


「あ~~泣かないで。セキちゃんは笑ってる方が可愛いよ」


「そんなおべっかで誤魔化されたりしません」


頭を撫でようとする風御の手をセキは頑なに振り払った。


「セキちゃんにはまだ本当には分からないかもしれないけど、世の中には絶対的に「どうしようもない事」がある」


「それって・・・・・・」


セキが顔を上げる。


「そう。僕は「どうしようもない」人間を救うのが趣味だ。それはさ・・・本当は・・・ただ僕が『どうしようもない事』から逃げてるからなんだよ」


セキが見上げた風御の顔は今までのおちゃらけたものではなくて、何処か悲しそうな笑みだった。


「昔から何でも要領が良かった僕は・・・大人になる前からどうしようもない人間で、どうしようもない事をしてて、どうしようもない結果ばかりを見てきた。そういうのが嫌になって逃げ出したけど、結局・・・僕自身は何も変わらなかった。君やあの人・・・他の誰かだって助けたのはただ僕が変われなかったから、誰かに変わって欲しいなんて、傲慢な代替行為そのものだ」


「風御さん・・・」


「でも、僕はこの生き方をするようになってから少し気が紛れた。自分は何も変わってないし、逃げてる事にも違いはないけど、それでも昔よりは善人面が被れるようになった」


「か、風御さんは! 風御さんはあたしをた―――」


ピタリと風御の人差し指がセキの唇を封じる。


「これは僕の勝手な我侭で君に対してする最初で最後のお願いだ」


セキが目を見張る。


「どうか君の前では僕に善人面のままでいさせて欲しい」


「――――」


セキの唇からそっと人差し指が離される。


もう、セキは何も言えなくなっていた。


目の前の男が自分の留める言葉を望んでいないと理解してしまっていた。


「セキちゃんに飛びっきりのデザートを頼みます」


今まで黙っていた料理長が頷く。


「じゃ、一時間くらいで戻ってくるから。何かあったら彼の言う事を聞いて仲良くね。セキちゃん」

頭が撫でられ、風御は暗い厨房の外へと歩いていった。


扉が、閉まる。


「・・・・・・あいつは昔」


料理長が言い掛けた時、セキが首を横に振って声を遮った。


「あたしは風御さんに助けられて此処にいます。風御さんと一緒に暮らしもしました。だから、それは風御さんが話してくれない限り、聞く必要がない事です」


「・・・そうか」


「はい。風御さんは嘘吐きで誤魔化してばかりでロクに仕事もしない超絶的に金持ちでぐーたらなニートですけど・・・悪い人じゃないって、あたしは知ってます」


「悪い人じゃない、か。本人が聞いたら喜びのあまり川にダイブするかもな」


「いつだってヘラヘラして戻ってくるんです。あの人は・・・必ず・・・」


セキの視線はいつまでも扉に向いていた。


結局、一時間後に風御が戻ってくる事は無かった。



GIO日本支社。


正面玄関。


戦車三両による砲撃が敵装甲車を貫通していた。


完全なバッテリー駆動の戦車も珍しくない時代。


戦車という文字は地上戦においてあまり重要ではなくなった。


戦争、紛争と名の付く戦いにおいての先進国のスタンスは爆撃機による地上戦力の無力化と白兵戦とも呼べない残存勢力の掃討に特化していた。


山岳部や都市部といった地形での戦いも殆ど機械化された部隊が担当していて、生身の人間が戦線で血を流す機会そのものが少なくなっている。


人間が使われる作戦の殆どは人質の救出作戦や高度な状況判断が求められるものばかりだ。


無人(オート)化された戦場。


そこにあっては優秀な指揮官も優秀な兵士も高度にネットワーク化された通信網で宛がわれた端末の先にある機械を動かす技術者でしかない。


単純作業は機械の仕事。


そして、高度な作戦立案をする人間は少人数でも問題ない。


極度に機械化・効率化された軍隊にはすでに人間の姿そのものが見えない。


最終的に大局を動かす誰かは安全地帯の本国。


そんな現実によって先進国の世論すら戦場での死による忌避感は薄い。


荒廃が著しい後進国地域や紛争地帯、テロが後を立たない第三世界においては人口爆発によって溢れた人間を湯水の如く使って作戦が行われるのも珍しくないが、それは単純にコストの問題でしかない。


人権という言葉が希薄になって久しい荒廃した国では盾と矛は人間であり、力を失いつつある大国や技術先進立国では機械がその役を務めている。


そんな構図がGIO正面玄関でも繰り広げられ、死体の山が積み上がっていた。


何処から調達してきたのか。


数台の装甲車両と数百人以上の兵隊。


大隊規模の人数を相手に戦車三台は広大な駐車場を走り回りながら敵兵力を掃討している。


【てぇええええええええええええええ!!!!!!】


一斉に放たれたRPGの弾体が正面玄関で弾けた。


閃光。


第二射、三射と火力が集中され続ける。


爆炎が膨れ上がり、夜のビル壁面を紅で染め上げた。


正面玄関の緊急用シャッターが赤熱し罅割れる。


しかし、明らかに突破できていない。


【隊長。準備完了との事です】


戦車の相手をしている部隊から幾分離れた場所を走る男達の一隊から声が上がる。


【分かった。作戦の第二段階に移行する】


【了解】


今までの交戦が嘘のように部隊が下がっていく。


戦車が追撃しつつ殿に喰い付こうとした時だった。


不意に戦車の動きが止まり、一瞬後・・・各車の側面が吹き飛ぶ。


【ECMの作動を確認】


止まった戦車などいい的。


ECMによってオンライン操作を凍結され、自動に切り替わる瞬間を狙い済ました一撃だった。


軍用無線の機器が一斉にショートし、まるで狼煙の如く各隊の間から煙が上がる。


引いていく部隊が夜闇に消えていく間にも消防と警察のサイレンがGIOに近づきつつあった。


それらの撤退する部隊から取り残されるように数十人の男達がその場へ留まる。


【後方へ後退する各隊は主要幹線道路の封鎖を実行せよ】


残っていた部隊の数人が敬礼し、そのまま走り出した。


人が走り、情報を伝えるというアナログ極まりない手法。


しかし、それは最も確実な情報伝達手段でもある。


情報戦激しい現代において情報の撹乱と偽装は常。


情報なくして部隊の統制がままならない以上、常に兵を指揮する者は情報を握っている必要がある。


情報戦争という言葉がありふれて久しい昨今、通信の確保は軍全体にとっての生命線と言える。


それでも限定的な状況下においてはアナログな情報伝達が有効な場合もある。


例えば、あらゆる情報インフラを破壊し、主要道路からのアクセスを断ち、衛星からの電波すら撹乱する事が出来たのならば、最後に残る情報伝達手段は限られる。


【あの方から指定された時間まで後十五秒です】


禿げ上がった頭に小さな弾痕を持つ男が傍らの声に正面玄関を見つめた。


時間を計る機械が全て止まっている状態にも関わらず時間を告げる傍らの兵の報告に彼は疑問を持たなかった。


人間は鍛えれば、決して機械に劣るものではない。


劣悪な戦場において機械化された部隊が決して最上では無い事を彼は知っている。


先進国と後進国が戦場を形成する時、それでも先進国の部隊が苦戦するのはよくある事だ。


幾ら戦場を機械化しても人間という資源を浪費し続ける事で戦い続ける国は後を絶たない。


そんな国に生まれて、機械化された部隊とやりあっても生き残る兵士はいる。


機械に劣りながらも時に機械以上の戦果を叩き出す事が出来るのもまた人間。


だから、彼は、彼らは誰も失敗など疑っていなかった。


己が待っている男の事を知っているからこそ、微かな疑問すら抱かなかった。


果たして、彼らの思いは現実となる。


―――――GIO日本支社正面玄関が内側から爆砕した。


吹き上がる火の粉と煙。


その奥にたった九人のスーツ姿の男達がいる。


中央に立つ男に兵の誰もが敬礼した。


【待っておりました!!!】


現場指揮官である禿げた男が大声を張り上げる。


その声を受け止めた男が頷いた。


【待たせたようだ】


髭を蓄えた四十代。


野性味に溢れる獣よりも鋭い視線。


スーツをはち切れんばかりに内側から膨張させる筋肉。


軍閥統合本部所属。


第四特務大隊隊長。


元民間軍事会社(PMC)最大手軍事顧問。


日系八世の中国人。


池内豊(いけうち・ゆたか)


戦争の尖兵である池内が狙う目標は二つ。


【中央電算室及びGAME関係者のいる最上階の占拠を目標とする。では、諸君これよりGIO日本支社の攻略を始めよう。各隊行動開始】


凡そ中国語の会話だけが飛び交う戦場が其処に開かれる。


機械と人間の(ほんばん)の火蓋が切って落とされた。



GIO日本支社が陸の孤島(せんじょう)に姿を変えていた頃、その現場へと戦闘機が一機向っていた。


一人しか乗り込めない狭さのコックピットには定員オーバーも甚だしい三人の人影がある。


外字久重。


小虎。


ソラ・スクリプトゥーラ。


男一人に少女二人という構図。


どうしてこんな事になったのか。


キャノピーで二人の少女を両脇にしている久重は思い出す。


黄色い髪の少女。


GIO特務筆頭『亞咲』。


そのアズへの依頼は単純にして明快だった。


GIO日本支社が襲われている。


軍隊規模の敵に殆どの裏方が出払っている隙を狙われた。


賭けの参加者達の保護を行ってもらいたい。


依頼を聞いたアズは何も言わず亞先を見つめ、頷いた。


いいよと。


そんな事してる場合かと思わず突っ込んだ久重に対するアズの回答は明確だった。


『僕達に出来る事はほぼ無い。何か干渉出来るのは僕だけ。なら、余ってる君らに任せても問題は無い』


軍隊規模の相手を前にして人の命を賭けの対象にする下種を助ける。


そんな事に意味があるのか。


そもそも襲っているのは何処の誰なのか。


GIO日本支社の現在の状況は。


軍隊規模の敵と渡り合って来いって何だ。


どれもこれも反論として脳裏に浮かんだものの、久重は結局のところ頷く事しか出来なかった。


自分に出来る事には限界がある。


それを理解しているからこそ、久重は己が出来る事を選んだ。


明日、世界が滅んだとしても、久重に出来る事はそう多くない。


明日、争が始まろうとも、それは変わらない。


だからこそ、常の如く。


何でも屋として、久重はその依頼を受けた。


『絶対、一緒に行くから!!!!』


『ヒサシゲ。付いていく』


置いてこようと思っていた少女達が一歩も譲らず、離してくれず、最終的に押し切られた事を除けば、久重は依頼を受けた選択に関して後悔はしていない。


『乗ろうと思えば乗れるかと思います』


最速の移動手段として残っていたスーパーホーネットを与えられたのは予想外。


三人も乗れるかと二人の少女を置き去りにしようとした久重に亞咲は笑って言った。


両手に華なんて羨ましいです、と。


「・・・ひさしげ。怒ってる?」


ソラの言葉に久重は首を横に振った。


「もし、オレがあれ以上拒否してもアズに連れてけって言われてただろ。実際、敵の装備如何によっちゃオレには手が出せない可能性もある。亞咲だっけか。あいつが現地に装備を送るとか何とか言ってたが、それが届くかどうかも怪しいし・・・付いてきてくれて感謝してる」


「ひさしげ・・・」


本当なら連れてきたくなかった。


そんな言葉の裏に透けて見える優しさがソラには嬉しかった。


「ちなみにお前は本当に良かったのか? あそこで待ってても誰も責めやしなかった。これは何でも屋としての仕事でお前には直接関わりない話だ」


「荒事。役に立つ・・・使って欲しい」


懸命な瞳で己の有用性をアピールする虎に久重が何とも言えない顔をする。


「一つだけいいか?」


「・・・何?」


「オレがお前を世話すると決めたのは役に立つからでも使えるからでもない」


虎がよく分からないという顔をする。


「だから、約束してくれ」


「やくそく?」


「ああ。一つ、危なくなったら絶対に自分の安全を最優先にしろ。二つ、どんな事があっても自分の命を粗末にするな。約束、守れるか?」


「・・・・・・」


真剣な瞳で見上げる瞳が僅か揺らいで、何かを噛み締めるように虎が頷く。


「約束だ」


久重がギュウギュウのコックピットで二人を抱きしめるように広げていた片腕を動かし、小指を差し出す。


「??」


首を傾げる虎に久重が日本の約束する時の儀式だと説明すると虎は素直に小指を合わせた。


「わかった」


ゆっくりと指を切る虎がまるで小指を大事にするかのように手で包んだ。


その時、ギチッと久重の約束した方とは反対の手に僅かな痛みが走る。


「あー・・・っと・・・」


ほんの少しだけソラが頬を染め、そっぽを向いていた。


「・・・・・・」


どう何を言うべきか悩んだ久重が誤魔化し気味に笑う。


「約束、するか?」


「・・・服・・・」


「?」


唐突なソラの言葉にポカンとした久重を恥ずかしそうな怒っているような微妙な表情でソラが睨み上げる。


「これが終わったら、また・・・一緒に・・・」


「・・・く・・・ふ・・ふふ・・・」


「な!? ひ、ひさしげ!!?」


クスクスと笑い出した久重に完全にソラが顔を紅くした。


「分かった。それじゃ時間が出来たら一緒に行くか? お姫様?」


自分の内心を見透かされてしまった恥ずかしさにソラが眦を吊り上げる。


しかし、内側から込み上げてくる喜びが少女の顔を怒らせたままにはしておけなくなる。


怒っているような喜んでいるような・・・複雑過ぎる感情。


ソラは己の顔を見せたくなくて、久重の胸に顔を埋めた。


「・・・・うん」


不意にキャノピーの画面が点滅した。


「静穏性が高い機内でのお取り込み中に申し訳ありませんが、そろそろです。久重様」


亞咲の声に思わず久重から離れようとしたソラの頭がゴツリとキャノピーの中にぶち当たる。


「~~~~~~!!?」


さすがにそれに対しツッコミを入れるのもどうかと思った久重は見なかった事にしてキャノピーに映る亞咲に向き合った。


「状況はどうなってる?」


「正面玄関を突破されました。敵は地下八十五階の中央電算室と最上階のVIPルームへ突入しようと進行中です。こちらの戦力は約百五十名。中央電算室付きが百でVIP付きが五十。


現在中央電算室の方は侵入者用の設備による撃退を実行中ですが、地下二十五階まで突破されました。VIPの方は上層階への移動手段であるエレベーターと階段に爆薬と人員を配置して八十七階から百三階付近で交戦中。


敵の数は見る限り数十人ですが、予備兵力はまだまだいると見ていいでしょう。GIO日本支社に続く陸のルートは何処も完全に封鎖されていて警察と連中が交戦中です。死傷者が多数出ている事から陸自に緊急の出動要請が出ました」


「随分と大事になってるな」


「ちなみに報道のヘリがビルに近づこうとして何処からか飛んできた地対空ミサイルに撃墜されました。かなり大規模な封鎖を見る限り千人規模。大隊クラスの部隊が周辺に展開していると思われます」


「おい!?」


「現在、GIO日本支社以外から外部協力員としてあちこちの組織に召集を掛けています。対空陣地に関してはこちらの部隊を向わせて無力化している最中ですが、完全に安全とは言えません」


「そういうのは早く言おうな?」


「言ったら行きましたか?」


「行くわけないだろ・・・」


頭痛に悩むような仕草で久重がガックリと溜息を吐く。


「これだけの装備をどうやって日本政府にバレず運んだのか興味はありますが、問題は連中の所属はたぶん中国軍閥の部隊だと言う事です」


「不明なんじゃなかったのか?」


「いえ、ビル内部で交戦中の仲間から中国語が飛び交っていると連絡がありました」


「連絡取れてるのか? 軍隊規模だってのにザルな情報統制だな連中」


「いえ、あちらでは強力はECMのせいで無線が使えません。更に周辺の公的な情報インフラは全て破壊もしくは妨害されているようで、警察では現地情報が錯綜しているみたいです」


「おい。今、平然と秘密の情報インフラ持ってますとか暴露しなかったか?」


嫌な汗を掻きつつ質問する久重に亞咲が微笑んだ。


「御内密に」


「・・・はぁ・・・で、だ? オレ達はこれからどうすればいい? 何処かの道路にでも不時着すりゃいいのか?」


亞咲が耳を触るような仕草をした後、久重に視線を映した。


「今、部隊から連絡がありました。対空陣地の無力化に成功。ECMの破壊に向うと」


「これで空中で爆砕される可能性は無くなった訳か」


「ご冗談を。確実に死ぬようなミサイルは飛んでこなくなった程度です」


「・・・それで、これから実際何処で降りる?」


「警察車両が足止めされている場所から数キロ先に廃棄されて今は無人のモールがあります。九百メートル四方の駐車場にこちらの操作で着陸を。ちなみにモール内部に支社の地下へ続く回廊があるので、皆さんには其処から侵入して貰います」


「敵の待ち伏せの可能性は?」


「現在突破された地下階層に繋がっているので、何らかの仕掛けが施されている可能性はあるかと。ですが、人を置いておける程の人数がいるとは思えませんから、そう警戒しなくていいでしょう。ちなみに現地にもう装備は運ばせています」


「今、考えたんだが・・・敵が正面玄関を突破して上と下に向って部隊を動かしてるんだよな?」


「はい」


「VIPは最上階って言ってなかったか?」


「はい。言いました」


「つまり、あんたはオレ達に部隊の殆どを蹴散らして最上階までVIPの確保をしに行けと言ってるわけだな?」


「ええ、間違いありません」


「内部構造の現在状況は分かるのか?」


「制圧された階に限って詳細は分かりません。こちらで確認できる場合はアナウンスを入れますが、制圧された階を進む場合は自力でどうにかしてくだされば幸いです」


無茶な話をされていると分かっていながらも久重は喚く事もなく「了解」と短く返しただけだった。


ブツリと通信が途切れる。


それと同時に自動で機体の高度と速度が下がっていく。


遥か先の地上には赤いランプの群れ。


そろそろ着くのかと久重が体に力を入れようとした時だった。


チカリッと地上で何かが光った。


それを見た瞬間、反射的にソラが脇の脱出レバーを引いていた。


高度が下がっていたとはいえ、それでも地上から千メートル近い上空。


一瞬、何がどうなっているのか前後不覚に陥った久重の手が両側から引っ張られる。


脱出した座席にはベルトがあったものの、三人乗りの都合上、そんなものはしていない。


座席からも離れた完全な虚空。


闇に飲み込まれそうな久重の意識を二つの手が繋ぎ止めていた。


『ソラ!? 虎!?』


声は風音に掻き消されて聞こえはしない。


不意に三人の前方で巨大な爆発が引き起こされる。


それが今まで自分達が乗っていたホーネットの結末だと知って、久重は内心で亞咲を罵った。


闇に手の感触だけを頼りに引き合った三人がそのまま顔を付き合わせる。


ソラが大丈夫だと言うように頷いた。


三人は落ちていく夜の中、僅かな光で照り映え聳える巨塔を目に焼き付ける。


不吉なまでに圧倒的な迫力。


日中開戦までどれだけの時間があるかも分からない深夜、一人の青年と二人の少女は戦場へと到達した。


そこに何が待ち受けているのかも未だ知らずに・・・・・・。

無間の狭間で男は一人明日を見る。

確かに在ったものは一つだけ。

朧に消えゆく記憶の楔。

戯れる死神が最後に見せたのは。

第三十七話「排撃者」

名も知らぬ者を想う。

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