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GIOGAME  作者: Anacletus
35/61

第三十五話 墜落者

まだGAMEは続いています。そして、多くの人々の思惑が錯綜しながら事態は最悪へと転がっていきます。この頃、脇役達の活躍で空気になってしまっていた主人公達も次回は活躍するでしょう。という事で早めの五月中に出す事が出来ました。第三十五話「墜落者」を投稿します。

第三十五話 墜落者


朝居・インマヌエル・カークスハイドはスーパーホーネットの中、押し潰されそうなGに堪えながらコントローラーを握っていた。


ラテン系の顔立ち。


細長ながら高い背。


色の薄い赤毛には小さな十字架の髪留めが一つ。


その灰色の瞳には最先頭を行く数機が映っている。


(大丈夫。大丈夫。大丈夫。絶対に・・・絶対に・・・)


ナンバー4。


チームSHEEP。


宗教関係者だけを集めて作られたGAMEの為の生贄。


それがマヌエルのいるチームだった。


GIOの主催する非合法GAMEの参加にはかなりの大金が動く。


参加したい者は多くいるが、参加するのがただただ強いチームだけになってしまえばGAMEは硬直してしまう事にもなりかねない。


結果の分かりきったレースでは賭けの対象には向かない。


だからこそ、GAMEには波乱と華が必要とされ、それを演出する専門のチームを作る者達がいた。


彼らは賭けの対象として面白い素材(にんげん)を寄り集めてチームを作り、GIOに提供する事を商売としている。


そして、過去最大のGAMEに出品する作品としてマヌエル達を地獄に放り込んだ。


マヌエルが知る限り、チームの誰もがGAMEに参加したくてしているわけではない。


止むに止まれぬ事情を抱え、それを何とかしてやるとの甘い囁きに乗ってGAMEへと身を投じたのだ。


契約書は悪魔との契約にも似て恐ろしいものだった事を今もマヌエルは覚えている。


遠回しな表現で糊塗されていたものの・・・それは人間を人間とも思わぬ所業をグダグダと連ねた呪いの紙だった。


それでも命を賭けてマヌエルはGAMEに参加した。


同じチームの仲間達が第一GAMEで怖気づき、次のGAMEに出たくないと喚き散らし、互いに罵り合う中で、それでも最初に手を上げた。


彼女を罵る者、彼女に感謝する者、彼女を恐ろしげなモノを見るような目で見た者。


多くの視線の中でマヌエルは自分が為すべき事を為す為にホーネットへと乗った。


最初から戦闘機を上手く使う事なんて出来ないのは承知していた。


行けば八割方死亡するだろうとも思っていた。


それでもマヌエルは行かないという選択肢を持ち合わせなかった。


彼女には自分の命を賭けても欲しいものがあった。


嘗ての恩師に銃を売ってくれと、神と信仰すら捨てても守りたいものがあると、そう懺悔して形振り構わず来た道だった。


戻るなんて考えもしなかった。


(ぅ・・・く・・・)


飛行場を飛び立ってから一時間以上。


圧倒的なGに肉体は悲鳴を上げている。


ブラックアウト寸前。


そんな加速の中で辛うじて精神力だけを糧にコントローラーのボタンを押し続けて現在位置は5位。

待っているチームから報告される情報に唇を噛み締めて、加速を解かないまま前の機体の後方に付けて何分立ったのか。


目まぐるしく彼女の前で順位を変えながら競い合っている数機にマヌエルは悔しさにも似た気持ちを持つ。


たぶん、彼女の前を行く機体の中にいるのはGAME本命チームの人員で・・・彼女達を引き立て役として使うだろう側だった。


マヌエルは他のチームの事なんて何も知らない。


もしかすると同じような境遇の人間だっているかもしれない。


そう考えてみても、やはりマヌエルにはその心の澱を拭い去ることは出来なかった。


追い詰められてもいないのに、金の為にこんな非人道的なGAMEに身を捧げる。


勝手だと分かっていても、本命達のデッドヒートがマヌエルには浅ましく見えた。


(・・・それは私も同じかもしれない。でも・・・)


本命達の求める場所にただ金だけが置いてあるとすれば、自分とは違うとマヌエルは思う。


とても身勝手で傲慢な物言いだとしても、誰かの為に求められない人間に負けたくない。


そう心の底からマヌエルは思った。


「・・・?」


キャノピー越しに見える空に不意な違和感を覚えて、マヌエルが左側の夜空に目を凝らした時だった。


コックピット内部で周辺から火花が散った。


「なッッ、何ッッッ!?」


その答えが出る前にキャノピーに機体状況が赤く表示される。


機体の一部分、マヌエルは知らなかったが電子兵装の中枢が完全に非常事態だった。


その結果は即座に現れる。


「そ、操縦が効かない!? う、嘘!?」


素人にも操縦できるよう煩雑で細かい機体調整を全てセミオート化していたGIOご自慢の機体が辿る末路は一つしなかった。


急速に安定を失った機体はそのまま墜落を始める。


「ど、どうしよう!? どうすれば!? あ・・う・・か――」


思わず祈ろうとして、それすら今の自分には資格が無いのだとマヌエルは咄嗟に口を噤んだ。


彼女は知らない


自分の機体以外にも周囲を飛んでいた全ての機体が同じ憂き目に合っている事を。


一機を残し、全ての機体が行動不能となったのは領海の接続水域ギリギリという場所においての事だった。



横田飛行場内、航空総隊司令部。


発令所。


本来ならば座っていなければならない人間がいない中央の椅子。


そこに鎮座するディスプレイの中でガタリと丘田が立ち上がっていた。


【どういう事ですか!?】


事態は不透明極まりなかった。


無線封鎖していたスクランブル機によって命令も出ていないのにほぼ全ての正体不明機が撃墜されるという事態に慌てていたのは何も丘田だけではなかった。


「き、機体からの信号を受信!! 『心神改三型』全機の『ECM spreader』発動を確認!!」


【何を戯けた事を!? アレは電源無しには動かないはずでしょう!!】


「どうやら機体に積まれている緊急時用のバッテリーに接続して使用したようです!! 本来は広範囲をカバーする為の装置ですが、範囲を縮小すれば限定的にですが、使用は可能かと」


【とにかくです! すぐに回線を繋いでください!! 無線封鎖を解除!!】


「は、はい」


丘田は内心で何が起こったのか思案しながら各所への命令を飛ばす。


本来、この状況は想定されていたはずのものだった。


そもそも中国軍閥にGIOのGAME情報を流したのは丘田だ。


軍閥とGIOの不和。


そして、日本から中国領内へと飛び立つ正体不明機を餌に日本の様々な状況を動かすのが【第十六機関】のシナリオだった。


幕僚会議が混沌としている間に現場の指揮権を内閣官房長官である安藤が自衛隊出身者である丘田に一任させて、なし崩し的に自衛隊内部への発言力拡大を目論んだのは目的の一つに過ぎない。


一見して日本が直面している中国軍閥との戦端を切る行為である第二GAMEだが、丘田は『心神改三型』でGAMEの機体を撃墜するつもりはなかった。


それはGIOをある意味で信じていたからに他ならない。


現在進行形でGIOが中国軍閥との戦端を切らせるはずがないというのが丘田の見解だった。


それは第二GAMEが始まってからのGIOの動きからも明らかで丘田に確信を齎した。


中国軍閥にはGAMEを止める理由こそあれ、GAMEを出汁にして戦端を早める理由はない。


そもそもがGIOがいなければ中国軍閥にしても戦争は困難な道なのだ。


それを知っていたからこそ丘田は軍閥にGAMEの情報を流した。


丘田にしてみれば、軍閥が沿岸部にパトリオットを配備したのは想定の範囲内。


それをGIOが阻止するのも想定の範囲内。


丘田にとっての問題は中国軍閥がGAME内容を知らずに「日本の侵略行為」が始まったと誤認する方だった。


軍閥内部は一枚岩ではない。


だから、情報を流す時も各軍閥が先走らないように平等に薄く情報を流した。


事態を察知した各軍閥とGIOの折衝が戦争への準備期間を逆に長くする結果になるはずだと丘田は予想し、実際その流れに軍閥とGIOは乗せられていた。


つまり、丘田の航空自衛隊内部での工作は部署への侵出以外では【GAMEの機体を無事に日本国外へ送り出す事】にあった。


後手に回っていると見せかけて、実際には盤面を転がし、第二GAMEという一手を己の巧手として仕掛ける。爪を研いでいたのは何も自分達だけではないと後からGIOや軍閥に思い知らせて警戒感を与えれば抑止力としても成り立つだろう。


そう考えたのだ。


安藤が雇ったフィクサーのチームがGAMEに勝つか負けるかは戦争の鍵を握る重要なファクターでこそあったが、大局的にはGAMEに負けても構わないつもりで丘田は策を巡らしていた。


だが、此処に来て計画には狂いが生じている。


その理由を握るパイロットへの通信が回復した瞬間。


丘田はオペレーターの声を遮って、直接回線に割り込んだ。


【どういう事ですか?】


【何だ? オペレーター・・・ではないのか?】


【こ、こちらは現在指揮を取ってい――】


慌てたオペレーターの声を丘田が遮る。


【私が現在の指揮権を預かっている者です。それよりも質問に答えてください。どうして『ECM spreader』を発動させたのですか? これは明らかな命令違反ですよ】


【・・・近づいてきた正体不明の機体が一機。我々にとある手段で情報を伝えてきた】


【どういう事です!?】


【そ、そんな!? レーダーには何も映っては!?】


オペレーターが丘田の声に報告を怠ったのかというニュアンスを感じ取り、全力でディスプレイに首を横に振って否定する。


【彼は言った。『このままでは戦争になる』と。我々に力を貸して欲しいと】


【どういう・・・彼の通信をこちらだけに回して秘匿回線に切り替えを】


【え? あ、はい!!】


即座に回線が秘匿回線へと切り替えられる。


丘田がsound onlyの画面から聞こえてくる声に耳を傾けた。


【では、まず訊いた事を教えてください】


【彼は元自衛官で現在日本の為にとあるGAMEに参加させられていると語りました。このまま機体を全て行かせれば戦争になる。だが、自分がゴール出来なければ戦争は回避出来ない。故に他の機体を墜落させる手段を持つ我々に手伝って欲しいと】


【俄かには信じられない話ですねぇ。無線封鎖の状態で・・・一体どんな通信手段を?】


【・・・・・・モールス信号です】


【はい?】


思わず丘田が聞き返す。


【我々に近づいてきた彼はキャノピーに映る光の有無で我々にコンタクトを取ってきたのです】


【・・・正気ですか?】


丘田の呆れた声に無線越しの声が苦笑した。


普通ならば、まず在り得ない。


馬鹿な話だった。


【実は自分が一番驚いていますよ】


【・・・自衛官としてあるまじき行為だと自覚がありますか?】


その言葉に声の主はポツリと呟く。


【昔のよしみでなければ誰が信じるものか・・・】


【どういう事です?】


【あの男の名前を自分の前で出す正体不明の戦闘機なんて馬鹿げたものでなければ、信じませんでしたよ】


声が続ける。


【自分の友人があの機体には乗っていました。こちらの事は分からなかっただろうが、それでもアレは彼だった】


【友人? 本当に貴方の友人が乗っていたのですか? 名前を教えてください。すぐさまに照会します】


【田木・・・『田木宗観』・・・自分が知る限り、自衛官の鏡のような男です】


丘田は口を噤んだ。


まるで世間は狭い檻のようだった。


GIOとの契約の破綻。


その契機となった男の名前に丘田は溜息を吐いた。



GIO管轄の滑走路脇の建造物一室。


三台のノートPCを猛烈な速度で叩いているアズを久重とソラは関心した様子で見ていた。


その脇で(フゥ)と了子がアズに大人しくしているよう言われた為、シュンとなっている。


無論、了子は見せかけだけでまったく反省などしていなかったが。


「スパコンも無しに政府機関の情報操作が出来るようじゃ日本もお終いだな」


「生憎とレーダー関係は現在GIOが妨害しててやりたい放題出来る環境だよ。さすがに一番気を使ってる通信まではこの状況じゃ無理だけどね」


まったく目を向けずにアズが軽い調子で応じる。


アズのやっている情報操作の高度さに驚いているソラは三台のPCによって作り出される虚妄の檻とでも言うべきデタラメな情報の数々に汗を浮かべた。


「これ・・・中国のも・・・」


「あっちは金で物は揃えてるけど各軍閥の使ってる機材の統合性が無かったり、使ってる人間の質が均一じゃないから情報管理は僕からしてみれば穴だらけだよ」


「「・・・・・・」」


二人が黙り込む。


実際、個人で国レベルの機関を手玉に取る在り得ない存在が目の前にいると思うと二人はアズが味方で本当に良かったと内心出会いの神様に感謝した。


「こ、これで一位ゴールは確定したわけだが・・・これから田木さんをどうする?」


「それは中国の友人に頼もうかと思ってる。今、GIOと軍閥の動きがおかしい」


気を取り直した久重の言葉にアズが答える。


「どういう事だ?」


「あっちのマスコミなんかが戦争を煽ってるとしか思えない報道を繰り返してる」


「何?」


「報道に軍閥からの規制が入ってないっぽいね。GIOの中国現地法人も軍閥とゴタゴタしてて、ゴール地点の上海で参加者確保の準備が難航してる」


「仲間割れでも始めたってのか?」


「コレは・・・たぶん、戦闘状態に入ってる。衛星の映像を画面に出すよ」


唯一飛んでいる田木の機体の映像が分割されて、片方に新たな映像が映し出される。


それは上空からの写真。


砂漠地帯が広がる一角がズームされていき、上海の高層ビル群が見えてくる。


角度を補正したカメラが即座に都市部の一角を映し出した。


「・・・今サラッと流したが、これ何処の衛星だ?」


「アメリカがこっそり使ってる奴の映像をちょっと拝借してる」


アメリカの軍事衛星。


しかも、極秘の軌道にあるのだろうソレの映像をちょっと拝借出来る能力に脱帽しながら久重は画面に映る散発的な輝きを見つけた。


「銃撃戦か?」


「そうみたいだね。やりあってるのは沿岸軍閥の一つとGIO中国、上海支部の連中だ。ビルのマークに注目してみればいい」


ライブ映像の中に更に小さなウィンドウが現れた。


火花が散っている駐車場の横。


ビルの側面の画像が抽出される。


そこにはGIOとの文字があった。


「どうしてこんな抗争に発展してるんだ?」


不可解な顔で久重が首を傾げる。


「軍閥はどうやらGAMEでの僕達とGIOの契約を知ったらしいね。今、アメリカの盗聴してる会話を傍受してみたけど【裏切り者が】との声が現地で飛び交ってる」


「いや、それにしてもおかしくないか? こういう状況は上で話し合いを持つもんじゃないのか?」


「確かに・・・僕も少し、この状況には違和感を覚える」


アズがPCに目を貼り付けたまま続ける。


「軍閥とGIOは言わばビジネスパートナーだ。確かに裏切りにも等しい僕達との契約は軍閥にしてみれば見逃せないものだけど・・・明らかにGIOを潰す気で戦闘を仕掛けるなんてのは普通じゃない。というか、報復にしても度が過ぎてる。これじゃ、契約を無かった事にしてくれとの交渉だって出来やしない」


「つまり、軍閥がGIOを見限った・・・?」


「いや、それは普通なら在り得ない。そもそもこの日中開戦はGIOが音頭を取ってる。軍閥側のデメリットが多過ぎるよ」


久重が画面の映像に瞳を細める。


「GIOを見限るデメリットよりもメリットが上回ったら在り得るって事?」


その何気ないソラの一言にピタリとアズが静止して、考え込んだ。


「軍閥に変化が起きてるとすれば、その変化は・・・何処にある・・・何処に・・・」


アズの指がもはや視認も難しい速度でキーボードを叩き始める。


「・・・コレだ」


アズの声と共に二分割されていた画面が更に四分割となる。


「これは例の空母か?」


「ちょっと事態が緊迫し過ぎて見落としてたよ。そもそも空母だけが四隻なんて運用上在り得ない。というか、日本を脅す目的にしても展開が速過ぎる」


「!」


久重が始めて気づいたように衛星からの映像に見入る。


確かに空母だけが四隻というのは運用上おかしいものだった。


「それとこの緊迫した状況にも関わらず、この空母の群れは全速力で日本領海に近づいてる。明らかに挑発や警戒の動きじゃない」


「今のところ、軍閥の動きで『メリット』に換算されそうなのはコレだけだ。これがどういうメリットに繋がってるのかまでは分からないけどね」


「空母・・・原子力・・・核・・・までは考え過ぎか?」


アズが「まさか」と僅かに顔を強張らせる。


「情報が足りない。そもそも核で日本を蹂躙する程に軍閥は追い詰められてはいないはずっていう前提に僕らは立ってる。それが間違ってる。あるいは何かを見落としているとすれば話は違ってくるかもしれないけど」


「・・・空母だけならまだいいが、原潜とかに関してはどうだ? 何か動きはないか?」


アズの顔が渋くなる。


「生憎とそっちは殆ど情報が入ってきてない。完全に行方を暗ませてる。数日前から殆どの原潜が出港してるとの情報はあるんだけど・・・現在進行形で中国の原潜がどうなってるのかは僕の情報網じゃ殆ど分かってない。ちょっと空自に訊いてみようか」


教えてくれないだろうなんて野暮なツッコミを久重はしない。


訊いてみるが文字通りであるはずもなく。


数秒で日本海周辺の地図がディスプレイに表示された。


その中には七つの点が光っていた。


「これは?」


「次世代哨戒機P‐X4正式名称未定な最新鋭機の現在位置。対原潜の切り札だ。今まで使ってた奴をアップグレードしただけの代物だけど、数を減らさなかったから能力がアップした分、超広範囲をカバー出来るって触れ込みだったかな。空自ご自慢の一品だよ。第二次世界大戦後も使われてた対原潜哨戒機の正統なる後継。今じゃ三機で太平洋全域をカバー出来る程の性能なんだから中国の三十年遅れた原潜になら十分過ぎる」


「で、電子兵装特盛りのジャンボジェットは何て言ってる?」


アズが数秒で目を細めて溜息を吐く。


「今・・・団体さんが津軽海峡通過中だってさ」


「おいおいおい!? まずいだろ!?」


久重が色めき立つ。


「これはちょっと確かにヤバイかもしれない。中国軍閥と情報操作ばかりに気を取られてたから・・・こっちにまで気が回ってなかったよ。そうか・・・だから、幕僚会議が紛糾してるわけだ。会議内容がICBMに関してじゃ仕方ないね。今にも核を撃つかもしれない原潜が日本を狙ってますなんて日本人には冗談の類だろうし」


「狙いは三沢か?」


「何で津軽海峡なのか。無論、目的は三沢が近いからなんだろうけど露西亜にも近いからね。海自の動きを今見てみたら、接続水域から戦闘機パイロットの回収を急いでるって話と南に回してた原潜を急いで北に向わせてるって話が引っかかった」


「どうして今まで分からなかったんだ? ご自慢の哨戒機が能力不足だったか?」


「哨戒機だって万能じゃないよ。無線を封鎖して深くまで潜られたら見つけるのは難しい。近頃、哨戒機の能力が上げられたのはそもそも年々原潜が技術革新で見つけ難くなってるからだし。それにしても津軽海峡まで来てるなんて。これはGAME前から計画されてたっぽいなぁ・・・」


「そっちはとりあえず置いておけ。裏側の事情は後で調べればいい」


「そうだね・・・」


その後があれればいいがとアズは内心の弱気を隠して続ける。


「米軍はどうしてる?」


「空に気を取られてたけど、もう動き出してるよ。停泊中の空母が八戸を出港したみたいだ。自衛隊も大湊の部隊を動かしてる。原潜側も見付かった事はすでに分かってるだろうし。いつ何が起きてもおかしくない」


二人が深刻な顔で顔を見合わせた時だった。


廊下に続く扉が開いた。


「随分と長いトイ―――」


振り返った久重はシャフが帰ってきたのだろうと叩き掛けた軽口を止めた。


「CEO・・・」


入ってきたのはGIOの特務を取り仕切り、GAMEのMCも努める『亞咲(あざき)』だった。


「何か用かな。ちなみに今の僕は忙しいよ」


その声に振り向かず声だけで応えたアズだったが次の一言に手のキーボード操作はそのままに振り向かざるを得なかった。


「フィクサーであるアズ・トゥー・アズにGIO特務から正式な依頼があります」


それは混沌とした日本の現状を変え得る依頼の始まり。


GAMEの最中に告げられた拒絶し得ない戦いの始まりだった。



二つの国の鬩ぎ合いを未だ本当の意味で人々が知らずにいた頃。


世界の裏から送られてきた指令にオズ・マーチャーは古巣の正気を疑っていた。


「・・・・・・」


工作員として長年勤め上げてきたオズにとって日本は最後の仕事場だ。


故に最後くらいは快適な生活がしたいともはや天国染みた贅沢(そこそこに高品質な衣食住)を実現している部屋の中、シャンパンの入ったグラスを片手にツマミをやりつつ、月1000円で日本の邦画見放題という有料サイトでサムライがバッタバッタと倒されていく映画をゆったりと鑑賞していた時だった。


一通のメールが端末に届いた。


「・・・・・・」


その内容を見たオズは殆ど映画の内容も忘れて、下された指令内容を吟味していた。


指令の内容は暗殺。


しかも、普通に考えれば在り得ない相手。


沖縄の米軍トップ。


「オレの知らない内に何が起こってるってんだ?」


不意に電灯が落ちた。


「!?」


異常を察知したオズは慌てる事なく寝台の下に必ず置いてある装備一式を数秒で身に付けた。


硝子が割れる音。


ゴトリと食卓の上に落ちたものを確認するより先にオズは反射的に狭いトイレのドアを開けて身を入り込ませ耳を塞いだ。


直後、爆発。


フラッシュグレネードの類ではなく手榴弾だった。


ドアに仕込んでおいた鉄板が上手く爆発の衝撃を和らげ、オズはドアに吹き飛ばされる形でトイレ内部へと吹き飛んだ。


強か体を打ったものの、五感は全て正常。


数秒の間も置かず外から足音が聞こえた。


それだけですぐ何処の部隊か看破したオズは理不尽な気持ちになった。


米軍の特殊部隊。


ハッキリと言えば海兵隊だった。


まだ殺すとも殺さないとも返していない。


それどころか準備すらしていないというのにこの有様。


メールの監視をされていたのは十分に在り得る可能性だが、それにしても決断が早過ぎる。


溜息を飲み込んでオズがトイレ内部から屋根裏へ続くカバーを拳で吹き飛ばし、懸垂の要領で体を上に引き上げる。


ドアに対して数発の銃声。


しかし、ドアにも鉄板が仕込んであった。


凹みこそすれ貫通はしない。


鍵周りも強固にしておいたオズに抜かりは無い。


いつ何時何処だろうとも逃走経路だけは作っておく。


それがオズのポリシーだ。


裏の業界で長生きしているのはそれなりの理由がある。


相手の常識に沿って非常識な壁を入れておく。


それに相手が手間取っている間に逃げ遂せる常套手段である。


屋根裏に上がったと同時に内側にドアが吹き飛ばされる。


馬鹿みたいにやってくる足音を後にしてオズは屋根裏から更に屋根の上へと移動する。


こっそり大家に内緒で開けておいた蓋を蹴飛ばして、屋根へ転がり出たオズが身を伏せながら素早く狙撃ポイントを睨み付けた。


バスンと鼻先で屋根が弾け、オズは屋根からそのまま地面へと身を躍らせ、両手両足を使って着地する。


体を襲う衝撃もそのままに腰に下げた見かけ上は手榴弾にしか見えないソレを引き抜いて、そのまま地面に叩きつけた。


「!?」


周辺の狙撃ポイント三点から頭と胸と胴体が狙い撃たれる。


二階の階段や通路に押しかけていた数人の目出し帽姿の黒服もアサルトライフルの洗礼をオズに浴びせ始めた。


あわや蜂の巣と思われたオズだったが・・・己に到達する前に消え失せる銃弾を確認して、腰に下げたナイフ二本を投擲した。


素早く投げられたソレが目だし帽二人の首筋を刺し貫く。


【?!!!】


その刃は幾分か錆びたようにボロボロと欠けていた。


【『ND‐P』だッッッ!!! 各自対『鉄喰い(Steeleater)』装備に換装!!!】


男達の怒号に構わず。


オズは全速力でその場から逃走した。


【追え!!! 逃がすな!!!】


銃撃と狙撃が追ってくるのを振り切りながらオズは涙目になって愚痴る。


「ちくしょうがッッ。高かったんだぞ!!」


オズが狙撃と銃撃を受け切ったのは地面に投げ付けた手榴弾のおかげだった。


見かけはそこらで使う手榴弾と代わりない代物。


だが、内部に入っているのは火薬や雷管なんてものではなく『ND‐P』と呼ばれる軍事用NDだ。


『ND‐P』(ナノデバイス・プロテクション)。


撒布したNDによる銃弾防御層の形成能力。


撒布空間内に侵入する金属を解体する事に特化した『ND‐P』はソラが使うNDのイートモードの劣化版とも言える。


NDの能力を限界まで金属の解体に割く為、稼動はせいぜいが起動から十数秒。


更に言えば、NDそのものの量に銃弾の解体量と解体速度が比例する為、少量での使用は出来ない。


一グラム単位で五百万を下らないNDを大量に使う時点でその金額は恐ろしいものになる。


性能は現存する如何なる小火器の銃撃をも防ぐが、コストが高過ぎて使う軍隊がいないという悲劇の兵器。軍事関係者からは金食い虫や【鉄喰い(Steeleater)】と呼ばれる『ND‐P』は殆どの場合が政治家や官僚、資産家や資本家の護衛に使われる言わばセレブ御用達の装備だった。武器商人としての顔を持つオズが己の資産の殆どを『ND‐P』に注ぎ込んでいると知っている者はいない。


「二年分の稼ぎも十秒で消える、か」


オズは全力で疾走しながら近辺の地図を脳裏から掘り出して逃走経路を探る。


懐の端末を取り出して警察に掛けたものの繋がらない。


「確認するまでもなく妨害済みと」


車両が追いかけてくるのは間違いない。


しかし、逃げるられるだけの移動手段が手近には見付からなかった。


「やっぱり車くらい買っておくべきだったか?」


日本の不審車両に対する対策はかなりのもので、安易に偽造免許を使って職質を受ければまず一発でバレる。


そんな理由でオズは緊急時の車両を用意していなかった。


オズの真横をライフル弾らしき何かが通り過ぎていく。


「クソ。こんなとこで銃撃戦するなよ!」


人通りの多い駅までは走っても十分以上。


すぐに追い付かれるのは分かっていた。


オズが走っていた歩道脇の小さな路地に逃げ込む。


腰に未だ備え付けてある銃を引き抜き、息を整えつつ、脳裏で自分を追い詰める的確なシミュレートを開始する。


車両による追跡。


『ND‐P』を抜ける銃弾への即時換装。


位置はとっくの昔にばれていると見て間違いない。


数は圧倒的で個々人の技量は粒揃い。


つまり、包囲された時点で摘む。


「此処は水と安全がただの国じゃなかったのかよ」


愚痴らずにはいられなかったオズは路地裏から道路へと歩き出した。


普通なら自殺行為。


しかし、包囲が完成したら死ぬ以上、オズに取れる方策は一つしかなかった。


(完成前の包囲を食い破る)


車両のブレーキ音と同時にオズが腰に備えて合った四角いブロック上の粘土の塊を道路に投げた。


車両のドアが開き、部隊が押し寄せてくる。


オズは路地横の民家の鍵を銃で破壊して内部に身を躍らせた。


予め腰のベルトから引き抜かれていたスイッチが押される。


――――――――――――――――――。


辛うじて耳を塞いで目を閉じたオズの体が吹き飛ばされた。


「ぐッッッ!!!?」


民家にはブロック塀がある為、この距離でも何とかなると感じたオズの直感は正しかった。


爆発によって民家は半壊しているものの、まだオズの肉体には致命的な傷は無い。


すぐむっくりと起き上がったオズが見たのは・・・めちゃくちゃになっているリビングにひっくり返って気絶している住人達の姿。


「悪いな」


ポケットから逃走資金用のダイヤを住人の手に幾つか握らせて、オズはすぐ道路へと出た。


爆発に炎上した車両が数メートル先に転がっていた。


音を聞きつけたらしい警察のサイレンも聞こえる。


警察が駆けつけるまで数分。


その間に包囲を抜けなければならない。


警察の厄介になれば、地位協定で身柄を渡されるのは必定。


結局は戦い、逃げ切るしかない。


「まったく。こういうのを引退したいと思ってたってのに・・・」


オズが目を細めて、走り出した。


部隊がいるはずの方角へと。


転がり落ちていく事態は誰の上にも等しく戦争という二文字を叩き付ける。


未だGAMEは終わらず。


誰もが祭りに向けて加速する今を急いでいた。



【領海接続領域付近】



「へぇ。日本て面白い所じゃないか」


大型クルーザーの上に水死体の如くマヌエルは引き上げられていた。


「――――――」


「遊んでたら美人が釣れるなんてね。ほら、お客さんを運んで。あ、丁重にね」


未だ十五にも届かないくらいの少年が回りにいる厳つい顔の男達に命令し、微笑んだ。

偽りの笑みはやがて真実となった。

危機を前にして怠惰の時間は終わる。

現代の巨塔が紅く染め上がる時。

二人の青年は戦場を目指した。

第三十六話「機動する世界」

攻め手追い、守り手走る。

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