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GIOGAME  作者: Anacletus
32/61

第三十二話 宵越しの宴

第二GAMEの開幕です。

前回とは違い空で行われる事になる今回ですが、中々描写に手間取ってるので少し次回まで時間が掛かるかもしれません。

では、第三十二話宵越しの宴を投稿します。

第三十二話 宵越しの宴


桜と朧月。


後は何が必要だと言わんばかりに夜を渡る柔らかな風。


はらはらと落ちては踏み締められる一片。


盃に姿を満たすのは夕闇の風情ではなく。


風を孕みながら遊弋(ゆうよく)する数隻の艦艇。


はためく旗は日の丸と米国国旗。


沖縄本土から約十五キロ離れた洋上。


約三キロ四方に及ぶ世界最大の海上軍事基地。


【ニライカナイ】


日本の技術の粋を集め、メガフロート技術と多くの先進技術の集約の結果生まれた沖縄米軍再編の要。


約八年の建設期間、約八兆円にも及ぶ建設費を持って浮かべられたソレはマスコミが報道の時使った【ギガフロート】という呼び名で地元には定着している。


海洋軍事基地構想はそもそもが沖縄返還後、2000年代初頭の政治的な迷走後に時の内閣が一部の有識者達を集めて検討させていた案の一つだった。


米軍再編計画の遅れと米国との関係の冷え込み。


沖縄本土と本州の政治家達の間の軋轢。


世間と沖縄の乖離。


これら諸々の結果として2030年代の政府が推進したのが海洋発電所計画と共に進展した浮体技術における新たな海洋軍事基地構想であり、沖縄米軍の再々編計画等と揶揄されたニライカナイの建設だった。


ニライカナイは沖縄本土に存在した在日米軍基地機能の約七割を集約する大規模軍事基地であり、再編後沖縄の基地の殆どは民間へと開放され、残りは自衛隊への引渡しが完了している。


毎年、維持費だけで三千億円以上を国家予算に計上するニライカナイは金食い虫の汚名を着ながらも、米軍、自衛隊、民間の三者が合同で運営する特異な基地となっている。


ニライカナイのセクションの七割は米軍と自衛隊の基地機能に特化しているが、残りの三割は先進技術を提供した日本国内の企業や大学などが運営する研究開発機関でもあり、基地と沖縄を結ぶ玄関口はそれらの機関で占められている。


大学や企業が独自に開発した遺伝子組み換え植物や最先端のホログラフ技術が看板や建築物にも取り入れられ、独特の景観を齎している為、観光資源としても近年は活躍していて軍事基地としては異例ながらも賑わった名所となっていた。


午後六時。


本島からの最終便の船が出た時点で港は全て閉鎖されていた。


年間を通して咲いている桜並木の下。


一人安物のカップ酒を煽る男がベンチに座っている。


安藤正明(あんどう・まさあき)


内閣官房長官。


時の人。


外国人に日本を売り渡した売国奴。


裏切り者。


闇献金事件の張本人。


etcetc。


「これで根回しは全て終わった。後は時間との勝負か・・・」


「いえいえ、これからも官房長官にはやって頂きたい事が山程あります。ここで自棄酒を飲まれても困るのですが」


「君は相変わらずだ。人使いが荒い」


安藤に話しかけたのは背は小さい男だった。


風貌は軍人というよりはデスクワークをしていそうなサラリーマン。


男の名は丘田英俊(おかだ・ひでとし)


陸上自衛隊幹部の一人にして二千年代初頭に生まれた日本発の諜報機関【第十六機関】への出向組み。


外国では【section16】と呼ばれている機関のオブザーバーを務める生粋の諜報員。


「それはこちらの言い分では?」


丸顔のスーツ姿。


典的な日本人像を地で行く丘田は安藤とは違いコーラをチビチビとやっている。


「ふ・・・幾らでも代えがある頭と絶対に代えの無い優秀な手足。どちらが本当は主人なのか」


「そうですねぇ。難しいところですが、今現在はどちらか欠ければ車輪は回らず、というところかもしれません」


丘田が暮れていく夕闇を見つめながらコーラを煽る。


「あの公安の鬼女が出てきてようやく政府は思い腰を上げた。根回しした甲斐はあっただろうが、如何せん時間が足らない」


安藤の愚痴に丘田がこれからの状況を説明する。


「GAMEが後二時間もせずに始まります」


「そうか。報告通りか」


「はい」

「・・・勝算はあるのか?」


「どうでしょうか。少なくともあの天雨機関を自称する以上、負けはない気もしますが」


「工作の方はどうなっている?」


「中国軍閥と台湾に情報を流した結果ですが、現在進行形でパトリオットを配備中です」


「あちら側からすればGIOの支援を続けさせる為にはGAMEを潰すのが手っ取り早いからな」


「同時にGIOは中国軍閥を攻撃して難しい舵取りを迫られる事になるでしょうね」


「無論、一枚岩ではない軍閥内部の間を取り持つGIOが表立って連中を攻撃するとは考えられないが、一波乱はあるだろう」


「これはまだ未確定の情報なのですが、GIOの特務内部に併設された【あの部隊】が動いた可能性があります」


「例の?」


「ええ」


「未だ信じられないが、その考えはもう旧いか・・・」


「昔はSFで済ませられました。しかし、現実にもうこれは起きてしまっている事です」


「遺伝子組み換え生物。デザインベイビー。クローン技術。法整備が整っていない隙をどう埋めるかが今後の課題として残るな」


「法で裁けぬからこそ、我々が存在します。我々は裁く事はありませんが葬る事なら出来る」


「物騒な話だ」


苦笑する安藤に丘田が首を横に振る。


「これはもう戦争ですよ。一企業が国家を相手取る時代。我々は法に絡め取られて身動きが取れないまま死ぬ選択はしないと決めた。ならば最後までやりましょう。身を粉にして」


「・・・二流だな」


丘田は安藤の評価に頭を掻いて笑った。


「ええ、自覚はありますとも。もっと飄々と仕事を出来る性格なら良かったのでしょうが」


「愛国心・・・か」


「そんな良質なものじゃありません。せいぜいが地域愛程度ですよ」


「ああ、そう言えば君の出生地は此処だったか?」


丘田が頷く。


「今の政府は沖縄を本土防衛の要とは思っても、最終防衛ラインとは思っていない」


「沖縄が不法移民労働者の巣窟だと知らないわけじゃあるまい?」


「ええ、確かにそうかもしれません。でも、此処も日本である事には変わりが無い」


「ここを戦場にするつもりは毛頭ない、と言っても信じられないか・・・」


「貴方も此処を本土とは思っていない類の人間だ。GIOはあくまで九州に軍備を置く手筈になっていた。それは此処が落とされる事を前提としていたからではないですか?」


「否定はしない。だが、此処が戦場になるのを黙って見ているつもりもない」


「・・・そう願いたいものです」


丘田が地面に腰を下ろす。


カップ酒を安藤が横に置いた。


二人の間にしばしの沈黙が下りる。


沈みつつある夕日は本土と比べるべくもなく美しい。


最初に口を開いたのは安藤だった。


「・・・愛国者は二度死ぬという話を知っているか?」


「それは確か・・・」


「一度目は公の世界から消えて、二度目は裏の世界から消える。だから、愛国者は二度死ぬ」


「・・・あの戦争に参加した政治家の方々のジンクスですか?」


「そうだ。あの戦争を経験した政治家の中には公の世界から消えた人間が何人もいる。その後、裏社会で名が挙がった後、また消えた。今も老齢の政治家からこの話はよく聞く」


「あれは政治結社潰しを裏でやっていたから、ではなかったですか?」


「知っていたか?」


「若い頃に先輩方から聞いた事があります。あの当時は右翼政党の障害になった左翼政治結社が雨後の筍と幾つも出てきて大変だったと」


「その当時の議員達の一部は今後の日本の政治を混迷させかねない結社を敢えて表の身分を捨てて裏で潰していた。当時、そういった議員達を後押しした財界の大物や何かと便宜を図った官僚の派閥は今も政治中枢にいて、よくこの話をしたがる」


丘田が耳を傾ける。


「その本人達や周囲の虎の威を借る狐も政治に携わる者として鑑とは言えん。だが、日本のような国の政治家がその人生を擲ってでもあの当時は何かを変えようとした事だけは評価されるべきだ。それは本当に愛国心が無ければ無理だったはずだ。法や倫理すら超えた所でただ国の為にと彼らが邁進していなければ、外国に強い態度も取れず、今も日本は国内世論も纏められないまま流されていくだけの国だっただろう」


「・・・・・・」


「今、日本に必要なのは愛国者だ」


「マスコミにナショナリズムと叩かれますよ?」


(ナショナリズム)と非難されても命を掛けて薄汚い仕事を出来る人間こそ私は信奉する」


「憂国の士は亡国の士となるかもしれない」


「いつだろうと私は過程より結果を重んじてきた」


「【第十六機関(section16)】はあくまで―――」


「諜報機関として国の命令に従わなければならない、か?」


「はい・・・・・・貴方がこれ以上日本の国益を害する場合、拘束する事は私に課せられた義務です」


「今はその国が無くなるかどうかの瀬戸際だ。身を切らずして何も出来はしない」


「それでも貴方はこの国を生かす為とはいえ国の一部分を売ろうとしている」


「それが最善の策だからだ」


「努力を放棄しただけでないと誰が証明できますか?」


「他人からの評価の為に働いているわけではない」


「・・・立ち止まって後ろを振り向けば何か違う道が見えるかもしれませんよ」


「私はまだ一度も死んでいない。だからこそ、二度目の死を迎えるまで立ち止まるわけにはいかない」


「酔っているだけでは?」


「酔っていないわけがない。戯けた事を言わないわけがない」


安藤が快活に笑んで立ち上がる。


「何故なら、今私はこの国の未来を背負っている。何の驕りも騙りも無く。ただの事実として、私は歴史の教科書に空前絶後の大悪人と記される未来を所望する」


「国を救った売国奴。最悪の官房長官として?」


「悪いか?」


「・・・いえ、男の生き様として憧れますねぇ」


丘田が笑みを消して安藤を見上げる。


「官房長官。貴方は・・・もう少し早く生まれてくるべきだったと、僕は思いますよ」


「生憎と祭りには乗り遅れる性質だ」


丘田がいつの間にか空になっていたコーラの瓶を置き去りにして立ち上がる。


「行きましょう」


「ああ」


二人が歩き出す。


数分後。


ニライカナイから政府高官専用機が東京へ向けて飛び立った。


しかし、その航空機が途中で別の空港に降り立つ事になると未だ二人は知らない。


機内の丘田に入った連絡は第十六機関からのものだった。


正体不明のウィルスが関東一円の病院で確認され始めていた。



薄暗いフロアーの中。


光る一台の端末。


画面に映っているのは随分と旧い映像だった。


【そろそろ語りを遮ろう】


ザリザリと砂嵐に滲んでいるのは灰色の町並み。


【何がどうなっているのか】


小さな山間の町。


【知りたいと望む君は一体誰だろうか?】


取り立てて何か語るべき事など無いはずの場所。


【君はどんな絶望の先で此処へ辿り着いたのだろうか?】


小さなバス停の休憩所。


【ワタシにそれを知る術はない】


琥珀のステッキを握る老人が一人。


【が、君がせっかく此処まで辿り着いたというのに何も話さないわけにもいくまい】


スーツ姿の老人は皺くちゃな口元を緩める。


【これからワタシが話すのは言わば、黙示録】


缶コーヒーを啜りながら詠う。


【まぁ、ただの老人の戯言だ】


この世の全てを諦観したような笑み。


【・・・まずは何処から話そうか】


老人は空を見上げる。


【そうだな。ワタシがまだこの世界に絶望していなかった頃の話からにしようか】


入道雲が蝉の声を吸い込んでいく。


【そう、確かアレはまだワタシが妻と息子の傍にいた頃の話だ】


ザリザリと映像が荒くなる。


【研究―――永――しか―――】


声が途切れ、雑音が酷く混ざり始める。


【――が―――結―――】


何を言っているのかは分からない。


【――な――か――だと――も】


しかし、老人の顔には狂おしい程の悲壮感と嘆きがあった。


【そ―――き―――だ】


数分にも及ぶ音声の空白。


結局、老人が何を言っていたのか映像は語らない。


しかし、本当に最後の最後の部分で僅かに砂嵐が治まる。


【・・・・・・これがワタシが知る全て・・・・・・ワタシが描いた全てだ】


急に映像の視点がブレる。


【こんな老人の退屈な語りに最後まで付き合ってもらった礼だ。君が今現在知りたいだろう情報を教えよう。たぶん、その為にこそ君はこの映像を手に入れたのだろうから・・・もし人を探しているのでなければ、ここで映像は切った方がいいと予め忠告はさせてもらう】


映像の外へと老人が向う。


カメラの外側から何かが駆けてくる音。


【・・・ワタシが立ち上げた研究会は総勢十三人から構成される。その内の二人にワタシは研究の殆どを託した。それぞれがどちらも天才だが役割は違う。二人とも―――】


熱い夏を走る子供の声。


【この世界の行方を真に憂う者達だ】


ソーダを買って欲しいとねだる子供の声。


【彼らに託した研究は究極的に人類へ決定的な選択を迫るだろう】


歩き出す音。


【これからの百年を彼らは変える。時代の変革を迎える事なくワタシは消えるだろうが、その予定は変わらない】


画面にはただ伽藍としたバス停だけが映され続ける。


【これを見る君にはどうか知っておいて欲しい】


最後の声。


【この世界は・・・未だ美しい。だからこそ、この映像をワタシは残すのだ】


画面が暗転する。


映像は終わり再びフロアーには静寂が戻ってくる。


「・・・・・・さてと」


一人映像をずっと見ていた男が肩を回して凝りを解した。


画面にはメール作成画面。


映像が添付されたメールがそのままネットの海へと送り出される。


「そろそろ帰る仕度を・・・」


「中臣さん?」


男が振り向くと顔見知りの警備員がやれやれといった様子で己を見ていた。


「また、ですか」


「ええ」


「今日は一体どんな理由で?」


「ああ、今日はもう終わりました」


「・・・珍しいですね」


「まぁ、毎日毎日残業しているわけでもありませんから」


「それならそれでいいんですが、とりあえず理由を」


「プロジェクトの最終段階を監視してまして」


「人事部のですか?」


「はい。今日は航空ショーを開きつつ人材を確保するという画期的な――」


警備員の男が呆れた様子で笑う。


「この間はライブでしたか? 本当に人事部門はお金を掛けてますね」


「いやいや、やっぱり会社の中核は金融部門でも開発部門でもないですから。最も大事なのは全ての部門を支える人・・・それが持論です」


「はぁ、そうですか。では、そろそろ行きましょう」


「はい。しばしお待ちを」


数分後、ディスプレイの電源を切って二人がその場を後にする。


二人の背中が通路の先に消えると不意にディスプレイの電源が入った。


画面上でカーソルが動き始める。


隠されていたファイルを見つけだされ、削除が選択されるとファイルの完全な削除と共に再びディスプレイの電源が落ちた。



【え~~皆様。大変長らくお待たせ致しました】


不自然なくらい黄色いポニーテールの少女が画面に現れ、ペコリと頭を下げた。


肌のあちこちに縫合痕を晒す姿は前と変わらず。


少女は黒いスーツ姿でGIO日本支社地下、ではなく。


野外ステージでマイクを取っていた。


GIO警備部特務外部班総括『亞咲(アザキ)』。


巨大コングロマリットGIOの裏方。


火消し又は暗部とも呼ばれる警備部の中核人物。


【本日は第二夜。しかしてGAMEは地中より飛び出て遥か空へと舞台を移す事となります】


誰もいない会場のステージでそれを見ているだろう客に向かい亞咲は続ける。


【では、今回のGAMEの説明に入らせて頂きます】


前回と同様、亞咲の後ろにホワイトボードが滑るように流れてきて止まった。


【今GAMEの舞台は日本から東シナ海を抜け中国本土の空域までです】


ホワイトボードの上に黒いマジックで書いたように地図が描き出される。


【つまり、恒例のレース形式によるGAME。航空機での指定空域の横断が内容です。基本的に得点はチェックポイントの通過順位に比例して加算されていき、各チェックポイントでの順位と総合得点順位に対して二つの賭け方をお楽しみ頂ける仕様となっています】


【総合得点順位の方は一番初めのスタートから五分で締め切らせて頂きますが、各チェックポイントでの賭けよりも倍率が五倍以上違うので、GAMEの行方次第では各チェックポイントでの負け分を取り返す事ができるかもしれません。ポイントは全部で五つ。賭けの開始から締め切りは各ポイントを最初のチームが通過した時点から五分後までとなります】


赤いマジックの線が黒い地図の上へと滑っていく。


【得点順位は随時公表とし、それはGAME参加者自身にも伝えらます。参加チームの方針や作戦の変更は時にお客様の思わぬような事態を引き起こすかもしれません】


地図の上の広大な範囲を赤い線が囲い込んだ。


【今回、こちらで設定する得点のボーナス倍率条件はこれです】


ボード上に四つの文言が書き出される。


一行目。


【他チームの機体と後続の距離を引き離してポイントを一位通過した場合×2倍】


二行目。


【他チームの機体を明確に自機の武装で撃墜した場合×3倍】


三行目。


【他チームの機体より五分以上遅れてポイントを通過し、次のポイントを最初に通過した場合×4倍】


四行目。


【他チームの機体が全てリタイアした状態でゴールを通過した場合×10倍】


最後の文言を読み上げた時、一瞬だけ亞咲は苦笑した。


【リタイアとなる条件は三つ。1撃墜された場合。2燃料切れで地上に降り立つか墜落した場合。3自機から参加者が脱出した場合です】


ボードが裏返る。


【ボーナス倍率はチェックポイントを通過した時点で確定し点に加算されます。これによっては後から通過しても得点において一位通過したチームを超えるチームが出てくる可能性もあります】


ボードがガラガラと再びその場から退場する。


野外ステージを映し出すカメラの先で亞咲が大きく伸びをした。


【さて、これで退屈なルールの説明はお終いとして。続いて今回使用される機体をご紹介しましょう】


亞咲の背後、GIOとロゴが入った白い壁が倒れる。


その先にある光景を見た賭けの参加者達の様子はほぼ二通りだった。


大笑いするか。


驚愕するか。


【今回使用されるのは我々が独自に入手した骨董品。F-18スーパーホーネットです】


亞咲の後ろは滑走路に置かれた戦闘機の群れだった。


【ちなみに中古品ですが、我々GIOの技術力を結集しカスタマイズした仕様であり、マシントラブルなんて事は断じてありませんのでご心配無く】


舞台を飛び降りて戦闘機の一つに近づいていく亞咲をカメラが追う。


【燃料タンクの増設で航続距離の問題はクリアーしました。逆にレーダーなんかには引っかかり易いですが、そこはGAME開始まで我々GIO運営の方で何とかします。GAMEが始まるまでは撃墜されないと思ってくださって構いません。単座式で武装はサイドワインダー二発のみ。かなり旧い機体ですが、この滑走路からこの状態で飛び立ちゴールまで普通に飛べるはずです】


亞咲が戦闘機の横でチラリと時計を確認した。


【そろそろ各チームのパイロットが来る頃ですね。一旦カメラをそちらに回してみましょう】


カメラ映像が切り替わった。


滑走路脇の建物の入り口からパイロットスーツなど着ていないチームの参加者達がゾロゾロと出てくる。


【ちなみに【都合の良い服】(パイロットスーツ)なんてのは用意していませんし、酸素マスクもありません。機体内部及びキャノピーは最新のものに変えてありますので与圧は問題無いはずです。常時、加圧酸素が供給されますので耐えて頂くのはGぐらいのものでしょう。無論、機体に何らかの障害が起きた場合はその限りではありませんが、それは皆さんの技量次第です。無線は骨振動のヘッドセットをお渡しします。参加チームが選抜した人間が機体を上手く扱える人間だろうがド素人だろうがGAMEには必ず参加してもらいますのであしからず】


狂気。


そう言えるかもしれない愉快げな声が続ける。


【各チェックポイントは全て軍事基地上空を指定してあり、通過中のチェックポイント間にある航空基地のレーダー及び情報システムには妨害を掛けませんので自衛隊か米軍か中国軍閥の戦闘機が現れた際は【イベント】としてお楽しみ下さい。チェックポイントを通過した時点でその間の航空基地には妨害が再開されますが、敵機が目視で参加チームを追っている場合は自力で逃げ切ってください】


無茶な話をされている。


参加者達の殆どは渡されたイヤフォンで亞咲の説明を聞きながら暗澹たる気分になった。


【何チーム残るかは分かりませんが、是非皆さん奮って賭けにご参加下さい】


胸に手を当てて亜咲が一礼し、滑走路から離れていく。


【ああ、言い忘れました】


楽しそうな声で亞咲が続ける。


【救済措置として離陸から全機が横一列に並ぶまでは全自動です。それと動かし方は従来のものからプ○ステ12のマルチコントローラーに変えておきました。キャノピーに各種情報が表示されるのでどうぞ活用して下さい♪】


『・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・』


GAMEの開始まで十五分。


その声を聞く亞咲以外の誰もが沈黙した。


GAME参加者達がコックピットで見たのは座席と脇の脱出レバー。


そして、前に備え付けられているゲーム機のコントローラーだけだった。

最後の日。

空より火が降ると書は語る。

なら、沸いて降る病も果たして破滅か。

混沌の宵闇に撒かれた影が大地に芽吹く。

第三十三話「新たなる火種」

天地共に已むか。

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