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残された声のゆくえ~最後の声、届けます~送り人、趙はるかの記録~  作者: 「大和 尚羅夢」小花羅夢一生推し


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初詣と、私のレンズ

――私の名前は、小鳥遊ことり。十八歳。プロの“送り人”見習いであり、たぶん日本一どうしようもない片思い中で、それでいて今日も元気に生きている女の子です。

あけましておめでとうございます、って感じで新年を迎えたのはいいんだけど、正月早々から私の胸の内はグチャグチャです。理由? あの二人のせいです。いや、正確に言うと、あの二人がめっちゃくちゃイイ感じになってきているせいです。

正月二日、朝はやくから「初詣行くぞー!」と張り切っていたのはパパ(剣崎大輔)で、結局それに引きずり出された形になったのが、はるかさんとたまさん、そして私。

神社の参道はもう、人が、人、人! 前が見えないんじゃないかっていうくらいの人の波。私は、クリスマスにパパがくれた新しいデジタルカメラを首からぶら下げ、わくわくしながら先頭を歩いていた。後ろを振り返ると、はるかさんとたまさんが並んで歩いている。二人とも普段着だけど、はるかさんはダークグリーンのコート、たまさんはベージュのロングコートに白いマフラー。すごく……お揃いっぽく見える。いや、お揃いじゃないけど、なんか色合いが合ってる。

ふと、冷たい風が吹き抜ける。たまさんが、マフラーの端をそっと押さえる。その瞬間、はるかさんが、自然に、わずかに体をずらし、たまさんの横に立った。風上側に。人混みから来る圧迫も、風も、少し遮るように。

シャッターチャンス!

私は、さっとカメラを構え、ファインダーを覗く。画面の中心に、マフラーを直すたまさんの横顔と、彼女をわずかに守るように立つはるかさんの後ろ姿が収まる。二人はお互いを見ていない。はるかさんは前方の人混みを見ているし、たまさんは自分のマフラーに目をやっている。でも、その距離感。ぎりぎりまで近くて、しかし触れ合わない、その隙間が、妙に“濃い”。

シャッターを切る。チッ、という小さな音。

(写メ①:風と人を遮る、無言のシェルター)

心臓が、ちくっと、小さく痛んだ。

「……めっちゃ、似合うよな、二人」

私は、自分に言い聞かせるように呟く。声は、人混みの喧騒にかき消されるほど小さい。そして、にっこり笑う。笑顔を作る。これでいいんだ。これで、いい。


お賽銭を投げ、二礼二拍手一礼。私はがっつりお願い事をした(内容は内緒)。はるかさんもたまさんも、無言で、淡々と拝礼している。パパは「商売繁盛でええようにー!」と大声でぶっこんで、周りの人に失笑されていた(いつも通り)。

その後、おみくじコーナーへ。ここも行列。やっと順番が回ってきて、はるかさんがまず引く。木箱をガラガラと振り、一本の細い棒を取り出す。番号を係の人に伝え、対応するおみくじをもらう。

彼がそれを開く。そして、眉が、ほんのり、しかしはっきりと曇る。

『凶』

文字が、ぱっと視界に入る。私は、思わず息を飲む。新年早々、凶……。

はるかさんは、無表情でその紙片を見つめている。いつもの、あの虚ろに近い表情が、ほんの少し、暗い影を落としているような気がする。

その時、隣に立っていたたまさんが、そっと手を伸ばした。何も言わず、はるかさんからおみくじの紙を取り上げる。彼女はそれを一瞥し、細い目で、くまなく文字を追う。そして、はるかさんの方を見上げ、口を開いた。

彼女の声は、周りのざわめきにかき消されて、私には聞こえない。でも、彼女の唇の動きと、ほんの少しだけ緩んだ、あるいはいたわるような表情から、何かを囁いたのがわかる。

はるかさんが、たまさんを見る。その暗い表情が、微かに、ほんのわずかに、和らいだように見えた。彼は、そっとうなずいた。

次にたまさんが引いたおみくじは、

『大吉』

金色の文字が躍っている。私が「わあ! すごい! たまさん、大吉だよ!」と声を上げると、たまさんは、そのおみくじを一瞬見つめ、それから、ごく自然に、そばの木の枝(おみくじを結ぶところ)に、きちんと結び付けた。

「……結んじゃうの? 持って帰らないの?」私が聞く。

「必要ない」たまさんの答えは淡々としている。「結果は、行動の積み重ねで変わる。紙一片の予言に依存する意味はない」

はるかさんは、まだ手にした“凶”のおみくじを、ポケットにしまおうとしていた。たまさんが、ちらりとそれを見て、言った。

「凶は、持ち帰らず、ここに結び付けるのが習わしでは」

はるかさんは一瞬止まり、それから、静かにうなずき、自分の“凶”も、たまさんの“大吉”の隣の枝に、ていねいに結び付けた。凶と大吉、二つの白い紙片が、風にゆらり、並んで揺れる。

(写メ②:並んで揺れる、凶と大吉)

ファインダー越しに、その光景を見ながら、また胸が痛む。これも、なんだか、絵になる。対照的で、でもどこかでつながっていて……。私は、シャッターを切る。

最後に、大きな釣り鐘の前で。みんなで順番に撞くんだけど、たまさんが撞く番になった時、撞木しゅもくが彼女には少し重そうだった。彼女は撞木の縄に手をかけ、力を込めようとする。

その時、はるかさんが、後ろから近づいた。彼は、たまさんのすぐ背後に立ち、両手を伸ばし──たまさんの手を包み込むように、彼女の手の上から、撞木の縄を握った。

たまさんの体が、ごくわずかに緊張したように見えた。でも、振り返らない。はるかさんも、無言。二人の背中と胸が、ほとんど触れ合うくらいの距離。はるかさんがそっと力を込め、撞木を引く。たまさんも、それに合わせる。

ゴ~~~~ン……!!!

深く澄んだ鐘の音が、境内に響き渡る。その音と共に、はるかさんの体がわずかに前に出る。たまさんの黒髪が、はるかさんのコートの襟に、かすかに触れそうになる。

一瞬。ほんの一瞬の、時間の止まったような瞬間。

(写メ③:鐘の音に包まれて、重なる影)

私は、息を止めてシャッターを切った。手が震えている。胸の奥が、ぎゅっと締め付けられる。嬉しいような、切ないような、もどかしいような……ぐちゃぐちゃの気持ちで、いっぱいになる。

「……ねえ、ことり、どうした? 撞かんのか?」パパの声で、我に返る。

「あ、うん! もちろん!」私は、カメラを下ろし、明るい声を出す。「私の番? ねえ、はるかさん、たまさん、私が撞くから、写真撮って! 絶対、かっこいいとこ撮ってよ!」

私は、撞木の前に立ち、思いっきりそれを引いた。ゴ~ン! 自分の出した音に、なんだかすっきりした。叫びたいような、泣きたいような、でも、とりあえず、大きな音を出せてよかった。

あの二人の、あの“絵”のような瞬間を、私は、ちゃんと記録してしまった。それを、どうすればいいのか、わからない。


参拝を終え、賑やかな門前町の通りに出た。甘い香りが漂い、私はすぐに目を奪われた。

「クレープ! クレープ食べたい! あそこの店、行列してる! 私、並んでくる!」

「おい、ことり、もうすぐ昼飯やで?」パパが呼び止める。

「デザートは別腹! はるかさん、たまさん、何か食べる? 私、いちごと生クリームのやつ買うね!」

私は、二人にそう言うと、行列の最後尾に走って加わった。並びながら、時々、後ろを振り返る。

はるかさんとたまさんは、少し離れた、人の流れの少ない歩道の端に立っていた。冬の柔らかい陽射しが、二人の肩に優しく落ちている。はるかさんが、たまさんに何か言った。たまさんが、わずかに首を傾げ、それから、ごく軽く、しかし確かに、口元を緩めて、何か答えた。

その笑顔は、本当に、かすかだった。でも、たまさんが笑うのって、本当に珍しい。宝石みたいに、きらりと光って、すぐに消える。はるかさんは、その笑顔を見て、ごく自然に、自分も少しだけ顔を和らげているように見えた。

二人の周りの空気が、とろりと甘く、温かく変わる。人通りは多いのに、彼らの周りだけ、妙に時間の流れがゆっくりで、静かで。

まるで……『デート』中のカップルみたい。

私は、そう思ってしまった。そして、その考えが、胸に刺さる。

行列が進む。私は、なるべく遅く進むように、わざと小銭入れを探すふりをしたりする。こっちを向いて、こっちに来て、って、心の中で願う。でも、二人は、そのまま、ゆっくりと歩道を歩き始め、ベンチに腰を下ろした。はるかさんが、何か言って立ち上がり、近くの自動販売機の方へ歩いていく。たまさんは、一人、ベンチに座ったまま、空を見上げている。

その時の、たまさんの顔。

私は、カメラをそっと構えた。ズームを最大まで寄せる。

ファインダーの中のたまさんは、目を細め、冬の青空を見つめていた。いつもの鋭く冷静な、あるいは無表情な顔ではない。疲れたり、寂しがったりしている子どものように、どこかぼんやりと、遠い目をしている。でも、同時に、とても穏やかで、緩んでいる。警戒心のない、本当の、たまさんの顔。

はるかさんが、コーヒーの缶を二つ持って戻ってくる。たまさんは、それに気づき、ゆっくりと視線を下ろす。はるかさんが一つを渡す。彼女はうなずき、受け取る。そして、もう一度、空を見上げる。はるかさんも、彼女の隣に座り、缶コーヒーを一口飲みながら、同じ方向を見る。

言葉は交わさない。でも、その沈黙が、何より雄弁に、二人の間にある“何か”を物語っている。

私は、シャッターを切れなかった。指が、凍りついたようになる。

あのベンチ。あの二人の隣。あの景色を見つめ合う横に。私の場所は、ない。

絶対に、ない。

それは、はっきりと、残酷にわかった。

「お嬢さん、ご注文は?」

店員さんの声に、はっとなる。「あ、すみません! いちごと生クリームのクレープ一つです!」

やっと手にしたクレープを持って、私は、重い足取りで二人のいるベンチに戻る。にこにこ笑顔を作る。いつもの、元気なことりで。

「待った? ごめんね、行列長かった! ほら、見て、めっちゃおいしそう!」

私は、大きなクレープを、思い切りかじった。甘いクリームといちごの酸味が口の中に広がる。

「……わあ! めっちゃ、あまーい!」

声は、自然と弾んでいた。でも、その甘さが、喉を通り過ぎ、胸のあたりに達した時、信じられないほど苦くなった。

鼻の奥が、つんと熱くなる。目頭が、熱くなる。

ぽたっ。

一滴の、大きな温かい水滴が、私の頬を伝い、手に持ったクレープの、ふわふわの生地の上に落ちた。茶色い焦げ目の上で、小さくはじける。

え? なに、これ。

私、泣いてる?

なぜ?

「……ことり?」

はるかさんが、低い声で、私の名を呼んだ。心配そうな、少し戸惑ったような目で、私を見ている。

たまさんも、静かに、じっとこっちを見つめている。その目は、何かを看透かすように、深く、悲しげにさえ見えた。

ダメ。見られちゃダメ。笑わなきゃ。

私は、大きく目を見開き、クレープをもう一口、頬張った。涙と一緒に、ごくりと飲み込む。

「だ、大丈夫! なんでもない!」

声が、ひび割れそうになるのを、必死に抑える。

「ただ……クレープが……めっちゃ、あまくて!」

私は、涙をもうひと粒こぼしながら、くしゃっと笑った。

「あますぎて……涙、出ちゃった! あはは! ばかみたい!」

はるかさんは、少し困ったような顔をした。何か言おうとしたが、言葉が出ない。

たまさんは、無言で、自分のポーチから、白いハンカチを取り出し、そっと私に差し出した。何も言わず。ただ、差し出す。

私は、そのハンカチを受け取り、顔をごしごしと拭いた。涙を、そして、もしかしたらくしゃみも出そうな鼻を。ハンカチには、たまさんらしい、ごく淡い、どこか薬草のような、清潔な香りがした。

「……ありがとう、たまさん」

私は、鼻を啜りながら言った。

たまさんは、微かにうなずいただけだ。彼女の目には、理解と、そして、私にはどうすることもできない、優しい哀れみのようなものが、一瞬、よぎったように思えた。


夜、事務所の私の小部屋。

パパは用事で出かけたまま帰ってこない。はるかさんもたまさんも、それぞれの部屋にこもっている。静かな正月の夜。

私は、ベッドに寝転がり、首から下ろしたカメラの電源を入れた。今日撮った何十枚もの写真が、小さな画面に映し出される。

ほとんどが、はるかさんとたまさんの写真だ。

風を遮るはるかさんの後ろ姿。

並んで揺れる凶と大吉のおみくじ。

鐘を撞く、重なり合う二人の影。

ベンチで空を見上げるたまさんの、珍しく緩んだ横顔。

どれも、これも。一枚一枚が、美しくて、痛い。

私は、カメラを置き、枕の下から、鍵のかかった小さな日記帳を取り出した。パパが、私が「七星堂」に来た時にくれたものだ。「なんでも、書いとけ。頭の中ぐちゃぐちゃやったら、紙に吐き出したらええ」って。

ペンのキャップを外す。今日の日付を書く。

1月2日(日) 晴れ お正月

はるかさん、たまさん、パパと、初詣に行った。人、多すぎ!

写真、いっぱい撮った。二人の写真、ばっかり。

はるかさんがたまさんを風から守ってるの。たまさんがはるかさんの凶のおみくじに、何て言ったのかな。鐘を一緒に撞いてた。隣に並んで、空を見てた。

二人、とっても幸せそう。何も言ってないのに、空気が、とろけそうな甘い匂いがするみたい。私、ずっと後ろから、こっそり写真撮ってて、完全にストーカーみたいだった。あはは。

クレープ、食べた。すごく甘かった。

なのに、泣いちゃった。恥ずかしい。

なんで泣いたんだろう。

甘すぎて、ってウソついた。本当は……

本当は、あの二人の、あの“絵”みたいな時間が、眩しすぎて、近づきすぎたら焼けちゃいそうで、でも、絶対に入れなくて……

胸が、裂けそうに痛かったから。

パパが、前に言ってた。

「ことりよ、人を好きになるってのは、その人を“独占”することやない」

「相手の幸せを、自分のことのように願えるかどうかや」

じゃあ、私のこの気持ちは、なに?

はるかさんが幸せなら、それでいいの?

たまさんと一緒で、幸せそうなら、それでいいの?

……ううん。

ダメ。

心が、「いいよ」って言わない。

とっても、とっても痛い。

悲しくて、悔しくて、もどかしくて、もう、胸がパーンってはじけちゃいそう。

私、

私、大好きな二人が、どんどん、どんどん近づいていくのを、じっと見てるしかないみたい。

そして、その先にある、きっと私のいない未来に、一歩ずつ近づいてるみたい。

私にできるのは、ただ、ここに立って、笑顔で、シャッターを切ることだけ。

ペン先が震える。インクが滲む。私の涙が、紙の上に、ぽたぽたと落ちている。文字がにじんで、わからなくなる。

私は、日記帳をぎゅっと胸に抱きしめた。そして、膝を抱え、顔をうずめた。

部屋の外は、静かだ。はるかさんの部屋からも、たまさんの部屋からも、物音はしない。みんな、どんな夢を見ているんだろう。

遠くから、除夜の鐘ではない、どこかの寺の、時間を告げるような、ゆったりとした鐘の音が、かすかに聞こえてくる。新年の、深い夜。

私は、膝の間に顔を埋めたまま、ごく小さな、かすれた声で、呟いた。

「……あけまして……おめでとう……はるかさん……たまさん……」

声は、布に吸い込まれ、消える。

新しい年が、始まった。

そして、私の胸の痛みも、まだ、ずっと続いている。

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