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第2話 DDi

本作は「集英社オレンジ文庫・第237回 短編小説新人賞」に投稿した作品です。

「あぁ、めっちゃ疲れた。日曜まで補講なんて労働基準法違反なんじゃないの?これ。」

日曜の夕方、それなりに混んでいるファーストフード店のテーブルに山田さんは突っ伏した。

「補講は労働じゃない。したがって労働基準法の適用はない。」

シェイクを片手に佐藤くんが真面目に突っ込む。相変わらず背筋が伸びていて、姿勢がいい。なるべく気づかれないように、私はオレンジジュースのストローに口だけつけながら、佐藤くんの顔をこまめに見た。

「んなことはわかってるよ、何マジで言ってんだよ。」

山田さんは突っ伏したまま、佐藤くんと反対側にゴロンと転がる。

「山田さぁ、飯田ちゃんの婚活は順調なん?」

田中くんがポテトを1本つまみ、口を小刻みに動かして、まるで製材機のようにポテトを口の中に入れていく。

「いや、よくわかんないんだよね。飯田ちゃん、あんま自分のことは話してくんないし。」

「飯田ちゃん、ああ見えて乙女だからなぁ。でも、あんま順調ってことはないよなあ?飯田ちゃん、いい子やけど、あの容姿なら、なぁ?」

私は急に田中くんから話を振られ、なんと言っていいのかわからず、うなずくでもなく、首を振るでもなく、曖昧に相槌を打った。

「何が「いい子や」。親戚のおっちゃんか、お前は。」

山田さんは机の上にまっすぐ伸ばした右腕に頭を乗せたまま、田中くんを上目遣いに見た。

「でもさ、本当にいい子だよな、飯田ちゃん。話はよく聞いてくれるし、面倒見はいいし。幸せになってほしいよな、いやマジで。」

田中くんの言葉に、今度は私が大きくうなずくと山田さんはだるそうに机から上体を起こした。

「飯田ちゃん、いくつだっけ、今?」

「29くらいじゃね?」

「そっか。飯田ちゃんの容姿を考えるとギリかな。」

山田さんは「29」と空中で指を動かした。

「せやな、今年が勝負やな。もうあと、3ヶ月しかないけど。」

田中くんは、またポテトをガジガジ食べながら、遠い目をして言った。

「余命3か月か。」

腕組みをした佐藤くんも目を閉じたまま、しみじみと言う。

「いや、死ぬわけじゃないけどね。」

私は少しだけ語気を強めて、みんなに言った。

私の言葉に3人とも私をじっと見つめる。

「え?何?」

「藤原はさぁ、飯田ちゃんに幸せになってほしいと思う?」

「え?う、うん。」

「何で?」

田中くんの言葉に、私は少しだけ言葉が詰まる。

「ええと、飯田先生はいい先生だし、生徒のことをすごく考えてくれてるから、かな?」

戸惑う私を見て、田中くんは大きく息をついた。

「入れてもいいんじゃね?藤原なら飯田ちゃんの為なら一肌脱いでくれると思うし。」

「そうだねぇ。」

山田さんは考え込んだ後、視線を佐藤くんに向けた。

「新しい視点を入れるのもいいかもな。」

そう言って、佐藤くんは山田さんと田中くんを見つめてうなずいた。

「え?なに?何かあるの?」

私は手に持っていたオレンジジュースをテーブルの上に置くと椅子に座り直した。

「藤原、俺たち、会を作ってるんだよ。」

「会?」

3人とも同じクラスだけど、このDDクラスで一緒になるまで、私は、ほとんど話をしたことがなかった。特に、佐藤くんとは緊張するし、何より、私がおバカなことがバレて佐藤くんに幻滅されたくなかったから。それに、この3人同士も親しいと聞いたことはなかった。

「そ。飯田ちゃんに男を見つけてあげる会。」

「「見つけてあげる」と言うのは不遜な言い方だぞ、田中。僕たちは、飯田先生の婚活を陰ながら支援する会を立ち上げている。」

佐藤くんは田中くんをたしなめた後、私の方を向いて言った。佐藤くんと面と向かって話をするのは、初めてかもしれない。

「私たちはDDiって呼んでる。藤原も入る?」

山田さんはアイスコーヒーから引っこ抜いたストローを私に向けながら聞いた。

「もともとはDDクラスを見てる飯田ちゃんを応援する会だったけど、成果が上がらなさすぎるから、今では「ダメダメ飯田ちゃん」の略称と言われてる。」

「言われてない。言ってんのは、お前だけだろ、田中。」

山田さんは、ストローを田中くんに投げつけた。

「冷た!!投げんなよぉ。」

田中くんはテーブルにもぐって床に落ちたストローを拾った。

「みんなで飯田先生の婚活を支援してるってこと?」

「そうそう。飯田ちゃん、いい子だけど、見た目はさぁ、なんていうか、あんな感じじゃん。苦戦してると思うんだよね。」

田中くんは拾ったストローを指先でくるくる回しながら、私の質問に答えてくれた。

「私たちは、みんな、飯田ちゃんが好きだし、飯田ちゃんのサポートができればと思ってる。藤原も賛同するならDDiに入らない?」

山田さんが言っていることを聞きながら、私は、まじまじと山田さんの顔を見つめた。

「な、何?」

「え、いや、あの、ごめんね、山田さんって、もっとこう、斜に構えた人なのかと思ってた。」

「どういう意味よ!?」

「ご、ごめんなさい。」

「いずれにせよ。」

それまで黙っていた佐藤くんが、少し大きな声を上げて、私たちの会話をさえぎった。

「支援の第一段階は失敗だろう。判然としないが、結婚相談所の成果が上がっていないなら、新しいアプローチが必要だ。」

佐藤くんは、そう言うと手に持ったシェイクのストローをくわえ、ほっぺたをこれ以上ないほどへこませて、ひと息にすべてを飲み干した。

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