9話 会議
「酉脇氏は人見知りですし、大人数だと馴染むのが大変でしょう。かと言ってコンビは仲違いした時の逃げ場がない。三人が妥当だと考えています。」
平井はパソコンの画面に視線を貼り付けながら、淡々と語る。
少し手狭な会議室には十名の男女が集い、スクリーンに共有された資料に注目している。
「彼を主軸にするのは当然として、彼に埋もれないような人材が必要です。」
平井がすっと周囲に視線を移す。
「…埋もれない…って言ってもなぁ…」
「あの酉脇城だぞ…?」
皆がため息混じりに呟くと、平井は苦々しく
「…ですよね…」
と俯いた。
葬式でも始まるかのような空気。
その中で一人、怒りに震える女がいた。
「なぁにが酉脇城よ!!」
机を叩き椅子を跳ね飛ばす勢いで、立ち上がると全員を威嚇するように睨みつける。
「あんたらねぇ!始める前から諦めてんじゃない!!」
角田育美。ルミのマネージャーだ。
「でも育美さん…」
「うっさい!!私みたいな超絶美人でも埋もれるグループだってあんのよ!?酉脇城なんて埋め立ててやるくらいの気概持ちなさいよ!!!!!」
「…いや、主軸埋めちゃダメでしょう…」
彼女は元アイドル、かつてはルミと共にあにまるzooとして活動していた。
申告通りの美人ではある。しかし、それを凌駕する性格だ。
「いらっいらすんのよ!うじうじうじうじ…!!噛み付くわよ!」
彼女が荒々しく言い放つと、社員は口々に「でた」、「おっ」と茶化す。
「噛み付くわよ!」
これは彼女がアイドル時代に使っていた決め台詞なのだ。
周囲の反応が気に食わなかったのか、育美は顔を赤くしてさらに怒号を響かせる。
「っ!谷口!!あんた担当でしょ!?なんかないの!!!!」
議事録作成に励んでいた猪介は手を止めて、育美を見つめた。
「なにか?角田先輩の発言、どうまとめよう…とかすか?」
疲れたように目を細め、明らかに茶化している。
「馬鹿!!絶世の美女が喝を入れたとかでいいのよ!!で!?ないの!!?」
「……はぁ。まぁ、素人意見ですけど。」
猪介は面倒そうにノートパソコンを閉じ、座り直した。
「そりゃ酉脇さんほどの美形を集めようとかは無理ですけど。ベクトル違いならいいかと。」
「ベクトル?」
女性社員が首を捻る。
「まぁ違った系統ですね。美人系は避けて…体育会系とかインテリ系とか?ジャンル違いなら彼と比べられることもないでしょう。」
猪介が淡々と言い切ると、周囲は「はあ」、「なるほど」など感心した様子だ。
育美も「ちゃんと考えてんじゃない。」と悪態をつきながら着席した。
平井は「確かに」と呟きながら資料を切り替えた。
皆がスクリーンに注目すると、
『(仮)Surprise』の文字が表示される。
「コンセプト案はいくつか持ってきましたが…これが最適かなと。」
「サプライズ?楽しそうでいいじゃない」
育美が頬杖をつきながら平井の言葉を待っている。
「楽しい、幸せ。そんなイメージはもちろん込めてます。さらに言うと…酉脇氏にとって、これから経験するたくさんのこと。全てがサプライズになり得る。」
なるほどと数人が頷く。
「さらに先ほどの谷口氏の意見を加えると、多種多様な魅力が集まり、サプライズのような驚きと新鮮さを与えるユニット。目が離せない、演劇とアイドルの特色を拾ったコンセプトです。」
「いいね」、「うちらしい。」と感嘆の声が上がる。
それに割って入るように、蒼凛舎から移籍してきたメンバーの一人が発言した。
「メンバーはどう集めるの?オーディション?」
「オーディション…」
平井は気まずそうな顔で黙り込んだ。
「蒼凛舎のタレントは引き抜けない。酉脇城とユニットなんていくら積まれても断られるし。」
元蒼凛舎メンバーから口々に肯定の言葉が投げられる。
「オーディションは無理でしょ。」
育美は癖のある黒髪を弄びながら言い放った。
「アイドルやりたい人は演劇したくないだろうし、演劇したい人はアイドルしたくない。しかも同ユニットに芸能界大ベテランの酉脇城。無理ね。」
…そう、Curtain Riseのテーマ「アイドル×演劇」はその特殊性ゆえに、応募者と募集元のニーズが一致しにくいのだ。
皆が頭を抱える様子を、猪介が冷めた目で見回した。
「私も同意します。酉脇さんと接した個人の所感ですが、芸能界を熱意持って志す人物と彼は、お互いに悪影響でしょう。」
元蒼凛舎メンバーが深く頷く。
「加えて、オーディション。競争に身を投じられるような人物は酉脇さんと衝突する可能性が高いです。」
彼が言い切ると平井が固く結んでいた口を開いた。
「欲を言えば…お互いの個性を殺さないための協力が…必要です。」
会議室はため息や唸り声で満たされた。
「それならぁ、スカウトになっちゃうよね…」
元ヴィエルジュメンバーの女性が恐る恐る呟く。
「スカウトかぁー」
「やっちゃう?スカウト。」
「ヴィエルジュの十八番!」
元ヴィエルジュメンバーが次々と軽い野次を飛ばす。
するとそれを遮るように猪介が冷たく言い放った。
「しかし、ここは蒼凛舎の傘下。技術やビジュアルに高い水準が求められます。」
育美は語尾に被せて発言した。
「それに!Curtain Riseのキャッチコピー。実力者のお遊戯会。忘れんじゃないわよ。」
「実力者じゃないと認められないってなれば…」
各々に腕や足を組み替え、思考する。
「オーディションに参加しませんか?ってスカウトする。…とか?」
平井が独り言を漏らした。
すると数名が手を打ち、深く頷く。
「それしかないでしょうね。」
誰ともなく言い出すと、それに同意した。
「…誰が?」
元蒼凛舎女性メンバーが言い出すと、それぞれが顔を見合わせた。
数名が首を横に振り、誰とも目を合わせないようにしている。
「……あの…」
平井が控えめに手を上げた。
皆の視線が彼女に集まり、静まり返る。
「じ、実は…もう数名目星が…」
平井は、居心地悪そうに肩を丸めていた。




