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Curtain Rise!  作者: 風見ことは
序章
8/21

8話 配役



「先程の質問に戻ります。アイドルへの転身理由を伺ってよろしいですか?」


酉脇氏は斜め上を見て少し考えた後、語りだした。

「えっと…アイドルになるつもりはなくて。退所すると決めて、社長に話したんです…その時に自分を見つめ直した方がいいって……それでお休みをいただいたんです……」

谷口氏は淡々と相槌を打つ。


「蒼凛舎をやめたら介護職に就こうと決めていて、休みの間に調べたり勉強してて……その息抜き?で映画館に行ったりテレビをみたりしたんですけど……」


酉脇城と介護。

正直全く結び付かない。でも…確かにこの素直な性格は重宝されるだろう。

もっとも私が利用者なら、天界からお迎えが来たと勘違いしてその場で事切れるだろうが。


酉脇氏は何から話そう…と言葉を詰まらせながら続けた。

「えっと…龍さんっているじゃないですか、俳優の。映画を観て凄いなと思って。でもバラエティでお話してると印象が全く違って…えっと、なんか…図々しいんですけど。近いかもって……」


自分と通ずるものがあったと言うことだろう。

酉脇氏は恥ずかしそうに縮こまり、谷口氏の反応を伺っている。

「あんまり詳しくないんですけど…元々演劇やってた人なんですよね。龍さんって……それで、演劇って見たことないなぁ…って…」

視線は恐らく谷口氏を捉えているはずだが、どこか遠くを見ているような感じがした。その後ハッとしてまた縮こまり、赤面する。

酉脇氏は何がそんなに恥ずかしいのだろう……


「そ、その……龍さんが所属してた劇団の公演…行ってみたんです。ドラマとは違った面白さ…?迫力…かな、があって。それで!体験みたいなのをやってたから、やってみたんです。楽しくて……」

それまでモジモジと縮こまっていた酉脇氏が姿勢を正し、真っ直ぐ谷口氏を見つめる。


「趣味にしようと思ったんです…!」


私はあんぐりと口を開けていた。

そこは、演劇の面白さに気づいて、その道を目指す流れじゃないのか?趣味??

あまりにもシュールな状況。

笑いを堪えながら、これが酉脇城…と感心してしまった。


「そうなんですね。」

谷口氏の冷たいとも思える一言が響く、酉脇氏は別段気にとめた様子もなかったので、恐らく表情は穏やかだったのだろう。


「それを社長に伝えたら…Curtain Rizeの新規企画に協力してくれないか…って。演劇をするならいい環境だし、知った顔もいるだろうから…って…俺はその、この通りの人見知り、なので……心配してくれたんですね。」

照れているというよりは自嘲気味。


…一度、再生を止めて考える。


酉脇氏は不思議だ。

おかしな所で照れて、おかしな所で肩をすくめる。発言もどこかズレている。

彼の世界観は是非とも活かして行きたいが…

この独特さはなんなんだろう?


普通…自分がしてきた活動のことを聞かれたら、功績自慢や苦労話が続くのではないか?


彼は華々しい功績を持っている。

しかし、それらには一切触れず。周囲への感謝を述べた。

自らの至らなさには自嘲的。才覚や功績、苦労には無自覚。

物心着く前からの習慣になっていたとはいえ、普通ではない食生活、日常。嫌になったことが本当にないのだろうか。

いや…無いからこそ素直に周りへの感謝ができるのか。

プライドはあるが、それは蒼凛舎の一員として。仕事を貰っているモデルとして。のニュアンスが強い。


才能の自覚は無い、立場への責任感はある。

そんな奇跡的状況だ。


プライベートにおいては、好きな食べ物ですら疑問形。

しかし、決して無気力ではない。

映画を観て気になった俳優を調べる。演劇に興味を持ち劇場へ足を運ぶ。更には参加ありがとうしてみる。

かなりの行動派、消極的でなく積極的……


分析の断片をノートに書き出していた手を止め、引きで見てみる。

…なんだか事件の真相に迫る刑事の気分だ。

まだ情報が足りない…私は再生を再開した。




自嘲気味の酉脇氏は、口元に緩く笑みを貼り付けたまま静止していたがやがて首を垂れると

「情けない…」

と消え入るような声で呟いた。


その後、ハッと顔を上げる。


「それで、Curtain Riseのこと全然知らないなぁと思って…!ルミちゃんは知ってたんですけど…あ、詳しくは知らないんですけど……」


几帳面なくらい素直だ。

好きだがたこ焼きは2回しか食べたことがない。身体は180ではなく178㎝、ルミちゃんを知っているが詳しくない。


黙っていれば良いことも訂正しないと気が済まない。

批判を恐れた素直さと言うよりは……誠実。

自発的に誰に対しても誠実でありたいと言う意志を感じる。

芸能界に長年いて、ここまで無垢でいられるものなのか……?蒼凛舎の手腕なのか…


「ミュージカルとか…アニメの舞台とか?そう言うのだと思っていたんです…違うんですね。どっちも詳しくはないんですけど……」

「…少し特殊かもしれませんね。」

谷口氏はぶっきらぼうにつぶやいた。


アニメの舞台というのは2.5次元の事だろう。

よく誤解されるが私たちの売りは、演劇とアイドルの融合。楽曲はストーリーに沿ったものではなくテーマソング止まりだ。

これはルミが楽しい時に歌う曲、悲しい時に歌う曲、そういったことを観客が解釈しなくてはいけない。


「歌もダンスも台本も、覚えないといけないですよね…?ルミちゃん…すごく大変そうなのに楽しそうで…凄いなぁ…って…俺あんな風にできるのかな……」

「…それは、酉脇さんも同じですよ。」

「へ?」


「私からしたら…あなたも同じです。幼い頃から食事も生活も、自由とは言えない。言葉の通じない国で、親元を離れて活動して…客観的に見て、とても苦労しています。…しかし、あなたは楽しかったと、私のような者からすれば考えられません。」

谷口氏の淡々とした語り口に対して酉脇氏はドギマギと赤面している。

「ええ…?そ、そうですか?…俺はその、すごく良くしてもらってますし……!周囲に恵まれたんですね…」

「…Curtain Riseでもそう思っていただけるように尽力いたします。」

先ほどより少し優しくなった声色。

酉脇氏はさらに顔を赤くし、苦しそうに「いえ…そんな…」と絞り出すのがやっとのようだ。



落ちたな…

そう感じた。谷口氏の掌握術は本当に恐ろしい。

彼の寄り添うような発言は、その実、彼が都合よく他人を動かすために出た甘言でしかない。

しかし、彼の行き届いた配慮やスマートな立ち振る舞いを信用し、彼の思い通りに動いてしまう。

いわば舞台監督だ。


あの甘言は彼が役者として酉脇城を舞台に組み込んだ…つまりCurtain Riseでの利用価値を見出したという証拠だ。

この映像を再生している間にも正式な移籍日が決定し、レッスンの段取りも着々と進められているだろう。


ああ!早くコンセプトを固めなくては…!


「酉脇さん、おそらく不安ですよね。しかし、新たなことを始める時は誰もがそうです。ただ…Curtain Riseは誰一人として不安を感じていません。…特にプロデューサーが張り切って準備しています。」


「ヒュッ!!?!?」

喉からおかしな音が鳴った。

唐突に私の話をするな!!!


「わ…あの、俺…精一杯、頑張ります。」

照れ気味にはにかんだ顔…尊い…

「これからよろしくお願いします。」

酉脇氏の前に骨張った手が伸びる、その手をスラリとした酉脇氏の両手が包み、数度上下に揺れた。

穏やかで和かな空気が充満している。

「はは…おかしなタイミングになってしまいましたね。…質問を続けます。」

「あ、はいっ!」

さっと離れると酉脇氏は今までになく覚悟を持った顔つきで微笑んだ。

表情の振り幅が大きい…コロコロと表情が変わるので思わず目で追ってしまう。アイドルとして最高の素質だ。


その時画面が揺れた。画角を変えたのかと思ったがそうではなく、丁度…指で軽く小突いたような……


「あ」


思わず感嘆の声が漏れる、谷口氏だ…

私の事を話題に出した上で酉脇氏とあらためて挨拶を交わし、カメラを揺らす。


「お膳立てはしてやった。あとはお前の仕事をしろ。」

という合図だ。私なら気づくと確信して送った合図。

谷口氏…私とは次元の違うところにいる。

早急に準備を進めなくては…!


……彼はこうやって人を操る。

でも恐怖はない。

彼は理不尽に役割を押し付けることはせず、自らが動き、相手の適材適所を見極めた采配を下すから。

…本当に最高の舞台監督だ。こんなに優秀な同僚がいることを心強く思う。

そして最高の役者になるであろう…酉脇城…

容姿もさることながら素直な感性、何より演劇を楽しむ心がある。


彼は俳優の「龍さん」に影響され、演劇の道へ踏み出した。


…ん?…龍さんって…松田龍?


松田龍が所属していた劇団、それは…千古座だ。


ヴィエルジュを立ち上げた草野氏は元々千古座の団員だった。

そして演劇をより身近に、馴染み深くするため始めたのが演劇×アイドル、ヴィエルジュ・プロダクション…つまりはCurtain Riseの前身…!


酉脇城はここに来る前からCurtain Riseの核に触れていたのだ…!


あまりの展開にドラマの登場人物にでもなったような気分だ、しかしまだドラマは始まっていない。


だって私が脚本を書くのだから!



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