34話 役割
「僕が言いたいのは!王子様ってさ、国の中心?っていうかそんな感じでしょ?」
「うん、だから俺はそういうのじゃないなぁ…って」
城が眉尻を下げ、背中を丸める。
羊太郎は両手を腰に当て、なぜか鼻高々だ。
「それは多分一緒に戦う王子様なんだよ!」
「戦う?」
「前線で指揮をとって、みんなを導くような王子様!」
「ゲームとかだと多いよな」
良磨の呟きを、羊太郎は「そう!」と肯定した。
「でも城はみんなが守りたくなる王子様!みんなが城のためなら戦いたいみたいな!国自体の象徴!」
「な、なるほど…?城だからかな…」
城の発言に猪介が吹き出した。
「いや、すみません…」
「こういうとこだよね!Toy Boxって感じする!」
良磨は大きく頷くと、和かに微笑んだ。
「なんとなく、城に合わせとけばいいか…みたいな気もするんだよなぁ」
「軸はブレないでしょうね。しかし、主体性は忘れないでください。」
猪介の指摘に良磨が肩をすくめ、気まずそうに目を逸らした。
それを他所に、羊太郎は目を閉じながら、指先で髪をいじっていた。
「僕が商人じゃなくて見習いがいいって言ったのもこれでさ、商人って色々計算して確実に利益を出さなきゃだめでしょー?」
「お仕事だもんね?」
「そそ!でも僕は〜綺麗なものに目が眩むけど、計算高くて無邪気な感じが良くて!だから見習い。」
「まんま羊太郎だな…」
三人はそれから、お互いの役割について話し合っていた。
ただ紙面に落とされていた、「王子」「騎士」「商人」の文字列が像として立ち上がり始める。
「おもちゃの国の、だからね。わざとらしいくらいがいいのかな…」
「僕超大袈裟にやるつもりだった!子供向け公演ならオーバーな方が良さそうだし〜!」
「騎士なぁ…なんか城の国ならそんな殺伐としてなさそうだよな」
「絶対してない」
羊太郎の即答に、城は弱々しく同意した。
「復興が目的って言っても…それも楽しんでそう…というより、悲しんでなさそう…かな」
「ありそう!!あとおもちゃの国の王子様ってことはさー!」
盛り上がる二人を見守っていた良磨が、ふと何か閃いたように跳ねた。
「そういえば、役名って何になるんすか?そのまま王子とか呼ぶんすか?」
「あぁ、それは…ヴィエルジュ・プロダクションの伝統で本名のカタカナ表記、名前のみになります。良磨さんはそのままリョウマになりますね。」
猪介は特に狼狽える様子もなく、冷淡に返答する。
「えー!そうなんだ!じゃあルミちゃんも本名!」
「反応しやすくていいですね、俺全く違う名前で呼ばれても無視しちゃいそう…」
「俺もやるわそれ」
「ちょっとー!しっかり!」
羊太郎が冗談半分に叱責すると、良磨と城は笑った。
平井は猪介から受け取った録音の再生を止める。
「谷口氏」
「はい。」
録音後、データをレコーダーから移動する手間を嫌った猪介は、平井の元へ直接訪れていた。
「これは…想像以上です。」
「つまり?」
「彼らは技術こそ追いついていませんが…私が設定に組み込んだ意図を拾えています。」
「ああ、前説明してもらったやつっすね。でも性格に合わせた配役なんですよね?拾えて当然なんじゃ…」
平井は彼の態度に少しの間を置き、声のトーンを落とした。
「そうだなぁ……谷口氏、もしプロデューサー役を演じろと言われたらどうしますか?」
「はい?」
「おそらくですが、私か…蒼凛舎や、創作物で見たプロデューサーを真似ようとするはずです。」
「あー…そすね」
「演技慣れしてなければそうなります。しかし酉脇氏は無意識にそれを拒み、加賀氏は自らに役を引き寄せる術を選びました。」
「…」
猪介はいまいち飲み込めず、一旦の相槌で返す。
「ヴィエルジュが本名を役名に使う理由の一つがそれなんです。役に染まるのではなく、自らで役を染めるため。」
「……まぁ、なんとなくはわかります。」
「彼らはToy Boxのおもちゃの国を自らの手で築き上げようとしています、技術より難しいところに容易く迫ってきている。」
粛々とした言葉は空間に溶け、静けさを演出していた。
平井はレコーダーを握りしめ、猪介を見つめる。
「…台本は明後日…いや明日までに完成させます。」
「え、そんな早めるんすか?」
「状況が変わりました、これなら演技基礎より世界観固めの方が先決です。台本が出来上がり次第彼らに共有してください。」
「わかりました…」
猪介は努めて冷静に返答していたが、どこか置いてけぼりをくらった心持ちだった。
それを察してか、平井は話題を切り替える。
「あと…谷口氏!」
「なんすか?」
「Toy Boxのみんながこんなに打ち解けているのですから、あなたも素を出しては??」
「素…?」
猪介は訝しげに顔を歪める。
「威厳を出したいのなら今のままでもいいでしょうけど…変に壁を作っているみたいですよ?」
「威厳なんてないでしょ、壁もないっす。仕事だから丁寧にしてるだけですよ。」
「…それが壁では…」
それから会話は途絶え、無音のまま時間が進む。
猪介は机の端に視線を固定したまま、ふと思い出したかのように口を開いた。
「俺は人でなしだから、変に関わらない方がいい…」
「え?」
「あいつらはお坊ちゃんですからね、丁寧にする方がいいんすよ。」
「いや、谷口氏?なにか聞き捨てならない言葉が…」
「先輩も、ですよ。んじゃ俺は片付けしてくるんで。」
引き止めようとする平井を振り返りもせず、猪介は部屋を出た。
一人取り残された平井は、呆然と閉じ切られたドアを眺める。
「今のは…伏線だよなぁ…」
悶々と言葉の意味を咀嚼する。
彼女の知る限り、猪介は真面目で優秀、少々潔癖だが軽口も吐ける良い後輩だ。
(何かあったのか…?でも谷口氏の悪評なんて聞いたことないし……)
どれだけ考えても納得のいく解釈ができない。
ぎゅっと目を閉じ、短く息を吐き出す。
「とりあえずは台本を完成させないと…」
彼女は煌々と目を焼くロード画面と、無機質な起動音に集中し、目の前とこれからのことに意識を固定した。




