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Curtain Rise!  作者: 風見ことは
序章
3/21

3話 分岐



 一ヶ月、本当にあっという間だった。

ここに…蒼凛舎に来るのもあと数回なのかと思うと、少し寂しく感じる。


深呼吸をして、社長室のドアをゆっくりと開く。


「よく来たね。」

社長は優しく笑った。

「社長、休暇…ありがとうございました。」

「そんなことはいいんだ、城。どうするか決めたのか?」

…笑顔が固い、なんだか緊張してしまう。


「はい、あの…色々考えて…」

「うん。」

「やっぱり介護士を目指そうかな…って…」

「…そうか…」

吐息混じりの、掠れた声。

…寂しく思ってくれてるのかな


「介護…ねぇ…」

「はい。…あ、それで、せっかくおやすみもらったんだしって色々やってみたんですよ。」

「色々?」

「映画を観たり、図書館とかも。初めて行きました…」

「…そうか、城…今まですまなかった…」

「へ!?な!?なんですか!?」

「私は…そういう、普通のことを…お前に何も…させてあげられていなかったね…」


少しもやっとする。

普通のこと。確かに、そうなんだけど…


「でも!俺は、今まで本当に…ここで仕事できてよかったなって思ってます!モデルになってなかったら…できなかったこと、たくさんあります!」

「そうか。」

社長は悲しそうに笑うだけだ。

どうしよう、どうすれば大丈夫ってわかってもらえる??


「普通のこと、なのかもしれないけど。今はそれが特別で楽しくて…!それはそれでよかったな…って!」

「うん…うん、わかっているよ」

「あ!そうだ!演劇!演劇やったんですよ!」

「は?演劇…??」

「近所に千古座って劇団があって…そこで体験やらせてもらって!」

「千古座。」

目元にぐっと力が入る。もしかして、知ってる…?

「そうです!そこで…あの、演劇やってみて、楽しくて…!座長さんが気が向いた時においでって…」

「……」

社長は眉を顰め、腕を組んだ。考えてる時の顔だ…


「趣味とかなかったから、これから少しずつやって行けたらいいな…って…」

「……演劇、ねぇ」

社長が椅子にもたれかかると、ぎっと軋む音がした。

「はい…あ、体験って言っても練習少しさせてもらっただけでその、契約とかは…」

「ああ。大丈夫だよ、わかってる。城はしっかり者だからね。」


ふと、真剣な視線が刺さる。

「……城、演劇がやりたいのか…」

「そ、そんな本格的にやってくわけではないんですけど。みんなで作る一部になる…って…ずっとやってきたから…」

社長は俯き黙り込んでいた、変なこと言ったから困らせてしまった…?

声をかけたいけど、出てこない…本当に俺は…


「城。」

覚悟を決めたように俺を見据えると、低い声で言った。

「は、はい?」

「実は……頼みがあるんだ」

「お、俺にですか!!?で、できることがあるなら…」

「城にしか頼めない。」

「な…なんですか?」 

「城は前に出るのが苦手だから、どうかと思っていたが…」

なにか遠慮させてしまってた…?


「Curtain Riseは、わかるかな?」

「あ、系列会社?ですよね!うさぎの子がいる…」

あまり詳しくはないけどみたことはある、確かアイドル事務所だ。

「ルミさんだね。あそこは今、彼女しかいないんだよ」

「え!?そうなんですか!?」

「ヴィエルジュ・プロダクションを吸収した時にタレントとして移籍してくれたのが彼女だけでね…」

「お、オーディションとかは…」

「経営体制が落ち着くのを待っていたのと…性質上難しくてね」

「難しい…?」

「…ライブ、観たことないかな?」

「ごめんなさい…ないです…」

「いや、いい。演劇×アイドルを売りにしててね、新規グループの立ち上げを予定しているんだが…」

社長が姿勢を正す、つられて身構えてしまう。


「城が……そのグループに加入してくれたら、と考えたんだが。どうだろう?」

「ええ!?そ、それはちょっと…!」

「城が適任なんだよ。真面目だし…当然芸能界のノウハウもわかっている。さらに演劇への興味があるとなれば…!…どうか、考えてくれないか…?」


いつも堂々としてる社長が弱々しく見える…力になりたい…けど…

俺が、アイドル…?

ほんの少し想像してみる。

…無理だ!口下手だし!平凡だし…!


「それに、城も。急に全く知らない環境に行くのは不安だろう?Curtain Riseなら知った顔もいるだろうし、私もいくらか手を貸せる。」

確かにそれは安心だ、けど…

「で、でも」


社長は指を組み、鋭い視線で俺を見た。

緊張して思わず座り直す。


「五年。」

「へ?」

「活動期間は五年とする、どうか五年…協力してもらえないかな…?」


五年…二十五歳、か…それなら学校に行っても、活動中に資格を取っても。充分間に合う…はず

それに、恩人である社長の頼み。断りたくない…


「社長…すごく嬉しいんですけど。俺、まともにできるか…」

「大丈夫、城が必要なんだ。」

必要。そこまで言ってくれるなんて…

「なにも今すぐ決めろってわけじゃ無い。まずは見学に行こうか。よく考えて。」

「わ、わかりました……」

Curtain Rise、興味はある。

それに社長が俺を頼ってくれている…


社長は机の引き出しからパンフレットとルミさんのポートフォリオを取り出し、俺に差し出す。

恐る恐る受け取ると社長は安心したように微笑んだ。


「城、いい返事を期待している。」


俺…力になれるんだろうか?まだ不安だ…


…ううん、頑張ろう。任せてもらえるなら、精一杯。絶対に裏切らないように。

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