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Curtain Rise!  作者: 風見ことは
開演
29/32

29話 実践



「大体読めたかな?こっちから上、中、下…そこの印にサスがあるイメージ。この線が舞台と客席の境界線。大体わかりますか??」

「サスってなんすか?」

「サスペンションライトの事で、とりあえず立ち位置の目安だと思ってくれたらいいです!」


城と羊太郎の視線は台本に向けられたままだったが、ルミはそんなことはお構いなしに続ける。


「私が一度手を叩いたら開始、もう一度叩いたら途中でも止めてください!」

三人の控えめな返事を聞くとルミは口を尖らせた。


「返事はしっかり!それはいつでも絶対です!」

「ごめんなさい!」

慌てたように三人が謝罪すると、ルミは大袈裟に両手を振った。

「稽古場ならまだしも舞台だと事故にも繋がりますからねっ!」

「そうですね…」

「…次から気をつけよー!じゃあもう大丈夫かな?行きますよー!」


ルミが手を叩くとその音は稽古場の壁を反響し、鼓膜を揺らし、やがてその余韻は消え去る。


しかし、舞台は動かない。


(入りが一番難しいよねー…多分仕掛けるのは…)

ルミは両指をみぞおちのあたりで組み、静かに待った。


羊太郎が一歩前に踏み出し、傘を開くような仕草を見せた。

「振ってきたね〜」

城が羊太郎の半歩後ろに並び、独り言のように呟いた。

「そうだね」

「ちゃんと傘持ってきた?」

羊太郎が振り返ると城は気まずそうに目を伏せる。

「…ない」

「昨日言ったじゃん!!!」


大きく手を叩く音が響き、皆がルミに向き直る。


良磨は反射的にルミに「すみません!」と頭を下げた。


「なかなか難しいですよね!みんな一旦座りましょ〜」

ルミがその場にぺたんと座り込むと、三人もそれに合わせて静かに座る。


「羊太郎くんナイスファイトだよ〜、良かったから少し厳しいこと言っちゃいます!舞台上で後ろを向くのはあんまり良くないかな、かわいいお顔が見えなくなっちゃうよ!」

羊太郎は苦しげな表情で台本とルミを交互に見た。

「…前に来させないとダメってことだよね…?」

「それができたらなお良いって感じです!これはまた後で言うね。」

羊太郎は軽く返事をすると、再び台本を手に考え込んでいた。


ルミはうんうんと頷き、城を見つめる。

「す、すみません…セリフ、飛ばしました。」

「繋ごうって心がけは大事です!本番でもセリフが飛ぶことあるし、違和感もなかったからOKです!」

城は胸を撫で下ろしたが、瞳はルミを捉えたままだった。


「城さんは見せ方ができてていいですね!後ろにいても立ち位置は被らないようにしてたし、視線は落としても頭は下げすぎないから表情が見える。」

「え?あぁ…そ、そうですか?」

「……無自覚ですか??」

城が気まずそうに頷くと、ルミは目を閉じて暫し考えていた。


「なら多分、習慣として見られる意識がついてるんだと思います。これを自分でコントロールできるようになるのが理想かな…」

「は、はい。」

「そっか…うーん、モデルさんですもんね…」

自分に言い聞かせるように呟くと、一度大きく頷いた。

そして首を回し、良磨を見つめる。


「良磨さん!」

「はい!マジですみません!!」

「ずっと台本と場を見て、タイミング伺ってたのはわかりましたよ!でもあのセリフだと……なかなか割って入るの難しいよなぁ…うーん」

腕を組んだルミを前に、良磨は視線を泳がせていた。


「でも、本番だったら大事故ですからねぇ…」

「そすよね、アドリブぶっ込もうとも思ったんですけど」

「そうなんですよね、台本があるのに内容がわかってないから余計にかなぁ…」

良磨は申し訳なさそうに首を横に振っていたが、ルミはそれには反応せず声を上げた。



「じゃあそうだ!みんな自分の台本の一言目発表しちゃおうか?」

「…俺は『俺も』でした」

その言葉に城が良磨ににじり寄り、頭を下げた。

良磨はそれに驚き制止したが、城はうわごとのように謝辞を述べる。


「俺だぁ…本当にごめんなさい、俺『忘れてた』が一言目でした。」

「な〜るほど〜!?あ、僕は『振ってきたね』だったよ!」

「言えたの羊太郎だけかー」


ルミは三人の中から真っ直ぐに城を見つめた。

「うん、始めは城さんのセリフなんですよね。でもこの台本意地悪なんです…城さんなんで一言目言えなかったか教えてもらえますか?」

「え…?なんで…?返事だと思って…その次が『そうだね』だったので」

「うんうん、ですよね〜…じゃあ城さん、一言目のト書き読んでもらえますか?」


「『空を見上げながら』…?」

「うん、画を想像してみて欲しいんですけど……」

「画…」

城は静かに視線を伏せる、周囲が静まるとルミは声をひそめて呟いた。


「…これは独り言です。」

「ひとりごと…」

「実際にはそれを拾って良磨さんが返答するんですけどね!」

城はますます小さくなり反省モードに入っていた、その背中を良磨が摩り嗜める。


「独り言ってわかってても、自分が始めとはわからないんですから!こういう読み取り方もあるよって感じです!」

ルミが明るく微笑むと城は控えめに頷いた。


「空を見上げながら、忘れてた。この台本だけだと無数の解釈ができます!」

ルミはぴょんと立ち上がり、壁際へ歩んだ。

皆の視線が自分に向いていることを確認する。


突如前に走り寄ってきたと思ったら、肩で息をしながら天井を見上げる。


「忘れてたっ!!!!」

叫び声を残して大慌てで再度壁際に走っていく。


今度はゆっくりと前へ歩みながら、鼻歌を歌い左右に揺れた。

ふとピタッと静止すると顔を上げ、不気味に口角を上げる。

「…忘れてた」



良磨が「おぉ」と声を漏らすと、羊太郎が飛び上がる。


「すごいすごい!」

「えへへ、まだまだできるよ〜?」

「やっぱり、面白いですね…」

城は呆然としつつも、柔らかい笑みを浮かべている。


「そう、同じ台本でも人によって演じ方が変わる!そこが演劇の難しくて面白いところです!」

ルミは満面の笑みで言い切ると、再度床に座り込んだ。


「今回は自分のセリフしか見られないんだし、予想するのは大正解ですよ!最初にも言いましたがトライアンドエラー!もう一回やってみましょう!」


羊太郎は屈伸などを繰り返し、落ち着かない様子で立ち位置に着いた。

城の顔からは緊張の色は引かないが、真っ直ぐと舞台を見つめる。

良磨はその横で深呼吸すると頬を両手で軽く叩いた。


稽古場は静まり、始まりの合図を待ち構える。

ルミは小さく息を吸うと両手を構えた。



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