表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
Curtain Rise!  作者: 風見ことは
開演
28/33

28話 稽古



Curtain Rise四階。ここは稽古場や更衣室、シャワールームが並ぶ、完全にタレント用のフロアだ。


城たちToy Boxは着替えを終え、稽古場にて簡易的なストレッチを始めていた。


「のびのびすれーばー♪」

「なんで覚えてんだよ!!」

羊太郎が口ずさむとすかさず良磨が阻止する、城はそれを笑っていた。


「えーいいじゃん、のびのび体操〜」

「マジで黒歴史だって」

「黒歴史って…?」

「嫌な記憶的な…」

「へぇ…でも、のびのび体操…俺は好きですよ」

「城!!」

「僕なんて第四まで振り覚えたもんね!」

「羊太郎!」


三人が親睦を深めていると、稽古場の重たい扉が開かれた。

「おはようございます。」

「あ!猪介おはよ!」

羊太郎が立ち上がると、釣られて二人も立ち上がり挨拶を交わす。


「その、先生ってもういらっしゃるんですか?」

城が恐る恐る尋ねると猪介は腕時計を確認した。

「おそらくもうすぐです、ストレッチは済みましたか?」

「はい」

「大丈夫っす」

「ばっちり〜!」

三人の即答に猪介は小さく頷く。


「皆さん、難しく考えずに…素直にしていただければと。無理に演じようとするとかえって逆鱗に触れますから」

「げ、逆鱗…?」

「結構きつい人すか…?」

城と良磨が心配そうに猪介へ問いかけていると、小さく物音が響いた。

「?なんの音ー?」

羊太郎は音の出どころを探り、扉の前へ辿り着いた。


「……いらっしゃいましたね。」

猪介が羊太郎の横に並び、扉を一気に開け放った。


「わあ!」

「えっ」

「あ!?」

三人が声を上げると同時に、一人の少女が入室する。

まるでうさぎのように跳ねる足取りは軽く、揺れ動くツインテールが耳のようだ。


「はじめましてっ!」

三人の目の前でピシッと止まり、可愛らしい顔を精一杯に凛々しく取り繕う。その様がなんとも幼気で愛くるしい。


「ル!ルミちゃんだぁ!!」

羊太郎が興奮気味に声を上げると、ルミは両手で口元を覆い、大袈裟に目を見開いた。

「嬉しい!ルミを知ってるの〜!?」

「し、知ってるもなにも…」

良磨が呟くとルミは両手を胸元に引き寄せた。


「嬉しい〜!!!」

とびきりの笑顔が弾けると、その場でクルッと一回りして見せた。

あまりに軽い足取りがますます周囲を惹き込む。


「改めましてっ!あにまるzooのメイドうさぎ・ルミです!今日はおもちゃの国にお招きいただいて…感激うさ〜〜!!」


この場を完全に支配した彼女は、一歩下がると全員の顔を見回した。


「えへへ、急にこんな感じで来られたらびっくりしちゃいますよね??」

ルミは先ほどより柔らかい表情で首を傾げている。

今までの軽い足取りとは打って変わって、彼女は確かに地に足をつけて立っている。


「ルミさん、お忙しい中スケジュール割いていただきありがとうございます。」

猪介が頭を下げると、Toy Boxの三人も続いて感謝を述べた。

ルミは両手振って「気にしないでくださいっ」と微笑む。それはごく普通の少女の笑みであった。


「一応知っているかとは思いますがToy Boxの…」

猪介が城に視線を送ると、彼は身を強張らせた。

その様子を見た羊太郎が割って入る。


「はいはい!加賀羊太郎です!演劇はしたことないんですけどダンスが好きです!ルミちゃんのライブは何回か観に行ってて…超尊敬してます!」

ルミが手を差し出すと羊太郎はそれに応え、握手を交わす。


「羊太郎くんだね!育美ちゃんから聞いてます!ダンスが上手で配信とかもしてたんだよね?それに頭も良いって!…確かにしっかり者ですね。」

彼女はそっと手を離し、視線を良磨へと向けた。


「え、あ、牛頭良磨です。え〜っと、小さい頃から器械体操をしてまして…芸能活動も少しだけして…」

良磨が言い終わらないうちにルミが手を伸ばした、良磨は一瞬怯んだが手を取る。


「良磨くん!体操のお兄さんだったとか!唯一の演技経験者…になるのかな?歌も上手ですよね!それで、うん、すっごく優しいですよね。」

和やかな表情のまま手を離したルミは、良磨から城へ視線を移した。


「…あ…と、酉脇城です…も、モデルをしてました…?」

しどろもどろな様子の城を見て、ルミは声を上げて笑った。

「知ってますよー!親会社のエースなんですから!城さんっ、とってもすごいモデルさんですもんね!まさかアイドルになるなんて…一緒に頑張りましょうね!」

ルミは城の手を取り微笑む。


「わ、わぁ…あの、俺演劇って前ワークショップでやったっきりで…初心者なんですけど…よろしくお願いします。」

「え!やったことあるんですか!」

「は、はい、一応…千古座って劇団で…」

「千古座…?」

城は首を横に振り、ルミから一歩離れた。

「で、でも、本当に一回だけで…全然経験者ってほどじゃ…」

「でも千古座ですよね?」

「え…あ、はい…?」


ルミは数秒考えた後、三人に向き直った。


「皆さんはCurtain Riseの社歴って知ってます?」

三人の顔に疑問符が浮かぶと、ルミは苦笑いで応えた。


「じゃあ、マネージャー」

猪介は我関せずを貫いていたが、この振りは躱わせず渋々語り始めた。


「あー…えっと、Curtain Riseは蒼凛舎がヴィエルジュ・プロダクションを吸収したことで設立された会社です。」

「そうだね!ヴィエルジュのことはわかるかな?」

「…ヴィエルジュ・プロダクションは現在蒼凛舎役員の草野、そしてCurtain Rise現社長の町田によって立てられました。」

「うん。それでその二人は?」

「…千古座の出身です…お二方以外にもヴィエルジュには千古座出身の方が多く…事務だと清水さんとかがそうですね…」


ルミは手を打ち、真面目な面持ちで三人を見つめる。

「そう、千古座は私たちの原点。無視できない存在なんです。」

稽古場に声が反響すると、静かに頷き表情を崩さないまま続けた。


「猪介くん始めよっか」

ルミの一声に紙の束を取り出した猪介は、三人にそれを手渡した。

「これ…」

「台本すか?」

「……え、でもこれって…」

それぞれがページを捲り、中身を確認する。


「城さん見たことある?」

「…俺はやってないんですけど、こういうのがあるってのは聞きました」

「そっか」

ルミは一人一人の表情を確認して微笑む。


「それは台本です、皆さんにはそれを演じてもらいます。」

「でもルミちゃん、これ…」

「そう、その台本には一人分のセリフとト書きしか書いてない。」

「え、一人劇ってことすか?」

「ううん、三人でやってもらうよ。」

「?」

「三つとも内容が違うの、でも…噛み合うようにできてる。相手のセリフを聞いたり動きを見て、自分の役をこなして…みんなで一つの劇を完成させてね。」

「パズルみたいな感じ?」

「そんなイメージかな!あ、もちろん相談なしでね!トライアンドエラーでやってみよー!」


羊太郎は台本を捲り、考えていた。

「確かに…返事みたいなセリフも多いから…できそうかも?」

「…読むのに必死になったら聞き逃しちゃうよね」

「動きも見とかねぇとタイミング逃しそうだしな…」

「一度全部読み込んだら始めるよっ」

三人の反応にルミは満足そうに頷いた。


「舞台に立つってことが…演じるってことがどういうことか、しっかりお勉強しようね!」

彼女が陽気に呟くと猪介は壁際に引き下がる。

ただの部屋だった稽古場が舞台になったことを察して、観客になることに徹していた。


舞台上では皆が真剣な面持ちで紙面と見つめあっている。

その中でルミだけが、楽しげな笑みを浮かべその光景を眺めていた。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ