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Curtain Rise!  作者: 風見ことは
開演
27/33

27話 ルミの話



走行中の車内は薄暗く、スマートフォンの眩しい明かりが異質のようにも感じられた。

目を細めしばらく画面と向き合っていたルミは、運転席の育美へ興味を移した。


「ねぇー育美ちゃん」

「なに?」

育美はフロントミラー越しにルミの姿を確認する。


「社長いつ来るの!?」

「…町田ならしょっちゅう見に来てるでしょ」

「ちーがーうー!草野社長!」

「はいはい、今は社長じゃないけどね」

「おかしいでしょ!ヴィエルジュを創ったのは草野社長なのに!なんで蒼凛舎にいるの?!」

「そんなの知らないわよ。」


育美がピシャリと言い放つと、ルミは不服そうな表情を浮かべる。

やがて視線が下がり、口元から細いため息が漏れ出た。


「…やっぱり…草野社長目当てだったんだよね…」

「あんたねぇ…」

「ヴィエルジュのやり方が斬新とか、あにまるzooの人気でてきたから…とかじゃないんだよね、蒼凛舎は草野社長が欲しくて…」

「目的はなんでも、あんたは売れたんだからいいでしょ。」

ルミは育美の言葉に弱々しく相槌を打った。


「みんながいれば…きっと…もっと…」

育美は項垂れたルミを気にしつつも、声はかけなかった。

赤信号で停車すると、ルミはうっすらと聞こえてきた通りゃんせを口ずさむ。

信号が青になり音が止むと、ルミは思い出したかのように目を見開いた。


「そうだ!育美ちゃん!明日ってお休みなの?スケジュールアプリにはお仕事で予定入ってるのに、詳細が書いてなくて…」

「それね、あんたが変に気合い入れそうだったから伏せてたのよ」

「え!?なに!?バラエティとか??」

「違う。うちで新規ユニットができるのは知ってるでしょ?」


国道に差し掛かると、先ほどとは比較にならないほどの車が列をなしていた。

育美が慣れた手つきで列に合流すると、車体は渋滞の一部となった。


「ルミ?聞いてる?酉脇城。知ってるでしょ蒼凛舎の…」

「うん、聞こえてる。そっか…城さんか…」

「何?言っとくけど相手にどんな経歴があろうと、ここではあんたが先輩で…」

「わかってる。」

育美はルミの様子を伺いつつ、彼女の返答を待つ。


「ちょっと苦手なんだよね」

「会ったことあんの?」

「ううん、城さんがってより…お父さんがファンだったからさ」

「そうなの?」

「うん、稽古の時とか良く例にだしてたよ」

「でも酉脇は演劇経験ないでしょ」


ルミはルームライトを点灯させた。

「演劇って動きとか声だけじゃなくて、立ち位置とかでも感情表現するでしょ?」

「そうね」

「こう、顔に影が掛かるように照明を受けたり…逆に全身で光を受けたり…」

身を捩らせたルミの顔がルームライトに照らされる。

彼女はステージ上で見せるのと同じ、満開の笑みを浮かべていた。


「…あんたのそれは表情の演技だけどね」

「そうなの。だからね、城さんは照明の使い方とかどの角度で自分がどう見えるとか…そういうのが上手いって…」

ルミは粛々とルームライトを消すと再び目を伏せた。


「まぁ確かに、あんたの父親なら言いそうだわ」

「でしょ〜?」

「一家揃って演劇狂いだもんね」

「ちーがーう、お父さんとお兄ちゃんだけだよ。」

「あー、あの兄貴ね。千古座屈指の変人」

「…それだけ才能があるってことだよ…」

育美は指の腹でハンドルを叩く、依然として前進は微々たるものだ。


「でもあれがアイドルと演劇を全力でやろうったってあんたみたいにはできないわよ」

「そうだねぇ〜お兄ちゃんにアイドルは無理かな…」

「でしょ、適材適所よ、適材適所。」

「……あーあ、みんなが居ればなぁ…」


ルミの言葉に、育美はガクッと肩を落とした。

「あんたねぇ!」

「育美ちゃんだって、もし他の子が残ってれば…アイドル、続けたよね?」

「はぁ?」

「ほら…例えば、恵ちゃんが居ればまたツインボーカルで…」

「ないない!!私がアイドル続けるとしたらヴィエルジュ吸収があと二年早くて、五人全員揃ってた場合だけ!!!」

「それはさすがに…」

「でしょ!?無理なのよ!無理!!!」

「……」

「あんただけでも成功してよかった、これは本心。」

「私、上手く行ってるのかな…」

「当たり前でしょ、地下からドームなんて大躍進じゃない」

「そうかな……そうだよね、うん。…そうだよね!」

ルミの暗示を見守っていると、ようやく前方車が動き出した。


スムーズに滑り出した車体は、静かにアスファルトを踏みしめていく。


「で、なんだっけ、城さんのグループとなにするの?動画撮る?」

「まだそんな段階じゃない、稽古よ稽古。」

「稽古!?私がやっていいの!?」

「Curtain Rise唯一のアイドル様が何言ってんだか…谷口が頭下げて頼みに来たんだから、しっかりやってやんなさい」

「猪介くんが!?懲りてなかったんだ…!」

「あんたスパルタだったからね。普通なら顔も見たくないはずだけど、背に腹は…ってことでしょ」

ルミは落ち着かない様子で車内のあちこちに視線を動かした。


「えー!どうしよっかなー!何やるか決めてる??何から教えよっか??」

「あんたに任せる。」

「いいの!?わー!どうしよっかなぁ、発声とかの基礎から行く?でもいきなりエチュードとかもいいよねー!」

「……好きにしなさいよ」

「え!ねぇねぇ!城さんとか他の子ってどんな子なの?他の子も未経験?外郎売りとかやっちゃう?!」

「他も未経験、体操選手とインフルエンサーね。」

「三人とも前歴はあるんだね!なら短めの台本用意しようか!!」


ルミが身を乗り出すたびに揺れる車内。

育美は苦言を呈しながらも質問に答え続ける。

そして、内心で前日まで黙っていた自らの英断を褒めていた。


「ねー育美ちゃん聞いてる!?いっそのこと世良ちゃんとか元ヴィエルジュメンバー集めてさ!」

「うっさいわね!噛み付くわよ!この演劇狂い!!!」


渋滞を抜けた車体は、順調に帰路を進む。

人気の無くなった寂しい道とは対照的に、車内には明るい笑い声が満ちているのだった。



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