22話 集合
「な、なんか緊張しますね」
良磨は肩を丸め、硬い笑顔を浮かべていた。
「牛頭さん、大丈夫です。」
「大丈夫?」
拍子抜けした良磨は首を傾げた。
「はい。牛頭さん以上に緊張している人が来ますから。」
「えぇ?」
その時弱々しいノックの音が響いた。聞き間違いかと思いつつも猪介はドアノブに手をかける。
「お待ちしておりました。」
「あ?!わ、す、すみません!」
ドアが開くと雪崩のように流れ込んだ城は、何度か頭を下げ、恥ずかしげに両手で顔を覆う。
「城さん、そこにおかけ下さい」
城は肩を押され着席を促されると、なんの抵抗もなく受け入れた。
「あ、酉脇さん。お久しぶりです、よろしくお願いします。」
「あ、よ、よろしくお願いします…!」
良磨の声掛けに城はあわあわと差し出された手を取った。
挙動不審な城に良磨は困惑しつつも、笑顔を浮かべた。すると城は静かに胸を撫で下ろし、ようやく腰を落ち着ける。
猪介が腕時計を確認していると、外から微かな話し声が聞こえてきた。
そして声は急激に近づき、激しい三度のノック音が響く。
猪介が声をかけつつドアノブに手をかける。それと同時にドアが勢いよく開かれた。
「おっはよー!ございます!!」
弾けんばかりの笑顔に、空気を一新する屈託のない声。
城は身を強張らせ、良磨は口元だけに笑みを浮かべたまま固まった。
「ん?あれ??暗い話中でした?」
「加賀さんおはようございます。勢いに驚かれているだけですよ。」
猪介が冷静に返すと、羊太郎は子供のように俯き口を尖らせる。
「えー…だって僕、せっかくのはじめましてだからとびきり楽しみたくて」
その様子に焦った城は立ち上がる。
すると椅子が跳ねた、急いで椅子を戻すとその勢いで机が動いた。
「ご、ごめんなさい!どうしよう!」
ひとしきり慌てふためいた後、やっとのことで羊太郎に向き合う。
「か、加賀さん、よろしくお願いします…!」
トップモデルにあるまじき貫禄だがそれを疑問に思う人物はここにはいない。
羊太郎は差し出された手を取り、にっこりと微笑んだ。
「よろしくお願いしまーす!」
「あ、俺も。初めまして、牛頭良磨っていいます。よろしくお願いします。」
その流れで良磨が挨拶をすると羊太郎は笑顔で応対した。
「良磨さん!!初めましてー!会えるのちょー楽しみにしてましたっ!」
一通りの挨拶が済むと、猪介の誘導で三人は着席する。
幸いにも空気は和やかなまま、猪介はいくつかの資料を手渡した。
「改めて、皆さんのマネジメントを務めさせていただきます、谷口猪介です。プロデューサーは多忙なため、コンセプトの共有や企画説明など大体の業務は代行いたします。」
流れるような発言に、三人は独り言のように「大変…」「そうなんだ…」と各々同情した。
「こちらご覧ください。」
猪介は気に留めずに資料を捲る。
「わ!これコンセプトですかー!?」
surprise(仮)の文字と羅列されたコンセプトイメージを前に羊太郎は目を輝かせる。
「はい、プロデューサーがまとめたコンセプト案です。」
「かーわいいー!僕こういうのだぁいすき!」
「…明るいイメージっすね」
「(仮)…?」
城の発言に猪介は「はい。」と短く反応した。
「こちらはあくまでも仮のもの。Curtain Riseの性質上、コンセプトは皆さんの性格や価値観に合わせたものに改変いたします。」
「え」
猪介は静かにジャケットの胸ポケットからボイスレコーダーを取り出す。
「今からこのコンセプトに関して意見を出し合ってください。」
「なんでもいーの?」
「はい、意見を出しやすいように文章でなく単語の羅列にしています。連想ゲームのようなものだと思っていただければと。」
「連想ゲーム…」
三人が顔を見合わせると猪介はレコーダーの起動ボタンに手をかけた。
「これからの会話はプロデューサーに共有されます。しかしあくまでも自然体で、不快な文言などがあれば言及してください。録音を始めます。」
猪介の号令の後、妙に静まった室内に緊張感が蔓延る。
「い…意見…」
「うーん…」
城と良磨は俯き、資料と向き合っている。
「僕はかわいいと思うけど!」
難しい顔をしつつも羊太郎が発言した。
「そうっすね、イメージカラーにピンクが入ってくるのはなんて言うか意外でしたけど」
良磨の言葉に羊太郎は「僕ピンク好きー!」と微笑む。
「水色も入るんですね。ルミちゃんのイメージカラー…ですよね?」
城の発言に猪介が頷く。
「これはコンセプトを掴みやすくするためのイメージカラーです、皆さんのメンバーカラーになるわけではないので」
三人は「なるほど」と再び資料に視線を落とす。
「おもちゃとかフリルとか…なんとなく女の子?みたいな感じなのかなぁ…」
城が呟くと猪介が反応した。
「女性的と言うよりは子供。幼児性の方を意識したそうです。」
「楽しい感じっすかねぇ…」
良磨は資料を置くと腕を組む。
「ねーね、サプライズってされたことある?りょーまさんある?」
「え?ある…けどすごい凝ったやつじゃねぇよ?プレゼントもらうみたいな」
「いいね〜!城さんは?」
「すっげぇ凝ったことされてそう。」
羊太郎と良磨の視線が集まると城は、赤面し肩を落とした。
「うん…してもらったことあります、現場で。」
「だよね〜!じゃあじゃあしたことは?僕は友達の誕生日会とかー!ちょーかわいく飾り付けしたり〜!」
きゃぴきゃぴとはしゃぐ羊太郎に対して城は、気まずそうに俯き、首を横に振った。
「俺もないなぁ…」
良磨は城に同調すると羊太郎は「そっかぁ〜」と引き下がる。
「でもでも、サプライズって計画立てる時わくわくするんだよね!正に今とおんなじ!どうやってみんなに喜んでもらお〜!みたいな!」
「なるほど…」
はしゃぐ羊太郎に気圧されつつも感心する良磨だったが、ふと城の表情が目についた。
肩を落とし、視線を下げたまま。何かを考えているようだった。
良磨の視線に気づいた羊太郎も不思議そうに城を見やる。
「城さんどうしたの?」
羊太郎の問いかけに城は驚き、顔を上げた。
「あっ…いや」
「どうしたんすか?」
「えっと…なんか…って程じゃないんですけど」
城は気まずそうに猪介に視線を送る。猪介は不思議そうに目を細めた。
「何かあればなんでもどうぞ。プロデューサーは雑談でも構わないと言っていました。」
「そ、そうですか?…なら、あんまりその、良い事じゃないのかもしれないんですけど…」
城はもじもじと恐縮しつつ言葉を出し渋ると、羊太郎は「なになに?」と身を乗り出す、皆が城の言葉を待っていた。
「あの…俺、サプライズって…苦手だなぁ……って…」
独り言のような、口内で噛み殺したような声。
突拍子もない発言に一同きょとんと城を見つめる。
城は恥ずかしそうに顔を覆うと「その…あの…」ともごもごと呟く。
「怖い…?じゃないですか…」
羊太郎は彼の次の言葉を待っていた。
猪介が目を落とすとレコーダーには赤ランプが点滅していた、録音は正常に行われている。
良磨の視線は猪介とレコーダー、資料を何度か往復し、城に向けられる。
城は静止したまま、瞳だけが小さく揺れた。




