21話 とあるブログ主の話
『彼の瞳は翡翠の』
打ち込んだ手を止める。
翡翠…あのような白濁ではない、エメラルドほど彩度は高くない。
強いて言えばマリガーネットが近いだろうか?
目を瞑り。彼、酉脇城の瞳を空想する。
薄緑、黄金、焦茶…角度や光の加減で見え方が変わるヘーゼルアイ。
彼の美を構成するほんの少し。しかし、重大な特徴だ。
幻想的で捉えたもの全てを非現実に取り込む、無限の深み。
ああ、どうしたって彼の美しさを言葉にするだなんてできない。
できなくともどうしても言葉にせずにはいられない。
…魔力。いや、強制力だ。彼を目の前に美を語らずに居られる者など存在しない。
再度画面と向き合い、彼を表すにはあまりに稚拙な文章を削除する。
五年以上続けてきたこのブログだが、納得のいく内容を書けた試しがない。
書く内容は絶えずあるのだ、しかし私の文才が追いつかない。もっとも、酉脇城の美しさに見合う文才など存在しないのだが。
それにしても…
近頃、新規情報が途絶えている。
新規のCM、掲載雑誌…撮られた時期を考えても数ヶ月は仕事をしていない…?
しかし、もう時期秋コレクションの選出モデルは決まるはずだ。
新人、無名なモデルならいざ知らず。酉脇城、世界的いや、唯一無二のモデル。
選出どころか各ラグジュアリーブランドがオークションよろしく、彼を振り向かせようと必死なはずだ。
何か知らせはないものか…蒼凛舎のホームページを開く。
今更名前を売る必要もないのだろう、規模の割には簡素な作りのホームページ。
タレント一覧の酉脇城の欄を開く。
これも酉脇城の名を冠するにはあまりにも質素。しかし…彼の価値を考えれば、下手な装飾を加えるより随分とマシだ。
最新情報は途絶えている。
体調不良…?それならそれで話が回るはずだ。
彼が最後にこなした仕事はなんだっただろうか…
ふと、ある考えに思い至る。
彼が最後にこなした仕事、夏にあった国内ブランドの発表会。
夏には忘れてはならない日がある。七月二十一日、酉脇城の誕生日。つまり、彼は二十歳になった。
二十歳、節目にするには最適な年齢だ。
彼は以前より複数のラグジュアリーブランドから専属契約を申し込まれていた。
理由ははっきりしないが全てを突き返し、アンバサダーのみをこなしていた彼だが、界隈では「最適なブランドを見極めているのでは?」と囁かれていた。
彼ほどのプロなら当然の思考だ。
もし、彼が自らに見合うブランドを見極めたのなら…?
専属契約に踏み切ったのなら?
これだけ期間が空くのも当然だ。
あぁ、どこのブランドだろう?
彼を愛してやまないゼフィーロだろうか?
彼のためにメンズラインを立てたルシールか?
どちらもアンバサダー歴は長くデザイナーとの交流も伺える。
しかし、他の線も捨てきれない。
同志は、皆はどう考えるだろうか??
そうだ。
私は再びブログ記事を作成する。
彼のこれまでを整理し、今後を予想し、意見を募ろう。
冷静に文章を組み立てながらも、思考は止まらない。
専属となれば海外移住の可能性もある。
そうとなれば私も移住を検討せねばならない。
仮にゼフィーロならイタリア、ルシールならフランスだ。
どちらも都心部に邸宅はある。
…しかし、酉脇城なら都心は離れて郊外に居を構えるのでは?
となれば新居を…
私が移住するとなると、各方面への事情説明が必須になるが、致し方がないだろう。
大学四年間、習得予定の学芸員資格。どちらも隅に置くことになっていい。彼にはそれだけの価値がある。
私は周囲を納得させられるだけの美辞麗句を並べることができる。
…それに、私も近々節目を迎えるのだから。




