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Curtain Rise!  作者: 風見ことは
開場
16/23

16話 仕事



Curtain Rise一階。談話スペースにて小一時間ほどノートパソコンに張り付いていた平井は、少し冷静になろうと立ち上がる。

すると、喫煙所の方向から歩いてきた猪介と目が合った。


「おタバコですか。」

「はぁ、まぁ。」

「相変わらず臭いがしないのが不思議ですね〜」

「…気をつけてるので。先輩は、コンセプト固めですか?」

猪介がノートパソコンに目をやると、平井は腕を組んだ。

「まぁ…メンバーも確定しましたし。谷口氏も大変なのでは?」

「いえ、まだ採用通知も送ってませんからね。明日通知してから顔合わせ。契約の運びです。」

「そうではなくて。あの酉脇城のマネージャーですよ?アイドルになるんですよ?」

「はい?」

「今から胃痛を感じていてもおかしくないのに…」

そう言って平井はノートパソコンを持ち上げ、キーボードを叩く。

「本当に命の危険を感じたほうがいいです。」

「はぁ?」

平井は手を止め、眉を顰めた。


「谷口氏、腕に覚えは?」

「まぁ、そこそこ」

猪介のいつも通り平坦な返答に、平井は「意外と好戦的なんだよな…」と小さく呟き、再びキーボードを叩く。


「酉脇城はラグジュアリーブランドからの信頼が厚いだけじゃない、熱狂的なファンも多いんですよ。彼のファンクラブ会員証、先着十名分は直筆サイン入りの生写真が使われたのですが、三秒で無くなったそうです。」

「サイン入りで十枚なら当たり前では?」

「しかも、それをSNSでひけらかす人物がいないんですよ。一体誰が持ってるのか…噂では各国の富豪だとか…」

早口で捲し立てる平井を眺めながら猪介は

(まぁ、一枚は確実に工藤だろうな)

と考えていた。


「界隈で有名なファンはこれです。」

平井が見せつけてきた画面には、とある個人ブログが表示されていた。

更新頻度は高く、昨日も更新されている。

「評論家っすか?」

「まぁそうですね。酉脇城の一挙一動を言葉にすることに定評のあるファンブログです。」

平井は冷静に語りつつ、ページを開く。

「数年前のミラノコレクションでの酉脇氏を綴ったページです。」

平井は慣れた手つきで操作するが、スクロールバーが異常に短い。


「これ、五万字あります。制限文字数です。」

「五万字…」

「一回のミラノコレクションを、この文量で一ヶ月間毎日綴っています。」

平井が記事一覧を開き、該当するであろう記事群を指した。


「………暇人ってことすか?」

「おそらくこの人も富豪ですよ」

猪介が顔を顰めると平井はパソコンを閉じた。

「だってこの人、酉脇氏の出る四大コレクション全て観に行ってます。少なくとも業界関係者でしょう?」

「へぇ」

「さらに内容もきちんと教養の伺える書き方です。おそらく美術史にも精通している。」

猪介の気のない態度に、平井はさらに

「そういうのがゴロゴロいるんですよ!!もしアイドル転身で闇堕ちする人が現れたら…!!今からでも筋トレとかしたほうがいいです!」

「…」

「オタクの発想とか思っているでしょう!?でもあなたが相手にするのはオタクですからね!!?私の方がよくわかっています!」

「そっすね」

「ですので谷口氏!福利厚生で費用も出ますし、ぜひジムに…!」


「…それ先輩の趣味っすよね。」


平井は肩を大きく跳ね上げると、すぐに身を縮めた。

「確かに…谷口氏は骨格もしっかりしてるし…まだバルクアップの余地が…」

「…牛頭くらいには?」

猪介が吐き捨てると平井は固まった。

「いや!!主な決定理由は酉脇氏の意思ですから!!」

「……ま、俺もガキ二人相手すんのが嫌で押したんで、共犯っすね。」

「才能があると感じたのもユニットのバランス感がいいと思ったのも本当ですよ!?性癖はそのついでというか…!」

「はあ、とりあえずわかりました。面倒なファンが多いってことっすね」

「…そ、そうですね。」


平井が静かにソファーに身を沈める。

「…発表時、絶対に波乱が起きます。」

「でしょうね」

「酉脇氏が…気に病まなければいいんですけど」

猪介は口元を手で覆い、しばらく沈黙していた。

「彼ネットとか見ますかね?」

「…自分にファンはいないとか言ってたんで。」

「はい?」

「なんで…大丈夫じゃないっすかね?意外と図太そうですし」

「え、は?」

「まぁ、あいつらのメンタルケアは俺の仕事ですよね。プロデュースは任せましたよ。平井先輩。」

猪介は相変わらずの仏頂面で言い切るとそのまま談話スペースを後にした。


取り残された平井は自らのコンセプト案と向き合った。

酉脇城、加賀羊太郎、牛頭良磨。彼らが世間からどう見られるか、その大半は自らにかかっている。

彼らはみんな形は違えど確かなプロフェッショナル、実力で殴るのは簡単だ。


「でも、Curtain Riseとして譲れないところもある」


改めて感じた責任と信念。全てを飲み込むと再び仕事に取り掛かった。

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