15話 理由
「日比谷くんは積極性が強いですし、性格もさっぱりしているように感じましたよ」
清水の意見に数名が頷く。すると、育美はすかさず反論した。
「でも羊太郎入れるんでしょ?押しが強すぎて酉脇さん疲れるんじゃない?」
「なら田上ですかね?」
木村が手元の資料をめくり呟く。
「田上くんは田上くんで…かなり現実主義というか、計算高いですよね。」
「正直羊太郎くんが決定なら二人ともデメリットがありますね。酉脇氏との相性を考慮すると。」
藤井の意見に平井が同調した。
各々が頭を抱え、天を仰ぎ。苦しげな声を漏らす。
「あちらを立てればこちらが立たず…だね」
町田がいつになく真面目に発言すると、育美は間髪入れず「それ、なんか違う。」と一蹴した。
相変わらず黙々とキーボードを叩く猪介を山本が覗き込み、ため息をつく。
「お前さぁ、他人事すぎるだろ。」
「はい?」
「あんたいつもそうよね、スカしててむかつくわ」
猪介は育美の鋭い視線を受けて、渋々パソコンを閉じる。
「牛頭さんは?」
「私はないと思う。全くの畑違いなのに明確な目標がない。」
育美がピシャリと言い放つと、山本と木村が目を合わせる。
「あの人なぁ、悪くないけど。決め手がないんだよな。」
「谷口でも声がけした情くらいはあるか…」
「情ではないです。」
「私はありますよ、声をかけた情!」
元・蒼凛舎メンバーの雑談を遮り、平井が身を乗り出した。
「情だけでなく!牛頭氏は年上ならではの包容力がありますし、綺麗系可愛い系筋肉系でバランスもいいです!」
「…プロデューサーが押すなら決まりでいいんじゃないですか?」
誰ともなく言い出すと、緩やかに決定の流れができ始める。
しかし、育美は腕組みをし、顔を顰めた。
「そんななんとなくで決めること?」
彼女はさらに顔を歪める。
「人生が…かかってんのよ。」
それは唸りに近い声だった。
明らかに室内の空気が重くなる中、町田だけがいつもの頼りない笑みを浮かべている。
「そうだねぇ、育美ちゃん。」
「社長、セクハラです。」
「…角田ちゃん。」
育美は呆れたようにため息をつき、机上の書類たちを睨みつける。
沈黙の中。ぱらぱらと書類を捲る音だけが、この場を繋いでいた。
各々が何か良い案はないかと隣席の者と密やかに話し合う。
「あの。」
声を上げた平井に注目が集まった。
「軸を決めませんか?ユニットとしてのバランスを見るのか、彼との相性を見るのか……とにかく売れるユニットを目指すのか。」
「酉脇さんが軸でしょ?」
育美が言い返すと平井は「はい」と即答した。
「でも正直、そこはコンセプトだけでもいい。ユニット内で孤立しても、そのサポートは私たちがすればいいですよね。期間も五年と決まっていますし。」
「正気ですか?!酉脇に何かあったら蒼凛舎がなんていうか!!」
「そうですよ!彼のメンタルが最優先です!」
元•蒼凛舎メンバーが声を荒げると平井は頷く。
「それなら、酉脇氏と最も上手くやっていけそうな人。になりますね。」
「もう本人に決めさせますか?」
山本の投げやりな物言いを遮り
「それこそストレスになります。そんな重責は背負わせられないからこれを書いてもらったんですよ。」
と猪介が数枚のコピー用紙を取り出す。
「それ、当てになんないだろ」
「一通り目は通しましたけど…『優しそう』とか『真面目そう』とか…当たり障りない感じでしたよね…」
清水は俯きがちに目を逸らす。
「あの加賀羊太郎ですら『可愛い感じの子』だしな。」
木村が猪介を見つめた。
昨日、城に記入してもらった参加者の印象。猪介はそれを凝視していた。
「あんたが実演なんかするからじゃないの?引っ張られてんじゃない。」
育美の小言を聞き流し、猪介は手元の紙を捲る。
「確かに、私の例に沿って当たり障りのない解答が大半です。…しかし、全てではない。」
「さすがは谷口くん。めざといね。」
「はっきりと『怖いタイプ』とか『?』だけの人もいますね。」
町田と平井が同意すると、各々が隅に追いやっていた資料を手に取り、目を通した。
「あんまり変わり映えしないですけどね…」
「好意的な物だけ切り抜きますか。」
藤井と木村が呟くと、育美は静かに町田の顔を見つめる。
「そんなの必要ない。」
「ははは!どうしたの、角田ちゃん?」
町田が声を上げて笑うと、育美はため息をついた。
「…決定ね。世良、あんたも回りくどい…」
「はい。ただ、私が言い出すと…プロデューサーって妙な強制力があるので。フラットに審査したいですし」
目を逸らし、背を丸めた平井から視線を外すと、育美は猪介を睨みつける。
「谷口!あんたも!なにめんどくさいことしてんのよ!!」
猪介が「はあ」と気のない返事を返すと、元・蒼凛舎の社員たちの訝しげな視線が彼に集まった。
「どういうことですか?」
「なにが…」
理解の追いつかない彼らを無視し、町田は社員たち一人一人を見回す。
木村や山本らは困惑の表情そのまま。しかし、数名の社員が姿勢を正す。
元・ヴィエルジュのメンバーだ。
町田は大きく伸びをし、城からの印象資料を手に取る。
ゆっくりとした動作に自然とみんなの視線が集まり、雑音が止む。
「演劇をしようか。」
芝居がかった声。その提案にヴィエルジュメンバーが資料に貼り付く。
「こんなことじゃ、草野は悲しむね。」
呆れにも悲しみにもとれる声色と激しく紙を捲る音の中。町田は頬杖をつき、指先で机を撫でていた。
「あ…」
清水の声に町田はにっこりと微笑む。
「城くん、牛頭さんにはもう。気を許していたんですね。」
清水が悔しそうに脱力すると、隣席の山本が彼女の手元を覗き込む、彼女の指先。
牛頭良磨の文字列の横には『優しいお兄さん』と記入されていた。




