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Curtain Rise!  作者: 風見ことは
開場
14/22

14話 審査



オーディションは終盤に差し掛かり、皆の疲労もピークに達している中。育美は一人、怒りを堪えながら審査に集中していた。


いよいよ良磨が呼ばれ、猪介は姿勢を正す。

これは緊張や、やる気ではなく。自らが連れてきた以上、それ相応の関心を示す必要がある。という、彼なりの責任感だ。


「牛頭良磨です。歳は今年二十五になります、今は実家の体操教室の手伝いと地元テレビ局の教育番組に…少し。」


年齢に皆反応した。今回参加者の大半が十代、高くても二十歳くらいだった。

しかし、その物珍しさがこの終盤の気だるさへ妙な新鮮味を与えた。

審査陣も多少の活気を取り戻し、迎えた自己アピール。

無音のまま、良磨は一礼する。


「あんま派手なことはできませんが…」

と呟き、後退る。

軽い助走をつけると、二度軽く跳ね。強く踏み込む。


瞬間、大きく舞い上がった肢体は風を切る大きな音を立て一回転。

着地後、体勢を整える間もなく跳ね上がり今度は捻りを加えての回転。

大柄な体格から繰り出される、大胆な演技。しかし、着地や踏み込みはとても繊細で静かだ。


審査陣は思わず感嘆の声を漏らし、目の前で繰り広げられる演目に集中した。

バク転や宙返りをした参加者は他にもいたが、あくまでもダンスの中に大技として組み込んだもの。


良磨はどれほど高く跳ぼうと、どれほど美しく四肢を滑らせようとも、それは大技ではない。

これら全てが彼の基礎。そう思わせる安定感だった。


城は彼の動きに見入り、時折「わぁ!」など小さく声をあげ拍手すらしていた。

彼だけでなく、清水や藤井も先程までの疲労が消え、子供のように見つめていた。


「…以上です。」

良磨は向き直り大きく一礼をし、絞り出した声で演目の終了を告げた。皆が惜しみない拍手を送ると気まずそうに会釈する。


「安心して見ていられましたね。」

進行役が呟くと、横に座っていた社員が大きく頷く。

「牛頭さん、質問に移りますがよろしいですか?」

「は、はい」

良磨は緊張気味に拳を握りしめた。


「体操はどのくらい続けてらっしゃるんですか?」

「あー…気がついたら始めてたといいますか、父が元選手の現トレーナーなので。三歳ごろからなんとなくずっと…ですかね」

「そうなんですね、ありがとうございます。」

いまいち感触は良くないな、と猪介は考えていた。


育美が手を挙げると進行役を待たずに発言する。

「私からも一つ。弊社で成し遂げたいことはありますか?目標、興味でも構いません。」

「えっ…と…具体的なのは、ないんですけど。俺にできることを精一杯尽くすだけ…っていうか」

育美は眉をぴくりと上げ、静かに息を吐いた。

「…わかりました、ありがとうございます。」

「はい…」


無難なやり取りに、これはいい評価は期待できないだろうと猪介はパソコンに視線を移す。


「谷口氏!」

平井からのチャットだ。入力中の表記が消え、新たなメッセージが届くと、猪介は小さく手を上げた。

今まで審査に無関与だった彼の行動に、皆の注意が向く。しかし、気にする素振りもなくいつも通りの平坦で低い声色を響かせる。


「牛頭さん、プロデューサーから質問よろしいですか?」

「は、はい!」

周囲の緊張感につられてか、良磨はさらに身構えている。


「あなたが思う、器械体操の好きなところはどこですか?」

「好きなところ…」

少しの沈黙。何人かが即答できないのかと呆れ気味に体勢を変える。


「あの、まとまらないんすけど。器械体操って…跳ねるとか回るとか、言葉にしてしまうとすごく単純なことで…」

猪介は表情を変えずに見守る。

「ただ、さっきみたいに実際は歓声が上がったり、示し合わせないでも拍手がもらえたり。そういうのがこの身一つでできるのが楽しいんです。」


難しい顔で身を乗り出した城を、工藤は注意深く観察していた。

猪介は彼らを視界の端に捉えつつ、声色を和らげる。

「大会への出場もしますよね?成績…優勝などにご興味は?」

「そこは正直どうでも良くて。と言うより、興味がなくて…そういうのはついでというか。俺はやり切れたかとか…そこでもらえた反応が全部なんです。大会じゃなくても。」


良磨が尻すぼみがちに言い終わると、城が大きく何度も頷いた。

「城?」

工藤の問いに皆の視線が城に集まった、城は途端に焦り出す。

「あっ、えっと、その!すみません…」

身を縮こませる彼の背を工藤は優しく摩り、笑顔で語りかけた。

「城、何かあるのなら話すといい。」

「えっ…と…」

城はちらっと猪介を見つめると猪介は小さく頷く。


「あの…ごめんなさい、俺もそうだなと思って。俺もやることってランウェイで歩いたり、写真を撮られたり…でしたけど、それで喜んでもらえると…嬉しくて。」

たどたどしい発言を良磨は笑顔で見守っていた、どこか応援するように大袈裟に相槌を打っている。

「売り上げとか…何部出たとか、より…そっちの方が俺も大事だったな…って、ごめんなさい!全然違いますよね!」

城は赤面して慌てて話を終わらせる。


「いやいや!合ってますよ!!やっぱり目の前の人が笑ってくれたり感動してくれるのが一番っすよね!」

良磨が快活に笑うと、城は安心したように笑い返す。

「でも…それなら…」

「へ?」

城が首を傾げると、良磨は恥ずかしそうに頭をかいた。

「や、城さんって、アイドルめっちゃ向いてるんだなと思って。ほら、握手会とかファンサとか!数字より反応が嬉しいならめっちゃ適正ありますよね!」

「え!そ、そう…ですかね……だと、いいんですけど…」

城がはにかむと、良磨は「そうっすよ!」とさらに太鼓判を押した。


和やかな空気の中審査は終了し、評価に移った。

技術、性格共に高評価。しかし、今ひとつ惹かれるところがない。との意見でまとまった。



その後も滞りなくオーディションは進み、最後の一人を審査し終えるとごく自然に協議に移る。


加賀羊太郎を確定としてあと一人。

大半の者はやはり、日比谷か田上を推しており口々に意見を言い合ったがまとまらない。

誰かが疲労がピークだと言い出すと、公正な判断のため、最終決定は後日行う事となった。



猪介は椅子の片付けが終わり、伽藍堂となった廊下に一人立ち尽くしていた。

この廊下を埋めるくらいの中からたった二人。その重みを改めて見つめていたのだった。


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