13話 決定
圧巻のパフォーマンスが終わると、あくまでも形式上の質疑応答が始まった。
「先ほどのパフォーマンス、複雑ながらも洗練されていました。うちのルミのパフォーマンスに近いと感じたのですが、やはり意識されましたか?」
進行役が一つ目の質問を投げると、羊太郎は満足気に笑う。
「はい!もちろん。ルミさんが御社の象徴だと思うので!でもおんなじことやってもつまんないだろうな〜って僕が得意な要素を入れてちょっとアレンジしました!」
「ありがとうございます。ダンスとてもお上手ですが、受賞歴などは?」
「小学生の時に少しだけ!今はダンスは趣味程度で、SNSでの活動に絞っています!」
「そうなんですね。とても少しだけには見えませんでしたが。」
進行役が笑顔を浮かべると、場が静まり返った。
もはや選考の余地がなかったため、質問が浮かばなかったのだ。
その中で元蒼凛舎メンバーの木村が絞り出すように
「現在のインフルエンサー活動や、今後の芸能界活動では、時に心無い言葉も向けられると思います。その際にご自身のメンタルケアは、どのように行われておりますか?」
と問いかける、彼は若い参加者には毎回このような質問を投げかけていた。
彼の同期・山本は呆れたような視線を向けていた。
羊太郎はうーんと唸ったあと、一人納得したように頷く。
「確かにひどいことを言う人はいますけどー、気にしないようにしてます。嫌いって言われたらその倍は自分に好きって言ってますっ!」
「それでも傷ついたり、悲しんだりはしますよね?気分転換などはされないんですか?」
木村は納得がいかなかったようで少し食い気味だ。
「自分の声を一番聞くのって自分じゃないですか!だから、嫌われちゃった…って反芻するより、僕はだーいすき!超かわいい!!ってたくさん言って聞かせたいんです。」
羊太郎の発言に再び場が静まってしまった。
木村はまだ納得していないようだったが「ありがとうございます。」と質問を終了した。
次は何を…と皆が視線を泳がせていると、育美が静かに「私から一つ。」と呟く。
「加賀さんが今回オーディションに参加した理由、またはアイドルを目指す理由。Curtain Riseの活動で得たいものを教えてください。」
獲物を狙うような鋭い視線。しかし羊太郎は動じない。
「僕は、僕の好きなものをたくさんアピールしたいんですっ!それを見てくれた人がいいね!って言ってくれたり、私も!って共感してくれたりしたら最高だし。」
弾むような声色。楽しくて仕方がないと言った様子だ。
「更に言うと!僕が好きなことをしてるのを見て、みんなが自分も好きなことを、もっとアピールできるようになったら!もぉっと最高!!」
くしゃっと笑う顔は、愛くるしい少年そのものだ。
育美もまた、彼の愛嬌には動じず。淡々と「わかりました。」と会話を閉じた。
進行役が周りを見回し、他の質問が出ないことを確認すると羊太郎に向き直る。
「では加賀さんから我々になにか質問などございますか?」
「あ!はーい!城さんはなんでアイドルになるんですかー??」
羊太郎の無邪気な質問に城は硬直し、手元を凝視した。
「あ…えっと、その。」
視線を泳がしつつ、考えている。羊太郎はにこにこと微笑んだまま言葉を待った。
「俺は…加賀さんみたいに、目標?とかはなくて…で、でも!一生懸命やる気です!中途半端にはしたくなくて!」
社員の何人かは心配気に見守っていたが、羊太郎はうんうんと相槌を打ちながら真剣に聞き入っている。
「えっと……きっと、始めたらいろんな目標とかは見えてきて…自分にできることとかも、わかると思うから…」
城は顔を上げ、羊太郎と目を合わせた。
「活動の中で、見つけていけたらいいなって!思ってます!!」
引き攣りがちな社員の笑みとは対照的に、羊太郎はぱっと目を輝かせ、花が咲いたような笑顔を浮かべた。
「それって最高じゃん!!選んでる時って超楽しいからっ!!」
羊太郎の言葉に城は恥ずかしそうに俯いた。
「そんな時間を共有できるって…すっごくわくわくする!わあ〜いいなぁ!僕、また会えるようにお祈りしていますねっ!」
これが計算された物だとしたら、彼は相当な策士だろう。しかし、芸能界においてそれは欠点にはならない。
それどころか絶大な強みだ。
彼の小さくも鮮烈に焼きついた姿を見送り、審査員は各々の意見を述べた。
「彼、相当頭がいいですよね。パフォーマンスといい受け答えといい、親しみやすい空気を演出している。」
木村が発言すると清水は身を乗り出した。
「そうなんです!たろちゃんは澄台生なんです!しかも山岡にも受かってたのに校則と制服で澄台を選んだんですよ!それにダンスも昔は大会で…」
清水は自分のことのように興奮気味で、早口で捲し立てた。
澄台は私立、山岡は公立の進学校で、どちらも偏差値は七十代。加賀羊太郎は間違いなく天才ということだ。
木村は話を聞き流し「はぁ〜」と感心のため息を漏らし、伸びをした。
工藤はイタズラ気に微笑み、町田と目を合わす。
「どうです?町田さん、なにやら言いかけていましたが…そちらで不必要でしたらこちらで引き取りますよ?彼。」
町田は思わず吹き出し
「不必要どころか必須ですよ!工藤さんも人が悪い!」
と表面には和やかなやりとりを交わした。
「…決まりですね。」
育美は目を細め呟くように言うと、猪介をキッと睨みつけた。
「ほら、決まりよ!!さっさと報告しなさい!!」
猪介は渋々と言った態度で、平井へメッセージを送信した。
平井からは「そりゃそうですよ!」と返信が来た。
彼と城、あと一人。
社員の半数は田上で決まりでは?とまだ残っている選考を終わらせようとしている。
進行役も、もはや残りは消化試合と言わんばかりに肩の力を抜いた。
「…チッ」
育美は眉間に皺を寄せ、不機嫌そうに腕を組んだ。
それを見た猪介は、今日は片付けより説教の方が長くなりそうだ。と頭が疼き出すのを感じた。
まだ参加者は残っている。
名簿を手に取り、残り数名の名前を目でなぞる。
気の抜けた空気のまま、進行役は次の参加者の名を呼んだ。




