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Curtain Rise!  作者: 風見ことは
開場
12/21

12話 オーディション



「…では自己紹介をお願いします。」

活発さを絵に描いたような少年はハキハキと自己アピールを続ける。

藤井が小さく頷き続けているのに気づいた猪介は、彼女の推薦なのだろうと考えていた。


集められた青年達は予定通り個性豊かで、元ヴィエルジュメンバーの後輩、地下アイドル、声優や演劇の専門学生等…

その誰もが整った容姿を持ち、確かな才能の一片を感じさせるのだから世の中は広い、と猪介はぼんやり考える。


…つまり、集中できていなかった。

オーディションも中盤に差し掛かり、審査側には露骨な疲れの色が見えている。

こうなるとどうしても初めの方の刺激が目立ってしまい、序盤の三名ほどが強く推される傾向が出始めている。

また一人の審査を終え、口々に評価を語る。

「元気でいいけどねぇ」

「緊張ですかね。ダンスが焦り気味だった」

「若い子はやっぱりメンタルの心配も…」


どうやら先ほどの少年の評価はイマイチのようだ。

猪介は評価に加わることなく、平井からのチャットを確認し「プロデューサーも微妙みたいです。」と伝えた。


「それならやっぱり…最初の日比谷(ひびや)くんか田上(たのうえ)くんか」


日比谷と田上は二人とも現役の舞台役者で鳴かず飛ばずではあるが、ダンスも歌も今日のために仕上げてきていた。

日比谷は熱血系、田上はクール系で系統が違う。さらに、演劇への高い熱意があり元ヴィエルジュメンバーからの評判が上々だった。


「まだ折り返し地点です。」

育美が言い放つと、皆背筋を伸ばし、深く息を吐く。


疲労気味な審査側の中で唯一、育美だけが参加者と同じくらいの熱意を保っていた。


「先程の八坂くん、確かに若いですけど幼い頃からのサッカー経験があります。チームスポーツを続けてきた子は若くてもメンタルは成熟気味な傾向があります。それに、さっきの演技。滑舌が良くてしっかり動きの演技もできていた、才能ありますよ。」

彼女が早口で言い切ると年配者たちが感心とも呆れとも取れるため息をついた。



進行担当の社員が次の参加者を呼ぶ。

「はーい!」

と明るい性格がドア越しにも伝わる返事が聞こえた。


「あっ」

猪介は隣席の女性社員•清水が小さく声を漏らすのを見て彼女の推薦だろうと考えつつ、先程の返事のわりにはゆっくり開かれるドアを眺めていた。


「よろしくお願いしますっ!」

ふわっとした髪はミルクベージュに染められている。

小柄な体格に大きな瞳の愛され顔。


−かわいい系だ。


何人かの社員が書類に目を落としたり、腕を組み直す。


今回、かわいい系の選出が異常に多かった。

それは城の控えめな性格を踏まえてのことで、押しの強そうな人格を避けた結果だった。

案の定、城からの評価は上々で「優しそうでしたね〜」と度々コメントしていた。


しかし、審査員たちはかなり食傷気味だ。似た傾向のコミカルな動きや甲高い声に嫌気すら感じていた。


「では自己紹介を」

進行役の一声に少年はにっこりと微笑むと


「はいっ、加賀羊太郎(かがようたろう)ですっ。17歳の高校二年生!インフルエンサーをやっていて、主には配信や動画投稿で活動してますっ」

と清々しく答える、無理に作っているわけではないが高めの声。

清水と城は彼の一挙一動に微笑んでいるが、他の反応は悪い。

しかし彼は空気を察せないのか気にしないのか、笑顔のまま続ける。

「実は僕、城さんと同じ雑誌載ったことあるんですよー!」

城は小さく驚いた。

「キッズモデルやってたんです!十年以上前ですし、僕はページにこぉんなちっちゃくで、城さんは表紙だったんですけどねっ!」

大袈裟なジェスチャーのおかげかネガティブな印象はなく、城は戸惑いつつも微笑んでいた。


「では加賀さん、自己アピールをお願いできますか」

進行役の言葉に羊太郎は「はい!」と明るく返すと音楽を再生する。

最近流行りのアイドル曲のリミックスのようだ、それを元の振り付けにアレンジを加えつつ披露する。

いよいよサビ…のところで音楽が途切れ途切れになり、ついには止まってしまった。

トラブル?と数名が心配したが、羊太郎は音楽に合わせて振りの形で静止している。


演出だ。


審査員が身構えると羊太郎は

「びっくりしたー?!」

と笑い、その声と同時に再び音楽が流れ出す。

ただ、その音楽は倍速になったり飛んだり…予測不可能なほどつぎはぎにされた音源。

羊太郎は音楽に合わせ「あれー?」「わぁ!」など愛らしくリアクションをとりつつも確実に振りをこなす。


この光景に皆覚えがあった。

Curtain Rise唯一の所属タレント•ルミだ。

ルミの再現をした者は他にもいたが、どれも二番煎じに過ぎなかった。

しかし、羊太郎は違う。ルミが愛嬌で魅せるとしたら羊太郎は技術。圧倒的技術力で皆の視線を惹きつける。


それは正に

「実力者の…」

町田はぼそりと呟くと慌てて口を覆った。


町田にそれを言わせるのなら、もう確定だろう。と猪介は考えチャットに目を向ける。

平井は仕事なのを忘れているのか

「尊い!」「しんどい!」「そこ重力ありますか!?」

など独自の語彙を投げつけてきている。


(オタク言葉だな…)


と猪介は背もたれに寄りかかり腕を組み、考えた。ふと、横の清水に目を向ける。

清水は泣きそうなのか目を赤くして、時たま心臓部を抑えたり、太ももを殴ったりと挙動不審だ。


(オタク仕草だな…)

と考え、目の前の羊太郎に視線を移す。すると目が合った。

羊太郎はニヤッと笑ってウインクを投げかける。


もう彼には、評価の必要すらないだろう。

猪介は平井へ『了解』のスタンプを送った。



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