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Curtain Rise!  作者: 風見ことは
序章
1/21

1話 城の話




 いつも通りの出勤。控え室までの道のりは雑多に人が行き交い、誰ともわからない人々と挨拶を交わす。


「おめでとうー!」

きずきくん、おめでとう!」

「あ、ありがとうございます……?」


 …それにしても、今日はやたらと祝われる

なんだろう?またどこかからアンバサダー契約の話とか貰ったのかな?


連絡来てたっけ。

確認した待ち受け画面に表示された日付に目が止まる。


「……今日、誕生日か。 」


 ついに二十歳になった。思い返せば仕事以外何もしていない人生…

 学校にもロクに通わずに大人になった、友達もいない。仕事上仲間と呼べるような人もいない。

 仕事では事務所の七光りでそれなりの功績は持っているけど、なにか…こう…自ら得たという実感はない。


酉脇とりわきおはよう、今日はこれが終わったらオフだ。たまには家族や、友人とゆっくりするといい。」

「は、はい……おはようございます。」

 マネージャーの鈴木さんの言葉でやけに虚しさを感じてしまった。


 衣装に着替えるとメイクさんに髪と顔を整えてもらう。どちらも同業者と比べるとあっさりと終わる。

 俺は特別どこが映えるとかがないので髪はウェット感を出して、メイクは肌に軽くパウダーを叩いてマット感を加え、今日の衣装に合わせて軽く眉を描き足す。


 スタッフさんへの挨拶を終えると、立ち上がり、全体のバランスを見る。

今日はかなりシンプルな衣装、シルエットも質素。でも、素材と技術が詰まった仕上がりだ。

これは動きのリズムがかなり重要になるかな……

 足はなるべく曲げず大股に、手の振りは控えて。視線は……なるべく遠くを見た方がいいな……




「お疲れ様でした、お疲れ様です。」

リハーサルを終え楽屋に戻る途中、すれ違う人と自分の肩の高さを見比べる。


(身長、伸びなかったなぁ……)


「酉脇、ディレクターが絶賛していた。お疲れ様。」

「お疲れ様です、ははは……」

「本当…流石は蒼凛舎そうりんしゃの看板だ」

「長くいるだけですよ〜…」


 事務所やスタッフさん、家族に支えられ、ここまでこられた。

 きっと一人じゃ見られなかった景色を見られた。色んなものを得られた、返しきれないくらいを受け取った。

このまま続けることはできる、モデルの仕事は楽しい……でも……ずっと、ずっと…拭えない考えがある…


 −そろそろ、自分の足で歩くべきじゃないか?




 俺は三日間、悩みに悩んで社長の元へ足を運んだ。

 事前にアポイントは取ったのでスムーズに社長室へ通される。

社長はいつも通りに「よくきたね」と微笑んでいた。俺を見つけて、ここまで連れてきてくれた社長…本当に恩人だ。

 余計な時間を取らせちゃいけない…


 「…あの…社長、今の契約が終わったタイミングで退所します。」

「は?」

 社長は一瞬固まった後、ため息をついた。

「…少し待ってね」

「はい。あの…お世話になりました…」

「城、少し待ちなさい。」

 社長は立ち上がると専用の社長椅子から、目の前にある応接用のソファーに座り直し、正面の席を指した。


「そこに座って。」

「?はい。」

 言われるがまま腰掛けた俺を、社長は険しい顔つきで覗き込む。

 「退所って……なにかあったのか?」

「なにか……?」

「現場でトラブルだとか気に食わないスタッフが居るとか」

「えぇ!?そんなのないですよ!?」

驚いて大きな声が出た…恥ずかしい…


 「………なら、なぜ…?」

いつもの暖かい声。いつも俺の心配をしてくれる…

「…その、今まで社長やスタッフさん、関わってきた人みんなに良くしてもらって。すっごく楽しく仕事させてもらってて……」

「うん」

「…凄く、俺なんかじゃ見合わないような仕事もたくさん貰って、褒めて貰って……ありがたくて……」

「うん」

「そろそろ俺も、誰かに何かをしてあげられるようになりたいなって……」


 言葉に詰まった俺を笑顔で見つめたまま、社長は俺の肩を優しく摩る。

「城は充分、尽くしてくれているよ。プライベートも返上して…クライアント様も毎回絶賛してくださる。」

たぶん、気を遣わせてしまった。こんな自分が恥ずかしい。

 もう、こんな風に周囲の人に支えられるんじゃなくて、俺自身が誰かを支えられるようになりたい。


…だから、


 「ありがとうございます……俺、ちゃんと人のためになりたくて……」

「…うん」

「ヘルパーの資格をとりたくて」

「うん?」

「介護士と悩んだんですけど俺学校ちゃんと行ってないですし、今からなるってなったら……」

「待って待って、ヘルパー……?」

「へ……?はい。」

 社長は困ったように部屋の隅や床やそこらを見回し、頭を抱える。


「また…急だね。」

「急、ですか?…あっ!でも俺体力は自信あります!勉強は…ちょっと、わからないですけど…でも、少しは始めてて…!」

「ああ…そうだね、うん。城は…そういう子だ…」

 社長は頷きながらそう言うとしばらく固まっていたが、大きく息を吐くと俺を見つめた。


「……城、今まで満足な休暇も無しに、良く頑張ってくれたね。」

「いえ、俺も楽しくやらせてもらいました。休みたいとか…思ったこともないです。」

 本当に、今まで俺は楽しいだけだった…


「…今一度、自分を見直すいい機会かもしれないね。二十歳になった事だし、一ヶ月休暇をあげるから、実家に戻ってゆっくり考えなさい。私は城を待っているから…」

「一ヶ月…?でも…」

 時間をもらっても…俺の言葉を遮り、もう決定したことみたいに社長は続けた

「そうだな、今度酒でも飲みに行こう。初めては親御さんとがいいだろうから…その後にね。」


「……わかりました。」

もう…心は決まっている、一ヶ月間、何をすれば良いのだろう。

「うん。それで、うちを辞めるのか……続けるのか。続けるにしてもモデル以外の仕事もあるからね、よく考えて。」

「?……はい。」

 社長は、今までの俺を知っているから心配してくれているんだろう…本当に情けない。

 一ヶ月で社長を安心させられる答えを出せればいいけど…



 俺は気まずさを引きずったまま社長室を出た。


 散々お世話になった事務所、二人目のお父さんみたいな社長…心配かけたまま退所なんてできない。

 不安はあるけど…一ヶ月もあるんだ、なんとかできるはず…


 まずはいろいろと調べて、なんでもやってみよう。俺は大丈夫だって証明するんだ…

 決意を胸に事務所を後にする。


 心なしかいつもより足が軽いような気がした。

 うん。まずは社長のために頑張ろう。それで、その後は誰かのために、人のために頑張っていくんだ…!


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