炎属性だからって人のこと何だと思ってるんだ?
「――おい火野、また依頼失敗か?」
「……はい。」
王都の冒険者ギルドに入った瞬間、常連のドワーフ・ドルガがこちらを見て爆笑した。
「うひゃひゃ! 今度は何燃やした!? また貴族の庭か!? それとも依頼人か!?」
「燃やしてない! 依頼人はまだ無事だ!」
「“まだ”ってなんだ“まだ”って!」
俺の名前は火野レッカ。炎属性の魔術師――である。
だが俺の魔法は制御不能のバーベキュー仕様。火球は問答無用で大爆発。薪に火を点けるだけでもキャンプ場が戦場になるレベル。
最近ついたあだ名は“二足歩行の火炎瓶”。まじで泣きたい。
「おかえりなさい、火野さん」
受付嬢のルナが、やれやれ顔で依頼書に×印をつける。
「古代の祭具を回収するだけの依頼だったのに……」
「わ、悪気はなかったんだ。ちょっと触ったら勝手に燃えて……」
「“勝手に燃える”って何ですか」
「俺が聞きたいわ!」
後ろで待ってた冒険者たちからクスクス笑いが起こる。
「おいあいつ、また燃やしたらしいぜ」
「次は何が残るんだろうな」
おまえら一回俺と同じ火力持ってみろ。マジで生活できねえぞ。
そこに、俺の唯一の相棒――戦士のグレンが現れた。
「おーいレッカ! 次の依頼決まったぞ!」
「おまえ、ちょっとは俺の心の回復待ってくれない?」
「大丈夫だ! 今回の依頼はスライム退治だ!」
「……それなら燃やしても文句言われないか」
「よし! 森だ!」
「え、森?」
「森だ!」
――結果から言うと、森も燃えた。
現地でスライムの大群を見た俺は、ちょっとカッコつけて叫んでみたのだ。
「行くぞ! インフェルノ・バースト!!」
次の瞬間――
ドッゴォオオオオオオン!!!
森が一瞬でサウナになった。スライム? 蒸発。森? 半分消滅。グレン? 全身こんがり。
「おまえ、森を燃やすなって言っただろうがぁああ!」
「ごめん! でも派手な方がカッコいいかなって!」
「おまえ、次派手な魔法撃ったら俺がおまえ燃やすからな!!」
「いやそれ本末転倒じゃね!?」
結局、依頼達成どころか環境破壊の追加ペナルティまで課された。
報酬はマイナス。ギルドに借金。人生ハードモード。
夜、キャンプで俺は焚き火を見つめていた。
「……俺、炎属性、向いてないのかな。」
「おまえ、落ち込むな。」
グレンが肉を焼きながら笑う。
「おまえの炎、確かにやばい。でもな、普通じゃどうにもならない敵が来たとき、おまえが役に立つんだよ。」
「……ほんとに?」
「そうだ。次は砂漠の依頼にしようぜ! 森がなければ燃えねえ!」
「それだ!」
こうして俺とグレンの**“環境にやさしい炎活”**は始まった。
……なお、砂漠の遺跡も少し燃えた。
(了)