100%
灰色は最も侵食力が強い。なぜなら、嘘は灰色だから。
それは多彩な世界を陰鬱に染め上げ、外がどんなに騒がしく、どんなに喧噪であろうとも、一瞬で静寂へと帰す。まるで世界に自分だけが取り残され、嘘が砕け散った暗澹たる傷心を独りで背負うかのように。
あの嫌悪感に満ちた感情は、記憶の谷底に埋もれている。まるで沸騰するマグマのように、人の精神を永遠に焼き尽くす。
だからこそ、僕は嘘が嫌いなんだ。
◆
「野々花さん、僕、好きです!付き合ってください!」
ほっと一息つく放課後のひとときを、バカな奴がぶち壊した。ざわついていた教室は水を打ったように静まり返り、時間がそこで止まったかのようだった。
ほとんど全員が動作を止め、視線が申し合わせたように告白された側の野々花へと集中する。
野々花紫苑。神に愛された女子高生。
墨色の渓流が陽光をたゆたうような艶やかな黒髪。オレンジがかったルビーのように澄み切った知性の輝きを宿す瞳。桜色の唇は、時折優雅な微笑みを浮かべる。どんなスターやアイドルも霞んでしまうほどの容姿。
その名の通り、百花繚乱の美貌は、美を慕う生き物を常に惹きつける。ただ彼女は…花茎に棘を持つ。
「そこの君、えっと…知らない人ですよね?」
「告白する勇気は評価するけど、その前に少しは頭使ったほうがいいんじゃない?」
「いきなり告白されて承諾する女の子なんているわけないでしょう?」
「え…い、いない…ですよね?」
「もちろんいない。常識でしょ?」
野々花は直接断ったわけではないが、その言葉は針のように刺さる。
野々花の目の前で、事件の主人公——イケメンで陸上部のエース、そして軽薄男の山崎徹が、後頭部をかきながら、こわばった表情で棒立ちになっている。
まさか自分にそんな口の利き方をする女子がいるとは思っていなかったらしい。
「…あの…実は僕…」
言葉を濁したまま、沈黙が気まずさを増幅させる。
「徹くん、すごく優秀なんだから!」
告白が進展しないのを見て、教室の入り口で見守っていた山崎の取り巻きたちが中へ入ってきた。
「徹くん、聴いてる音楽のセンスが抜群なんだよ!」
「漫画も読んでるし!」
「ゲームも超強い!『勇者ドセルダ』の達人だぜ!」
「勉強はトップクラスじゃないけど、頑張ってるんだ!」
彼らはあちこちから口を挟み、自然界では珍しい社会性蜘蛛のように、「長所」という名の嘘の網を共同で紡いでいく。
野々花はイライラしたように眉をひそめ、鞄を脇に抱えて立ち上がると、良からぬ目つきで周囲の数人の顔を見渡した。
「言いたいこと、終わった?」
「は、はい…終わりました…」
「終わったんならどいてよ。」
野々花の目に危険な光が走ったのを見て、彼らはそれ以上喋るのをやめ、慌てて身をずらして道を開けた。
野々花は深く息をつくと、独りで去っていった。告白を断った後、彼女は山崎徹を一瞥すらしなかった。
取り巻きたちは分かっていた。もし野々花を不快にさせたら、告白失敗の責任を山崎に押し付けられるってことを。
「お前らのせいで、告白失敗したじゃねえか!」彼はそう言うに違いない。
「部、部長!僕ら、練習行ってきます!」
取り巻きの大半は陸上部に入っており、口実を作って山崎を置き去りにし、さっさとその場を離れた。
おかしな騒動がようやく終わったのを見届け、証人役の同級生たちもぞろぞろと帰っていった。部活のある者は部活へ、帰る者は帰宅へ。現場に残ったのは、僕だけだった。
まだ確認したいことがあったが、あの奴、告白に失敗した山崎徹が、まだ野々花の席のそばに立っている。
今の状況じゃ、早々に立ち去るのが賢明だろう。
僕は鞄をまとめ、裏口から出ようとした。その時、場違いな声が背後で響いた。
「おい。聞いてくれよ。」
こっちは帰ろうとしてるの見えてないのか?
しぶしぶ振り向き、表情を無に戻し、無理やり笑顔を作る。
「山崎さん、何か用ですか?」
きっと未練たらしく、野々花の生活習慣でも聞こうとして呼び止めたんだろう、と思った。
ところが、彼は予想外の質問をしてきた。
「今日の俺の告白、かっこよかっただろ?野々花さん…照れちゃったのかな?」
「……」
沈黙して答えない僕を見て、彼は近づき、僕の肩を揺すった。
「かっこよかったよな?」
「ああ…はは…」
答えに窮する。
必死に運動会で優勝した彼の勇姿を思い出しながら、「ええ、かっこよかったですよ。」
「そりゃそうだ、俺だもんな。」
そう言うと、彼はさらに尋ねた。
「野々花さんがいつ俺に告白してくると思う?」
「???」
こいつの頭の中身、全部顔に持っていかれたんじゃないか?
困惑する僕を見て、彼は爽やかに笑った。
「恋愛サイトで読んだんだけど、積極的な方が先に告白するらしいんだ。野々花さん…照れちゃって自分から逃げ出したんだから、俺に告白するのも、あと数日もかからないんじゃないかな?」
「……」
「……」
「…頑張ってください。」
言葉が出ない。ただ彼の肩をポンと叩き、「自分を信じて。きっと彼女できるよ」と慰めるように言う。
彼は何かを勘違いしたらしく、「もちろんだ!」と嬉しそうに練習へ走り去った。
やっと行った。
山崎徹の後ろ姿を見送り、教室内が本当に自分だけになったことを確認する。
そっと野々花の机のそばへ歩み寄り、慎重に廊下を窺う。
まるで犯罪を犯しているかのように、二秒に一度は顔を上げ、緊張しながら野々花の席を探る。
掃除の時間に真面目にやる奴なんてほとんどいない。当然、見落とされた部分があるはずだ。ましてや野々花は女子だ。見つかる確率はさらに高い。
ああ、見つかった。
野々花の椅子を持ち上げ、椅子の脚の下からそれを取り除く——ぐしゃぐしゃに潰された髪の毛だ。一本見つけて伸ばしてみる、長さは問題ない、色艶も問題ない、匂い…わからないか?
でも、野々花本人のものだと確信できればそれでいい。
次に、僕は自分の髪を一本抜き、指先で揉みながら、目を閉じて精神を集中させる。自らに問いかける。
『少女が僕と付き合う確率は?』
意識の中に、スロットマシーンに似た装置が、軽快な音楽と共に起動する。リールが回り始める。表示されているのは果物ではなく、数字。0から9だ。
一の位は、0。
十の位は、0。
百の位には0と1の二択しかないはずなのに、なぜか2から9まで用意されていて、しかも一番長く回り続けている。
これが僕の超能力。その名は——**少女の確率**。
少女と、問題に関わる人物の髪の毛さえあれば、それに質問を投げかけ、0から100パーセントの確率を導き出すことができる。
確率は変えにくいが、不可能ではない。例を挙げて説明しよう。
あの夜、妹の小恋がリビングのソファーでごろごろしながらアニメを見ていた。
僕はポテトチップスの袋を手に取り、彼女の隣に座って頭を撫でた。
『今夜、少女がポテトチップスを食べる確率は?』
000
当時僕は思った。小恋がポテトチップスの誘惑に負けるわけがないだろう?キュウリ味は彼女の一番のお気に入りなんだ!
袋を破ると、開口部から奇妙な匂いが漂った。
「お兄ちゃん、ついに気づいたんだね?」
小恋は体を動かし、僕の膝の上に頭を乗せた。
僕はポテトチップスを軽く振り、小恋に彼女の好きな食べ物が袋の中でサラサラと音を立てているのを聞かせた。
小恋は無反応で、テレビを一心に見つめている。小恋よ小恋、後で「もう飽きた」なんて言わないでくれよ。
「何に気づいたって?」僕が尋ねた。
「キュウリ味のおいしさに気づいたってことだよ!」
小恋は腰の力を使ってソファーから起き上がり、あぐらをかいた。肩にかかる黒髪が揺れ、小恋は笑いながら僕に言った。
「お兄ちゃん、これで私たち、同好の士だね。」
「小恋が好きだっていうことでは、もうとっくに同好の士じゃないか?」
「照れちゃうよ、お兄ちゃん。」
小恋がソファーの上でもじもじしているので、僕はポテトチップスを彼女の目の前に差し出した。
「ん?」彼女は首をかしげ、丸くてぱっちりした目に疑問符が浮かんでいるようだった。
「ごめん小恋、やっぱりこいつの匂いは我慢できない。これは小恋にあげる。アニメ見ながらお菓子を食べるの、幸せだろ?」
僕は率直に言った。小恋なら、食べるだろう?
ところが、小恋はただうつむいてポテトチップスを淡々と一瞥し、「ああ。」とだけ応えると、また画面に視線を戻した。
「お兄ちゃん、小瀬って知ってるよね?」
「水夢のことか?」
「そう。」
水夢瀬は小恋の幼なじみだ。小恋によれば、幼稚園から小学校、そして今の中二までずっと同じクラスで、とても仲がいいらしい。
なぜポテトチップスの話で親友の名前が出てきたのか?僕が困惑していると、小恋がスマホを見せてきた。
「お兄ちゃん、見て。」
画面には、遊園地を背景に、可愛くてチャーミングなポーズでカメラに向かって笑う二人の超美少女が映っていた。一人は僕の妹、小恋。もう一人はおそらく水夢瀬だろう。
最後に会った時は、まだがさつな小学生だったが、数年ぶりに見ると、すっかりお姉さんになっていた。
金色のポニーテール、眩しい笑顔、そして…豊満な——。
「お兄ちゃん、気づいたでしょ?」
「ああ、気づいたよ。」
彼女のスタイルは高校生以上にグラマラスで、あの可愛いベビーフェイスと相まって、モデルのバイトをしていると言われても全く不思議ではない。
「彼女ね。」小恋の口調は少し酸っぱかったが、声は淡々としていた。「私より軽いんだ。」
「軽いって?」
「体重のことだよ。」
「小恋だって十分スリムだよ。飛びつかれた時なんて、重さを全然感じなかったぞ。」
「でもさ。」僕の慰めはあまり効果がなかったようで、小恋は愚痴り始めた。「あんなにボリュームがある見た目なのに、私より軽いなんて!この世界は不公平すぎる!」
そう言い終えると、彼女は真剣な表情で言った。
「お兄ちゃん。私、ダイエットする!」
小恋の目は真剣そのもので、一時の気の迷いや三日坊主のようには全く見えなかった。僕も彼女を応援するしかない。運動は健康にも良い。
「だから、私のお菓子、お兄ちゃんに託すね!賞味期限までに食べておいて。」
小恋がそう言い終えると同時にアニメも終わり、「運動してくる!」と叫んでリビングを出ていった。
穏やかなエンディング曲の中、残されたのは僕とポテトチップスが顔を合わせるだけだった。
確率、恐ろしい。
時間を今に戻す。
百の位を表すリールが減速した。
交際のような曖昧な事象に対して、少女の確率は通常、1%や2%など、一見して不可能そうな数字を表示する。
実際、クラスのほとんどの女子と僕が付き合う確率は1%だった。
毎日遅くまで残っては彼女たちの髪の毛を拾い、確率を調べた。そうしているうちに、野々花を除く全女子を試し終えてしまった。
あれ以来、僕は1という数字が一番嫌いになった。
そして今日、僕はあきらめようと思っていた。だが、山崎徹が僕に希望を与えた。
あの有名な陸上部のエースでさえ野々花に断られる。僕がもし1%なら、それは彼よりも上だってことじゃないか?
そう自分を慰め、変態扱いされるリスクを冒して野々花の髪の毛を見つけたが、結果は残念なものだった。
一の位も十の位も0。百の位は言うまでもなく0だろう。
無数の1の中から、0が現れた。
無数の男を拒み続け、誰も告白を成功させたことがない毒舌美人、野々花ですら、落ち込む時は落ち込むんだな。
家に帰って小恋に慰めを求めよう…そう思いながら、僕は鞄を背負い、重い足取りで教室を出た。
その瞬間、百の位のリールが止まった。止まったのは、なんと僕が一番嫌いな数字、1だった。
僕はゆっくりと息を吐いた。
よかった、野々花は0%じゃなくて、みんなと同じ1%だ。この結果なら納得できる、受け入れられ——
待て!
**「これって100パーセントじゃないかッ!!」**
思わず叫んでしまったが、幸い廊下にはほとんど人がいなかった。後の祭りだが、口を押さえ、そっと教室のドアを閉め、頭の中の数字を何度も確認した。
どう見ても100だ。逆さまにしてみて初めて、「本来あるべき」001に見える。
超能力が故障した?
ありえない。何度も実験を重ねた結果、少女の確率が0%または100%を示した時、その結果は変えられない必然だった。
僕の目がおかしい?
それもありえない。視力の影響は受けない。
そうであるなら、信じるしかない。超能力が存在するのだから、学園のアイドルが逆ナンしてくるなんてことも、当然起こりうる確率なのだろう。
さて、これからどうする?
いきなり告白する?それともちゃんと準備する?ロマンチックに演出する?
野々花が何を好きか、僕は全く知らない。同じクラスとはいえ、僕と彼女の関係は同級生というだけ。一言も話したことがない。
完全な赤の他人じゃないか。
野々花は言った。いきなり告白されて承諾する女の子なんているわけがない、と。まずは友達になるところから始めるべきなのか?
突然現れた100という数字に僕の心は完全に乱された。ずっと野々花のことを考えているうちに、いつの間にか家に着いていた。
小恋はバドミントン部に入っているので、帰りは遅くなる。僕の両親は特殊な仕事で深夜に帰宅し、翌日は昼過ぎまで寝てから出勤する。夕食の準備は当然、僕の役目だ。
小恋が帰ってきそうな時間を見計らい、ご飯を炊き、カレーが完成した頃——
「ただいま!」
「おかえり。」
小恋が帰ってきた。
「いい匂い!カレーだ!」
彼女が玄関から首を出し、キラキラと輝く目で僕…の背後にあるカレーをじっと見つめ、ゴクリと唾を飲み込んだ。
「お兄ちゃん!すぐ洗うから、こっそり食べないでね!」
「わかった。」
そう言うと彼女は上着を脱ぎ、シャワー室へ駆け込んだ。
しばらくすると、隣からシャーッという水音が聞こえてきた。
二人分の食事を分け、半分をラップで包んで冷蔵庫に入れる。
僕がカレーを食卓に運び終えると、小恋が出てきた。髪はまだ乾かしておらず、腕にも水滴がついていた。
「ちゃんと拭かないと風邪ひくぞ」僕が注意する。
「お兄ちゃんの作るカレーが美味しすぎて、匂いがそこら中に漂ってるんだもん、どうして我慢できるわけ?」小恋は甘える時は「お兄ちゃん」と呼ぶ。
「お風呂に入ってる間、ずっとカレーのこと考えてた。早く食べたくてたまらなかったの。」
彼女は口いっぱいにほおばり、とても満足そうに見えた。僕もスプーンを手に食べ始めた。
口に入れた瞬間、濃厚な香りが舌先に広がり、咀嚼と共に口全体に広がる。
すると、ほのかな辛味が現れ、料理の余温と見事なハーモニーを奏で、二口目を誘う。食べ始めたら止まらなくなり、お皿が空になるまで二人とも余韻に浸っていた。
使い終えた食器を洗い、自分も風呂に入った後、僕は小恋のお菓子を数袋持ってソファーに座り、テレビを見た。
小恋が僕にくっついて座り、話しかけてきた。
「お兄ちゃん。」
「ん?」
「お兄ちゃん、部屋で食べてくれない?」
「……」
小恋がダイエットを続けられるか心配になってきた。
彼女のためだ…そう、彼女のためだ。僕は彼女の前から逃げたりしない。
「根性を見せろよ、小恋!」
「お菓子の誘惑なんて、僕の可愛い妹にとっては朝飯前だろ?」
そう言いながら袋を破り、焼肉味のポテトチップスをつまんで口に放り込み、バリバリと音を立てて噛んだ。
「うぅ…」
小恋はじっと僕を見つめ、頬を膨らませてムッとした顔がとても可愛かった。
「ふん、もう見ない。」
彼女は口をとがらせて、逃げるように去っていった。
テレビから流れる雑音を聞きながら、僕は機械的にお菓子を一枚ずつ口に放り込み、頭の中は野々花のことでいっぱいだった。
明日、告白する。
たとえ確率が間違っていても、告白する。
断られても構わない。
なぜなら僕はクラスでほとんど誰とも交流せず、紛れもない影の存在だから。昨日唯一会話したのは、告白に失敗した山崎だけだ。
仮に僕が告白したところで、彼らは「こいつ誰だ?」と困惑するだけだろう。だから告白しても損はない。もし確率通りに交際が始まったら、すぐに別れることも十分あり得る。相手が野々花なんだから。
うん、明日の放課後、決行だ。そう決めた。
覚悟を決めると、気持ちがずっと楽になった。
お菓子を持って、僕は小恋の部屋のドアをノックした。
「ん…」
小恋はしぶしぶドアを開けたが、僕の手にあるお菓子を見ると、すぐにドアノブを握りしめ、閉めようとした。
ただ、僕はテレビを見に行っていいよ、と言おうとしただけなのに、彼女のお菓子に対する拒否反応がそんなに強いとは思わなかった。
少女の確率に頼らなくても、彼女が100パーセントダイエットに成功すると分かっていた。
「お前を誘惑しようとしてるわけじゃないんだ。」
「俺は部屋で食べるから、お前はテレビ見てていいぞ。」
小恋はうなずき、ドアノブを握る力がずっと弱まった。弱まりすぎて、僕がいつでも入れるほどだった。僕はお菓子をひらひらさせて見せ、彼女のためにドアを閉め、その場を離れた。