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第5話 治癒魔法とは

今日はいつもより長めです。

作者にも、サンタさんから下の☆☆☆☆☆で評価を頂けますように!!

 フライタスの訓練だけで一か月かかった。それでも魔力を込めて、何とか自分で空を飛べるようになった。入隊して四か月、空を飛べるようになったことで、形だけは魔導士への道を進み始めたが、まだだ、ここは通過点でしかない。さぁ、これからが俺の本番だ。ついに治癒魔法の本格的な訓練に入るぞ。


 訓練場の一角、そこには治癒魔導士候補だけが集められていた。周囲にはいくつものベッドが並べられ、表面に動物の皮を張ったような木製の人体模型が置かれている。どうやら、あれも魔道具の一つらしい。人体模型のどこか不気味さと、どこか張り詰めた緊張感が漂っていた。


 これって、見た感じ学校の怪談とかの話に出て来る奴だな。普通の理科室に置いている人体模型より、もっとリアルだぞ。……俺って、自分の名前とかは覚えていないくせに、どうでも良いことは覚えていることがあるよ。


 おっと、エリーザ・ハルトマン准尉殿が治癒魔法の基本について話始めた。彼女が治癒魔法の教官だ。


「治癒魔法とは何か――治癒魔法はただ傷を癒す力ではない。使い手の魔力を介し、対象の生命力を引き出し、傷や病を治す術だ。だが、忘れるな。これは生半可な力ではない」


 准尉殿の鋭い視線が、俺たち候補生たちを貫く。


「負傷者の痛みを軽減し傷を癒す過程で、術者自身がその痛みや疲労を引き受ける。それが治癒魔法だ。」


 な!? 痛みと疲労感を引き受けるだと? 俺の思っていた医者とは明らかに異なるけどな! それだと多くの患者を治すのは難しいのでは? 絶対途中で挫折する気がするが。

 はぁぁーーそれでも、それがこの世界の医者なら仕方が無い。俺は医者になるんだ。

 あ、周りの訓練生もざわめいている。どうやら俺が知らなかっただけで無く。おそらく治癒魔法の具体的なことは世間一般に知らされていないことなんだな。


 准尉殿は手のひらに小さな光を灯しながら続ける。


「治癒魔法には三つの主要な体系がある。まず一目は、回復魔法だ。これが最も基本的な治癒魔法だ。対象の体内に魔力を流し込み、自然治癒力を加速させる。擦り傷や切り傷、軽度の骨折ならこれで対応できる。この魔法が治癒魔法の根幹となっている重要な魔法だ。そして回復魔法は二段階ある。初歩的な『回復魔法』と、それより強力な『上級回復魔法』だ。後者は重傷にも対応するが、その分、使い手への負担が大きい」


 准尉殿が手をかざすと、人体模型の表面に浮かび上がった傷が淡い光を発しながら、ゆっくりと閉じていった。お、おう。気持ち悪いなぁ。絶対この回復する様子だけでも学校の怪談で語られるぞ。


「次、二つ目は再生魔法だ。体の組織を部分的に再生する技術だ。失った肉体を蘇らせることは不可能だが、深い傷や壊死しかけた部位の修復と再生が可能となる。ただし、時間と魔力を非常に消費するし、当然だが使い手の負担も大きい」


 おいおい。痛みと疲労感を引き受けるって話だったが、深い傷や壊死した組織の修復と再生ってどれだけ痛いのか想像を絶するぞ。


「三つ目、復元魔法だ。これは最も高度な治癒魔法だ。破壊された組織や体の構造を再構築する、言わば“奇跡”の魔法だ。だが――復元魔法を使える者は限られている。才能、魔力量、そして何より強靭な精神が必要だ」


 さ、才能か。これは分からんな。だが、諦めない! あーー、周りの訓練生は完全に静まり返ってしまっているけどな。


「では、実際に回復魔法を行ってみろ」


 准尉殿が人体模型の皮の部分に軽く刃物を当て、小さな傷を作った。

 候補生たちは順番に前へ出て、魔力を集中させる。しかし、簡単に治るはずの傷が治せない者が続出する。


「ううっ……くっ!」


 魔力を込めるたび、候補生たちは汗を浮かべ、顔を歪める。魔力を通して対象の痛みが術者に伝わり、精神と肉体への負担となるのだ。

 よっし、ようやく俺にも順番が回ってきた。


「魔力を集中させ、対象をイメージしろ」


 准尉殿の言葉に従い、手を模型にかざす。だが――痛く、そして熱い……! まるで自分の手に焼けた鉄を押し付けているようだ。


 必死に魔力を注ぎ込む。少しずつ傷が塞がっていくが、その分、自分の体力が削られていくのを感じる。魔力と精神力が尽きかける頃、ようやく傷は完全に癒えた。

 だっはぁー。しんどいなこれ! これは多くの患者を診るのは無理なのでは?


「……初めてにしては上出来だ」


 准尉殿の声が聞こえたが、俺は膝をつき、その場に倒れ込んだ。全身に疲労感が広がる。

 はっはは。こんな小さな傷を治すのに、こんなに痛いのか!? 絶対、上級回復やら再生魔法やら使ったら死ぬんじゃないのか?


 訓練が続く中、一人の同期が模型の前で倒れ込んだ。


「もう……無理だ。俺には治癒魔導士なんて無理だ……。」


 涙を流しながら、その訓練生は訓練場を去っていった。うん。お前の気持ちも分からんでも無い。これは何が何でも治癒魔導士になりたいって覚悟がないと、別の道を探したくなるよな。まぁ俺には別の道など無いけどな!


 静まり返る場内で、准尉殿が冷然と言い放つ。


「治癒魔法を使うということは、誰かの命を預かることだ。その重みを知る者だけが、この道を進む資格がある」


 彼女の言葉に、俺は拳を強く握りしめた。昔、何処かの偉い医者が「どんなに簡単な技術でも練習をせずに習得することは出来ない。逆にどんなに難しいものでも、繰り返し練習すれば誰でも身につけることが可能なのである」と言っていた。だから俺は練習して身に付ける。


 その後も、何度も人体模型を使って回復魔法の訓練を行った。

 訓練の終わり、疲労で朦朧としながらも立ち上がろうとすると、准尉殿が静かに近づき、俺の肩に手を置いた。


「お前はよく耐えたな。だが覚えておけ。治癒魔法に必要なのは、技術でも才能でもない。最後に必要なのは――心の強さだ」


「心の強さ……?」


「どれだけ痛みを共有しても折れない心、どれだけ疲弊しても救いたいと願う気持ち。それが、真の治癒魔導士だ」


 准尉殿の言葉を胸に刻み込んだ。これが俺の進むべき道だ――痛みなんかに負けるか。俺は、人を救える治癒魔導士になるんだ!


 ――――


 人体模型を使った回復魔法の訓練を初めて半月が経過した頃、准尉殿が俺たちに新たな命令を下した。


「明日、お前たちを野戦病院に派遣する。実戦の現場で、負傷兵を治癒する実地訓練だ。明日から長距離を飛ぶので今日は早めに休んで体調を整えろ」


 周囲にざわめきが走る。実戦――その言葉の重みに、誰もが息を呑んだ。緊張で心臓が高鳴るが、同時に覚悟を決める。治癒魔導士になるんだから、現実から目を背けるわけにはいかない。


 よく朝、夜明け前から訓練場に集まり、各自でフライタスの点検を開始した。だいぶん扱いに慣れたとはいえ、長距離を飛ぶのは不安だった。それでも、与えられた任務を果たさなければならない。必要な装備を点検し終えた後、俺たちはそれぞれのフライタスに乗り込み、出発の合図を待った。


 訓練場を後にした俺たちは、途中で野営も挟みながら、各自のフライタスで二日かけて野戦病院に到着した。うーーん。前線まで遠いと言えば遠いが、近いと言えば近いな。前線を突破されたら、二日で王都まで到達できてしまう。軍人になるからには、この前線までの距離感も持っておかないとな。


 その野戦病院は、前線のすぐ近くに設営されていた。遠くからは砲撃の音が聞こえ、空気には血の匂いと焦げたような臭いが漂っている。

 テントの中には負傷した兵士たちが次々と運び込まれ、治癒魔導士や医師たちが慌ただしく動き回っていた。呻き声、叫び声がそこら中から響き、硝煙とむせ返るような血の臭いが充満していた。


「おい、立ち止まるな!」


 准尉殿の鋭い声が飛ぶ。


「ここでは一秒の遅れが命取りだ! さっさと配置につけ!」


 そ、そうだ。思わず圧倒されてしまったが、怪我人がいるんだ。急がないと!!

 俺たちは慌てて治療テントに入った。そこには中級の治癒魔導士たちが待機していた。


「お前はこっちだ!」


 目が合った一人の年配の治癒魔導士に呼ばれた。目の前には片足を負傷し、血まみれになった兵士が横たわっていた。


「深い切り傷だが、骨までいっていない。回復魔法で傷を閉じろ。」


 思わず震えてしまう手を必死に抑えながら、治癒魔法の詠唱を始める。


「――ヒール」


 手のひらから放たれる淡い光が兵士の傷口を覆う。しかし、兵士は苦痛で叫び声を上げた。


「うああああっ!」


「落ち着け! 治療中だ!」


 年配の治癒魔導士が兵士を押さえつける。思わず、このまま死にはしないかと心配になる。

 いや、駄目だ。ここで集中力が乱れると治癒が失敗する。必死で魔力を集中させる。


 くぅぅ! 痛い、痛い! 痛い!! ……これが治癒魔法だ。人体模型とは比べ物にならない、本当の兵士の痛みが、流れ込んでくる!額から汗が滴り落ちる。意識が揺らぎそうになるが、准尉殿の言葉が頭をよぎる。


「心の強さが命を救う――」


 歯を食いしばりながら魔力を流し続けると、やがて傷口がゆっくりと閉じ始めた。兵士の苦痛の叫びも次第に静まり、やがて深い呼吸へと変わる。


「よし……終わったな」


 年配の治癒魔導士が俺の肩を叩く。


「初めてにしては上出来だ。この兵士はお前が助けたんだ。俺たちの仕事はきついが遣り甲斐はある。お前が俺たちの仲間になってくれる事を期待するよ」


 はぁはぁはぁ。一人の怪我を治すだけで疲れたが、患者の安堵した表情を見て、胸の中に小さな達成感が広がった。

 そうか、これが治癒魔導士なんだな……


 その日の訓練中、同期の一人が別の兵士の治療中に魔力が暴走し、治癒を失敗してしまった。ああ失敗すると、どうなるかって言うと、傷口に小さな爆弾を詰め込んだ感じだな。今は訓練期間中だから、他の治癒魔導士や医師が付いているので失敗しても患者を助けることが出来るが、これが一人だったら患者を死なせることになるだろうな。


「ごめん……ごめん、俺には無理だ……! もう嫌だ」


 大量に浴びた返り血と自分の涙でぐちゃぐちゃになりながら、彼は准尉殿に辞意を伝えた。


「これが治癒魔導士の現実だ。失敗すれば患者は助からないし、失敗しなくても全員を救えるわけではない。ここでお前の心が折れるなら仕方ない」


 准尉殿は冷たくそう言い放つが、その瞳にはどこか哀しみも浮かんでいた。


 彼の気持ちも分かる。治癒魔法は痛いし、疲れるし、とてつもない集中力が必要だ。

 それでも!!


「俺は逃げない。誰かを救えるなら、何度だって立ち向かう!」


 心には確かな決意が宿っている。医者として、人を救う――その夢を叶えるために。



 夜の野戦病院。どうにか休息の時間を得られたが、既に満身創痍の俺の前に、准尉殿が静かに現れた。


「初日の感想はどうだ?」


「……想像以上でした。でも、これが現実なんですよね」


「そうだ。戦場では、毎日これが続く。だが、治癒魔導士がいることで救える命がある」


 准尉殿は一瞬、遠くを見るような目をして続けた。


「忘れるな。お前が倒れれば、誰も救えない。己を律し、強くあれ」


 俺は頷き、疲れた体を支えながら星空を見上げる。誰よりも強く、誰よりも人を救える治癒魔導士になるんだ――


※ 作者からのお願い


「面白い」「続き読みたい」など思った方は、ぜひログインしてブックマークと下の☆☆☆☆☆から評価いただけたら幸いです。よろしくお願いします!


つまらないと思った方は、☆一つでも評価つけてくれると勉強になりますので、よろしくお願いします。


毎日更新できるように、頑張ります。

よかったら、他の作品も見に来てくださいね。

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