第3話 孤児レオナ
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俺は、レオナ・フリードと名乗っている。しかし、色々な意味でこの名前では無いのかも知れない。
俺は今、十三歳となっているが、それも本当か分かっていない。
そもそも俺は両親と呼べる者を知らないのだ。って言うか本当に両親が居たのかも怪しい。
――――
俺は良く居る転生者だ。いや、本当に居るのか知らんけど、日本のアニメにはよく出て来るな。
おい!? そういえば転生者特典とか貰ってないぞ? 神様って??
まさか! ……あれは、都市伝説のような物だったのか!?
はぁ、仕方が無い。無い物は無いのだ。とにかく、日本に居た頃の名前とか、その時の両親の顔とかも詳細には思い出せないが、たしかに居たという記憶はある。
しっかりと覚えているのは最後の日だ。
――その日の朝、入学式に向かうためにバスに乗っていた。
俺は小さなころから医者になるのが夢で、必死に勉強して、ようやく第一志望の医大に合格したのだ。そして、待ちに待った入学式の当日、入学式の会場に向かうため乗ったバスが交通事故に巻き込まれた。
消えゆく意識の中で、俺は医者になりたいと強く願いながら、短い生涯を終えた。
終えたはずだった! 気が付くと俺はバスケットの中に寝かされ、目の前には、とてつもなく大きな扉が見えた。まぁ大きく思えたのは俺が小さくなっていたからだったが。そうなんだ。俺は、赤ん坊のとして孤児院の玄関先に捨てられていたのだ。
赤ん坊のくせに、自分が日本と言う国で医大の入学式直前だったこと、医者になりたかったことだけが、しっかりと覚えていた。おそらく、その時が俺にとって、最後であり、強烈な願いだったのだろう。
しかし、そこまで自我があるのに、今の俺を生んだ母親や、今までの暮らしを覚えていない。不思議な感じだ。いきなり孤児院の前から始まったような感じがするのだ。だから、冒頭の話で今世の俺には、本当に親が居たのかも怪しいのだ。
そんな俺も、名前をレオナと付けてもらって、何とか孤児院で暮らしていた。どこでも同じか分からないが、俺の居たフリード孤児院は貧乏だった。どういった経営方法なのか俺には分からなったが、とにかくパンにありつけない日もあるぐらいだ。
そんな暮らしをしながらも、俺は前世での記憶というか願いを忘れることは出来なかった。
そう、医者だ。
俺は、やはり医者になりたい。人の命を救え、怪我や病気を癒せる、そんな存在になりたいんだ! しかし、現状はどうだ。孤児院での、その日暮らし、しかも十五歳には孤児院を出ないといけない。拾われた年から年齢が付き始めて、今は十歳。後五年で医者になる方法など思いつきもしない。そもそも、その日のパンにありつけるかどうかの暮らしの中で、学校で勉強するなど大それた夢だ。
そんな時、転機が訪れた。帝国の衛生管理の指導のもと、初めてフリード孤児院に衛生士がやって来たのだ。初めは俺も、ただの健康診断だと思っていたが、健康診断と共に魔力の適性検査という物も受けさせられた。そこで陽性反応が出たのだ。
その時初めて聞かされた内容が、俺にとっては千載一遇のチャンスに思えた。
魔力の適性が優れており、特定の条件を満たせば帝国軍に入隊する際、優遇されるというのだ。
もちろん、優遇されると、どうなるのかって聞いてみたよ。すると、特定の条件を満たせば特待生として全て無料で生活出来て、さらに勉強できる環境まで与えてくれるというのだ。
俺にとっては、夢のような話だが、無条件って訳では無い。そこまで優遇されるには、特定の条件という物をクリアしないといけない。
その特定の条件と言うのは、魔力の適性内容だった。どの魔法に適性があるのかで、その価値は大きく異なって来る。軍として優遇されるのは、当然戦闘系の火属性。次に兵站を担える水属性。他には軍医として治癒属性だ。それ以外の属性の場合、ある程度、優遇されるが、特待生のように完全無料では無い。
俺は祈る気持ちで、帝国軍の入隊検査に行くことにした。そこに行けは魔法の属性を調べてもらえるのだ。もちろん、治癒属性を切望する。前世で思い描いた医師とは異なるが、医療系であることに変わりはない。
その日、俺は指定された帝国の施設へ向かった。孤児院の門を出る時、院長が「頑張っておいで」と言葉をかけてくれたが、その声には、俺が戻って来ないことを願ってくれている響きがあった。
ここでは、十五歳になる前に就職や養子などで孤児院を出る子が居る。しかし、残念だが、出戻りのケースもある。一度出たら、戻ってこない方が、その子にとって良い結果を得られたと言う事だ。
施設は孤児院とは比べ物にならないほど整備されており、灰色の石壁が厳かにそびえ立っていた。門をくぐると、兵士たちが整然と行き交う中、適性検査を受けに来たと思しき子どもたちが列をなしていた。年齢も性別も様々だが、みんな緊張した顔つきをしている。
俺も列に加わり、受付で名前を告げると、整理番号を渡されて薄暗い待合室へ案内された。周囲には、同じように魔力適性を期待しているのだろう子どもたちが、椅子に腰掛けたり立ったままそわそわしていた。けれど、誰も一言も発しない。この場の空気が、否応なしに重く張り詰めているのだ。
「番号二十七、診察室へどうぞ」
俺の番号が呼ばれたのは、どれくらい時間が経った頃だろうか。胸が早鐘のように打ち始め、思わず手のひらに汗が滲む。診察室の扉を開けると、中には白衣を着た衛生士と、帝国軍の軍服を着た男が立っていた。衛生士は柔和な表情を浮かべていたが、軍服の男は厳しい目つきで俺を一瞥した。
「リラックスしろ。ただ適性を調べるだけだ」
軍服の男の冷たい声に、むしろ緊張が増した。だが俺は拳を強く握りしめ、首を縦に振る。医者になる夢、その希望が、この瞬間にかかっているのだ。
「ここに手を置け」
指示されたのは、机の上に設置された水晶球のようなものだ。見た目はただのガラス玉だが、触れた瞬間、何かしらの力が指先から吸い上げられるような感覚があった。そして同時に、水晶球が淡い光を放ち始める。
「ほう……治癒属性か」
衛生士が小さく驚いたように呟く。それを聞いて、俺の胸が高鳴る。
「おお、本当か!?」
思わず声を上げてしまった俺を、軍服の男が一瞥する。
「黙れ。まだ結果を確定するには早い」
水晶球の光はやがて消え、代わりに、衛生士が魔法を使う準備を始めた。手のひらに魔力を集中させ、俺の頭にそっと触れる。その瞬間、まるで全身を見透かされるような感覚が広がった。
「治癒属性の適性、確かに確認。感度は高め……ほう、魔量も多いな。ふむ、治癒魔導士候補としての素質は十分だ。」
衛生士の言葉を聞いた瞬間、心の中で何かがはじけた。やった!! 本当に俺は治癒属性を持っている。それも、高い適性だと評価されたのだ。これで俺は医者への道を掴むことができるかもしれない。
だが、軍服の男はまだ厳しい表情を崩さない。
「条件は満たしたが、お前が本当に軍に入れるかは、これからの訓練次第だ。生き残れるかどうかも分からん。その覚悟はあるか?」
彼の問いかけに、俺は迷うことなく頷いた。孤児院の生活でも必死だった。これからも必死で生きる覚悟はできている。医者になりたい、この思いだけが俺を突き動かしているのだ。
「ならば、入隊試験の詳細を後日伝える。準備をしておけ」
孤児院に戻った俺を見た院長はがっかりしていたが、俺の話を聞いて我が事のように喜んでくれた。
入隊試験を行うと言っていたから、気になっていたが、院長からは読み書きと簡単な四則演算が出来れば問題無いと聞かされた。ほう、まあ俺も一応日本で大学入試は突破したのだ。この世界の言葉を十年も聞き続けた俺にとって、読み書きを覚えるのは、それほど難しく無かった。ましてや計算などは日本の小学生レベルだから大丈夫だ。
問題は身体能力だ。だが、何が何でも医師になる!
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