第2話 白銀の狼:シュタインヘルツ少尉
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「シュタインヘルツより各員へ――まさか撃墜された奴は居ないだろうな。貴様らがチンタラしているから敵どもは尻尾を逃げてしまったぞ。まだまだ、物足りないだろうから、これより地上部隊の援護に向かう。次は好きなだけ刈ってこい。行くぞ!」
はぁ、このまま対地戦に移行ですか?
しかし、まぁ地上部隊というのは魔導銃が使えない兵士なので、シールドが展開出来れば怖くないのだ。タダの鉛玉ごときではシールドは破壊されない。破壊するには徹甲弾が必要だが戦車も居ない普通の対人戦で徹甲弾を装着していないだろうな。まぁ持っていたとしても、弾速の遅い徹甲弾で空を飛び回る魔導士に当てるのは容易ではない。
小隊長殿の号令に応じ、小隊のメンバーたちは次々とフライタスを調整し地上戦に備える。俺も必死で小隊長殿の後を追いながら彼女の背中を見つめていた。少尉の無双ぶりは、すでに隊員たちの間で伝説のように語られている。
「レオナ、ぼーっとしてる暇はないぞ。地上の状況を把握しておけ。お前の治癒魔法がすぐ必要になるかもしれん」
「了解です!」
俺は慌てて視線を下に向ける。地上では帝国の歩兵部隊がオステリカ公国の侵攻を食い止めるべく応戦していた。帝国側は盾を構えて陣形を整えているが、敵の圧倒的な人数と防御力に押されつつある。
オステリカ兵たちは重装歩兵で前面を固め、帝国歩兵部の自動小銃から発射される鉛玉を弾きつつ前進していた。そして、後方には機動力を活かした軽装歩兵を配置し巧みな連携で、重装歩兵の影から攻撃を仕掛けている。見れば見るほど、オステリカの重厚な進軍に対して、帝国歩兵部隊の反撃は散発的で撤退は時間の問題に見えた。
「よし、見せてやるぞ! 制空権を失った歩兵が、どれ程のものか!」
小隊長殿は声を張り上げ、真っ直ぐ地上に向かって急降下を始めた。その動きに、小隊全員が続く。俺も必死に追いながら、彼女の姿を見失わないよう集中する。
小隊長が地上付近に達した瞬間、彼女の手元に青白い光が収束した。それは彼女が携える魔導銃のエネルギー。魔石を動力源とするその銃口が敵陣に向けられた。
「狙うは……そこだ!」
一瞬の閃光。彼女が放った爆裂弾が、敵の陣形の中心に炸裂した。爆風が周囲の敵兵を吹き飛ばし、同時に帝国兵たちの士気を一気に押し上げる。
「援軍だ! 魔導士部隊が来たぞ!」
「これで勝てる!」
地上の帝国兵たちが歓声を上げる中、小隊長殿は動きを止めることなく次々と敵兵を仕留めていく。
「小隊長殿! 我々の分も残しておいてください!」
アイゼンベルクさんが軽口を叩きながら、小隊長殿に続いて突撃を開始する。
「貴様らがチンタラしているからだ! 私に遅れるなと言っただろう!」
小隊長殿がそう言った瞬間、彼女の動きがさらに加速した。魔導銃を片手に、シールドを展開することなく敵の弾丸を躱していく、まるで戦場を踊るかのように動く。地上の敵兵たちは、次々と彼女の攻撃に沈んでいく。
「こ、これが『白銀の狼』……!」
俺は目を見張りながら、彼女の戦いぶりに圧倒されていた。「白銀の狼」は彼女の二つ名だ。
彼女は、先日の戦いで軍のプロパガンダとして英雄に祭りあげられ、そしてつけられた名が、「白銀の狼」だった。メディアも戦争ムードを掻き立てるかのように、英雄として彼女の事を書き立てた。
しかし、その名に恥じない実力の持ち主だ。敵兵が放つ弾丸の雨をかわしながら、正確無比な魔導弾を放つ彼女の姿は、まさに戦場の英雄そのものだった。地上の敵兵たちは恐れを抱き、次第に後退を始める。
「ふん、制空権を失った時点で即撤退すべきだ。指揮官が無能だと部下が苦労する!」
白銀の髪を風になびかせながら、小隊長殿が冷たく吐き捨てた瞬間、敵陣形の残りが崩れ、戦意を喪失した兵士たちが次々と武器を放り出し始める。
「小隊、各員へ! 残敵を掃討しつつ、地上部隊の負傷者を優先的に救助せよ!」
小隊長殿の命令に応じて、俺は地上の負傷者たちに向かって急降下を始めた。
治癒魔法を使う準備をしながら、戦場を飛び回っていた自分から、治癒魔導士としての自分に気持ちを切り替えようと深呼吸する。
「良し! 俺も……やらなきゃ!」
戦場の英雄「白銀の狼」の背中を見つめながら、俺は治癒魔導士としての役割を果たすべく地面に降り立った。若干情けないが、戦いが終わったのであれば、少し安心して動ける。俺の本当の任務はこれからだ。
「レオナ、地上部隊の治癒魔導士と連携して負傷者の救護にかかれ」
「はい! 小隊長殿は?」
「ん? そうだな、私は、アレの相手でもしてくるかな」
小隊長殿は、そう言うと空を見上げた。
「え? ――あ、あれは、爆撃飛行艇ですか!?」
爆撃飛行艇は大型の飛行艇だ。それは魔道具で飛び、飛行速度が速く、飛行高度も高高度で非常に厄介な代物だ。我々魔導部隊の扱うフライタスの飛行速度も、最高高度も上回って飛んで来る。逆に奴の欠点は、その高度にあった。爆撃ポイントがブレてしまって精密爆撃は出来ない。
小隊長殿、曰いわく嫌がらせ目的の迷惑野郎だそうだ。
「第八魔導遊撃小隊より指令室。現空域にわが軍の飛行艇は上がっているか?」
小隊長殿が無線機を使って指令室に確認を取っている。まぁ念の為って奴だろう。わが軍も飛行艇を持ってはいるが、ほぼ飛ばしたことは無いだろう。なぜなら、魔石を大量に消費する割には戦略的な効果が薄いと言われている。
そうなんだ、飛行艇はコスト対効果が合わないのだ。
「指令室より第八魔導遊撃へ。貴官のいる領域に帝国軍および味方の飛行艇は存在しない」
「第八魔導遊撃より指令室。了解した。上空の爆撃飛行艇を敵機と判断する」
「レオナ、それでは私は、あのでっかな迷惑野郎を蹴飛ばして来る。負傷者の治療を任せたぞ」
小隊長殿は、そう言うと、再び速度と共に高度を上げて行った。
あの高度にたどり着けることが出来るのは小隊長殿だけだ。彼女の魔力は蓄えられる量は少ないが、瞬間的な爆発力は凄まじく、その高出力の火力で敵を葬り去るのだ。
そう。俺には到達できない高高度。小隊長殿に付いていかなくても怒られないってことだよ。
飛行艇は小隊長殿に任せて、俺は安心して、怪我人の治療をすれば良いと言う事だな。
まずは、小隊内だけに聞こえるチャネルに合わせて無線で怪我した人がいるか確認を取る。
「レオナ、アーネストだ。すまない。一発喰らってしまったので治療を頼む」
あ、アーネストさん、攻撃が当たってしまったのですね。彼は補給や備品の整備などを主に行う小隊内の技術屋で、どちらかと言うと俺と同じように専門職に近い人だ。
アーネストさんを誘導して地上に降ろす。魔導弾の命中した場所を確認するとお尻のようだ。
お尻の肉を削られているので、当然、痛いだろうが、幸いすぐに治せる怪我だ。このまま治癒魔法をかけていく。
「お、ありがとうな。痛みが無くなったよ。えっと、このことは小隊長殿には内緒な!」
「馬鹿者! 無線回線がオープンのままだ! 後で貴様は反省会だ」
あ、小隊長殿の声だ。アーネストさん、無線のスイッチが繋がったままだったらしいな。
はっはは、アーネストさんは頭を抱えながら、再び残敵狩りに向かった。
ん? 小隊長殿……ああ! 地上部隊の支援したあと、魔力を補充していないけど!!
俺は、フライタスに魔力を注ぎ、小隊長殿のいる高高度目掛けて駆け上った。
だ、駄目だ。やはり小隊長殿の許にはたどり着けない。上空を見上げると、遥か高い位置に小隊長殿が見える。
小隊長殿の向いている先には、敵の飛行艇が三機飛んでいるのが見えた。オステリカも小さな国だからお金無さそうだけ、この攻撃で行けるって思って無理しちゃったんだろうな。
そんな、余計なことを考えていると小隊長殿の魔導銃が青白く光輝いた。
ドーーン!
大きな音が鳴り響き、光の筋が見えたと思った瞬間、敵飛行艇の一番機が爆発炎上した。
炎上したまま舵が効かないのか二番機に接触し、さらに誘爆していく。
あ、小隊長殿が落下している!!!
慌てて、小隊長殿の落下に合わせるように自分のフライタスを操作する。地面に向かって小隊長殿と共に落下しながら、小隊長殿を抱きかかえ地面スレスレから急上昇を開始する。
ひゃーー。あっぶなかった!!
「はっはは。魔力補充するの忘れてしまったな」
はっはは。では無いですよって言いたいが。うん。これは俺にも責任があるから言えねーー
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