第10話 治癒魔法発動
見てくれた、皆さん、ありがとうございました。
小隊長殿へ補給しながら飛んでいると、敵の動きが分かって来た。奴らは『信長の三段撃ち』のような方法を取っているようだ。これは、数がいるからできる戦法と言えるだろうな。
「小隊長殿、奴らは部隊を三つに分けて、順番に交代して爆裂弾を撃つようです」
「ほう。そうなると、後方に居るときは魔力込めをしている最中で攻め時なのだが、常に爆裂弾が飛んで来るのは少し厄介だな。まぁ、それでも攻める方法はいくらでもある」
常に爆裂弾が飛んで来るのは、小隊長殿が敵に、いつもやっていることですけどね。
「レオナ、激しく動くぞ! しっかり付いて来いよ!」
「はい。大丈夫です!」
小隊長殿の機動が確かに激しくなった。敵は面での攻撃に対して、こちらは曲線機動の一撃離脱だ。此処と言うポイントで、小隊長殿は爆裂弾を連射で撃っているようだ。一点で集中で、連射された爆裂弾は重ね張りをしたシールドを破壊し、更に後続で魔力を込めていた魔導士にまで到達した。後衛の魔導士で爆発した弾は、周囲の魔導士も爆発の巻き添えにする。
「奴らが面攻撃に固執してくれるお陰で楽だよ。面攻撃は圧倒的な物量で地上部隊を制圧するには向いているが、立体的で、素早い動きの魔導士を相手にするには向いていないな」
な、なるほど。楽かどうかは別にしても、面攻撃は、攻撃対象に対して正対していないと効果が薄いが、動き回る相手には正面を向き続けるのは難しそうだ。明らかに小隊長殿の動きに翻弄されている。
小隊長殿は素早い動きで敵の側面に回り込み魔弾を撃ちこみ、後衛部隊に爆裂弾を撃ちこんでいたが、さすがに敵も、このままでは分が悪いと感じたのか、散開して四方八方から魔弾を撃つ包囲戦に切り替えて来た。
シールドを張り続けるが、次々と破壊されていく、少しでも魔弾を躱そうとするが、敵の数が多くって避けきれない。
敵も攻撃手段を変えたことで動きが良くなっている。それは、まるで一つの巨大な獣のように連携を取って動き出した。
こ、これはマズいのでは!?
魔導銃を構えた兵士たちが陣形を整え、その中心には威圧感を放つ男が立っていた。全身を黒い鎧で覆った者は身の丈ほどもある魔導銃を手にし周囲に命令を出している。
「なるほど……あれが指揮官か、それにしても馬鹿でかい銃だな」
「どうしますか?」
「あんな銃では取り回しは良くないはずだ。細かく動いて隙を突く」
「りょうかい『指揮官が動くぞ!』」
俺の返事が終わる前に、敵の中央にいた指揮官が、巨大な魔導銃を構え始めた。青白い光が銃口に集中し、周囲の空気が震える。
「あれは、まずい……!」
俺は、小隊長殿と自分の周りに出来る限りのシールドを何重も張り巡らせた。
小隊長殿も、何とか敵指揮官の射線から逃れようと複雑な機動を取るが、敵も簡単には逃がしてはくれない。俺たちに行く手を阻むように敵の魔導士たちが魔弾を撃ちこんでくる。
ドーーン!
凄まじい音と共に、俺たちの近距離を巨大な光の塊が通り過ぎた。
「ちょっ、直撃はしなかったけど。直撃はしなかったけど、掠めただけで、シールドをゴッソリ持って行かれた!」
「あぁ、あれは駄目だな。よくあんなものを人間が撃てるな。あれは城塞を破壊するための突撃砲だ」
うぐっ!
し、しまった。シールドを失ったのに……急げ! 小隊長殿の周りにシールドを!
「おい! レオナ、お前撃たれたな! どこだ?」
「大丈夫です。かすり傷です! 飛びながら治癒します」
いっ痛い!! 痛いぞぉーー!! 腕を貫通しているよぉぉ!
とりあえず、「ヒーール!」 はぁはぁはぁ。痛かったぁー
「治ったか? 本当に大丈夫か??」
「ありがとうございます。治りました! 大したことはありません」
いや、本当に治ったけどさぁ。大したことあったよ!? めっちゃ痛かったんですけど!
そして、大事なことが分かった。治癒魔法は他人を治したときの方が痛くって辛い! 自分の場合は治癒魔法の痛みより、自分の怪我の方が痛いからまぎれるのかな??
うん。つまらん発見だった。
まぁ小隊長殿が心配してくれたのは嬉しいけどね!
あ、また敵の指揮官の魔導銃に光が集まり始めた。
「小隊長殿、あの突撃砲と言うのは弱点とか欠点とか無いのですか? 敵の魔導士も多いし、あの大砲を何とかしたいですね」
「まぁ無いことは無いが……無茶を承知でやるしか無いな。あの突撃砲が相手では、援軍が来ても危ないな。レオナの多重シールドでも突破されるのでは、通常の魔導士では紙切れ同然だな」
フッフッフ、自慢じゃないが俺の多重シールドはちょっと珍しいのだ。通常の魔導士で二枚、治癒魔導士でも四枚程度しか張れ無いが俺は十枚を小隊長殿と自分に張れる。要するに最大二十枚張れるのだ。魔導士の十倍、普通の治癒魔導士の五倍だ。これも魔力の量に関係するらしいぞ。
「レオナ、先ほどのシールドは何枚突破された?」
「えっと。俺のシールドは残り六枚でした。小隊長殿も同じですが、俺のシールドは全て破壊され、小隊長殿は二枚残りましたので、十枚削られましたね」
迫り来る魔導士を躱しつつ、小隊長殿の魔導銃は敵を撃墜していく、よくもまぁ、喋りながら撃墜できるな?
「レオナ、魔力を全てシールドに回せば、数を増やせないか?」
え? 出来るか出来ないかで言うと出来るが、地上戦をするのかな? それこそ、魔導士たちから集中砲火を浴びて終わると思うけど?
「やれと言われれば出来ます! しかし、先ほどの治癒魔法でも消耗してしまったので、全力でも合計十六枚ぐらいしか出ないと思います」
しまったな! 小隊長殿の期待を裏切るようなことになってしまった。自分の治療など後回しにすれば良かったかもしれない。
それまでの戦闘でシールドの張り直しを頻繁に行ってきたから、だいぶん魔量も減って来たんだよな。少しでも休息が取れたら簡単に完全回復出来るんだけど。
「ほら、これを飲め!」
は? これは……魔力回復薬! そうか、小隊長殿は俺と会う前は、魔力回復薬を飲みながら戦っていたって言っていたな! ……うっ、マズイなぁーー。薬師も、何とか味を付けれなかったのか?
お、何だ! 意外と即効性があるんだな。急速に魔力が回復している気がする。
「小隊長殿、行けます! 合計二十二枚は大丈夫です」
「よし! 若干、賭けだが、やるしかないか!」
なぁっ!! 何ですか?? いきなり抱き着かれましたが!?
「良し、レオナ、全魔力をシールドに回せ! お前は私が運ぶ!」
は、運ぶ?? あぁ、まぁ、はい。そうですね。運ばれてはいますが…言い方って…
「了解しました!! 全魔力でシールド展開!!」
小隊長殿の意図は理解できるので、小隊長殿に抱っこされた俺は、正面だけに二十二層になったシールドを展開した。
うーーん。ミルフィーユって言葉が頭に浮かんだが、それって何だっけ??
小隊長殿に全てを委ねて、全力でシールドを保持する。
敵指揮官の突撃砲がこちらを向いている。で、出来れば、直撃は避けて欲しいが……
周りからも魔導士たちの魔弾が飛んで来る。それをシールドを使わずに回避機動だけで避ける。
小隊長殿の目線から、他人が初めて見た景色かも知れない。いつもは小隊長殿を九割、残り一割で敵の弾を見ている。それが今は違う、周りの様子が手に取るように見える。こちらに向かって来る弾! 敵からの殺気! そして正面に見える大きな銃口とその銃口に吸い込まれるように集まる光! こ、怖いんですけど!! めっちゃ怖いんですが!!
ドーーン!
凄まじい音と共に迫って来る光の塊。そして追従するように周りからも一斉射撃された魔弾が迫って来る。
小隊長殿が体をひねり、魔弾の間をすり抜けていく……まるで、スポットライトを浴びた舞台の真ん中で、ワルツを踊っているようだ。二人で身体を合わせ抱き合うように、優雅で時に激しく舞う。
突撃銃の魔弾がシールドを削りながら、真正面に迫って来る。だから、小隊長殿!! 直撃は避けてほしかったんだよ!! くそっ!! 破壊されたシールドが光の粉となって飛び散っていく。まるで時間の流れが遅くなったかのように思える。
このままでは、小隊長殿に!!
ダンスは、まだ終わっていない!!! ワルツにはターンが付き物だ!!
素早く回転し、小隊長殿と俺の位置を入れ替える。
「突撃銃の欠点は連射が出来ない!! でっかくて取り回しが効かないから接近戦には弱い!!」
ドン、ドン、ドン。
ドスっという振動と共に、小隊長殿の声と魔導銃から爆裂弾が発射される音が聞こえた気がした……
はっ!! 気を失っていたのか!!
俺は気が付くと地上に寝かされて、治癒魔導士の治癒魔法……いや再生魔法を受けていた。
「フ――、全く無茶をして! 腕がほとんど千切れていたぞ。失くしていたら、私では治せなくなるところだ。お前が倒れれば、誰も救えない。己を律し、強くあれと教えただろう! まぁ貴官の心の強さは感心するよ」
「ありがとうございます。ハルトマン准尉殿! それで准尉殿、シュタインヘルツ小隊長殿はどちらに!!」
「フッフッ、慌てるな無事だ。貴官が体を張って守ったらしいな。敵の魔導中隊は指揮官を失って後退に移行、その間に、君たちの第八魔導遊撃小隊が到着して、追撃戦に入っているよ。ん? 私か? 私は、貴官のところのエミールに無理やり拉致されたよ。私のフライタスはトレンスナーと言う者に取られるし第八魔導遊撃小隊って、私を何だと思っているのかね??」
……はぁ、良かった。本当に良かった! 小隊長殿は無事だ!!
「おーーい。レオナーー!! 大丈夫かぁーー」
上空から小隊長殿の声と本人が急降下で降りて来た。フッ、心配そうな顔をして……
「小隊長殿! もちろん無事です。全く問題ありません!!」
第一章 了
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