第1話 魔弾飛び交う戦場
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剣と魔法の時代は終わり、大陸は魔導銃と呼ばれる兵器を中心とした戦いへと姿を変えていった。そして、大陸は魔物との戦いでは無く対人戦へと移行していった。大陸にいくつもの国が生まれ、いつしか大陸は国という人間が決めた単位で分断され、そして国家間の争いが激化していった。
レオナの住むアウスライヒ帝国もまた戦火に包まれようとしていた。
「敵、魔導士中隊規模。急速接近中!」
遠視用のゴーグルを付けた偵察兵ヴォルフさんの声に隊員たちに緊張が走る。
ああ、せっかく新人が配属されてきたのに、いきなり四倍の敵に遭遇したら、撃墜されるか、生き残っても辞めてしまうかも知れん。何てことをしてくれるんだ!!
それに、新人たちも運が悪いが、カバーする隊員たちも大変なんだよなぁ。
と言うか、俺も入隊して一年足らずなんだから、誰かカバーしてくれ!!
そんなことを思いながらもラウラ・シュタインヘルツ少尉殿の副官として斜め後ろを付いて飛ぶ。
俺たちは、シュタインヘルツ少尉殿が率いる魔導遊撃小隊だ。普通は一個小隊で三十人で構成されるところが、訓練を終えて出来立てほやほやの俺たちの小隊は十五人しか居ない。それと言うのも、小隊長殿の所為なんだ。
小隊長殿の訓練が厳しくって、辞めたり、辞めさせられたりで最終的に生き残ったのが、このメンバーだったというだけだ。
そして、何故か俺が副官だ。ちなみに俺は戦闘員ではない。俺は従軍治癒魔導士、ようするに軍医だ。
普通、副官には戦闘経験豊かな下士官を当てたりすると思うけど、我が小隊では、訳あって、治癒魔導士の俺が副官に任命されている。
「ほう。中隊規模とは豪勢だな。貴様ら獲物多いぞ。一人あたり四匹までだ。ちゃんと私の分も残しておけよ! 散開!!」
あ、忙しくなってきた!
小隊長殿の命令が響くと同時に、小隊のメンバーがそれぞれ指定された配置へと飛び立っていく。
背中と足に付けている魔導機材――通称「フライタス」から推進力を得て、空中を駆ける彼らの動きは鮮やかだった。
俺も置いて行かれまいと、必死で小隊長殿の後を追う。何度も言うが、俺は非戦闘員だ。戦闘域に置いていかれたら死ねる自信がある!
風が容赦なく顔を叩き、戦場の煙の匂いが鼻を突く。ああ、本当に戦争をしてるんだなって実感させられる。前世では戦争なんて映画や本の中の話だったのに、今は目の前で本物が起きている。俺、何してんだろ。
「レオナ、行くぞ! これから忙しくなるぞ」
「了解です!」
すぐさまフライタスの出力を調整し、小隊長殿の後方に位置を取った。散開命令が出たとはいえ、俺は副官として…いや、死にたくないから、小隊長殿の傍を離れるわけにはいかない。
戦闘行動中の俺は、小隊長殿のシールド役と空飛ぶタンカーとして、小隊長殿への魔力供給が主な仕事だ。もちろん小隊内で怪我人が出たときは、治癒魔導士として緊急治癒も行うが……今更だが、副官って、そんな仕事だっけ!?
数か月前は、ただ必死に小隊長殿の後ろを追いかけるだけだったが、今では戦場の空気にも少しは慣れてきた。慣れてきたのだが、治癒魔導士としては、どうなんだろう? 治癒魔導士って非戦闘員なのだが、本当に治癒魔導士で前線に慣れてきている者はいるのか?
「レオナ、速度を上げるぞ!」
「はい! 全力でついていきます!」
心臓が早鐘を打つ。下を見ると、大地にはオステリカ公国の部隊らしき陣形が見える。小さな人影が動き回り、その間に光が閃いた。地上からも侵攻して来ているのだ。
その上空、俺たちと同じ魔導士部隊がこちらへ接近してくるのが見える。彼らのフライタスが青白い光を放ちながら、まるで獲物を狩る鳥のように整然とした隊形を保っている。敵は約六十人。圧倒的な数の差だ。
「小隊長殿、どう考えても数が多すぎます! ここは一旦退いて援軍を――」
「愚か者!」
小隊長殿が鋭い声で俺を遮る。
「敵の数が多いからこそ退いてはならん。奴らは動きが鈍い。指揮官が無能だな。間違いなくこちらを数で押しつぶす気だ。それを逆手に取る!」
俺には全く意味が分からないが、小隊長殿は自信満々に笑っている。
小隊長殿の笑顔とは逆に、俺の不安が募る。
「アイゼンベルク、クラインヴェーバー、フリーデル! 敵陣形を切り崩せ!」
「了解!」
前線担当の三人が一斉に動き出す。彼らのフライタスから噴き出す魔力が一気に輝きを増し、敵陣形の中央を目指して突進する。
「ヴォルフ!」
「すでに見ています!」
偵察兵のヴォルフが、遠視ゴーグル越しに敵陣形の詳細を分析する。
ヴォルフさんは齢は二十代半ばで階級は上等兵だが、軍で数年間生き残った先輩だ。俺は准尉だから階級は俺の方が、ずっと上だ。しかし、俺は十代でしかも入隊して一年にも満たない。ぜったい、偉そうな態度はとれない。いざという時は助けて貰わないといけないからな! だから、小隊の先輩たちは全員「さん」付けだ。
「敵指揮官は中央後方。保護される形で動いていますが、前衛の展開が遅い! 指揮官の判断が甘いかと!」
「よし、ならば遊んでやろう!」
小隊長殿がさらに加速する。俺も必死でついていく。
「小隊長殿! 敵の魔導士がこちらを狙って――」
「撃たせておけ!」
その瞬間、小隊長殿が腕を振り上げた。彼女の手には魔導銃が握られている。敵から放たれた魔導弾が迫る中、小隊長殿が冷静に銃口を向け、ほぼ同時に引き金を引いた。
青白い光の弾が一瞬で敵の弾を相殺し、さらに敵の魔導士に直撃した。爆発音とともに、敵の一人が煙の中へ消える。これは、彼女が得意とする爆裂弾だ。
「これで一匹!」
小隊長殿は得意げに笑いながら、さらなる指示を出す。
小隊長殿の戦闘スタイルは、まさに圧倒的だ。高出力の魔力を生かした彼女の魔導銃は、通常の魔導弾だけでなく、三倍の破壊力を持つ爆裂弾を連射することが可能だ。
爆裂弾を普通の隊員が発射する場合、溜めが必要になる。それは威力の代償として膨大な魔力を消費するからだ。しかし、小隊長殿は違う。彼女の魔力の出力は並外れており、爆裂弾の連射すら容易にこなしてしまう。
だが、その驚異的な力には代償が伴う。小隊長殿は膨大な魔力を放出できる一方で、魔力の蓄積量自体は他の隊員よりも少ない。短時間で激しい攻撃を行えば、すぐに魔力切れを起こす可能性があった。
「高火力で短期決戦型」――それが彼女の戦闘スタイルだった。
これが、彼女の最大の強みであり、唯一の弱みでもあった。そこで、俺の出番だ。治癒魔法の一環で自分の魔力を他人に与えることができる。そう、俺が補給さえすれば、彼女は高出力で魔導銃を発射できるのだ。これが、俺が副官である理由の一つだ。
「レオナ、私の近くで魔力供給の準備をしておけ 次の攻撃の後、補給を開始しろ!」
「はい!」
いつも通り準備を整える。戦場の空はますます混沌に包まれていく。各自が巴戦を展開している。いかに敵の後方を取るかで勝敗が決まってくるのだ。小隊長殿が敵を追いかけ右旋回を行うと、敵も簡単に背後を取られまいと右旋回を行う。それがフェイントをかけて急に左旋回に変化したりで、右へ左へと激しく動く中、俺も小隊長殿の護衛として付いていく。
ん? 太陽の方向……敵影だ!!
「小隊長殿! 上です!!」
体を捩じるように小隊長殿の直上に移動、背面飛行のまま――シールドを展開!
シールドに敵の魔導弾が着弾する。魔導弾一発に対してシールドが一枚破壊されていく、敵の魔導弾が次々とシールドに着弾し、破壊されていくが、そのたびに新たなシールドを補充していく。
俺の肩に小隊長殿の魔導銃の銃身が乗った。どうやら、二人して背面飛行をしているようだな。
ドン、ドン、ドン。
耳元で鳴り響く小隊長殿の魔導銃の音は安心感があった。
俺たちの横をすり抜けて落ちて行く敵兵。
「二匹目!」
背中越しに小隊長殿がニヤッと笑った気がした。
「次、アーネストを追いかけ回している二匹を潰すぞ」
俺はフライタスを操作し、素早くロールをうって小隊長殿の横に付ける。
このフライタスと言うのは背中にランドセルのような機材を背負って、厚底靴のような噴射機を操作するのだ。ただし、操作は機械式では無く魔力で操作し、魔力で推進力を得ている。魔法と機械の融合した魔道具なのだ。この魔道具が操れるのは、魔法が使える魔導士だけだ。だから我々のようにフライタスを操り空を飛べる部隊を魔導部隊と呼ばれている。
小隊長殿と横並びに飛び、素早く、補助魔法で小隊長殿に魔力供給を行いながら、アーネストさんの様子を見ると、敵二人を引き連れて飛んでいるのが見えた。引き剥がせないでいるようだ。このままではアーネストさんが危ない。
小隊長殿のフライタスの機動が変わった。アーネストさんたちの機動を読んで先回りするようだ。
うーん。小隊長殿が味方だからアーネストさんは良いけど、敵だったらこれで終わるな。アーネストさんの正面から斬り込むように突撃する。
一瞬、アーネストさんの驚いた顔が見えたが、そのままお互いすれ違う。
ドンという、小隊長殿の射撃音と共に敵ともすれ違う。あの入射角なら左肩から心臓にかけて貫通しているだろうな。
「三匹目!」
小隊長殿は魔導銃の先に魔力を通して魔法の刃を出現させ、銃剣に切り替えた。
その武器で、すれ違いざまに斬りつけた。
「四匹目!」
新連載開始です。 そして、いきなり戦場からのスタートです!
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