19:エピローグ
くだらない人生だと思っていた。いくら可愛く生まれようとも、ただ完璧な美少女を演じるだけのつまらない日々しか待っていないと、そう思っていた。
それなのに、一人の男の手を掴んだ瞬間に、世界が180度変わってしまった。きっかけは偶然だったのかもしれない。でも、その偶然を運命に変えるために、いつくもの決断を繰り返してきた。そんな過去があって、今私はここに立っている。
「はい、誓います」
病める時も健やかなる時も、なんて言うお決まりの台詞に続いて、初々しくも堂々とそう答える。仕草も声も、その後の余韻ですら完璧だっただろう。
誓いのキスを。そんな言葉を聞いて、流れるように純白のヴェールが捲られる。濃い青色の、サファイアの様な瞳と視線がぶつかる。その瞳が、いつもより丸く開かれているのを見て、内心やったとガッツポーズをした。
「誰よりも綺麗だよ、ランカちゃん」
驚いた表情を隠したいのか、すぐにいつもの飄々とひた表情でそう言った。前までの私なら、すぐにときめいていただろう。でも、今はそんなに甘くはない。たしかにときめいてはいるが、反応はしてあげない。
「知ってるわ。私を誰だと思ってるの?」
二人だけにしか聞こえない声で、そっと話す。和かに話すその姿は、きっと穏やかで仲睦まじいものに見えただろう。仲が良いのはたしかだが、残念ながらその会話に穏やかさはない。
「しょうがないなあ」
そんな言葉とともに、そっと頬を支えられる。完璧なタイミングで、何よりも美しく瞼を閉じる。唇に触れ合う感覚を待っていると、耳元に息がかかるのが分かった。
「俺が幸せにしてあげるよ、ランカちゃん」
心臓の鼓動を、否応なしに早めてくる声で、勝ち気に言い放つその言葉は卑怯だと思った。唇が触れた耳が熱い。きっと、真っ赤になっているだろう。
言い返してやりたかったが、今は瞳を開けるわけにはいかない。悔しい。そう思いながら、口付けの瞬間を待つ。
それから数秒後、もったいぶるかのように唇に柔らかい感覚が当たる。その直後、湧き上がる歓声と大きな拍手。どこからともなく響き渡る管楽器の音色を聞いた後に、開いた瞳には降り注ぐ白い花びらが映った。
ここで怖気付く、前までの私とは違う。そう思い、頬が桃色に染まっていることは自覚しながらも、にっこりと笑って言ってみせた。
「私もう、誰よりも幸せよ?」
その瞬間、生意気で愛おしくも憎らしい目の前の男が、ぐっと息を呑んだ。こう言う時は、可愛いことを言う方が効果があるなんてことは、私が誰よりも知っている。
「大好きよ、ルーカス。ずっとずっと、いつまでも愛してるわ」
優しく両指を絡め取り、追い討ちとばかりに投げかけた言葉に、今度はルーカスの耳が赤くなったのが見えた。降参だとばかりに小さく首を振ったが、そんな姿すら様になって見えるのだから、この恋心は本当にどうしようもない。
「俺も、大好きだよ」
そんな言葉と共に、腕を絡め合う。教会の出口に向かうその短い道は、これからの二人の人生を表しているらしい。何が起こるかは分からない。それでも、一歩を踏み出すことになんの恐怖もなかった。
ただ、幸せしかない。
だって、世界で一番可愛く生まれた私は今日、世界で一番幸せなお姫様になったのだから。
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