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1:プロローグ

 毎朝決まって、鏡の前に立つ。

 ある種の儀式にすらなっているその行為は、まるで自らに呪いをかけているようだ。

 

 鏡に手を伸ばすと、滑らかな指先がそっと触れ合う。それと同時に、鏡の中の自分とぱちりと目が合った。いつもと変わらない、その姿を見て言う。


「うん。今日も私が、世界で一番可愛い」


 白く透き通った肌、長いまつ毛に縁取られた黄金の瞳、薄桃色に染められた唇、どれをとっても完璧だ。腰まで伸ばされたブロンズの髪までも、絹を纏っているかのようにキラキラと輝いている。


 寝起きの、素肌のままでこの可愛さ。鏡に聞くまでもない。誰がなんと言おうと、私が誰よりも一番。可愛いし美しいし、可憐だ。


 別にこれは、ただナルシストと言うわけではない。自己肯定感が無駄に空回りしているわけでもなく、目が悪いわけでも、頭がイカれているわけでもない。


 事実、本当に、可愛いのだ。


 物心ついた時から、傾国の美女だ、国の宝石だと言われてきたランカは、国有数の公爵家の娘として生まれてきた。


 シーナベル家と言えば、親族一同が眉目秀麗、才色兼備だと有名だが、ランカは一族の中でも群を抜いて秀でていた。


 貴族に生まれ、誰もが羨む見た目を兼ね備え、頭も悪くない。そんな、天が二物も三物も与えたような女。それが、公爵令嬢のランカ・シーナベルだ。

 そんな彼女はと言うと、小首を傾げ、鏡の前でにこりと笑ってみせた。


 「うん、やっぱりどこからどう見ても完璧美少女」


 ただ可愛いだけではない。自らの見た目が他者より大きく秀でていることも、それが他人の目に良い意味でも悪い意味でもどう映るのかも、よく分かっていた。


 人の機微にも敏感だったランカは、幼くして全てを悟った。この顔を持って、おまけに貴族として生まれてきたのだから、それ相応の立ち居振る舞いをしなければいけないと。


 決して敵は作ってはいけない。しかし、親しすぎる味方も作ってはいけない。誰とも適切な距離を取り、一目置かれながらも嫌われない。ある意味で手の届かない、孤高の様な存在にならなければならないと。


 本心は隠し、人の良さそうな柔和な笑みを浮かべて、誰の悪口も言わない。目立ってしまう見た目ではあるが、絶対にそれをひけらかしてはいけない。ただそこに、偶然天使が居合わせてしまったかのように、異様でありながらも周囲と馴染まなければいけない。


 くっだらない人生。


 そんな言葉がぽつりと心に浮かんだ時、部屋の扉が静かに叩かれた。そうか、今日は王族主催のパーティーがあったから、その準備か。そんな事を考えながら、口角を柔らかく持ち上げて言った。


「はい、どうぞお入りくださいな」


 今日も、完璧な美少女を演じるだけのつまらない一日が始まる。そのはずだった。

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